藝大アートプラザのオールスターが集合!「The Prize Show -藝大アートプラザ大賞受賞者招待展-」第2弾レポート

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現在開催中の「The Prize Show-藝大アートプラザ大賞受賞者招待展-」。芸術の秋にふさわしい充実したラインナップが揃っています。

会期は折り返し地点を過ぎましたが、まだまだ紹介してみたい作家さんが山ほどいます。せっかくなので、レポート第2弾では、前回の記事内で触れることができなかった面白い作品をどんどん紹介していきます!

今回は、単に技巧的に優れていて美しいだけでなく、鑑賞者の心をざわつかせるような、そんな意外性と刺激に満ちた作品を中心にピックアップしてみました!

鑑賞者の心に爪痕を残す、エッジの効いた絵画作品たち


本展では多くの絵画作品が展示されていますが、幻想的で美しい作品、伝統的な日本画を現代的に発展させた作品、一見、穏やかで美しい絵柄の中にもぎょっとするような醜さや怖さが秘められた、ある意味二面性のある作品など、非常にバラエティ豊かな絵画が出揃いました。

まず、取り上げたいのがこちらの作品。


大島利佳「さいしょのしあわせ」124,850円

数年前から、ジワジワと広がりつつある美人画ブームを追い風として、美人画を手掛ける女性作家がアートシーンの中で存在感を増してきています。藝大アートプラザでも、描線が美しく、淡い岩絵具で女性の柔らかい肌の質感を表現した美人画は大人気。いつも会期前半で「売約済み」の赤丸がついていますよね。

そんな中、ただ美しいだけではなく、様々な感情が入り混じった複雑な表情の少女像で人気を確立しつつあるのが大島利佳(おおしまりか)さんです。


大島利佳「にゅうわ」137,500円

すでに学外でも売れっ子作家となっている大島さんですが、藝大アートプラザでも精力的に出品を重ねています。本展では、新作1点と旧作1点が登場。


「さいしょのしあわせ」部分拡大

「図として、線として面白いものを描きたい。面白い表情を描くことがテーマです」(『美人画づくし参』芸術新聞社刊 P42-43)と語る大島さん。彼女の作品の一番の注目点は、ある意味大島さんの自画像的ともいえる、少女の個性的な顔立ちです。

ほれぼれするような細密な筆遣いや、表情の濃淡や陰影を表現するために使われた「朱色」の色彩の使い方なども、非常に見応えがありました。彼女の卓越した技術も、少女の表情に力を与えています。


大島利佳さんのジグソーパズル「踊り子に灯り」2,530円(左)「福々来たり、めでたくは日々。」3,520円(右)

また、2021年には大島さんの作品が、ジグソーパズルとしても楽しめるようになりました。藝大アートプラザでの販売もはじまりました。グッズコーナーもぜひ覗いてみてくださいね。

続いて、展示室中程に設置された柱状のホワイトキューブの4面全てをジャックして展示されているのが、小林あずささんの作品群。


小林あずささんの作品だけで埋め尽くされたホワイトキューブ

描かれているモチーフは、全て私たちの日常生活の中にありふれて存在するものばかりですが、その組み合わせやモチーフの使い方が衝撃的です。

じっくりと見ていくと、シュルレアリスム絵画のような味わいも。描かれたモチーフには様々なメタファーが見え隠れして、絵を読み解く知的興奮が味わえます。

と、同時になんとも言えない禍々しさやダークな世界観も見え隠れするのが彼女の作品の特徴。


小林あずさ「暖」66,000円

たとえばこちらの手袋の作品。一見、ふかふかとあたたかそうに見えるのですが、よく見てみると、糸ではなく人の黒髪で編まれているんです。ちょっと、ギョッとしてしまうかもしれませんね。


小林あずさ「トークン」71,500円

実は、「黒髪」は、学生時代から小林さんが数多くの作品で用いてきた、彼女にとって最重要なモチーフなのです。ある意味、小林さんの想いを載せた自画像と捉えることもできそうです。


小林あずさ「ボンボン」75,350円

また、かたつむりが甘いお菓子につられて子供向け遊具の中を這い回る作品「ボンボン」も強いインパクトがありました。

遠目から見た初対面の印象では、黄色やピンクなど明るい色彩に包まれたファンシーな作品に見えるかもしれません。ですが、近づいてよく見てみましょう。軟体動物特有のグロテスクなかたつむりの姿態がおどろおどろしく、じわじわと底知れない不安や恐怖が心に忍び寄ってくるような感覚に包まれます。

