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アートは地場産業だ!上野のまちとアーティストをつなぐ「藝育会」の挑戦とは【鼎談】

ライター
安藤整
関連タグ
上野 藝大

東京・上野には、日本を代表する美術館や東京藝術大学の施設が立ち並ぶ一方、明治以前から続く老舗商店や、アメ横などの商店街も軒を連ねている。こうした昔ながらの趣を残すまちとアートをつなごうと、地元の経営者らと藝大生が立ち上げたのが「藝を育むまち同好会」、通称「藝育会(げいいくかい)」だ。
アートをどのようにまちづくりにつなげていくのか。同会会長の大道寺勇人さんと、同会事務局長で東京藝術大学大学院に在籍する一ノ瀬健太さんに、藝大アートプラザ編集長・セバスチャン高木が話を聞いた。

アートのために立ち上がった上野の若旦那衆

高木 藝を育むまち同好会、通称「藝育会」の存在を知ったのは私も最近なのですが、まずは藝育会について教えてもらえますか。

大道寺 藝育会は、上野・湯島・池之端・御徒町・根津・谷中・秋葉原といった上野界隈にある店舗等が一丸となって、若手アーティストとともにまちの活性化を目指す団体です。
上野は芸術、湯島は芸能、御徒町は工芸、秋葉原はテクノロジーアートといった、それぞれのまちが有する魅力を「藝を育むまち」として発信し、上野界隈のアートブランドイメージを築いていこうという目的で、2018年3月に発足しました。

藝を育むまち同好会会長の大道寺勇人さん。自身は湯島の老舗宝石店「十字屋商店」の4代目を務める。

大道寺 構想段階から、まちの老舗の若旦那衆や、ここにいる一ノ瀬さんにお話を伺う中で、「アーティストって食えないんですよ」というお話を聞き、まち全体で若手アーティストにさまざまな機会を与えられればということでスタートしました。

高木 大道寺さんご自身も若旦那のお一人で。

大道寺 はい。私も実家の宝飾品店の4代目で、上野には明治以前から続くような老舗が多いので、以前から自分と同じような立場にある地域の旦那衆と、さまざまな取り組みをしてきました。藝育会の発足に関しても、「若手アーティストを育てることを通じて、まちのファンを増やしていく」ということを「コアバリュー」に据えています。

アーティストと生み出すワクワク感

高木 会の活動も4年目ということですね。具体的にはどういったことを?

大道寺 家族でアートに親しんでもらえるイベントも行いましたし、「アートとおカネ」に関するトークイベントや東京藝術大学の「藝祭」のツアー、2019年には「藝と育むまち展」と題した展示を行ったりもしました。
 けれども、こうしたイベントをやってみて感じたことは、これだけの美術館がある上野でも、そこに住んでいる自分たちはアートのことをほとんど何も知らないということだったんですね。アーティストとまちの人をつなぐということの重要性に気づきました。

藝を育むまち同好会事務局長の一ノ瀬健太さん(写真左)。東京藝術大学大学院博士課程に在籍しつつ、キュレーター&アーティストとして既存の芸術形式に限定しないアート活動を行っている。

高木 なるほど。

大道寺 たとえば、一つの絵でもどんなテーマでどういった画材を使ってどう表現するかをアーティストはすごく考えて描いているわけです。それって、どんな商品をどう売るかを常に考えている経営者と結構似ていると思ったんです。だから、まずはまちの経営者とアーティストをつなぐ接点をつくってみようと思いました。
 去年くらいからそうした接点と接点がようやくつながるようになってきて、「不忍界隈の老舗の魅力を若手アーティストが再発見!」というテーマでプロジェクトが始まったり、企業の広告ビジュアルをアーティストに手掛けてもらったりといったことが起き始めています。逆にアーティストがそこから刺激をもらうこともあるようです。

一ノ瀬 そうですね。自分はもともと藝育会の立ち上げに参加したのは、地域の人と関われるような飲み会の場がほしかったというのが動機なんですが(笑)、実際にお酒の場にご一緒したときに、まちの人たちから「アートでまちが盛り上がる何かを考えようよ」というお話を頂いて、それが藝祭ツアーなどにつながりました。
 自分はお祭りが好きなので、今も藝祭に関わっているのですが、アーティストとまちのひとたちが交わった時にすごく大きなワクワク感があるんですね。このお祭りのワクワク感をずっと続けていけるような活動ができたらなと考えています。

