2022年誕生!藝大初の漫画サークル「東京藝術卍画會」ってどんなところ?

ライター
木村悦子
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インタビュー

「東京藝術卍画會」。「トウキョウゲイジュツマンガカイ」と読みます。藝大なんだから、すでに類似のサークルや部活がたくさんありそうですが、実は初。それも、2022年度に新設されたばかりと、できたてです。

サークルなんだから部室(のような場所)に画材を持ち込んで楽しくみんなで制作したり、居酒屋で漫画談義をしたりと、キャッキャウフフしているのかと思えば、それどころではありません。

そう、世はコロナ禍。サークルメンバーそれぞれが自分の場所で制作した作品を持ち寄り、第一回目の展示会が開催されました。

日程は8月3~16日の日程で、会場は「松坂屋上野店」の本館7階アートスペース。松坂屋上野店と隣接する「PARCO_ya」(パルコヤ、パルコの新業態)と連絡通路でつながり、老舗デパートとはいえ若い人もたくさん通る好立地です。

会場には、東京藝術卍画會代表と副代表によるあいさつ文が掲示されていました。

「浮世絵がそうだったように、現代の漫画は文化としての階段をのぼりつつあります。我々のサークル名、東京藝術連画會の卍も、かの葛飾北斎が晩年使った「画狂老人卍」から引用させていただいてます。彼のように形に拘らない漫画という文化を長く続けていきたいという願いを込めました」(一部抜粋)。

北村徳郎さんと小此木みなみさんに聞く

展示内容は、作品だけでなく見せ方や演出もすばらしいものでした。

在廊していた北村徳郎さんと小此木(おこのぎ)みなみさんに、出展した作品についての話を聞きました。

「Teppen`s Love」 アクリル絵の具 北村徳郎

「アートという文脈で漫画をどう定義するかをテーマとし、今回の作品では、絵の連続によってストーリーが生まれるということを表現しました。また、新しい漫画を描きたかったので、粘土を3Dスキャンし、それを画像加工・印刷し、その上からペンを入れました。そのように一回立体を挟んで漫画を制作しました」(北村さん)。

「GEMINI(ジェミニ)」 リソグラフ印刷 小此木みなみ

「説明的すぎる表現が得意ではないので、漫画の一部分を切り抜いて、世界観を伝えるみたいな表現をしたいと思いました。フランス映画のようなイメージです。今回は双子座をテーマにして、双子が地上に降りてきたワンシーンを切り取って、リソグラフ印刷によるイラストレーションで表現しました」(小此木さん)。

その場にいなかった部長の岩佐マリア(羊未マリア)さん、副部長の贄(にえ)茉莉さんにもサークル立ち上げエピソードを聞きたく、後日、東京藝術大学をたずねることにしました。

ちなみに、お二人の作品は以下の通り。

右:「静寂の音」 レトロ印刷/左:一色の重ね着 トーンシート ペン 羊未マリア

「おしまいが風物詩になる世界にうまれて」 リソグラフ 贄茉莉

入試バイトでの雑談から漫画サークル誕生

展示会と藝祭が終わった翌9月の某日、美術学部キャンパスにある藝大食樂部(クラブ)という名前の食堂でインタビューを行いました。高速バスの空きトランクを利用する「産地直送あいのり便」で届いた食材を使う、小粋な学食です。地下に、生協に加え画材店が入店するのもさすが藝大。

部長の岩佐マリア(羊未マリア)さん、副部長の贄(にえ)茉莉さん、前述の北村徳郎さんと小此木みなみさんが集まってくれました。全員、デザイン科で、北村さんが大学院1年生で、ほかの3人は学部の4年生です。

最近の授業について聞くと、「感染者数が多い時期、授業はオンラインばかりで、作品の講評もオンラインでした。でも、正直、超ラクでした」「私もめっちゃラクだった」「グループワークのほうが大変」と、うなずき合う。クリエイティブや個性が強い半面、グループワークより個人プレイを好む人が多いようです。

一人黙々とやれるし、孤独に強い人が多めとはいえ、コロナ禍の大学生活ってつらそう。最初に緊急事態宣言が出された2020年4月に入学した今の3年生なんて、コロナ禍に翻弄されっぱなし。きっと横や縦のつながりがほしいですよね。つまり、サークル……?

