長引くコロナ禍は、アーティストの制作活動にも大きな影響を与えています。そんな中、恒例の「第15回藝大アートプラザ大賞」が始まりました。
「藝大アートプラザ大賞」は毎年秋から冬にかけて学内から作品を公募し、審査によって大賞や準大賞などを先出する、藝大アートプラザが主催するコンペティション形式の学内公募展です。
すでに審査は年明け早々に終了し、1月23日より入選作品の展示が始まりました。過去に大賞・準大賞を受賞したOB作家の作品も含めて、バラエティに富んだ力作約120点の展示・販売がスタート。早速どんな作品があるのか見に行ってきました!
大賞・準大賞は奥の部屋ではなく、展示室中央で展示!
さて、まず会場内に入って新鮮だったのが、大賞・準大賞受賞作品の展示コーナーが展示室の真ん中近くに設置されていたこと。これはわかりやすくていいですね!
これまでは、たいてい奥の絵画コーナーに設置されることが多かったので、大胆なレイアウト変更は新鮮でした。
▼大賞 水巻映「Recording media Estimated 1980s」
▼準大賞 清水雄稀「操壺・AMU」
▼準大賞 筧由佳里「星の降る街」
大賞・準大賞のお二人については、作品の詳細な解説とともに、作家ご本人へのインタビューが近日中にアップされます。お楽しみに!
例年に比べ、留学生の出品が目立っています!
さて、展示室全体をぐるりと見回すと、今回は留学生による出品・入選作品が非常に多いことに気付かされます。数えてみると入選者のうち、留学生が16名を占めています。入賞者全体の約20%です。ひとりで多数の作品が入選している作家も多いので、展示室内ではもっと存在感がありました。
母国との往来もままならず、他の日本人学生よりも厳しい制作環境に置かれたであろう状況下において、旺盛な制作意欲を失わないのはさすがの一言。祖国を離れ、日本で学びアートで身を立てようと覚悟を決めた彼らの精神的な強さがひしひしと感じられました。
もちろん、出品作も力作揃いです。いくつか見てみましょう。
▼張立「油滴天目」
まずはこちら。なんと現代アートでは非常に珍しい、天目茶碗の登場です!
張立「油滴天目」71,500円
茶道具の中でも屈指の人気を誇るのが、かつて中国・建窯で焼かれた「曜変天目」「油滴天目」といった天目茶碗。
漆黒に光るお茶碗に、「窯変」という窯での焼成中に釉薬と素地が複雑な酸化還元反応を起こしことで銀色の斑紋(油滴天目)や、夜空に輝く星のような虹色の模様(曜変天目)が出現。
このゴージャスな外観こそが、過去あまたの数寄者を虜にしてきた天目茶碗の見どころです。
しかし、これだけ科学技術が発達した21世紀においても、未だその制作方法は謎に包まれており、現在、日本や中国など東アジアの諸地域では、多数の研究者が「油滴天目」「曜変天目」を復活させようと取り組んでいます。
張立「油滴天目」部分超拡大図!
張立さんも、きっと「天目茶話」復活への夢を抱いて藝大で技を磨いているのでしょう。
作品のクオリティは趣味のレベルを完全に超えており、かなりの精度で真に迫ったクオリティとなっています。お茶碗好きな方はぜひ近くでチェックしてみてくださいね。
袁方洲「雲のかけら I」
続いては、袁方洲さんのガラス作品「雲のかけら」シリーズです。
袁方洲「雲のかけら I」143,000円
作品の表面は雲…というより、新雪を固めたような純白でつるつるした質感。作品の断面には発泡スチロールを細かく割ったような細密な気泡が閉じ込められています。
全て袁方洲さんの作品、
左上:「雲のかけら Ⅱ」121,000円
右上:「雲のかけら III」99,000円
左下:「雲のかけら I」143,000円
右下:「雲のかけら Ⅳ」66,000円
特別にスタッフの方から許可を頂き、手にとってみました。
すると、見た目よりも非常に軽いんです!