高木 上野とお祭りってすごく似合いますよね。実際旦那衆の中では、アートに対する理解はどれくらい高まっているんですか。

一ノ瀬 やはりアーティストと関わる機会が増えたことで、理解してもらえることも増えたと思います。アートに対する考え方も、すごく変化しているように自分は感じています。

アーティスト、どうやって食っていくのか問題

高木 一ノ瀬さんの作品にはコンセプチュアルなものもありますよね。日本では特に現代アートに対するハードルが高くて、誰もが気軽に話せる環境がない気がします。その一方で、アーティストの視点からするとやっぱりアートの値段が安すぎることも問題だと思うんです。

一ノ瀬 それは本当にそうです。自分の周囲のアーティストも基本的にはアルバイトしています。筆一本で、あるいは純粋なファインアートだけで食べていける人は、そうはいません。

高木 そこは本当に根本的な問題で、「アーティスト、どうやって食っていくのか問題」は本当にしっかり考えないといけないですよね。日本だと現代アートはどうしても「なんでこれがウン百万円もするんだ」みたいな声が聞こえてきがちですけれど、「コンセプト自体を購入する」という感覚が広がっていけばいいですよね。

大道寺 以前東京藝大の2年生の子たちが展示をやろうと準備していたところ、コロナで場所が使えなくなってしまい、上野に場所があったのでそこでどうぞとお声がけしたんですね。そのときに「作品を売るの?」と聞くと「あんまり考えていないです」と言っていて、結局全部自分たちの持ち出しで開こうとしていたんです。
 藝祭のお神輿でも、藝育会で賞を設けて授賞したチームは上野のまちで展示ができることにしたんですが、学生たちの中には「これを機に自分を売り込んでやろう」だとか「一旗揚げてやろう」と考える子がいるとうれしいんですけどね。自分の表現したものが人に見てもらえて嬉しい、というところで終わっている気がして、それではもったいないと思いました。

「推し」になってもらいたい

高木 私は表現力とビジネスは車の両輪だと思うんです。こういう話には批判もあるかもしれないけれど、現実的にアーティストにもお金は必要なわけですから。そのことは学生時代から考えておいてもいいんじゃないかと思うんですね。誰もが稼げるようになれるとは思わないけれど、今の日本のアート界では「誰も稼げない」状況になっている気がしていて。

大道寺 作品を売る気がないと話していた藝大生たちには「赤字覚悟」というのはやめようと話しました。そういう点で、藝育会は少なくともアートとビジネスの”練習の場”になっているんじゃないかなと思っています。

一ノ瀬 筆一本で食べていけるのは藝大でも1学年に一人いるかいないかくらいですね。最近はSNSで発信する人が増えていますし、NFTもあるのでビジネスとして始めやすい環境にはなっていると思います。藝育会でサポートしてもらった藝大生のグループ展「肉展」は、ポストカードのDMを上野各所の協賛店に置いてもらい、店舗でDMにスタンプを押してもらってアメ横センタービルに持っていくと特製バッチをもらえるという動線設計も組みました。
 藝大生にも勉強になりますし、お金も入る仕組みで、さらに店舗側も店を知ってもらえる、お客さんも足を運びやすいという「三方良し」の仕組みづくりになったかなと思います。まちとアーティストをうまくつなげるという意味で、藝育会の理想的なイベントになったと感じています。

大道寺 「推し」の精神って大事だと思うんですよ。実際のところ、若手アーティストでInstagramのフォロワーが1万5千人いれば展示の集客には結びつきますが、関わった商店の集客や売上には直接結びつくかというとそうでもありません。
 けれども、そういう事実を前にして、まちの人たちが「集客できないんだったらやらないよ」となってしまわないようにするためには、まちの人たちにアーティストを「推し」てもらう必要があるんです。以前、アメ横センタービルの空きテナントのボロボロの壁を学生たちに白く塗ってもらい、そこで作品展示をしてもらったのですが、オーナーさんにもすごく喜んでもらえたんですね。
 そうしたことを通じて、お金にはならないかもしれないけれど彼らを「推したい」と思うまちの人たちを、もっと増やしていきたいと思っています。

高木 特に上野周辺は喜ばれそうなテナントが多そうですよね。

大道寺 アーティスト側にもそういうことが喜ばれるからといって自主的に行動する人ってなかなかいないですし、まちの人たちもアートを持ってくることでそうしたメリットがあるなんてそもそも思っていないんです。商いをしている人間にとっては、「アートイベントをやります」と言うと、どうしても集客とか儲けとかっていうことに直結させてしまいがちなんですが、そうなると続かない。だから、まずはアーティストとまちの人たちをまずはつなげることが大切なんだと思います。

