藝大アートプラザの新年の風物詩といえば、毎年恒例の藝大アートプラザ大賞展。今年で16回目を数える藝大発の学内公募展「藝大アートプラザ大賞」での入選作品を展示・販売する作品展です。
今年は、過去最大級の123作品が集結。これに加え、過去の各賞受賞者からも新作が数十点出品されています。すでに速報および審査員講評レポートでアップされているように、どの作家も実力者揃いです。
第16回藝大アートプラザ大賞・審査員講評レポートはこちらから
僕も今回は2021年末に実施された審査会の段階から全作品を拝見していたのですが、あらためて展示空間でどう見えるのかな?というところが気になって、じっくりと鑑賞してきました。
そこで、今回は大賞・準大賞受賞者以外でも、「これは!」と個人的に面白さを感じた作品をいくつかピックアップしつつ、展示の様子をレポートしてみたいと思います。
展示初日は大雪明け・・・!雪景色に包まれた中庭を借景に、展示がオープン!
第16回藝大アートプラザ大賞展の開幕日は1月8日。前日に降った大雪の影響で、朝からお店の中庭にはうっすらと雪が残る中での新年オープンとなりました。
お客さんの出足はどうなのだろうか・・・と思っていたら、雪がどんどん溶けて気温が上がった午後になってから一気に店内がにぎやかになってきました。残雪の風情を感じながらの「雪見鑑賞」が楽しめたようです。
「ひかりをみつめて」44,000円
小倉果穂(美術学部工芸科鋳金3年)/ガラス越しに映った雪の白とネズミの白が重なって美しく見えました。
展示風景
それでは、今回ピックアップしたオススメ作品7点を順番にご紹介したいと思います。
オススメ作品1:まるで未来の建築模型?!触って楽しい伸縮自在のキューブ
「SOKO CUBE」33,000円
蘇コウ(大学院美術研究科修士課程建築専攻構造計画2年)
さて、展示室入口近くで、まず目を引いたのが作家自身の名前を冠したキューブ上のオブジェ「SOKO CUBE」です。ハサミ状に入り組んだ骨組みが醸し出す独特の幾何学的なフォルムからは、美術作品でありながら工業製品のような雰囲気も漂っています。ロボットの体のパーツみたいですよね。実際、本作はパソコン上で設計され、3Dプリンターとレーザーカッターを駆使して制作されているそうです。
「SOKO CUBE」(部分)
よく見ると、正六面体を構成するそれぞれのパーツは、細かく節で止められ、伸縮するような設計になっています。つまり、本作にはオブジェとして楽しむだけにとどまらず、手にとって動かす楽しみもあるんです。(※展示中は手を触れることはできません)
作家自らビジュアルを駆使して作品詳細を紹介した解説も置かれています
非常に珍しい作品だな…と思って蘇コウさんのプロフィールを見ると、建築科で構造設計を学んでいる方でした。なるほど、よく見たら建築物の一部にも見えますね。
骨組みを留めた無数のジョイントが複雑に連携し、各辺のサイズは15cmから26cmまで伸縮自在。まるでハサミやバネのようなアクリル板のトラス構造をアートに仕立てた蘇コウさんのイマジネーションに感嘆しきりでした。
オススメ作品2:癒やしの逸品!版画だけど世界に1つしかないレア作品
「きよしこの夜」/55,000円
加川日向子(大学院美術研究科修士課程専攻版画2年)
さて、続いて気になった作品は、版画研究室に所属する加川日向子さんの作品。クリスマスの夜に、若い(美形の)男子2人が部屋の中で飲み物を手にしっぽりとくつろいでいます。うーん、2人はどういう関係なのだろう?兄弟?親友?それとも恋人同士・・・?!