ある程度の重量感を感じさせる外観とは裏腹に、ガラス作品とは思えないような軽やかな感触がもたらすギャップは、ちょっと病みつきになりそう。いったいどうやって作っているのでしょう。ガラスの材料特性や製作技術をつきつめる、藝大ならではの技ありの見事の逸品だと感じました。
韓 蘊澤「CONNECTION」
そして、こちらのオブジェは入り口すぐのところに展示されている韓 蘊澤さんの不思議なオブジェ。
韓 蘊澤「CONNECTION」55,000円
「藝大の猫展」でも、インド+古代中国+南米オーパーツ風の不思議すぎる猫の作品「CAT AMULET」が印象的でした。(※現在、常設展コーナーで引き続き展示販売中)
韓 蘊澤「CAT AMULET」
※本展出品作ではありません。2/4現在、常設展示コーナーにて55,000円(税込)で販売中
それに続く本作もまた強烈です。
共に韓 蘊澤「CONNECTION」55,000円
「CONNECTION」と名付けられた2つの作品は、見る人によって様々な形を想起させる抽象的な形のオブジェ。人間の内臓器官にも似ていますし、タコやサンゴ礁といった海の静物なども連想させます。彩色も手が込んでいて、ところどころに縄文土器のような縄目模様がつけられ、その上から金属感のある釉薬がかけられています。まさにオーパーツ的な面白さでした。
絵画コーナーも充実!バラエティに富んだ出品作が楽しめます
さて、昨年同様、絵画系作品は質・量ともに非常に充実しています。今年は、いわゆる伝統的な岩絵の具での美しい日本画もあれば、絵の具以外にも様々な素材を用いた面白い作品が多かった印象です。
いくつか見ていきましょう。まず、こちらの作品から。
千葉理子「IINE」
千葉理子「IINE」33,000円
良い意味で、古き良き1980年代~90年代の藝大キャンパスに漂っていたカオスな雰囲気をリバイバルさせたような尖った作風に惹きつけられました。
憂いのある表情を浮かべた少女の像の上にはピンク色のフェンスのようなものが貼られ、作品を保護する額のアクリル板の上には、何やら難解なテキストがびっしりと書かれています。
これがお世辞にも美しい…とは言い難いなぐり書きで、怒りのエネルギーを若さにまかせてぶつけてみたかのような乱筆。学生運動の檄文を読んでいるかのようです。
千葉理子「IINE」部分拡大
もちろん、気合で全部読みました。テーマは、InstagramなどSNSで生まれ、21世紀の日本文化を象徴する「Kawaii」というキーワードの意味を問う、非常に時勢に合った檄文(?)です。文章を読み進めるにつれ、作品のコンセプトもよりハッキリ見えてくるようになります。敢えて「若気の至り」感を全面に出して、作品に込めたメッセージを文章へとストレートに託したアプローチは新鮮でした。
Kanae KAMIKAWA「川の底の泥が頭の上にくるかもしれない 他」
Kanae KAMIKAWA「川の底の泥が頭の上にくるかもしれない #4」64,900円
こちらは、高校時代から立体造形、映像作品、絵画など型にはまらない個性的すぎる世界観で注目を集めてきたKanae KAMIKAWAさんの作品。(※試しにどれでもいいのでSNSで検索してみて下さい。圧倒されます)
※すべてKanae KAMIKAWAさんの作品、
左上:「川の底の泥が頭の上にくるかもしれない #1」64,900円
右上:「川の底の泥が頭の上にくるかもしれない #2(歯の化石)」64,900円
左下:「青と銀」31,900円
右下:「川の底の泥が頭の上にくるかもしれない #3」64,900円
本展では、「川の底の泥が頭の上にくるかもしれない」というタイトルを中心に、5作品が登場。枯れ草や枯れ葉と絵の具を組み合わせたり、絵画の既成概念に挑戦するような、意外性ある素材の使い方が面白いです。
OBの作品はさすがのハイクオリティ!
