店長に直撃!『小さな「絵画」展』見どころインタビュー

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藝大アートプラザ
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60名以上の作家が参加している『小さな「絵画」展』。作品数も多く、何をどこから見ていいかよくわからない方も多いのではないでしょうか? 藝大アートプラザの伊藤店長に、今回の展示の企画意図や、展示の見どろこを伺いました。

小さな「絵画」展の企画はどのようなきっかけで生まれたのでしょうか?

これまでいろいろなテーマ展を開催するなかで、絵をお求めになりたい方が多くいらっしゃることがわかっていました。また、アートプラザのお客様には、カフェだと思って入ってみたら作品があって、たまたま見た作品に心を打たれて、「私なんかが買ってよいのかしら」と言いながら、初めて作品をお求めになられることが珍しくありません。ですので、ふらっと入った方が購入しやすい状況をつくりたくて、はじめは「サムホール」展はどうですか?と提案していました。

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『小さな「絵画」展』展示風景

サムホールとは何ですか?

0号の次に大きい、227mm×158mmの絵画のサイズのことです。これぐらいの大きさですと家のちょっとした壁にも掛けやすいですよね。ただ、サムホールは比率の関係でちょっと描きづらいこともあり、多少の大きさのバリエーションはあったほうがいいということで、3号(273×273mm)以下の壁設置をできる作品で展覧会を開催することになりました。工芸や彫刻の方も参加していますし、絵画から派生したその先にある展開の作品もあって、バリエーション豊かなところがいいなと思っています。

では、いくつか作品を見ていきましょう。

今回の展示は、デザイン科の猪飼俊介先生と展示レイアウトを組んでいきました。ホワイトキューブ(入口左奥のガラスで区切られた部屋)の床を養生して、集まった作品を全部並べて、そのなかから入口の正面の作品を最初に決めました。それで選んだのが、齊藤理紗さんの作品です。油絵ですので、素材で絵画の王道をおさえつつも、厚みのないものがあったり、絵画の枠組みのなかで若い人なりの軽やかな表現になっている点が良いなと思いました。

一番、面白かったのが「れいわ探し」という作品です。令和元年の初日の出を見ようと山に行って待機していたのですが、曇っていて太陽が出てこなかったという作品です。このタイミングだからこそ描いたことが、よくわかります。

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齊藤理紗「れいわ探し」

ダイナミックに描いているようで、人物の目や腕のポーズなどもきちんと描いてありますね。画面下1/4ぐらいの部分は色を塗っていないでしょうか?

普通のキャンバスではないですね。もしかしたら青い綿布を貼っているのかもしれません。画面中央の抜けもよいです。どこかから持ってきたテーマではなく、日常を生きていくなかで見たことを絵画にしているので、描いたものと作家との距離が親密なことが感じられます。個人的なストーリーが絵画にされることで、人と共有されるものに昇華する。そのような絵画の機能が面白いなと思いました。

こちらの壁は動物をあつめたのでしょうか?

そうですね。だいたいのカテゴリーに分けて展示しています。今の日本人のとらえる動物観が見えてきて面白いですね。どちらかというと、家畜としてよりもペットとしてとらえられていますね。

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岩澤慶典さん、筧由佳里さん、川本悠肖子さん、田村幸帆さん、山下健一郎さんの作品が並ぶ。

田村幸帆さんの「かたむく」も目を引きます。天地が不思議です。

日本画の学生さんですが、いわゆる「日本画」ではなく、学生ならではの自由な発想が面白いですね。あと、既に購入されていますが、岩澤慶典さんの「スナギツネパフェ」も良かったです。

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田村幸帆「かたむく」

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岩澤慶典「スナギツネパフェ」

岩澤さんのほかの作品も食べ物と動物を一緒に描いたものですし、世界観がはっきりしていますね。

キャリアのある方は、テーマがはっきりしていますね。余談ですが「スナギツネパフェ」を買われた方は、お孫さんの部屋に何も言わずにこの絵を掛けて反応を見てみたいとお話されていました。ちょっと楽しいですね。

こちらの壁は、油絵の物質性が際立っている作品を集めています。小津航さんは、OJUN先生の研究室の助手さんです。まだ絵が乾いていない状態で持ってきてくださったぐらい、描きたてほやほやの作品です。

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小澤幸歩さん、小津航さん、金玄錫さんの作品が並ぶ。

写真では伝わりにくいかもしれませんが、絵の具が光っていたり、マットだったり、荒々しかったり、大人しかったり、マチエールが違って面白いですね。

「風景・台風」もすごいですね。キャンバスから絵の具がはみ出ています。油絵の具自体の色の面白さが強烈に出ています。

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小津航「風景・台風」

こちらの壁は、後藤夢乃さんお一人の作品ですね。思ったより薄塗りですね。「どこかの国で待っているあの子に贈る絵」は、板の木目が見えています。

そうですね。板に特殊な地塗りをしてオリジナルの下地をつくって、布や紙を張らずに、板にダイレクトに描いています。絵画って、見えているのは表面ですが、地塗りをして色を重ねて層をつくっていきますので、断面でみれば物質です。製品化されているキャンバスありきではなく、自分の表現にあった支持体を選んで、地塗りから取り組んで、物質としての絵画をつくっていく作家も多いですね。

