厳正なる審査の結果
藝大の学生を対象としたアートコンペティション「藝大アートプラザ・アートアワード」(旧「藝大アートプラザ大賞」)の審査結果を発表いたします。
第19回となる本年度は、各学部・大学院の学生・院生70人の応募がありました。
藝大アートプラザで行われた審査会では、日比野克彦・東京藝術大学学長ならびに箭内道彦・東京藝術大学美術学部教授/藝大アートプラザ所長らをはじめとする審査員が厳正なる審査を行い(写真下)、以下の通り受賞者を決定しましたので、ここにお知らせいたします。
受賞作・入選作品は、2025年1月25日(土)〜3月18日(火)の会期で、藝大アートプラザにて展示・販売(ページ下部に案内を掲載)いたします。
また、各賞の受賞者を対象に授与式を行います。詳細は本サイト「ART PLAZA TIMES」にて近くご案内いたします。
大賞
このみまほ
作品名:We Will Meet Again (You Must Believe In Spring)
準大賞
川目 七生(かわめななみ)
作品名:ガスコンロをつけてけすだけのお仕事がしたい
準大賞
三浦 潮音(みうらしおね)
作品名:Horse
CCI賞
袁辰(エンシン)
作品名:réalisation
小学館賞
河崎 海斗(かわさきかいと)
作品名:朱色和金
入選
藤澤 穂奈美
小田 浩之
渡部 ぼたん
ZHENG QI
小﨑 拓郎
上川 桂南恵
後藤 夏希
松永 久瑠美
高井 碧
古川 誠大
善養寺 歩由
于顔碩
藤 ミサト
久木田 茜
さかお みずほ
大堀 珠美
葉 楓
色本 藍
近藤 ののか
リヨウドナケンレン・とおる音雪
伊佐 優花
須藤 倖
キム ヒョンジン
入江 楓大
藤田 野々
髙橋 星
HIYORIの庭園
小林 健太郎
竹智 ふたば
市丸 蓉
石川 廉太
黄 璟(HUANG JING)
野﨑 綾音
青山 心吾
中村 瞭佑
上垣内 若葉
秋本 瑠理子
村尾 優華
現代アートサービスセンター
魏 路生
YURIAJURIA
Yuan Chen
野田 紘
髙橋 涼香
Koki Sakakihara
千島 春海
大谷 さやか
杉本 ひなた
工藤 梨花
芹澤 美咲
八木 叶夢
今井 菜々美
CAI QIN
はらだ ひまわり
藤田 望愛
小林 椿
永井 大地
三宅 純平
江越 里南
ツルタシュリ
高木いろ佳
諏訪部 佐代子
栗原 侑莉
びゅん
山岸 花映
城田 崚吾
審査員各氏のコメント
日比野克彦 東京藝術大学学長
大賞に選んだ『We Will Meet Again (You Must Believe In Spring)』は、作者の個性が非常に気になってまず目が止まった。ドライポイントによる版画だが、ドローイングか、はたまた編み物の糸を載せたようにも見える。アーティストが追い求める、あるいはすでに持っている線やテクスチャー、質感、空気感というものは、時を経てもそれほど大きくは変わらないものだ。「好みの味」のようなものかもしれない。そう思って眺めてみると、この作家の「好きな味」は、こういった空気の混ざり方やにじみ、密度感なのだろう。「この質感が好きなのだ」という思いが、とりわけ強く出ていたように感じる。
重要なことは、その「味」をどう可視化するのかということだ。審査の後で聞いたところによればこの作家は彫刻学科で学ぶ学生ということだが、石を彫る、土を練る、木を彫るといった技法ではなく、あえて版画という技法を選んでいる。自分の胸にある創作のエネルギーに対し、それをしっかりと可視化できる材料や表現方法、相性の良いメディアと巡り合えるかという点は、アーティストとして重要な部分だと思う。いずれにせよ、そうした感覚を持って彫刻を学ぶ姿勢に大きな可能性を感じる。卒業制作も期待したい。
準大賞の一つ『Horse』は、作者の中に目指したい風景、行きたい場所があり、具象と抽象、もしくはそのいずれでもないなにかを作者自身が探っている最中に出てきた作品なのだろう。こうした作品を10年後につくれるかというと、おそらくもう作れない。学びの最中だからこそ生まれる作品というのが誰しもあって、いずれ自分の好きなかたちを好きなように描ける・つくれるようになると、そのときには「もう戻れない場所」というのがある。そうした意味で私はこの作品を愛おしいと感じた。
全体としては、昨年のほうが「なんじゃこりゃ」という作品が多かったように思う。藝大アートプラザのアートアワードは入選以上の作品をすべて展示・販売するが、制作者側がそのことを考慮して飾りやすさなどを踏まえているのかもしれない。しかしそれは必ずしも質が落ちているということではなく、魅力ある作品、力のある作品はやはり多かった。ただ、私としては選考の中で鑑賞者としての立場よりも、つくる側の気持ちを重視した。
箭内道彦 東京藝術大学美術学部教授/藝大アートプラザ所長
