多様な食文化がある美食の街・上野。気軽に寄れるおいしいランチの店を知っておくと、上野デートで美術館や博物館をめぐった後で、お腹いっぱいになりつつ、心身ともにリフレッシュできるかも。
藝大アートプラザがおすすめしたいのは、ズバリ中華。中国は広大な国で、地域ごとに様々な料理があります。上野では四川料理、北京料理などのよく知られたものだけでなく、雲南料理や湖南料理など、比較的珍しい本格中華が楽しめるという特徴があります。
それでは、ご案内します。
北京ダックを見ながら雲南料理の米線専門店へ
JR上野駅の西側、不忍口改札を出ると、さっそく見えてくるのがココ。
戦後間もない頃から長く上野駅のランドマーク的存在であった西郷会館(上野百貨店)は、「UENO3153(ウエノ サイゴーサン)」という商業施設に変身。2022年、よく目立つ1階の路面に北京ダックの専門店「北京火考鴨店(ペキンカォヤーテン) 」がオープンし、ひときわ存在感を放っています。北京ダック食べ放題コースが好評なんですよ。
■DATA
北京火考鴨店(ペキンカォヤーテン)
東京都台東区上野公園1-57 UENO3153-1F
ここから、中央通りを御徒町、神田方面に進み、アメ横に近い一角にこちら「天府李米線 TINA’S NOODLE KITCHEN(ティナズ ヌードル キッチン)」があります。
米線(ミーシェン)は雲南料理の代表格。土鍋などに熱したスープ、肉や野菜などの具材、米の麺を入れたものです。最近、料理も量も日本人向けにアレンジしない本格派の「ガチ中華」が人気で、その流れでガチ中華勢も米線に大注目。夜は飲み会にも使えそうですが、まずはランチでいかが?
通りに面してガラス張りの店は、カフェのようで開放的。店内は湯気が立ち上る土鍋を囲む人たちでにぎわっています。本場の味を知る人たちが「故郷の味」を求めてやってくるのでしょう。メニューは中国語がメインですが、日本語にも対応しているので大丈夫。
多彩なスープがありますが、私にはなにがなんだかわかりません。スマホの翻訳アプリを活用しながら一生懸命調べたことは以下の通りです。
招牌辣卤系:店の看板的な辛いスープ。スパイスが効いている
老坛酸菜系:酸っぱい味が楽しめるスープ
重庆地方小吃:重慶地方の伝統的な味わいを楽しめるスープ
激辛清一色麻辣系列:激辛スープ
三鲜浓汤系列:シーフードのうまみがたっぷりの濃厚なスープ
招牌麻辣系列:店の2つめの看板。マーラー(麻辣)系の痺れる辛さ
激辛清一色麻辣系列は、おそらくとんでもない辛さと思われます。ということで、三鲜浓汤系列で羊ホルモン入りのものを注文してみました。
火から下ろしたばかりの寄せ鍋のようです。煮えたぎるスープの中で、大量の具材が踊ります。サイズ感は小さめの洗面器といったところ。具材は惜しみなくたっぷり盛り込まれており、チンゲンサイは1束分は入っていそうです。
これきっと、デートならお互いの料理を取り分けて食べるのが楽しそうです。欧米からの旅行客と思しきグループはスプーン(レンゲ)と箸を使い、楽しそうにシェアして食べていましたが「もう食べられない」といった顔でニコニコしながら退店していました。辛いものが好きそうなおしゃれカップルは、ぺろりと完食。
私もさっそくいただきます。
羊のホルモンは様々な部位が用いられています。羊特有の香りが食欲を刺激してきます。
米線はちゅるんとしたのど越し。スープの絡み具合もいい感じです。量もたっぷりで、食べても食べても鍋の底からわき出でてくる……!