かわいいのに怖い。美しいのに醜い。

それこそが、小林さんが作品制作で目指す大事なポイントなのかもしれません。HPにしっかり考え方が記載されていました。ちょっと引用してみましょう。

「私は言語の代替として作品を制作している。([・・・])既に知っているもの同士を繋げ、知らない物を見る為に制作を行う。描く事によってイメージを繋げ、ダブルイメージの連想のしりとりを続ける。([・・・])私は見る絵ではなく、詠む絵としての網膜的文章を描きたい。」(引用:http://kobayashi-azusa.jp/cv.html

つまり、小林さんは描くイメージの中に「ことば」にも近いような問いかけを常に忍ばせているわけですね。なるほど、作品を見ていると、怖いのになぜか目が離せない。まるでミステリーの謎解きをさせられているような気持ちになるのは、意図的な仕掛けだったのですね。


小林あずさ「夜の卵」44,000円

ぜひ、小林さんの作品と面と向き合ってみてください。いつもとは違う脳の部位が激しく活性化するのが実感できますよ!

「やきもの」が充実!若手からベテランまで出揃った陶芸作品の面白さを味わう


展示風景

本展で目立つのは、陶芸作品の豊富さです。特に、窓際の陳列棚には、購入したその日から生活で使えるうつわから観賞用のオブジェまで、多様な作品が揃っていました。藝大アートプラザでやきものがこれだけ揃うのは、久々に見たような気がしました。


清水雄稀「花の盃」各3,300円

さて、そんな陶芸作品の充実ぶりに最も貢献していると思われるのが、清水雄稀(しみずゆうき)さんの作品群。学外でのグループ展なども含め、清水さんはいつも多くの作品を出品される作家ですが、今回もマグカップやカレー皿などを中心に、棚からあふれそうなほど多くの作品が並んでいました。


清水雄稀「カレーに捧げる器」5,500円

特にオススメなのが、ズッシリとした重さが手に伝わってくる楕円形の深皿。タイトルを見ると「カレーに捧げる器」と書かれています。なんとも人を食ったような、ユーモア精神あふれる作品名ですよね。

確かに、深さといい作品の容積といい、カレーライスをいただくのにジャストサイズな設計です。これは美味しくいただけそうですよね!


清水雄稀「僕元気の壺」48,400円

また、こちらの壺も面白いです。一見、伝統的なデザインの重厚な壺に見えますが、「僕元気の壺」という軽妙なタイトルに、思わずクスリとさせられてしまいました。

どのあたりに元気を生み出してくれる要素があるのだろう……?と思ってよーく壺に寄って見てみると……。


「僕元気の壺」部分拡大

なんと、うつわの肌が無造作に掻き落とされ「DREAM」と英語で文字が入れられています。これもまた清水さんの面白い遊び心。頭が柔らかくないと、これはなかなかできませんよね?!子供の落書きみたいにも見えるような大胆なアレンジに、柔軟でフレッシュなセンスを感じました。

続いては、井上俊博(いのうえとしひろ)さんの作品。本展に先立ち展開された渋谷のPOP UP STORE「買える藝大!」展に引き続き、大量の新作とともに連続での登場となりました。


井上俊博、左から「蛟龍瓷酒杯」11,000円、「蛟龍瓷盞」7,700円、「蛟龍瓷盞」 7,700円

本展で出品された「蛟龍瓷」(こうりゅうし)シリーズの特徴は、うつわを覆う釉薬の独特の色彩や、爬虫類や両生類のゴワゴワとした肌を連想させるような、キメの粗い硬質な外観です。


井上俊博「蛟龍瓷植木鉢」25,300円

これらは、井上さんの飽くなき釉薬研究への成果がかたちとなったものでしょう。焼き上がった時の発色のシミュレーションはもちろん、釉薬と陶土の収縮率の違いなども緻密に計算しないと、ここまできれいに仕上がることはないはずです。

これもまたある意味「超絶技巧」と言ってもよいのではないでしょうか。


井上俊博「蛟龍瓷急須」14,300円(左)、「蛟龍瓷盞」7,700円(右)