…と、加川さんの版画作品を見ていると、不思議と物語が画面の中から聞こえてくるような、そんな不思議な魅力があるんです。
「きよしこの夜」(部分)
加川さんは、2021年夏に開催された版画研究室の企画展「その場合、わたしは何をする?~版画のひきだし~」で藝大アートプラザに初登場。そのかわいい絵柄と、鑑賞者の心の中にスッと入り込んできて、様々な想像をかきたてられる作風が評判でした。
「きよしこの夜」(部分)
本作では、絵の中の二人の主人公を取り囲むように、金彩で摺られた画面の中の額縁や、その外側に描かれたいろいろな人物や静物にも要注目。クリスマスの温かい雰囲気をさりげなく演出しています。一見素朴に見えながらも、絵の中にたくさんの情報量が詰まっているのも、加川さんの作品の特徴。版画でありながら、エディションが1/1となっている、非常に貴重な作品です!
「きよしこの夜」(部分)/エディションナンバーに注目。1/1となっています!
オススメ作品3:激シブの水墨画の世界観が七宝作品に!
「スコール-Tropical rain-」220,000円
オオタケグチヒトミ(大学院美術研究科修士課程デザイン専攻2年)
つづいて、オオタケグチヒトミさんの作品。
構図の面白さや、まるで水墨画のような白と黒だけで表現された世界観は、非常に斬新。
遠くから見ると、「あれっ?なんだろう?」とまず目を引き、そこで至近距離まで近づいてみると、実は、大海原を見渡したパノラマ的な構図が採られていることに気づきます。海は漆黒で表現され、波しぶきは銀線でシンプルに表現されています。
そして圧巻なのが、水平線のかなたに見える夏の嵐のような不穏な分厚い雨雲と、そこから激しく降り注ぐスコールのような激しい雨の表現です。
「スコール-Tropical rain-」(部分)
当該部分を拡大してみましょう。どうですか、この迫真の表現。まるで、和紙の繊維に水墨が染み込んだような、そんな繊細なテクスチャーで表現されていることに驚かされます。七宝ってこんな表現もできるんだな…と唸らされます。
七宝といえば、明治の巨匠・涛川惣助や並河靖之など細密表現を突き詰めていくイメージがありますが、このオオタケグチさんの作品からは、「引き算の美学」みたいな面白さも感じました。七宝の楽しさ、奥深さを知ることができる逸品です。
オススメ作品4:旅気分に連れ出してくれる、ステイホームの強力な清涼剤
「温泉のある街」33,000円
山本克洸(美術学部絵画科油画専攻2年)
こちらは個人的に非常に心惹かれた作品。今年の冬で、コロナが拡大してからもう満2年が経過しようとしています。まさに自分の中で、温泉旅行への渇望がピークに達していた中、本作を温泉日和な冬の寒い朝に一目見て、心を撃ち抜かれてしまいました。
作品で表現されているのは、鄙びた旅館の脇に流れる川べりの夜の風景。作家の山本さんがモデルにしたのは箱根の温泉街です。
これ以上ない、旅情を掻き立てるシチュエーションです。露天風呂をたっぷり楽しんだあと、夜風で火照った体を冷ましながら、鄙びた温泉街を浴衣姿で散策する・・・。そんなワンシーンが思い浮かんでしまう、旅情をかきたてる1枚でした。
旅行好きの方にぜひ楽しんでもらいたい1枚です。
オススメ作品6:超絶技巧のDNAを継承する男!目指せ令和の宮川香山!