■DATA
天府李米線 TINA’S NOODLE KITCHEN
東京都台東区上野4-4-7
「晴々飯店」で四川料理を定食スタイルで堪能
こちらは、上野駅の東側にある入谷口。こちら側もまたディープなエリア。バイクショップが点在するバイク街としての一面がありつつ、サウナなのにカレーがおいしすぎてセブンイレブンとのコラボでオリジナルカレーを全国発売した「北欧」もあります。
そんなこの街で、ガチ中華ファンが注目するのが「晴々飯店 (セイセイハンテン)」。成都出身の店主と料理長による四川料理がいただけます。
四川料理といえば、麻辣(マーラー)の味わい。花椒(ホワジャオ)の痺れ感と唐辛子の辛味が特徴です。
雑誌やテレビで麻婆豆腐がたびたび紹介されていますが、その他のメニューも辛ウマでおすすめです。
ランチは700円からという安さ。
迷った挙句、麻婆豆腐と並ぶ四川料理の人気メニュー「よだれ鶏」の定食を選択しました。
ライス、ミニサラダ、スープ、小さなおかず、デザートつきでサービス満点すぎでは? ライスはお替わり無料ですが、まず出されたものを完食するだけでも大変なボリューム感です。
その名の通り、よだれを誘い食欲をそそるこの見た目! 唐辛子の美しい赤色を、新鮮な青ネギのトッピングが引き立て、鮮やかなコントラストを生み出しています。旨味あふれる鶏肉に特製タレが絡み、花椒の香りが追いかけます。
こちらで使用する四川花椒は、店主が現地で買い付けてきたものだそう。30g500円で販売しています。これがあれば、自宅で作る麻婆豆腐もあっという間にしびれる辛さの本格四川風に大変身です。
■DATA
晴々飯店
東京都台東区上野7-8—16
https://seiseihanten.foodre.jp/
湖南料理の異次元の辛さに思わず涙
最後に、情報筋から「舌が麻痺するくらい辛くて最高」とのタレコミ情報を得て、「本格湖南料理 李厨(リチュウ)」へ。
湖南料理も唐辛子を使う辛い料理ですが、四川料理の「麻辣」とは異なり、「酸辣」(スワンラー)」と呼ばれる酸味もある辛味が特徴です。
雑居ビルの2階にある店に足を踏み入れると、聞きしに勝る圧倒的ガチ中華の雰囲気。あれ、ここって中国だっけ? と錯覚してしまいそう。
でも大丈夫。日本語対応メニューもあるので、指さしだけでも注文できます。でも、笑顔は忘れずに。
他のお客の様子を見てみると、大きめのスーツケースを持った旅行客の姿が目に付きます。本国からの旅行中に「故郷の味」が食べたくなって来店しているのかもしれません。後に、ある人に聞くと「自国の料理が旅先でどうアレンジされているのか知るのも楽しみなのでは」とのこと。確かに、私たちも、外国を旅行中に日本食レストランに入ることってありますよね。
悩んだ末、骨抜き豚足と青唐辛子炒め木桶ご飯を注文。
どどーんと登場。木桶は深さがかなりあり、下までご飯がぎっしり詰まっています。緑色のものはツヤツヤで鮮やかなピーマン! ではなく、青唐辛子。空前絶後の辛さに悶絶しながらも、醤油味の豚足がいい味で、意外といいペースで食べ進められます。
ご飯の上に目玉焼きが乗っているのに、別皿に味つけ卵が盛られなんとお替わり自由。最高だけど、そんなに食べられないよー。
でも、周りのお客は、優雅に会話を楽しみながら、猛スピードで口にご飯を運んでいます。細身の若い女性もワシワシ豪快な食べっぷり。はあ、ボリューム満点でおいしすぎるし、辛すぎるし、なんか謎の涙が……。これはもしかして、デートにも使えるのでは。圧倒的な辛さ体験を共有すれば、会話に困ることも少なそうです。
「めっちゃ辛いね」
「ちょっと食べてみる?」
などと感想を共有することで、親密さが増しそうですよ。
■DATA
本格湖南料理 李厨(リチュウ)
東京都台東区上野7-3-2-2F
最後の最後におまけネタ。李厨の隣のビルにある「TSD天心堂漢方ビル天心堂診療所」がまたおもしろい。1972年、日中国交正常化記念でパンダが国賓待遇で初来日するも風邪を引いてしまい、慌てた飼育チームが「子どもが風邪を……(本当はパンダ)」とやってきて漢方薬を処方してもらい、パンダを快癒させたというエピソードがあるんですよ。
実はもう1件、李厨と天心堂診療所の並びに八ツ目漢方薬局 上野店という漢方薬局があります。特に関係はないそうですが、パンダも漢方もガチ中華もと、やはり上野は中国とゆかりが深いですね。
ちなみに、「翠鳳(スイホウ)」という高級店では、店員さんたちの服装が皆チャイナドレスであることも、申し添えておきます。
現場からは以上です!