花と蕾展 出品作家インタビュー 須澤芽生さん

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金箔や岩絵の具など日本画の画材を使いながら、どことなく洋風な作品を描く須澤芽生さん。ホワイトキューブに展示されている4作品は、絹を支持体にしたものです。日本の古い絵画の多くは絹に描かれていますが、現代の日本画には絹に描いたものは少ないです。なぜ須澤さんは絹に挑戦することにしたのでしょうか…。

主に人物を描いてらっしゃるのですか。

日本画を学び始めた時から人物を描きたいと思っていました。自分の気持を作品に表現したいと思ったときに、自分と同じ女性をモデルにすれば自分の気持や思いをこめられるなと思って、女性を描いています。モデルになってもらうのは友人が多いですが、そのまま描くのではなく表情は少し変えて、より自分のイメージに近づけています。

須澤芽生「春の夢」
須澤芽生「春の夢」

「春の夢」の女性は、春の花を手にしてうたた寝しているのでしょうか。

ぼんやりとしたイメージは頭にありますが、こういう設定でこういう表情でこういう内容を伝えたい、とかっちりと絵の意味を決めて描いているわけではありません。絵が硬くなってしまうからかもしれないです。このようなイメージを描きたくなった理由は何かしらあると思うのですが、はっきりと言語化はできません。観る人の想像に委ねる部分もあります。

金色が印象的ですね。

もともと金箔が好きということもありますが、春のイメージだったので華やかな印象にしたいと思って、金箔を使いました。人物以外のところに全面的に金箔を貼り、それだけだと金色が強いので、水で洗って落としたりして、下のマチエールを金箔越しに見せようとしています。

金箔の正方形の形は見えないですね。

普通は「あかし紙」という蝋引きの紙に金箔を添わせて、きっちり四角く並べるのですが、それだと少し硬い印象になるので、今回は金箔をつまんでぱらっと置いてランダムに貼りました。箔がくしゃっとなった様子が残っているところもあります。

スカートの部分は、丁寧にチェックの模様を描いた上に色を塗っていますね。

「春の夢」という題名から、おぼろげで曖昧な空気感をつくりたくて、模様も描きっぱなしではなく、上から大きく絵の具をかける仕事をしました。一方で、花ははっきりと描いています。離れてこの絵を見たときに、花の赤に目が行ってから、ふっと周りが見えてくるようにしたいと思いました。

輪郭線は金で引いているのでしょうか。

絵の具を塗らずに描き残したところもありますし、金線や濃い青い線を引いたところもあります。一本が同じ強さだと深みがないので抑揚をつけたり、いろんな描き方をしています。

画面の角が丸くなっているのも面白いですね。

端まで色が来ると黄色が強すぎるなと思ったことも理由ですが、この子の内面的な世界を表現したかったので、内に籠もるようなイメージにしようとしました。下図の段階から決めきるわけではなく、描きながら臨機応変に考えています。そのほうが絵がのびのびする気がします。

須澤芽生「Bloom」
須澤芽生「Bloom」

ホワイトキューブに展示されている、4点の作品は「第14回 藝大アートプラザ大賞展」に出品していた「Bloom」と似た雰囲気の作品ですね。

はい。「Bloom」に連なる作品です。「Bloom」で初めてこの作風にし、以後少しずつ描いています。

須澤芽生「彩り」
須澤芽生「彩り」

背景が華やかですね。

「花と蕾展」に出すと決まってから描き始めたので、華やかにしています。これらは全部絹に描いています。絹に描いたことはあまりなかったのですが、保存修復日本画の研究室で私が研究対象としている古典絵画は絹本なので、慣れておこうと思って挑戦しました。意外と自分の表現方法にしっくりきて、楽しかったです。

いろいろな色の線が引かれていますね。

たとえば「花咲くとき」のここらへん(右下のピンク色の部分)はピンクの面とピンクの面の隙間をあけて塗り残し、さらに絹の裏から金箔を貼る「裏箔」の技法で、ピンクの隙間から金箔が透けて金色の線に見えるようにしています。絹は薄いので裏から金箔を貼ると透けて見えます。髪の毛の金色も裏から金箔を貼っています。一枚だと薄くてポロポロ落ちてしまうので、髪の毛の部分は何枚も貼り重ねています。光っているけれども表に貼るよりも控えめで、気に入っています。