準大賞の一つ『ガスコンロをつけてけすだけのお仕事がしたい』は、学生の生活の実感から湧いてくるみずみずしい発想で、すごく面白いことを考えているなと感じた。その一方で、単にユーモアとは片付けられない重要なことも「火を点ける」「火を消す」という行為には隠れている気がする。実は作者は、世の中のみんなが見逃している一番大事なことに、一人気づいているのかもしれない。学生がものをつくることの意味はそうした点にもあると思ったし、それを学生以外の人たちが味わったり解釈したりできる場が藝大アートプラザなのだと考えさせられた。
藝大アートプラザで展示・販売される作品の多くは、毎日の暮らしの中にあっても邪魔しないものが多いと思う。ただ、その作品が毎日あることによって、ある日突然「そうか」と気付かされることもあるはずだ。そういう作品との付き合い方も、これからの社会には必要ではないだろうか。そうした文脈において、積極的にこの作品を選んだ。
全体としては、大賞の『We Will Meet Again (You Must Believe In Spring)』を含め、作者のものの見方をどのようにアウトプットするかという思索の重要性をあらためて感じた。とはいえ、総じておとなしい感があることは否めず、来年はより挑戦的であってほしいと期待する。
もしこのアートアワードを「こんな感じでしょ」と安易に考えている学生がいたらそれは間違いだ。藝大アートプラザはこれからもどんどん変わっていくし、従来にはないアートのあり方を模索するということも、このアートアワードの目的の一つだからだ。藝大アートプラザに「背を向けている」学生にこそ、応募してもらいたい。
CCI賞 審査員
『réalisation』をCCI賞に選びました。この作品は「分断撮り」の手法を使って同じ風景を複数の焦点距離で撮影し、1枚のフィルムに収めています。弊社はデジタルマーケティングを主な事業としていますが、特に現代は一つの事象について多面的に考えなければならない時代だと考えています。それぞれが異なる場所のように見えるけれども、全体としては一つの風景として統一されているという作品のあり方は、ビジネスの上でも示唆に富んでいるように感じました。表面的・短期的ではなく、複合的・長期的な捉え方によってしか見えてこないものや、人との関係があるとあらためて考えさせられ、この作品を選びました。
今回初めて藝大アートプラザアートアワードに協賛し、貴重な機会をいただけたことをありがたく感じています。我々の仕事は、デジタルの力を使って物事を超効率的に進めていく側面も強くあります。しかしそうした世界観に立つからこそ、アートやクリエイティブの重要性をますます強く感じてもいます。短期的な支援ではなく、たとえばこのような場に積極的に関わるなど、ビジネス的な観点からも持続可能なかたちで、今後も社会貢献を行っていきたいと考えています。
(岸岡勝正・株式会社CARTA COMMUNICATONS取締役執行役員)
小学館賞 審査員
小学館賞には『朱色和金』を選んだ。作者は昨年の藝大アートプラザアートアワードでも審査員特別賞を受賞しているが、金工の技術の向上と表現の工夫に大きな進化があるように思われ、同賞に選定した。特に、レジンを用いてビニール袋に入った金魚を表現している点は、その発想に驚かされるとともに、表現として抜きん出ているように思われた。すでに各所で注目を浴びている作家ではあるが、その表現が今後どのように発展していくのか大いに楽しみだ。
総評として、いずれの作家も、AIがもてはやされる時代の中で「アートに何ができるか」という問いに対し、それぞれに苦悩し、答えを模索しているように感じられた。おそらくその答えの中には、『朱色和金』のように「手仕事の面白さ」ということも含まれているだろう。
学生たちの真剣な模索に本来は優劣をつけるべきではないのかもしれないが、いずれにせよ、このアートアワードを主宰する立場として、少なくとも一人ひとりの「苦悩」をしっかりと受け止め、なにかしらのフィードバックを返していきたいと考えている。応募者それぞれも互いに刺激を与え合う場としてもらいたい。それがこのコンペティションの意義だ。藝大アートプラザアートアワードへの参加が将来どのようなかたちで実を結んでいくのか、今後のそれぞれの創作活動を期待とともに見ていきたい。
(稲葉成昭・株式会社小学館文化事業局チーフプロデューサー/小坂眞吾・同取締役文化事業局担当/清水芳郎・同社長室顧問)
入選作を一挙展示・販売する「藝大アートプラザ・アートアワード受賞者展」は【1月25日(土)〜3月18日(火)】開催
2025年1月25日(土)〜3月18日(火)
※展示入れ替え無し定休日:月曜日(祝日の場合は営業、翌火曜日が休業)
営業時間:10:00-18:00
※営業日時が変更になる場合がございます。最新情報は公式Webサイト・SNSをご確認ください入場料:無料
会場:藝大アートプラザ(東京都台東区上野公園12-8 東京藝術大学美術学部構内)
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