第15回藝大アートプラザ大賞展受賞作家インタビュー 水巻映さん

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カセットテープという近過去の製品を石から丹念に彫り出し、あたかも化石のように見せた作品で大賞を受賞した水巻さん。なぜカセットテープなのか、なぜ化石なのか、どうして彫刻科を目指したのか等、様々な質問をぶつけたところ、水巻さん独特の時の流れに対する感覚が浮かび上がってきました。

大賞受賞を聞いたときの感想を教えてください。

自分がやりたいと思っていた作品のスタイルが人に評価されて、素直に嬉しいです。今までコンペや展示に作品を出したことがありませんでしたが、今回大賞をいただけたので、自信を持って今後作品を作っていけるようになったと思います。


水巻映「Recording media Estimated 1980s」

受賞作のような作品を前々からシリーズでつくっているのですか。

一年生の時に石彫実習で公衆電話機を彫りました。コンセプト自体はその時のものですが、古いものをモチーフに化石をつくるという制作を本格的に始めたのは今年度に入ってからです。新型コロナウィルスの感染拡大によって様々な分野でデジタル化の動きが加速した背景もあり、一年生の時のコンセプトが自分の中で現実味を帯びてきました。まだ制作数も少なく試行錯誤している最中です。今後、シリーズのように展開していければと考えています。

リアルタイムでカセットテープを使っていた世代ですか。

僕は22歳なのですが、リアルタイムでテープを使ったことはありません。もともと古いものが好きで、初代のウォークマンをネットで買って、自分で修理して使えるようにしたことがあります。それからカセットテープを集めだしました。

スマホで聞く音楽はデジタルなのでプログラム上の存在でしかありません。一方、カセットテープには音楽が物理的に入って存在しています。彫刻科なので、そういった存在に魅力を感じています。また、ボタンを押すと電気のモーターで歯車が動きテープが動いて音が再生されます。そのような機械を扱っている感じにも魅力を感じて、つくりたい気持ちが湧き上がりました。

カセットを石に置き換えて化石のようにしたのは何故でしょうか。

カセットテープは、その普及によって初代ウォークマンから生まれた音楽を持ち運ぶ文化に寄与しました。それが現代のスマートフォンで音楽を聞くことに繋がっています。しかし、それだけ重要なものなのに10年、20年経つとめっきり姿を消してしまいます。僕らよりも下の世代になると存在すら知らない人が増えると思うと、少し寂しく感じました。また、もともと子供のときから、太古の昔に存在したものが遺跡から化石として出土することにも興味を持っていました。その2つをリンクさせて、カセットテープを石に化けさせ、古代文明の出土品として存在やその文化を証明させたら面白いのではと考えました。

石で精巧に彫り出すのは難しそうです。

石の作品をつくっている人の多くは、石の目に沿って割れやすくなるので、薄くしたり細くすることを避けています。誰もやっていないことなので、そこに敢えて挑戦したら、素材の見え方が少し変わって面白くなると思いました。結果、石でつくっているけれども、一見石だとわからないような作品になりました。上のテープが割れているのは意図したわけではありませんが、割れても失敗にするのではなく、割れた表情をうまく見せれば、化石らしさも強調できると思いました。

カセットが浮遊しているような展示の方法だからこそ、審査の会場でも目立ったのだと思います。

カセットのみを台に置く展示方法も考えたのですが、サイズが小さいので見応えがありませんし、裏側も見せたいので、板状のものにはめ込もうと思いました。当初はガラスにはめたかったのですが、ガラスの加工をしたことがなかったので、透明なレジン(樹脂)で代用しました。

ところで、藝大を受験し、彫刻科を選んだきっかけを教えてください。

小学生のときに親戚のおじさんからスターウォーズのフィギュアをもらったことをきっかけに、フィギュアと映画が好きになりました。だんだんハリウッド俳優のフィギュアが欲しくなったのですが、クオリティが高くないのに日本で流通している数が少ないため割高で、中学生頃から立体のフィギュアを趣味でつくるようになりました。それから型取りの仕方が知りたくなって、親に相談したら、美術系の高校に進むのが良いのではないかと勧められて、美術高校の彫刻のコースに進学することになりました。なので、高校に入ったときは、自分が作家として作品をつくることは意識していませんでした。

それが変わったのは、自分の死後を考えたことがきっかけです。作品のコンセプトとも共通していますが、自分が死んだら自分という存在が後世の人に知られることなく終わってしまいます。それが寂しいと思いました。作品をつくって後世に残れば、自分の存在を証明する手立てになります。それから作家という生き方に魅力を感じ、藝大を受験しました。

今後の夢や野望があれば教えてください。

来年度は卒業制作があるので、今回の作品と同じようなコンセプトで、もっと大きなものをつくりたいです。子供の頃からおもちゃを分解したり、ビデオデッキの蓋を開けて中を覗くことが好きでした。今後、作品を制作する場合も、外見だけでなくて、たとえ見えなくても内側の形も手を抜かずにつくりこみたいです。

●水巻映プロフィール
1998年生まれ
埼玉県立芸術総合高校 15期美術科 卒業
東京藝術大学美術学部彫刻科3年在籍

「第15回 藝大アートプラザ大賞展」
会期:2021年1月23日 (土) – 3月14日 (日)
営業時間:11:00~18:00
月曜定休(2月1日は営業)
入場無料


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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