それにしても、この抹茶のような強烈な色彩。非常にアヴァンギャルドで先鋭的な姿に映りますよね。

ですが、よく見てみると、急須や酒杯など、どの作品もうつわのかたち自体は伝統を踏まえた安定したフォルムなんです。だから意外と使ってみたら、すんなり手に馴染むはず。

仮に、タイムスリップして戦国時代に持っていけたとしたら、当時の数寄者たちにバカ受けしそうだな、と思いました。千利休には破門されるかもしれませんが、信長や秀吉あたりには気に入ってもらえるはず!
なんだか「乱世」の香りがするうつわでした。


井上俊博「蛟龍瓷急須」14,300円(左)、「蛟龍瓷盞」7,700円(右)

繰り返しますが、うつわの形状自体はかなりオーソドックスなので、日常使いから茶会などのフォーマルな場でも取り回しはしやすいと思います。手に取りやすい価格ですし、生活の中に少しピリっとしたスパイスが欲しい人にもオススメです。

人や動物をかたどった彫刻作品も見どころ多し


菊地言美さんの展示作品

石彫作品でオススメなのが、菊地言美(きくちことみ)さんの作品。菊地さんは、第13回藝大アートプラザ大賞で準大賞を獲得した実力の持ち主。海に生息する軟体動物などをモチーフとした、複雑な曲線が魅力的な作風です。

藝大で石彫を手掛ける作家さんには、実力があれば在学中から自作をパブリックアートとして幅広い層の人々に見てもらえるチャンスが巡ってきやすいと聞きます。菊地さんはまさにそんなチャンスを掴んだ石彫作家のひとり。

発表作品が相次いで学外のコンテストで受賞を重ね、荒川区長賞を受賞した「パレス」が荒川公園に設置されたり(https://www.youtube.com/watch?v=kY2FD_CZyiM)、都知事賞を受賞した「雌蛸」が上野公園内の「芸術の散歩道」に設置されたりしました。

さて、本展では、自宅にも気軽に飾ることができる、手頃なサイズの大理石の石彫作品が2点出品されました。巻き貝をかたどったような、渦状のやわらかい曲線が非常に魅力的です。


菊地言美「ミニパレス」184,800円


菊地言美「魚」184,800円

少し照明を落とせば太古の化石のようにも見えるかもしれません。また、複雑な造形なので、見る角度を変えると、その都度全く違うイメージが頭の中に浮かび上がってくるかも知れませんね。

最後にご紹介するのが、瀧澤春生(たきざわはるお)さんです。


瀧澤春生さんの作品群

瀧澤さんは、日常風景の中でふとした瞬間に見せる人間や動物の何気ない動きや仕草をスナップショット的に捉え、印象的なフォルムの木彫作品を手掛ける彫刻作家です。どの作品にも、対象に対する暖かな目線と独特のユーモア精神が息づいています。


瀧澤春生「雲に乗る」88,000円(左)、「目覚めと眠り」154,000円(右)

実は、瀧澤さんは、社会人を経て、子育てを終えてから藝大大学院に入学されたという一風変わった経歴の持ち主。芸術家としての幅を広げるため、藝大での学びを作品へと活かそうと考え、藝大の門を叩こうと決意されたそうです。


瀧澤春生「「道」~それぞれの時間~」132,000円

「The Prize Show―藝大アートプラザ大賞受賞者招待展―」では、瀧澤さんの新作を多数出品中。手彫りの丁寧な彫り跡も見どころの一つ。ぜひ丹念にチェックしてみてくださいね。

まだまだ未紹介の作家さんは30名以上!日本全国の精鋭の作品を集めたハイレベルな展覧会です!

1回目のレポートに続き、各分野で6名の作家と作品をピックアップしてご紹介してみましたが、いかがでしたでしょうか?本展では、この他にも本当にたくさんの個性派作品が勢揃いしています。

展覧会に出品されている作家さんの多くは、現代美術の最前線で活発に活動を続け、HPやSNS等でも積極的に情報発信をされたり、各地で個展やグループ展を開催しています。ぜひ、藝大の「顔」とでもいうべき「藝大アートプラザ大賞受賞者」の作品を楽しんでみてくださいね。

会期: 2021年8月28日(土) ~ 10月3日(日)
営業時間: 11:00~18:00
休業日: 9月21日(火)、27日(月)
入場無料、写真撮影OK


取材・文/齋藤久嗣 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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