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陶磁ガラスの現在形 出品作家インタビュー 豊福誠先生(工芸科陶芸専攻教授)

2018/11/07 インタビュー

アートプラザの企画展第二弾は、工芸科陶芸研究室による「陶磁ガラスの現在形」です。今年度から、陶芸とガラスは研究室を一つにし、新たな活動をスタートさせました。今回の企画展は新体制になってから、はじめての展覧会になります。陶芸研究室の豊福誠先生の工房、および学生たちが轆轤(ろくろ)を回す工房スペースにお邪魔し、作品を見ながら、先生の作品について、そして、歴史ある藝大陶芸研究室の教育方針などについて、さまざまなお話を伺いました。

豊福誠


今回の企画展には、各先生に抹茶茶碗2点、代表作1点、そのほかの小品をいくつかご出品頂く予定ですね。

はい。茶碗はお茶を飲む道具ではありますが、自己表現ができるものですから、それぞれの個性が出て面白味も出ます。そういう意味で茶碗を並べて比較するのは、ぐい呑などを並べるよりもわかりやすいと思います。最近、お茶のイベントは多いので、助手さんたちも茶碗をつくる機会は多いです。

先生はどのような作品を出品されるのでしょうか。

藝大の歴代の先生は「色絵」という技法をやっていまして、私も色絵をやっているもので、その作品を出品します。作品を並べている場所に、見に行きましょう。

色絵というのは、釉薬で絵を描くことですか。

そうです。一度本焼きして、白い生地の白磁をつくって、その上からもう一回絵を描いて焼き付けます。


「下絵」「上絵」という言い方がありますが、上絵は一度釉薬をかけて本焼きしたものの上から絵を描く技法で、私の作品も上絵です。本焼きするときは1300度近い温度で焼くのですが、そのあとの絵付けしたものは800度くらいの低い温度で焼きます。ここに並んでいるのは、自分なりに開発した絵の具とか技法とかでできたもので、白生地を活かした、いわゆる柿右衛門とか九谷焼のような伝統的な上絵とは少し違います。


下絵は本焼きをする前に、釉薬の下に絵を描いて焼き付ける技法です。下絵ですと焼くのが一回で済みますから、量産のものをつくる場合は、コスト面でもメリットがあります。かつては、下絵用の絵の具の色数はあまりありませんでしたが、今は増えてきました。

こちらにある作品(壷「こぶし」)の黄色い部分も上絵の具なのですか。

それも上絵の具です。花は銀(銀泥)で厚めに描いて、その上から黄色い薬をコンプレッサー(エアブラシ)でかけています。上の部分(格子状の模様のある地の部分)は、銀を全体に刷毛で塗って、その上を斜めに引っかいて、掻き落として、削った部分にだけ青い釉薬をかけている。この青い釉薬はラピスラズリを使っています。

こぶし豊福誠 壺「こぶし」

ラピスラズリなんですか!?

ラピスラズリは宝石よりもちょっとランクが下の貴石で、日本画の画材としても使われます。陶芸の原料としては、金ほどではないですけど高価なものです。これを生成する手間を考えると金よりも高いかもしれない。アズライトという鉱物と硫黄が化合して青い発色をしているで、焼き付けると硫黄が出てきて、銀が硫化します。ですので、ここ(格子状の模様のある地の部分)は銀の硫化した色なんです。

そのラピスラズリの釉薬は先生のオリジナルの調合なのですか。

オリジナルの調合です。原石の青色を見ると一回はやってみたいなと思う色合いなので、科研で4年くらいテストしていたんですよ。すごく不安定なので、同じ温度帯で焼いていても窯が違うと色が変わります。

上絵を始めたきっかけはなにかあるのでしょうか。

学生の頃に上絵は始めました。その頃の教授が藤本能道先生です。色絵の作品を作る先生でした。藝大は轆轤の制作を重視していたのですが、私の卒業制作は轆轤を使わなかったこともあり、藤本先生には「おまえは何を考えているか全然わからない」と言われていました。それもあって、「じゃ、俺も色絵やってみるか」と考えて、大学院に入ってから始めたんです。色絵に入ったきっかけはそこですね。

藤本先生もいろんな絵の具をテストして、この研究室にある絵の具をほぼ安定的につくりだしました。それを習ってさらに調合を変えて、たとえば、透明感のある絵の具じゃなくて、不透明な燻んだ色合いの、マット系の絵の具を作りたくていろいろテストして、受け継ぎつつ自分なりに変えていきました。

