横浜キャンパスで新たな才能を発掘!東京藝術大学・映像研究科とは?

ライター
瓦谷登貴子
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インタビュー

東京藝術大学のキャンパスは、上野という印象が強いと思います。ところが実は他の場所にも学び舎はあり、日々学生たちがユニークな作品づくりを行っています。今回は、横浜を拠点に活動している映像研究科を紹介します。キラ星のような精鋭たちを生み出している先生方に、お話を聞きました。

横浜を拠点とする映像研究科

東京藝術大学大学院映像研究科は、平成17(2005)年に初の国立系の映画学校として映画専攻が開設されたのが始まりです。横浜市中区に設けられたキャンパス「馬車道校舎」は、元は富士銀行の建物で、『横浜市認定歴史的建造物』指定の趣のあるものです。その後、翌年にメディア映像専攻が開設され、平成20(2008)年にアニメーション専攻が開設。平成31(2019)年には、メディア映像専攻とアニメーション専攻に入学した学生から、希望者が学べるゲームコースも発足しました。映像研究科は、学部を持たない独立大学院であることも、大きな特徴です。現在、同市内中区に前述の「馬車道校舎」のほか「元町中華街校舎」と「万国橋校舎」があり、それぞれメディア映像専攻とアニメ-ション専攻の拠点となっています。

映像研究科修士課程には、2年間のカリキュラムがあります。1学年につき映画専攻が32名、メディア映像専攻とアニメーション専攻がそれぞれ16名と、狭き門をくぐり抜けた学生が実践的な学びをしているのだとか。一体どのような内容なのでしょう? それぞれの専攻ごとの特徴を担当の先生方から、教えて頂きました。

切磋琢磨しながらチームでつくり上げる映画専攻

「かつては大手の映画会社が撮影所を持っていて、そこが監督や脚本家、技術者を育てる場所だったのです」と、竹中佐織助教。現在はシステムが崩壊してしまい、それぞれが主にフリーランスで活動して、作品ごとに集まる仕組みになっているそう。「監督、脚本、プロデュースや、撮影照明、美術、サウンドデザイン、編集など各領域の志望者が集まって、かつての映画作りのシステムを再構築するのが、建学の目的でした」。フランスの国立映画学校フェミスを参考にしたそうです。

入学すると、主に2つの実習作品と修了時の作品制作が課せられています。座学も受けながらなので、これは大変ではないかとお聞きすると、「以前は、もっと多かったのですよ」と竹中助教。卒業してすぐにプロとして活躍するためには、実際の作品作りは欠かせないようです。学生が自主的にグループを組んで、それぞれの役割で力を合わせて制作するそう。その過程では、時には思いが強くてぶつかることもあるとか。「それも作品を良くするためには、必要だったりします。どちらかのパワーが強くなってしまったりしないように見守ったり。学生たちにより良い映画制作の環境を提供することが、私たちの役目ですね。世の中に出た時に役立つよう、横の繋がりをつくる場にもなって欲しいですね」。毎年修了制作の映画作品は、馬車道校舎のほか、外部映画館で上映されます。

◎脚本家志望の学生が中心となって会話劇を作り、ユーチューブで作品を発表するユニークな授業も。これは脚本家の坂元裕二教授(令和5年3月で退任予定)の発案だそうです。ウェブ上で公開されているので、視聴が可能です。

映画専攻公式ウェブサイト
http://geidai-film.jp/

作品の講評会が熱い!メディア映像専攻

「メディア映像とは、インスタレーションといった空間を用いた映像表現のことでしょうか?」。メディア映像専攻の和田信太郎助教にお聞きすると、「そういった美術館での展示作品もありますね。一方、シングルチャンネルで上映する映像作品もあれば、上演のパフォーマンス作品もあり、3DCGやゲームなど多岐にわたります。都市をリサーチするプロジェクト型の作品もあります」。表現は幅広く、写真家や演出家、キュレーター、メディア理論、工学など、指導者も様々なスペシャリストが集まっているそうです。

大がかりな作品だけでなく、身近なスマホで体験できるアプリを開発したり、VRなど最新の視覚装置を使ったりすることも含まれるのだとか。「メディアを批評的に扱って、同時代を問いなおすのがメディア映像です」。力を入れているのが、年に何度も行われる講評会。「学生が所属する研究室はありますが、教員全員で指導するスタイルを取っています。講評会は作品に対してアドバイスを送るだけではなく、専攻全員が集まって作品や芸術をめぐる議論の場でもあり、昼から始まり、夜遅くまでかかることもよくあります」

◎年に2回「OPEN STUDIO」や「MEDIA PRACTICE」という学生の作品発表会があります。過去には仮想空間を体感できるVRやAR、レクチャーパフォーマンスなど形式は多岐にわたります。学生が主体的に取り組み、自由で表現豊かな作品が見られます。

『Cyber Reincarnation Seminar』宍倉志信(「MEDIA PRACTICE 20-21」出展作品)

