会期前日になってもこだわり続ける
2024年5月31日。翌日に新たな企画展「The Art of Tea」を控え、数時間後には関係者を招いたレセプションの準備が進む藝大アートプラザの一角で、黙々と絵筆を振るう男性の姿があった。
彼の名は、上出惠悟氏。九谷焼の窯元「上出長右衛門窯」の六代目であり、東京藝術⼤学美術学部絵画科で油画を学んだあと、窯元としてさまざまな陶芸作品を生み出すとともに、近年は水墨画にも挑戦するなど、多彩な活躍を続けているアーティストだ。
その彼が、今回のテーマに選んだのは「IZURA」。描いたのは、茨城県の五浦海岸の風景だという。
なかなか作品が到着せず、氏を除くスタッフ全員が「本当に開催できるのか?」という焦燥感に駆られる中、ついに油画2点が会期前日の31日午後に到着。
開封すると、スタッフから「おおー」という声が自然に漏れる。時を同じくして上出氏本人もアートプラザに到着。自ら設営を行ってくださった。
五浦は、藝大の前身・東京美術学校の校長を務めた岡倉天心隠遁の地であり、「近代日本画の聖地」とも言われている場所。校長を解任され、大きな挫折感を抱いていたであろう岡倉天心は、断崖絶壁に立って太平洋を眺めながら何を思っていたのか。
上出氏の作品は、深い思索を続けた天心と鑑賞者が目線を同じくすることで、その思索を追体験する試みのようにも感じられる。
岡倉天心と五浦の関係については、こちらの記事でお楽しみ下さい。
もうちょっと描いていていいですか
「もうちょっと描いていていいですか」
設営完了後、上出氏はそう言っておもむろに筆を取り出し、すでに設営が完了した作品に色を重ね始めた。氏の強いこだわりを感じる。
そうこうしているうちにレセプションがスタート。訪れた人たちは、はからずもアーティスト上出惠悟の制作現場をじっくり鑑賞するという、非常に珍しい体験を味わえた。
なお、展示会場には上出長右衛門窯の陶芸も販売。個展に合わせた限定販売オリジナル湯呑み「岡倉天心」は特に人気とのこと。確かな技巧と現代の生活に馴染む使いやすさ、加えて愛くるしさを備えた逸品ばかりで、作風の幅の広さに驚かされる。
上出惠悟 個展「IZURA」
2024年6月1日(土)〜6月30日(日)
営業時間:10:00-18:00
定休日:月曜
会場
藝大アートプラザ
(東京都台東区上野公園12-8 東京藝術大学美術学部構内)
協力:EN TEA
※期間中は、同空間にて企画展「The Art of Tea」も開催予定です。ぜひご覧ください。
上出惠悟 プロフィール
1981年 ⽯川県に⽣まれる
2006年 東京藝術⼤学美術学部絵画科油画専攻 卒業
「九⾕焼窯元上出⻑右衛⾨窯」六代⽬
【個展】
2024年「B-P-F(on the shelf)」(京都 蔦屋書店)
2022年「新蕉」(Yoshimi Arts/⼤阪)
2022年「新蕉」(松坂屋名古屋店 美術画廊/名古屋)
2022年 瓷板画展Ⅲ 「Under | Over」(t.gallery/東京)
2021年「Still Life」(⽇本橋髙島屋S.C. 本館6階 美術画廊X/東京)
2020年「0years」(Yoshimi Arts/⼤阪)
2020年「瓷板画展II THE HOUSE OUTSIDE THE HOUSE 家の外の家」(t.gallery/東京)
2019年「静物/Still Life」(Yoshimi Arts/⼤阪)
2019年「磁彫展」(松坂屋名古屋店 美術画廊/名古屋)
2018年「磁彫展」(横浜髙島屋 美術画廊/横浜)
2018年「声」(t.gallery/東京)
【グループ展】
2023年「クロヤギシロヤギ通信」(MtK Contemporary Art/ 京都)
2022年 第5回 ⾦沢・世界⼯芸トリエンナーレ「⼯芸が想像するもの」(⾦沢21世紀美術館/⽯川)
2022年「コレクション展1 うつわ」(⾦沢21世紀美術館/⽯川)
2022年「Insight 26 “connection”」(Yoshimi Arts/⼤阪)
2021年「⾼雅絢爛展―九⾕焼の今―」(サイエンスヒルズこまつ/⽯川、キュレーション|国⽴⼯芸館
岩井美恵⼦)
2021年「⻘ / BLUE」(Yoshimi Arts/⼤阪)
2020年 10周年記念展「Decade vol.2」(Yoshimi Arts/⼤阪)
2020年「⽔ヌルミ九⾕ノ絵師ガ 都ヲ遊⾏シタ處」<えつけ 上出惠悟 かたち 尾花友久>(陶 翫粋/京都)
2019年「開館15周年記念 現在地:未来の地図を描くために [2]」(⾦沢21世紀美術館/⽯川)
2019年 名⼯ 選「NEXT 九⾕」(浅蔵五⼗吉美術館/⽯川<能美>)
2019年「カラフル・オーナメント・オブジェ・クタニ」(九⾕セラミック・ラボラトリー/⽯川<⼩松>)
2019年「第14回パラミタ陶芸⼤賞展」(パラミタミュージアム/三重)
【コレクション】
⾦沢21世紀美術館、 能美市、 Japigozzi Collection、 ⾼橋⿓太郎コレクション、MONTBLANC JAPAN