それが藝大の陶芸の歴史なんですね。

そうですね。ただ単に習ったものをそのまま使うのではなくて、土と釉薬の研究をやって自分なりに変えていく。自分が作りたい作品に近づけるために、技法やテクニックを生み出し、材料をつくっていく。そういうことです。

豊福誠

藝大での授業についても聞かせてください。先生が教えてらっしゃる授業は週何回ありますか。

とくに授業時間は決まっていませんが、新しい課題の最初のときにデモンストレーションします。あとはほとんど放任ですね。午前中にぐるっとまわって様子を見て、困っている学生は助けます。ああしなさい、こうしなさいと言われてやるものではないので。きっかけは与えますけど、あとは自分の応用力次第です。こういうことをやりたいと相談にくればもちろん相談にのります。

課題は、一人一台ずつ轆轤を与え、轆轤制作を重視しています。2年のときに最初に出すのが轆轤で湯呑を300個作ることです。教員にしてみればたいしたことはないのですが、初めて轆轤を使う学生はかなり苦労します。ですが、その作業で轆轤といいますか、土がのびる感覚を覚えるんです。3年で壷とか大皿をひき、4年で卒業制作をやります。大学院の1年生は(取手校舎で)窯をつくるという課題があるんですよ。

窯をつくるというのは、既にある登り窯のなかの環境をつくるということですか、それとも土から登り窯をつくるということでしょうか。

なにもないところから窯を作り上げるんです。さすがにレンガは買いますが、地面を多少掘って基礎をつくってコンクリートのミキサー車を呼んで流して、その上にレンガで組んでいきます。今年は一回別の窯を焚いてみて、それで窯の雰囲気を考えてから、どういう窯をつくるか計画を立てさせています。

三上亮先生(陶芸専攻准教授)が来るまでは、築窯の授業は益子の業者さんを講師に招いて指導してもらって、業者さんが退いた後を一緒に指導していた卒業生の講師が引き継いで指導していたので、設計のきちんとした失敗のない窯をつくっていたんです。三上先生はどちらかというと、失敗してもいいじゃない、というタイプで、焼いてうまくとれる(作品ができる)窯だったら、自分でつくる必要はないじゃないかと。失敗とひとことで言うけれど、その中にいいものもあるわけですよ。そこのところを狙っていける作家になってほしいのです。ただ、なかなか学生には理解してもらえないですよね。自分たちはいいと思っているけれども、先生はこっちの方がいいというので、ポカンとしちゃう。

いい環境ですね。

生懸命でいればあっというまの学生の期間だと思います。

最後にアートプラザに期待することを教えてください。

そうですね、すごくいい場所だと思います。今回のリニューアルで、お客さんもますます入りやすくなったと思います。今回の企画展のように、研究室で展示即売できる展覧会ができる場所は今までなかったですし、しかもそれを藝大のなかでできるのはいいですね。販売ができるというメリットがありますから、先生だけでなく、学生もなるべく活用していって欲しいです。

あと、藝大のグッズがあると良いですね。外国の大学に行くとショップに、着るものから何から揃っているじゃないですか。高価なものじゃなくても、ちょっと買っていけるもので藝大らしいものがあるといいですね。『鮭』(高橋由一作、東京藝術大学大学美術館蔵)だけでなくて、今いる先生たちのグッズもあると良いですよね。

●豊福誠先生プロフィール

現在  東京藝術大学美術学部工芸科陶芸研究室教授
1953年  鹿児島県生まれ
1979年 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了
1980年 千葉県展受賞(千葉県立美術館)
1999年 伝統工芸新作展受賞(三越賞)
2000年 中国清華大學国際陶芸交流展/中国美術館・清華大学美術館
2001年 東京藝術大学助教授に就任・伝統工芸新作展 監査委員
2006年 半年間の海外研修(フィンランド・アメリカ)
2007年 東京藝術大学美術学部教授に就任
2011年 国際陶芸教育交流展・シンポジウム(東京藝術大学)
2014年 国際茶文化交流展(東京藝術大学・清華大学)
日本陶磁協会 会員/東洋陶磁学会 会員/日本工芸会 正会員/日本陶磁芸術教育学会 会長

取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。