アーティスティックな世界が広がるアニメーション専攻

「アニメーション専攻では、学生が1人の作家として、1つの作品をつくるスタイルでやっています」と、面高(おもだか)さやか助教。粘土を使ったクレイアニメーションや、水墨画やパステル画を連想させる作品、登場人物のセリフがなく動きに合わせて音楽と効果音だけで表現する作品など様々です。動く絵画のような印象を受けました。「(アニメーション制作は)コツコツと積み上げていく彫刻作品や絵画作品の制作などに通じるかもしれませんね。社会人経験者や、留学生、入学前はアニメーション以外の分野(立体造形や染色、油画、建築など)を専攻していた学生など様々なバックグラウンドを持つ学生が集まっています。どんな素材でも、動きを与えることでアニメーションになるので、自分の専門分野を生かして、模索、研究を続けていますね」

テレビで見るアニメーションとは別の印象で、作家の心象風景を感じるようなものも。「テレビアニメやジブリ映画など、大勢のスタッフで作る商業作品とは少し違っていて。学生が監督兼、アニメーター兼脚本家みたいな感じになるので、それぞれの思想や、内面が強く反映される傾向があると思います」。過去に在籍した学生の作品を見て入学を決めた、海外からの留学生もいるそう。「国内外の映画祭での作品上映やコンテストの応募には、学校が積極的に取り組んでいます」と面高助教。学生の作品は、数多くの映画祭で入賞・受賞をしていて、取り組みを評価されて国際的な映画祭で学校賞も受賞したそうです。

◎公式ウェブサイトから作品の視聴が可能。また毎年修了制作展を、ホールやシアターで開催します。大きなスクリーンで作品を観劇すると、学生がつくる世界観により浸れそうです。

『While You Sleep』池田 夏乃(青い月の照らす夜、夢を見る。キノコの妖精に手を引かれ、彼らのお祭りへ誘われる)

アニメーション専攻公式ウェブサイト
https://animation.geidai.ac.jp/

アニメーション専攻YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/GEIDAIANIMATION

南カリフォルニア大学と共同でゲーム制作も!グローバルなゲームコース

発足して4年目になるゲームコースは、当初から南カリフォルニア大学(USC)の学生と共同でゲームをつくる授業を続けています。国や言葉が違う学生同士、難しくはないのだろうか? 疑問に思って、ゲームコースの松本祐一特任助教に尋ねてみました。「USC側の参加学生には中国人、インド人、メキシコ人など様々な国からの留学生がいますし、USC側が東京藝大のゲームコースの創造性を高く評価してくれていることもあって、特に日本人だからという壁はなかったですね」。2019年の1回目は学生が現地へ行ってチーム分けや打ち合わせを行い、帰国後は遠隔で相談しながら制作したそうです。

「翌年からはコロナ禍の影響で渡米できなくなりましたが、遠隔でゲーム制作を続けています。今はAIの翻訳もありますし、SNSを使いながらコミュニケーションを取っているようです」。この試みが縁で知り合った現地の学生からの依頼で、ゲームコースの学生が修了制作を手伝ったこともあったそう。共同作品は、毎年5月に南カリフォルニア大学で行われる「USC Game Expo」で発表されます。「よく、この短期間で仕上げたなあと、毎回感心しますね」と松本特任助教。共同制作作品は、ウェブサイト上で公開されているので誰でもプレイできます。コロナ禍が少し落ち着いたので、今年の12月は学生が現地へ行って、ゲーム制作を行うそうです。

◎ウェブサイト上のゲームは、簡単なものや、アート的な作品もあるので、ゲームに触れたことがない人も楽しめそう。ゲームコース展では、リアル展示とオンラインと両方が体験できます。

『中の人たち』曽根 光揮(AR、VR、観客の3つの立場で、互いの情報が断片的に共有された状態を体験するゲーム)

ゲーム専攻公式ウェブサイト
https://games.geidai.ac.jp/

横浜市との多彩なコラボ活動

映像研究科は拠点が横浜市という関係から、市と共同の催しを続けています。令和4(2022)年の夏には、アニメーション専攻の教員・学生・修了生によるイベントを、横浜市役所アトリウムにて開催しました。内容は幻燈機を使ったアニメーション制作のワークショップで、参加した親子連れに好評だったようです。

同年秋には、東京藝術大学・横浜市文化観光局・馬車道商店街協同組合・関内ホールが主催し、地元の馬車道まつりの一環で、本学音楽学部教員指揮の下、学生らによる吹奏楽コンサートを市内関内ホールで実施しました。

催しものだけではなく、医療に関わるユニークな活動もあります。横浜市営地下鉄車内で、緑内障啓発アニメーションを期間限定で放映。これは症状の進行が遅いため、気づきにくい緑内障の早期発見をうながすためのものです。YCU-CDC(横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション デザインセンター)と連携して、「視野が欠けていく様子」を、映像研究科が動画制作しました。横浜市交通局の協力で実現した地下鉄車内ビジョンに、通勤客などは、思わず見入ってしまったことでしょう。

映像研究科の作品展示や、イベントなどの情報は、下記のウェブサイトやSNSで更新しています。是非、実際に出かけて作品に触れてみてください。

東京藝術大学大学院映像研究科公式ウェブサイト
https://fm.geidai.ac.jp/

東京藝術大学大学院映像研究科広報ツイッター
https://twitter.com/shomu_fm_geidai/

東京藝術大学大学院映像研究科広報フェイスブック

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