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第13回 藝大アートプラザ大賞展 出品作家インタビュー 宮下咲さん(修士課程絵画専攻版画2年生)

2018/11/26 インタビュー

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藝大生の公募による、第13回藝大アートプラザ大賞展で大賞を受賞した宮下咲さんは、版画専攻の修士2年生。受賞作の「思いつき程度」は一見、原稿用紙に鉛筆でドローイングしたようにしか見えない作品なのですが、お話を伺うとたくさんの思いが込められていることがわかりました。宮下さんがこの作品を通して何を表現したかったのか、紐解いていきましょう。

大賞を受賞した「思いつき程度」は、どのような技法を用いているのでしょうか。

和紙にエッチングで刷っています。エッチングは、銅板をグランド(防食剤)でカバーして、そこに絵の図柄を針で描くんですね。その銅板を腐食液にひたします。削られて裸になったところは腐食されて溝になり、その溝にインクをつめて刷ります。

描かれているものは何ですか。原稿用紙自体も描いているのでしょうか。

生協で売っている原稿用紙を手で描き写して版を作り、そこに重ねる為に落書き風の大仏様の版を描きました。大仏を見るのは中学生の頃から好きでした。崇める対象としての崇高なブッダというものと、多くの人が修学旅行で見て身近に感じている「大仏」のキャッチーさのギャップが、日本文化として面白いなと気になっていました。

写実ではなく、らくがき風にしている意図はありますか。

文章を書いたり勉強したりするときに、どうしても頭の片隅で関係ないことが「ぽっ」と浮かぶことがあると思うのですけれど、そういうことを取り上げて紙の上に「ぽん」と置くイメージでつくっています。あたまの端で考えていることの、はかなさとか、とりとめのなさも表したかったので、綿密には描かずに、下描きなどもせずに瞬発的に描いています。

ただ原稿用紙に描いたドローイングをそのまま作品として発表すると、手で描いた生々しさや浮ついた感じが出てしまう気がして落ち着かないんです。そこで、版画という技法を使って、絵を版に転写して刷るプロセスを経て、作品としての重厚感や落ち着いたかんじを出そうとしています。そのような、頭で思いついた瞬間的なことと、版画でじっくりつくることのコントラストが作品として面白いと思っています。

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大賞受賞作 宮下咲「思いつき程度」

思想面で影響を受けた作家はいますか。

あまり思想の面で影響を受けた人はいないかもしれないです。哲学や美学、倫理学、全く知らないフランス語の詩など色々軽くかじってみましたが、勉強するとその人の考えに引っ張られて、その思想で世の中を見てしまうので、あまり参照はしていないです。私はそっちの専門家にはなれないですし、それに入り込んでも作品への出方がいやらしくなってしまいますので。


いままで発表された作品には、複数の版画を組み合わせたインスタレーションもあるようですが、今回のようなシンプルな1枚絵にしたのはなぜですか。

今回のアートプラザ大賞展のように売る、つまり誰かの家に飾られることを前提にしたときのスタンスと、展示空間全体をコントロールしながら制作や展示するときのスタンスとは違うと思います。だれかの家にひっそり置かれることを理想として、そのために紙やサイズ感も選びました。作家としてコンセプトを唱い上げなくてはならない気持ちもあるのですが、買う人にとって私が作家として社会に出していくコンセプトは必ずしも重要ではないだろう、むしろ、買う人とこの絵の対話のほうが大事にされるべきだなと思うので、あまり吟味せず、その場でふっと良いと思えることをやりました。

大賞に選ばれてどうですか。

驚きました。いつも賞はもらえないので、そんなに賞のことを意識しないように思っていました。つくったものの良さを評価してもらえたので、すごく嬉しかったですね。

なぜ藝大を目指そうと思ったのでしょうか。

この大学の大半の人がそうだと思うのですが、小さいころから絵を描くのが好きでした。大学を決めなければならなくなったときに、芸術に全力を注がずに人生を終えるのは嫌だなと思って、藝大受験を決めました。それまで頭で考えていることは基本的には限界まで言葉にできると思っていたのですが、高校生ぐらいのときから、言語が補えない部分が絶対にあるなと思うようになって、芸術領域に進むしかないと思いました。

版画専攻を選んだ理由はありますか?

もともと、頭のなかのイメージや思い出を表現することが目的としてありました。記憶は時間の経過と共に曖昧になるものなので、最初のイメージから仕上がりまでに時間的にも素材の重ねるという点においても距離をとる版画というテクニックに必然性を感じて、選びました。

今後の展望を教えてください。

技法や作品のサイズ感、イメージの出し方などは、現在のスタイルが今までやってきたことのなかで一番しっくりきています。ですので、今後も続けていきたいです。ただ、原稿用紙というモチーフは、もしかしたら私が今まで学生しかやっていないから、浮かび上がってきていることかもしれないです。今年度で学生が終わって社会に出たら、感じ方も変わるかもしれないので、別の表現方法の可能性も探っていきたいですね。


●宮下咲プロフィール
1993年  東京都生まれ 
2017年  東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻 卒業
2018年現在  東京藝術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻版画2年

受賞歴
2017年 俵奨学金 俵賞 受賞

主な展示活動歴
2018年 「ビーナスを綴じる」The Artcomplex Center of Tokyo(東京)
     「Cross Currents 横断する潮流-GEIDAI/VCA Collaboration Project」
yuga gallery, VCA artspace (東京, Melbourne)
     「Table talk vol.3」代田橋 納戸/ Gallery DEN5(東京)
2016年  「ギャラリーへ行こう2016(入選作品展覧会)」数寄和(東京)
2015年  「空中にて」アーツ千代田3331
2014年  「望遠レンズとぼくとロマンチック展」UPSTAIRS GALLERY

取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。