漫画サークル誕生のきっかけは、現・顧問である編集者としても活動する藤崎圭一郎先生と岩佐さんの雑談でした。

「入試バイトをしていたとき、みんなの集まりから外れて、教授が集まる控え室のような場所にいたんです。そこで漫画の話で盛り上がっていたところ、藤崎先生が通りががりました。そこで、『デザイン科出身の漫画家ってたくさんいるのに、漫画サークルとかないね。作る?』 と言い出したのがきっかけでした」と、岩佐さんは当時を振り返ります。

「じゃあやります!」となり、岩佐さんが代表、贄さんが副代表になったというわけ。教授たちも、「漫画学科があるといい」「ゲーム学科とかあってもいいよな」と話が弾んでいたというし、おおらかで楽しそうな大学だ!

サークルの中身はというと、飲み会をしたり、みんなで集まって映画や漫画の鑑賞会をしたりと、キャッキャウフフもアリ。それと並行して自分のペースで制作を進め、松坂屋上野店での展示を行うなど、活動は本格的。一般的な大学サークルのレベルではないのがすごいところ。

学生なのに漫画やイラストですでに原稿料を得ているメンバーもいて、一人とんでもなく売れてる人もいるとか(詳細は激裏シークレット!)。

東京藝術卍画會を藝大名物の一つに

漫画サークルのメンバー同士とはいえ、漫画の読み方や好きな作品はそれぞれ。一人ひとりに、漫画ライフや好きな作品について聞いてみました。

「とにかく大量に読むスタイルです。好きなものは紙で買いますが、最近はアプリです。LINEマンガ、マンガMee、マンガワン、ヤンジャン!など」(岩佐さん)

「沖縄出身でコンテンツが乏しく、NHK のアニメを見て、プリキュアも見て、周りの子が見なくなっても自分だけずっと見ているみたいなところから発展して、絵を描くのが好きになりました。漫画も描くようになって初めて、あれ漫画家ってめちゃくちゃすごいな! って気づきました」(贄さん)

「田舎の女子高出身で、授業が中断することもたびたびあるような環境で、漫画は『王家の紋章』20巻どーんと並ぶみたいな(笑)。同級生と漫画の貸し借りをすることもあり、さまざまな作品に触れる機会がありました。とはいえ、私はストーリーを考える能力がないので、絵に納得する。そうして、触れたものの要素を取り込んで普段の創作の糧にするみたいな感じですね」(小此木さん)

「最初に好きになったのが、小学校1年生のときに読んだ『ジョジョの奇妙な冒険』で、『かっこいい!』と思いました。手広く読むのではなく、作家派ですね。荒木飛呂彦先生のことをずっと追いかけています。あと、浦沢直樹先生ですね。のちにバンドデシネ展で知って以来、フランスの漫画も好きです。とはいえ、『サラリーマン金太郎』『絶体絶命でんぢゃらすじーさん』『世紀末リーダー伝たけし!』も好きだし、ギャグ漫画も読みますね」(北村さん)

あれっ、そういえば漫画サークル、北村さんだけ男子であとは女子ばかり……?

「彫刻科の男の子が藝祭中に入ってくれました。でもまだ本格的には活動していなくて、飲みメンバーみたいな感じです。本当は、女子でも男子でも誰でも入ってほしい~!」と一同。

第一回目の展示会で存在がじわじわ知られ、藝祭での勧誘も成功し、部員は増えて2022年10月現在約30人。

「部室をもらうためには、3年活動しなければなりません。私たちは卒業してしまいますが、後任の人が精力的に活動を続けてくれて、東京藝術卍画會が藝大名物になるといいなと思います」とのこと。

おすすめ映画や漫画の情報交換をするメンバーたち

知的でみずみずしくてまぶしすぎる天才の卵たち。漫画サークルの未来もメンバーの将来も楽しみです。

■東京藝術卍画會Twitter
https://mobile.twitter.com/geidai_manga

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