すべての金工作品は音とともに生まれ、音を内包している
今回の企画展「音でつくる・音をつくる・かたちをつくる」は「音」をテーマに、東京藝術大学の金工(彫金、鍛金、鋳金)の教員・卒業生・学生の有志による作品を展示しています。
作品の色や形を鑑賞しているだけでは気が付きにくいのですが、じつは金工と音には密接な関係があります。作品を形作るために固い金属を叩いたり、熱したり、曲げたり、削ったりする際に、各工程でさまざまな音を発します。また完成した作品を撥(バチ)や棒などで打った時に鳴る音は、ひとつひとつ違います。すべての作品が、異なる音とともに生まれ、異なる音を持っていると言っていいでしょう。
■響き合う「音」と「かたち」
「僕たちは五感をフルに使って作品をつくっています。作品を見ると、かたちや色など視覚で感じることが多いと思いますが、作品には表面に現われていないだけで、聴覚や触覚などでも感じられる要素はいっぱいあります。固そうな鉄から柔らかい音が鳴る、そういった発見もあるかもしれません」「(本展のプロデュースを担当した東京藝大 工芸科鋳金准教授・谷岡靖則先生)。
金属が奏でる音とかたちを自分の中で結び付けてみると、金工の世界に豊かで新しい発見があるかもしれません。
前田宏智×小泉製作所「Cheers ♩‿♩(乾杯用カップ)」26,400円 特殊合金、銀メッキ
「乾杯!」とグラスを触れ合わせた時に鳴る軽やかな音、いいものですね。ずらりと並んだ銀色のカップは、そんな楽しいパーティの始まりを待ちわびているようです。このカップを乾杯のように軽く触れ合わせた時の音の響きの美しさ、ぜひお確かめください。
内堀豪「vessel1」「vessel2」各275,000円 銅、金属箔、栗材に拭き漆、錫粉蒔き。「銅の鐸」(22,000円)銅、真鍮、ステンレスワイヤー
vesselとは液体を入れる空の容器のこと。中に入るもので叩いた時の音色が変わるのは、よく考えると示唆的で面白いですよね。
中央にある鐸(たく)とは銅または青銅製の上部の柄 (え) を持って振り鳴らす大型の鈴のこと。古代中国で教令を伝えるときに用いられたといわれています。
横に揺らすと音が出る仕掛けになっている、平島鉄也「YURAYURA‐メンダコ‐」308,000円 ブロンズ、真鍮、黒御影石、緑青
叩くための撥(ばち)が付いているジェームス 花蓮「cluster.1」「cluster.2」「cluster.3」各99,000円、高錫青銅、真鍮、蝋真土鋳造法
奥のホワイトキューブでは、実際の作品の制作過程を眺めながら音を聴くことができる動画も視聴できます。
■そっと揺らしたくなる、かわいらしいベルも多数
音が鳴る金属、というとすぐに連想するのが「ベル」。というわけでベルも多かったのですが、なぜかかわいらしい野生動物をモチーフにしたものが多かったのです。
三三鋳金工房「卓上ベル/とりのベル」33,000円 真鍮、蝋型鋳造
三三鋳金工房「小さなベル/ひょう」、「小さなベル/うま」、「小さなベル/うさぎ」各4,950円、ピューター
三三鋳金工房「小鐘 山と月夜」44,000円 青銅(響銅)、木材、蝋型鋳造
ベルだけでなく、全体的に動物、しかも野生動物を題材にした作品が多いことも本展の特徴のひとつ。金属から生まれた作品とは思えないほど力強い生命感にあふれていて、息使いや鼓動、地面を蹴る足音までが聞こえてきそうです。
いもの道具みちくさ「ゆれしか」23,100円 鋳造、蝋型、ブロンズ
左から、柴田早穂「黒いオオカミ」33,000円 真鍮/石膏鋳造、「手入れされた木」24,200円 真鍮/石膏鋳造、「神様になったオオカミ」38,500円 真鍮/石膏鋳造、「かけるウサギ」88,000円 真鍮、シルバー、石膏鋳造
村中保彦「キリンの工事現場」154,000円 ステンレス鋳物、ステンレス板材等溶接、一部ラッカー塗装
平島鉄也「Miniオブジェ黒猫」7,480円 真鍮、古び
■作品の“音”を聴いてみませんか
本展では、手で触れてそっと叩いたり揺らしたりすることで、作品の“音”を鳴らすことができる作品も多く展示されています。ぜひあなたも、金工作品を“音”とともに鑑賞してみてください。
※作品に触れる時は、必ずギャラリースタッフにお声かけください。
音でつくる・音をつくる・かたちをつくる
2019年11月20日 (水) ~12月8日 (日)
取材・文/桑原恵美子 撮影/ANZ 福永仲秋
※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。