アートでまちづくりの落とし穴

一ノ瀬 表現の場は増えてきているんですが、藝大の先生でも「アートマネージメントはすべての学生が学ぶべき」とおっしゃる人もいます。

高木 藝育会のいいところは「きれいごとじゃない」ところですよね。「アートでまちおこし」は全国各地で取り組まれていますが、結構皆同じ「顔」をしている気がするんです。言い方が難しいですが、どの取り組みもどこか判で押したような感じがする。けれども本来はそのまちの特性にあったプロジェクトであるべきで、そうだとすればそれぞれ違う顔になっていないといけないはず・・・

一ノ瀬 おっしゃるとおりですね。瀬戸内や新潟・十日町にはすごく良い成功例がありますが、それを上野で真似したところで意味がないんですよ。
 自分も地方創生に関連して、地方で作品の展示などをさせてもらうことがあるのですが、「アーティストを呼んで、まちに展示しました」というだけで終わっているまちも結構あります。結局、まちの人が誰も知らないアーティストを呼んできたところで、根付かないんですよね。

高木 呼ばれていくアーティストのほうも気づいている気がするんですよね。これは根付かないだろうみたいな(笑)

一ノ瀬 上野はその点、泥臭く汗臭く地味にやっている部分がありますが、そのほうが時間をかけてしっかり根付いていっているように感じます。一人のアーティストとしても、上野は価値があるまちだと思っていて、自分自身このまちが大好きだし、好きなまちでやっていきたいという思いがあるから藝育会にもご一緒させてもらっているんです。

高木 そういうアーティストが増えるといいですよね。せっかくアートで町おこしをしようとしても、同じプロデューサーが同じように仕上げていってしまうことがよくある。そうではなくて、上野のようにまちの中にアーティスト自身が入っていって、その土地の魅力を自分たちで掘り起こして、それを自分のアートに落とし込んでいくということを真摯に時間をかけて続けていくところに、本当の価値があるように思います。

一ノ瀬 アートって「空気が読めない」こともできちゃうんです。地方に行くと、語弊があるかもしれませんが発想に柔軟性がなくなってしまっていることってよくあります。でも、アートはごちゃごちゃしたことをぶった切って、新しいことを始める力があると思っています。

人がいることが力になる

大道寺 まちの側から考えると、先日銀座のまちづくりに取り組んでいる方と話したとき、「人がいる」ことって大事だなと感じました。銀座でも昔からの老舗の経営者さんたちがいろいろ頑張っておられるんです。やっぱり、まちづくりにはそこに昔から住んでいる人の声が必要なんですよね。人がいるから、まちの特色が出てくる。それはエリア一帯を開発できるような大手の不動産屋さんでも、できないことです。
 そういうふうに考えると、上野や湯島には結構人が残っている。藝大生にしてみたら、上野を足がかりにして六本木に行きたい、表参道に行きたいと考えている人が多いと思いますが(笑)。けれども、バンクシーのように、「その場所でしか成立しないアート」というのもあると思う。上野には上野にしかないアートの環境があるよと伝えたいです。

高木 なるほど! そう考えるとアートは地場産業ですね。

大道寺 そのとおりですね。

一ノ瀬 美術史の観点から観ても、それは正しいと思います。モノやイベントの解放を経て、リレーショナルアート(※アートを日常性と対立したものではなく、相互に依存し、また制作のモチベーションにも不可欠な関係にあるとみなす立場やその作品)につながっていったところと同じ流れにある気がします。

大道寺 たとえば藝育会の理事で副代表でもある桜井正人さんは上野の中央通りで洋服店を経営されているんですが、その店舗の広告ビジュアルを藝大生のアーティストに依頼したんです。善養寺歩由(ぜんようじあゆ)さんというアーティストなんですが、観てもらえればすぐに分かりますが、彼女の表現する絵は、女の子はニキビを隠すべきだとか、こうあるべきだというルッキズムに対する批判がテーマの一つなんです。その彼女の絵が、婦人服のお店の広告になっている。それって実はすごいことだと思っていて。「上野、トガってるな!」という藝育会としての達成感というか満足感が僕にはありました。

高木 きょうはいまからそうした上野のまちのアートを実際に一緒に見に行こうということで、楽しみです。早速出掛けましょうか。

大道寺・一ノ瀬 ご案内します。

【次回「上野まち歩き編」に続きます!】

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