須澤芽生「花咲くとき」
須澤芽生「花咲くとき」

「Bloom」もそうですが、どことなくアルフォンス・ミュシャの世界観と共通するものを感じました。

ミュシャはすごく好きです。いま自分が生きている世界に近い作品を描きたいと思っているので、素材は日本画の伝統的なものですが、和風ではなく洋風で現代らしくして、自分らしさが出せないかなと思っています。

「彩」と「花咲く」にはかわいい小鳥が描かれていますね。

文鳥です。大学の近くに「ことりカフェ」というインコなどの鳥が見られたり、触れ合えるスペースがあって、そこで文鳥に初めて触りました。その子が、小さくてかわいくて感動したので、いつか描きたいなと思っていて、この機会に描くことにしました。実際触れ合った文鳥は白かったのですが、「彩」は背景を華やかにしたので、鳥は控えめな色にしました。鳥のまわりも裏箔の金色です。この作品は金箔を何枚も重ねているわけではないので、ポロポロととれてきた部分もあるのですが、そのかすれ具合もいいなと思っています。

須澤芽生「彩」
須澤芽生「彩」

須澤芽生「花咲く」
須澤芽生「花咲く」

いつごろから日本画に興味を持ったのですか。

祖母が日本画を好きで、私が小学生の頃、東山魁夷さんの画集をプレゼントしてくれたことがありました。その影響もあり、私も東山魁夷さんの作品が好きになり、その頃から日本画をやってみたいなと思っていました。画集だとわかりませんが、実際に日本画を見ると荒い粒子の絵の具でキラキラしていて、それがきれいだなと思ったことも大きかったです。高校生のときには、大学は美大に進みたいなと思っていて、当時は美術部で油絵を描いていたのですが、先生から「須澤さんの作品は油絵だけど日本画みたいだね」と言われて、そういった出来事が重なり、日本画を受験しようと思いました。

好きだった東山魁夷さんも東京美術学校(東京藝術大学の前身)の出身ですし、藝大を受験しようと思って、予備校に通って浪人もしたのですがなかなか合格できなくて、最後の受験だと決めた年に「絵を描きたくて受験しているのに、大学に合格できなくて絵をやめてしまったら本末顛倒だ」と思って、沖縄県立芸術大学を併願で受けて、そこに受かったので沖縄で日本画を学びました。

インタビューの様子

大学院で保存修復日本画に進んだ理由はありますか?

琉球王朝時代に描かれ戦争で焼失してしまった「御後絵(おごえ/うぐい)」という王様の肖像画を復元するプロジェクトを、藝大の保存修復日本画が請け負っていました。そのことを大学在学中に知って、完成した絵を展示で見たり、いまの研究室の教授の講演会を聞いたりして、この研究室ならば進学しても沖縄で学んだことを繋げられるなと思いました。

保存修復日本画では、屏風そのものをつくるところから、古典絵画を模写し始めると聞いたことがあります。

私の修了制作も伝狩野元信「花鳥図屏風」という作品で屏風でしたので、骨(木枠)に何枚も和紙を貼ったりして体力的にもなかなか大変でした。ただ、「昔はこうやって描いていたんだ」ということがわかりますし、いままでの歴史のなかで日本画がどう変化してきたか、そして自分が今どのような立ち位置にいるのか、ということが考えられるようになるので、大事な経験だったと思います。

保存修復日本画で学んだことで作風の変化はありましたか。

違う研究室に入っていたら、絹本には描いてなかったかもしれません。昔の作品はあまり岩絵の具を盛らないで、絵の具の発色そのものを大事にしています。絹はすーっと絵の具が染み込みやすいので、その良さを活かすためには薄塗りがよいのだと思います。私が絹本に描くときに色を重ねずに複雑にしないことも、そうした影響を受けているかもしれません。

今、大学院の博士課程の2年生ということですが、今後の目標はありますか。

研究はしっかりやりつつ、いまは絹本を始めて面白くなってきたところなので、このまま作品をたくさん描いて、発表して、作家活動も続けていけたらなと思っています。

●須澤芽生プロフィール

1988 年  長野県生まれ
2016 第27回沖縄県立芸術大学卒業・修了作品展(沖縄県立博物館美術館/沖縄県)
沖縄県立博物館美術館館長賞
沖縄県立芸術大学買い上げ
2018 第73回春の院展(日本橋三越店/東京)
榧の会(ギャラリーしあん/東京)
2019 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程文化財保存学専攻保存修復日本画 修了
同大学大学院美術研究科博士後期課程文化財保存学専攻保存修復日本画 入学
第28回奨学生美術展(佐藤美術館/東京)
再興第104回院展(東京都美術館/東京)

Instagram @meisuzawa


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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