2022年9月10日(土)からスタートした企画展「The Prize Show!~What’s 藝大?~」。
藝大アートプラザ大賞受賞作家の新作が一堂に会する本展覧会。会期を2回に分け、前期は第1回から第9回、後期は第10回から第16回の受賞作家の作品を展示販売しています。
この記事では前期9月10日(土)- 10月2日(日)に出展されている第1回-9回受賞者による作品の展示風景を、写真でご紹介いたします。
※コメントは、Web担当による解説です
※並びは順不同です
※写真にない作品もございます。ぜひ現地で全ての作品をご覧ください
中国の神獣「獬豸(カイチ)」に注目
吉田 周平さん
大学3年の頃、中国の宋時代にあった官窯で焼かれた器と岡部嶺男の作品に出会い、青瓷をつくることを志した作者。学部の頃から器を制作されていたが、エッジがたった尖った表現からだんだんと変化してきており、最近は形がふっくらとしてきた。
金工家・鈴木長吉に憧れて…
大野 直志さん
明治の超絶技巧、鈴木長吉のつくった鷹を見て彫金への道を決めた作家。なんと、その後、彼の作品を修復する機会に恵まれたんだそう。今回の作品では岩絵具で色を乗せてリアリティを追求。工芸の枠にとらわれない自由な表現をしたいと話していた。
いろんな「私」をひとつの彫刻に表現
東條 明子さん
複数のモチーフが混在しているケースも、実はそれらは同一人物なんだそう。作者のお子さんの成長とともに、子どもの作品も増えてきた。手指の肉づきなど、身近で見ているからこそ作れる形があるのではないか。
今にも動き出しそう。銅板の花と鋳造の亀が合体!
水代 達史さん
動物が植物のふりをしている擬態シリーズ。板状の銅板を曲げたものと、鋳造との組み合わせがユニーク。着彩も塗ってつけているのではなく、彫金の技法(電解着色)によるもの。
着彩は意外にも○○! 乾漆でつくられた馬と人
猪瀬 昌延さん
馬は人間と一緒に暮らしているが、お互い違う存在という思いから、テーマは「掟」。仏像でおなじみの「乾漆」に、着彩はなんと水彩! 「漆は手で自在に操れる粘土のような素材」と語るように、彫刻出身の作家ならではの、塑像的なつくり方をしている。
ガラスなのに肌のよう? 不思議な質感にうっとり
石田 菜々子さん
学部で鋳造を学んだ後、ガラスへ進んだ作家。ガラス工芸だと、石膏の白い部分が残っているのは良しとされない傾向があるが、そこにとらわれず肌のような質感として残している。ぜひ、ふたりセットで購入いただきたい。
モチーフは単語、構図は文体、自身は筆記用具
小林 あずささん
「見る絵画ではなく読む絵画」と語るように、近くで見るといろいろなものが見えてくる。モチーフの一部「髪」は東本願寺の麻と人毛の縄からインスピレーション。身体や意識の拡張性を感じさせる。
ワイルド!眼光鋭いウサギの秘密
加藤 萌さん
乾漆で動物をつくる作者。在岡山の山の中に移住し、古民家で暮らしながら制作をされている。そのためか、つくる動物も野生味がある。このウサギも、自然の中で出会って、お互い緊張している状況なのかもしれない。
今回の展示作「御伽美洲野牛」なんて読む?
中村 弘峰さん
博多人形「中村人形」の4代目として活躍している作者。伝統工芸の家業の出身でありつつ、学部では木彫を専攻。藝大で学んだことを活かし、重力も含んだ、ダイナミズムのある表現に着地している。今回の展示作のモチーフは、なんとバイソン!
技法を重ねて、ガラスの可能性を探る
山本 真衣さん
院からガラス専攻で藝大に入った作家。チェコやトルコでも学び、ガラスを追求。自然や身の回りで見ることなどを題材にされている。サンドブラストによるマットな表現、透明な線の対比など、技法の重なりが美しい。
明治の超絶技巧の意志を受け継ぐ、現代の自在作家
満田 晴穂さん
本物の虫と同じようにバランスをとって自立する自在置物。サイズまで実物に忠実で、オニヤンマとほとんど同じ大きさ。足の部分など、ミュージアムスコープでぜひ見ていただきたい。
タイトルにも注目してほしい作品!
小林 真理子さん
記憶をテーマに制作し、作品に合わせた言葉をつけて完成させるという手法をとる作家。作品が着地できない時は言葉もみつからない、と語る。硬質な下地に絵の具を重ねて、ハリのある迫力な画面を構成。抽象画だが、古典技法で描かれているのがおもしろい。
藍を重ねて見えてくるのは現象としての「夜」
牧野 真耶さん
和紙をベースに膠と胡粉を混ぜたものを接着し、胡粉で地塗りして研磨したり洗ったり… 日本画のようだが、下地は西洋画の古典技法がベース。絵の具の蓄積ではなく、藍で染めることで「記憶」を表現している。
現代版・ノアの箱舟?