「Reflect No.1」165,000円
野村俊介(美術学部工芸科陶磁ガラス2年)
続いては、こちらの野村俊介さんが制作した一輪挿し「Reflect No.1」です。
本作の見どころは、なんといっても「カニ」です。
深緑色の長細い一輪挿しの口縁部を抱きかかえるような、今にも動き出しそうなほどリアルな造形に見惚れて、思わずいろいろな角度からバチバチと写真を撮ってしまいました。(※店内は撮影自由です)
「Reflect No.1」(部分)
どうですか、正面から見たこの迫力は?!甲殻類特有のゴツゴツした外観やハサミを振り上げた一瞬の動きがいきいきと表現されていますよね。
ところで、この作品はアートに詳しい方なら、明治初期に活躍した陶芸家・宮川香山(みやがわこうざん)を思い浮かべた人も多かったのではないかと思います。輸出用陶磁器の制作で名を馳せ、超絶技巧の代名詞のような伝説的な陶芸作家です。
宮川香山の作品が当時のヨーロッパ人をあっと驚かせたように、野村さんも世界を感嘆させる作家になっていくのだろうな、と思いながら鑑賞していました。
しかも、本作を制作した野村さんは、まだ学部2年生。それなのにこのクオリティ・・・。将来は末恐ろしいものがあります。
「Reflect No.1」(部分)
オススメ作品6:気分がアガる!ガラスと鏡の意外な相性とは
「まどとくも -金雲-」115,500円
山本真衣(第4回藝大アートプラザ大賞・大賞受賞)
さて本展では、本展に応募して入選を果たした学生だけでなく、過去に大賞・準大賞を獲得して藝大を巣立った先輩たちの作品も合わせて楽しむことができます。
かつて本展での受賞を経てステップアップしていった先輩たちの作品を見ると、今回入賞を果たした学生さんの中からも、先輩たちのように大きく成長を遂げていくことでしょう。この中から未来の巨匠が輩出されるかもしれない、と想像すると、鑑賞にも力が入りますよね。
そんな先輩作家の一人が、ガラス作家の山本真衣さん。2009年の第4回で見事大賞に輝いた気鋭の若手作家にして、藝大アートプラザでも人気の作家です。特に、上品な高級和菓子を想起させるようなガラス玉の「Breeze」シリーズが大人気です。
今回あっと思ったのが、鏡のキャンバスにガラス玉が敷き詰められた作品。鏡とガラス玉の相性が抜群なんです。鏡に映った日常風景が、ガラス玉の存在によって途端に幻想的な雰囲気を帯びて見えてくることに驚きました。
「まどとくも -金雲-」(部分)
純粋なアート作品として壁掛けで楽しむだけでなく、机の上などに設置すれば実用性も抜群。化粧台としてもしっかり活躍してくれそうです。
オススメ作品7:寅年を寿ぐ、金箔で彩られたコミカルな虎が登場
「虎の巻」60,500円
堀口 晴名(第14回藝大アートプラザ大賞・小学館賞受賞)
最後に、干支にちなんだおめでたい作品を一つ紹介させていただきます。
新年が明けて最初の展示なので、ひょっとしたら今回の「藝大アートプラザ大賞展」でもそんなおめでたい作品に出会えるのかな?と思っていたら、ありました!それが、今回、過去の受賞者の招待展示として出品されている。堀口晴名さんの新作
見て下さい、このかわいいトラ!しかも単にかわいいだけでなく、さりげなくクスリとさせられるユーモアが込められているのが面白い。なにか手に持っているな…と思ったら、タイトルを見て納得でした。トラが手にしているのは「トラの巻」なのですね。正月早々必死に勉強をしているかわいいトラを見て、心が和まされました。
在学時に油画の保存修復を学んだ堀口さんが得意とするのは、中世以来ヨーロッパで受け継がれてきた、鶏卵に顔料を混ぜて描く「テンペラ技法」を使った緻密な作品。トラの背景のゴールドが、中世の教会祭壇画や日本伝統の金屏風などを思い起こさせますね。まさに和洋折衷な作風には、日本人作家にしか出せない絶妙な個性が光っています。
まとめ
この他にも、絵画、やきもの、アクセサリー類など幅広い分野でたくさんの作品が用意されています。本展をきっかけとして、未来の大巨匠へと羽ばたいていくような、そんなダイヤモンドの原石を見つけ出してみてはいかがでしょうか?
第16回藝大アートプラザ大賞展
会期:2022年1月8日 (土)~2月13日 (日)
営業時間:11:00 – 18:00
休業日:1月11日(火)、17日(月)、24日(月)、25日(火)、2月7日(月)
入場無料、写真撮影OK
取材・文/齋藤久嗣 撮影/五十嵐美弥(小学館)
※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。