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藝大の猫展 出品作家インタビュー 佐々木怜央さん(工芸専攻ガラス造形修了)

2019/05/15 インタビュー

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ガラスによる立体をつくる佐々木怜央さん。「藝大の猫展」には、座っている猫を表した作品と、猫の装飾を施した車の2点を出品しています。猫の姿をリアルに表わそうとした作品が多い展示室のなかで、シンプルな造形が一際目を引きます。お話を伺うと、作品に意外な秘密が隠されていることがわかりました。

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左:佐々木怜央「猫印の車」 右:佐々木怜央「朝の日向」

普段から猫の作品をつくっているのですか?

人工物ばかりをテーマに制作していたため、あまり動物はつくっていませんでしたが、今年に入ってから想像上の動物であるドラゴンをつくりはじめていました。そんなタイミングで、今回の猫展に向けての依頼をいただいたので、猫にも挑戦してみようと思いました。

「朝の日向」では、猫のどのような様子を表そうとしたのでしょうか。

毎朝、駅に行く時に必ず見かける猫がいるのですけれども、昼や夕方に同じ場所を通っても姿が見当たらなくて、猫も一日の中でサイクルがきちんとあって、時間時間で活動している事に気が付きました。この作品は、いまは紫色に見えているのですけど、太陽の光のもとだと紫がさらに強くなり、光源を蛍光灯に変えると真っ青に見えます。この作品を買った方が部屋に置いた時、朝は日を浴びて紫の猫がいて、夜は蛍光灯に照らされた青い猫がいる。そんなふうに、一日の間に猫の見え方が変わるようにすることで、猫の不思議な雰囲気も出そうとしました。

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太陽のもとでの「朝の日向」。紫色に見える。

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蛍光灯のもとでの「朝の日向」。青色に見える。

家に帰って作品を見たら、猫が真っ青になっていて、びっくりする人もいるかもしれませんね。ほかに、形の点でこだわったことはありますか?

僕は、ガラス作品の原型を紙でつくっているので、その形を際立たせるために、できるだけシンプルな造形にすることを心がけています。今回の作品も、他の動物に見えるかもしれないギリギリのラインのシンプルな形で、前脚と体も一体化させ、横のシルエットと耳だけで猫に見えるようにしています。

紙で型をつくるとはどのようなことなのでしょうか?

まず図面を引いて形や大きさなど決め、それを立体にしていくときに作る原型を紙で作ります。できあがった紙製の立体の上に石膏をかけ、紙をとると、最初につくった紙立体の形の空洞のある石膏型ができあがります。そこにガラスを高温でとかして流し込んで、その石膏型をとると、ガラスの立体ができあがります。この技法はキルンキャストとよばれています。

原型を紙でつくることの特性はなにかあるのでしょうか?

蝋型や粘土型にはない特殊な効果があります。紙を用いると、紙の表面のザラザラしている模様がガラスに反映され、透明素材の表面に紙の凹凸を写します。また、紙特有の面のハリも特徴です。紙で形をつくった時点では、面に反りやカーブはないのですが、水でとかした石膏をかけると、水を吸った紙が膨張したりへこんだりして、面に独特な丸みが出ます。「朝の日向」も体の側面は、平らなようでいて微妙に膨らんだり凹んだりしています。自分の意図しない所まで素材が成りたい様に動く事が、作品に込められた意図と繋がる事があり、面白い所です。まだまだやれることはあるなと、紙原型の可能性を感じています。

今回の出品作以外には、どのような作品をつくっているのでしょうか?

ロボット、車、バイク、船などが多いですが、ロボットや乗り物そのものに興味あるのではなく、人がそれらをつくりあげる過程が好きでモチーフを選んでいます。人がつくったものは、何か未知のものを必要だと想像した人と、それを実現しようとした多くの人がいてできあがっています。エンジンをつくった人がいて、車輪と組み合わせた人がいて、徐々に車ができあがっています。そのような人がものをつくるプロセスに興味があります。

最近つくりはじめた想像上の動物も、人の作ったものという点で共通しています。インターネットが普及したいまでこそ、現実に存在している動物か否か簡単に調べられますが、昔はそうではありません。たとえば「この島に行ったら人が食われる」というような、誰かから聞いた話が重なって、現実離れしたおもしろい生き物がつくりあげられました。ドラゴンもそうですし、自分には獅子舞の獅子もライオンと結びついて見えています。

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美大・藝大を目指したきっかけはありますか?

高校生のとき進路について迷っていました。昆虫や花の美しさとか、細胞、その構造や関わり方などに惹かれていたので、農学部系に行こうか、美術学部系に行こうかと。そんなときに、僕の地元の青森県弘前市で、奈良美智さんと(クリエイティブユニットの)grafさんの展覧会「YOSHITOMO NARA+graf AtoZ」が開催されて、その展覧会にボランティアとして参加したことがきっかけで、ものを作って発表することがやりたくなって今の道に進みました。

どのような理由でガラスを専攻したのですか?

最初から立体をつくりたかったのですが、彫刻ではなく、工芸で素材に特化した教育を受けたいと思っていました。学部は藝大ではないところに通ったのですが、そこには学部からガラスコースがあったので、透明なものが好きだったこともあり、ガラスを専攻しました。ガラスは表面がツルツルしていると立体の形が掴みづらいです。透明なコップって見えづらいですよね。ただ、その表面をザラつかせて、透明なものに影をつくれば、立体が見えてきます。そこが他の素材とは違う、唯一無二なところです。

今後の目標や抱負はありますか?

自分は工芸専攻に所属しながら、作品をつくってきました。卒業後は服飾系のブランドに就職して、今まで体験して来なかったものづくりの現場や工場さんとのやりとりなどを経験し、人の手で作られるものと機械によって生産されるものとの間にある事柄について興味を持ちはじめました。世界各地にある伝統的工芸品やそれらが地域の中で新しい価値を持ち、環境が変わって産業化しているもの等、その世界はとても興味深いです。

じつは今回のような作品制作とは別に、デザインの活動もしています。東北出身という事もあり、かねてより関わりのある福島県の会津木綿の産地から新しい生地を作らせて頂きました。伝統的な技術で丁寧に織られた布を用いて服や鞄だけでなく今後は作品制作にも活かせると思いますし、その活動の中から新しい図案や形に結び付ける事も出来ます。作品の制作とデザインの活動を行き来しながら、表現の幅を広げていきたいです。

●佐々木怜央プロフィール

1990 年  青森県生まれ
2012 年  アメリカ・コーニングガラス美術館、NEW GLASS Review33選出
大阪芸術大学 卒業
2013 年  第2回そば猪口アート公募展 入選
2014 年  東京藝術大学大学院美術研究科修士課程工芸専攻 修了
2015 年  チェコ共和国・スタニスラフリベンスキーアワード 入選
江ノ島にて個展開催
2015 年  〜17年 服飾系ブランドに勤務
2018 年  弘前市にて個展
2019 年  江ノ島にて個展
アートフェア東京2018、2019出展


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

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