安河内 裕也さん
幅132cm高さ103cm。プラスチックの板を使ったシャープな線が特徴の版画。ウクライナ情勢を受け、液化天然ガスのタンカーをモチーフとしたんだそう。人工物と海や空などを対比させて描いているのが特徴。人はどこにいくのか?という問いを投げかける。
水の中に沈みゆく「記憶」
福島 沙由美さん
ドイツで活動している作家。東ドイツのドレスデンをモチーフにした本作は3枚で1組。絵画の隙間は「記憶」のはざまだろうか? 記憶の中の見た景色がどんどん下層に沈み、そこで形を変えながら留まり、また変容していく…水の中に記憶を沈めていくようだ。
地球の始まりを、小さなガラスに閉じ込める
地村 洋平さん
ガラスの中の、金属に注目。重力による偶然で生まれたカタチをそのまま閉じ込めている。展示作「Herald 22_1」をはじめ、いずれも何かが始まる予感、予兆を感じさせる。
驚きの奥行き!ドローイングのような七宝
前田 恭兵さん
風景画のように見えるが、無線で作る「描画七宝」など取り入れた力作。近づいて、水面や魚の鱗を見てほしい。釉薬をのせて焼いてを20回ほど繰り返し、有線と無線を組み合わせることによって、独特の奥行きが生まれるそうだ。
ミクロの世界を画材や技法の組み合わせで表現!
薦田 梓さん
文化財保存学を学んだ作家。「顕微鏡を使って、染色液でいろんな色に染まった植物細胞を見るのが好き。いつまでも眺めてしまう」と語る。宇宙や深海をテーマに、揉み紙の折り目に入った染料や箔などを使って、その感動を表現している。
堅実で華やか!自然を収めた4作品
鹿間 麻衣さん
今回のテーマは植物。画材は顔料を使用。日本画における額装は「仕立て」が主だが、本作は現代的なシンプルな額装となっている。
花や実りの美しい色彩には、作家が自然へ向けるまなざしが感じられる。豊かな四季に囲まれて、私たちも共に生きる喜びが思い起こされる。
色彩がまざりあう、ガラスの草花
藤枝 奈々さん
普段はガラスメーカーで勤務している作家。アメリカに行った際に見た森が鬱蒼としていて興味深く、それを作りたかったと話す。バーナーワークによる制作は、まるで飴細工のよう。緑色やオレンジ色が絶妙にまじりあう。
あなたはどれが好き?身につけるアート、漆のピンズ
細田 麻理奈さん
今回出展されているのは、非常に細かい漆のピンズ。「天むす」などモチーフもおもしろい。前回の企画展「Memento Mori 〜死を想え、今を生きよ〜」では千手観音像を作られていた。作風の幅に驚かされる!
何気ないものが何かに生まれ変わる瞬間!
センザキリョウスケさん
イラストレーターとしても活動されている作家。散歩をモチーフに、集めたパーツをデジタルで描いて、少しづつ変化をつけながら配置し違った景色を生み出している。じっくり見ると違いに気づくのも間違い探しのよう。デジタルならではのおもしろさがある。
ガラスがなりたいカタチをアートに!
川島 理惠さん
「色のついたシリーズも人気だけど一番好きなガラスの色は透明なんです」。炙ったときに、ガラス自らが自然になりたい形を求めているような動きをするのが好きでこの技法を使っているんだそう。バナーワークでの制作。
音楽×ガラス!ドビュッシーやゴッホの世界を表現!
福村 彩乃さん
元々はピアノを専攻、博士前期課程から藝大で音楽のマネージメントを学んだ作家。お父様がステンドグラスの作家で、アクセサリー作りをするようになったそう。音楽や絵画をイメージしたガラスの作品を展示。
企画展「The Prize Show!~What’s 藝大?~」
会期:2022年9月10日(土) – 10月30日(日) 11:00〜18:00
前期 9月10日(土)- 10月2日(日)第1回-9回受賞者による展示
後期 10月8日(土)- 10月30日(日)第10-16回受賞者による展示
※月曜休(祝日は営業、翌火曜休業)
※10月3日(月)- 7日(金)は展示入れ替えのため休業
※一部作家は、展示期間が異なる場合がございます
出展作家
前期(24名)
石田 菜々子/猪瀬 昌延/大野 直志/加藤 萌/川島 理惠/小林 あずさ/小林 真理子/薦田 梓/鹿間 麻衣/先﨑 了輔/地村 洋平/東條 明子/中村 弘峰/福島 沙由美/福村 彩乃/藤枝 奈々/細田 麻理奈/前田 恭兵/牧野 真耶/水代 達史/満田 晴穂/安河内 裕也/山本 真衣/吉田 周平
後期(29名)
縣 健司/VIKI/大島 利佳/小倉 慎太郎/小田川 史弥/郝 玉墨/筧 由佳里/甘 甜/齋藤 愛未/真田 将太朗/清水 雄稀/城山 みなみ/鈴木 初音/瀧澤 春生/布下 翔碁/野村 絵梨/長谷川 雅子/龐 夢雅/水巻 映/皆川 百合/宮下 咲/村尾 優華/村中 恵理/本村 綾/森 聖華/森下 絵里奈/李 菲菲/若林 真耶/渡邉 泰成
作品の見どころを藝大アートプラザweb編集長・高木が解説した音声はこちら
写真撮影: 今井裕治