絵画展示室には、過去に藝大アートプラザ大賞の受賞者を招待した展示コーナーも設けられています。藝大アートプラザでの常連出品者もいれば、今回、受賞以来はじめてこちらで展示するOBもいました。
でも、どのOBもさすがのクオリティ。卒業して研鑽を積み、コンセプト、技術力、オリジナリティに磨きがかかっています。
小林あずさ「ボンボン」
小林あずさ「ボンボン」74,800円
まずは、2013年に受賞して以来、藝大アートプラザでは初登場となる小林あずささん。
身近な動植物などをモチーフに、不穏な空気感のある現実離れした光景を描き出し、その独特の世界観が非常に人気の若手作家です。
一見、カラフルな積み木のローラーコースターが目に入ってくるのですが、よーく見てみると、コースターのレーン上にはカタツムリが這っています。
小林あずさ「ボンボン」部分拡大
砂糖菓子をめがけて、茶色くぬめりながら這い出してくるカタツムリは、お世辞にも可愛いとは言えず…。しかも、レーン上にはボールが溢れ、上からも狂ったように降ってきており、殺伐とした光景が広がっています。
「既に知っているもの同士を繋げ、知らない物を見る為に制作を行う。描く事によってイメージを繋げ、ダブルイメージの連想のしりとりを続ける」と語る小林さん。見る人の心のうちに様々な感情を呼び起こしそうです。
鹿間麻衣「花見猫」
鹿間麻衣「花見猫」275,000円
こちらは、藝大アートプラザでも人気の日本画家・鹿間麻衣さんの新作です。一足先に春気分を満喫できる、満開の桜が美しい!タイトルに「花見猫」とある通り、よーく目を凝らしてみると、枝の上にちょこんとネコが隠れているのですよね。遠くから見ると、完全に背景に溶け込んでいるように見えるのは、さすがプロの技。
鹿間麻衣「花見猫」部分拡大
1年で一番「桜」が待ち遠しくなるこの季節に、ちょっと早めのお花見を堪能させていただきました。
村中恵理「神使-想告げる-」
村中恵理「神使-想告げる-」231,000円
続いては、こちらも春を先取りするような、村中恵理さんの有線七宝の美しい作品。タイトルの通り、「神使」とあるので、描かれているのは犬ではなくオオカミでしょうか。かわいい。見ているだけで癒やされます。
村中恵理「神使-想告げる-」部分拡大
そういえば、村中さんはご自身のTwitterで「私も在学中、準大賞をいただいて、しかもそれを購入いただいて、作家としてやっていこうっていう心構えみたいなものが出来た気がします。」(https://twitter.com/eri_mu/status/1338405062201110528)とメッセージを書いていらっしゃいますね。後輩の方には心強いアドバイスになったのではないでしょうか。
約2カ月のロングラン開催!足を運べない方はぜひ通販でもどうぞ!
小倉果穂「あたたかな日々」
小倉果穂「あたたかな日々」55,000円
今年は約2ヶ月弱のロングラン開催!こちらには、展示・販売中の全作品が美麗な画像で紹介されています。
昨年も書きましたが(https://artplaza.geidai.ac.jp/column/2020/01/-vol5.html)、本展の面白いところは、学内公募展なのに、わたしたち学外のアートファンも購入することで応援できるということ。恐らく、今回入選した大半の学生にとっては、本展が初めて作品を販売するはじめの半歩になったことでしょう。
将来の可能性を秘めたアーティストの卵たちの最初の「パトロン」になって、作家のモチベーションを高め、成長を後押しできるって素敵なことですよね。
さて、本展は、コロナ禍での開催につき、例年よりも長めに展示期間が取られています。しかし、会期中に足を運ぶのが難しい……というアートファンの方もいらっしゃるかもしれません。
そんな時は、ぜひ藝大アートプラザのホームページをご覧ください。本展に出展された全ての作品が、美麗画像とともに価格付(税込)で紹介されています。 (https://artplaza.geidai.ac.jp/gallery/exhibited-works/15.html)
販売状況等は、藝大アートプラザへ電話にて確認することもできます。ぜひ、お気に入りの作品をじっくりとチェックしてみてくださいね。
展覧会名:第15回藝大アートプラザ大賞展
会期:2021年1月23日(土)~3月14日(日)
休業日:月曜日
開催時間:11~18時
入場無料
取材・撮影/齋藤久嗣 撮影/五十嵐美弥(小学館)
※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。
※文中で紹介されている作品の価格は、全て税込の価格です。