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後藤夢乃さんの作品が並ぶ。

こちらのカラフルな壁は、眼差しの親しみやすさと、どこかユニークさをはらんだものを集めています。

太田剛気さんの「藤山勘吉」がとっても目立っています。

架空の人物の肖像なんだそうです。見る人によっては昔の政治家にようにも見えますね。(補記:太田さんは、架空の国家「皇州」をつくり、歴史資料を綿密に作り込みながら、その国家の政治家の肖像を描いている)。太田さんは版画の方ですので、この作品も板にシルクスクリーンで刷っています。層のある絵の具とは違い、インクがぴたっと板にくっついているがゆえの強さがあります。

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太田剛気「藤山勘吉」

いわゆる絵画ではないですが、菅原萌さんの「残ったもの」は額と雰囲気が合っていて素敵ですね。

ミニマルな表現も面白いですね。菅原さんも版画の方です。カラーテープから、デザインカッターで小さな丸を一つずつ切り抜いて、その「残ったもの」が、この作品です。切り抜いたパーツも別の作品で使っているそうです。カッターでくり抜くというアクションで作品として立ち上がってくるのが面白いです。

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菅原萌「残ったもの」

鈴木初音さんの「雨上がりの夜」は他の作品と質感が違いますね。

鈴木さんは壁画専攻の方ですので、「グラッフィート」という壁画の技法を使っています。グラッフィートがどんなものか、私も詳しくはわかりませんが、下に色を仕込んで削っているようですね。絵の具を重ねていくのとは違う表現です(補記:グラッフィートは、色を塗った上に別の色を塗り、上の層を掻き落として下の層の色を見せる技法)。

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鈴木初音「雨上がりの夜」

ひときわ異彩を放っているのが、岩崎広大さんの作品です。本物の虫ですか?

はい。自分で虫を採取して標本にするところからつくっています。その標本に、その虫が生息していた風景の写真をUVプリントして、捕獲した場所がわかるように、作品名に緯度と経度を示しています。UVプリントは立体にもプリントできる技法なのですが、この蝉の厚みはクリアできないため、羽だけはずしてプリントして元に戻しているそうです。この作品(「かつて風景の一部だったものに、風景をプリントする。-Pomponia imperatoria (4°30’21.7″N101°23’21.0″E)WGS84-」)は、マレーシアで採った世界最大の蝉です。マレーシアへの渡航費用が入っているので、少しお値段が高いんです。他の2つは日本国内で採取したと伺いました。

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岩崎広大「かつて風景の一部だったものに、風景をプリントする。-Pomponia imperatoria (4°30’21.7″N101°23’21.0″E)WGS84-」

たしかに民家のような建物が写っていますね。

作品の搬入のときは、タッパーに虫が入った状態で納品されて、その場でタッパーから虫を出して標本箱にピンを刺してくれました。標本になると、普通、虫はただの物体になってしまいますが、生息された場所の風景を一部にプリントすることで、その虫の生きていた記録や記憶が一つにまとめられています。

中村研一さんの「よごれ/ほとけ」「よごれ/花火」「よごれ/盆踊り」は、アートプラザでは珍しい写真の作品ですね。

中村さんは油画の助手さんです。日常生活で見かけた何気ないよごれが、仏さまや花火、盆踊りに見えた、という作品ですね。写真は制作者の眼差しがダイレクトに反映されるので、面白いメディアですね。

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中村研一「よごれ/ほとけ」

こちら(吉野はるか「光の帆」)も少し変わっていますね。地塗りしていない板にイメージだけが浮遊しているのが面白いです。

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吉野はるか「光の帆」

筆で絵の具を塗っているようには見えないですね。

繊維質のものを圧着している、あるいは、顔料を蒔いているのでしょうか。色がとても鮮やかです。

春田紗良さんの作品は、とても小さくて、私のお気に入りでもありました。

お客様の反応も良くて、あっというまに購入いただきました。サイズの規定は3号以下だったのですが、このサイズの作品が出てくるのは予想外でした。若い人ほど考え方が自由です。

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春田紗良「春合」「La rose」「Amy」「Les roses」

豆本を集めたくなる気持ちと近い気がします。

手のひらサイズであることが、コレクションしたくなる気持ちを刺激するのだと思います。ですが、ただ小さいだけではなく、絵画がしっかりとしたイメージを持っています。1940年代から50年代にかけて、抽象表現主義によって絵画が大きさを取り戻したときは、大きな作品の前に立つときの身体感覚を含めて絵画を鑑賞するようになりましたが、逆にここまで小さくなると、別の意味で観る側の身体感覚が問われてきますね。

教員の作品も出品されているのでしょうか。

OJUN先生と、三井田盛一郎先生の作品があります。三井田先生の作品は「Tea party」や「Alice」という言葉がみえますので、不思議の国のアリスをテーマにしているようですね。

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三井田盛一郎「The Tea Party」

木の年輪のある面に版を彫った版画でしょうか?

そうですね、木口木版です。絵画は、色の仕事か線の仕事かで大きく2つに分かれますが、木口木版は木が硬いので、線の仕事が強調されます。銅版画に近いぐらいのテンションです。

福田周平さんの作品は、時間の経過で色が育っていきます。銀箔の上に硫黄をかけ、銀が酸化して色が変わっていきます。心なしか展示し始めてから色が濃くなった気がします。硫黄をかけたときに偶然できあがるムラで画面に変化ができていて、描くというよりは、物質そのもので絵画が成立している、といったらよいでしょうか。

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福田周平「Untitled 001」「Untitled 002」

内田麗奈「drawer」は、カーテンに絵を描いているのでしょうか?

内田さんは、今年の卒展の絵画棟で巨大な黒いビロードに襞をつくって壁に貼って、そこに室内の風景を描いていた方です。今回出品している「drawer」ははそのミニチュア版で、引き出しを描いています。最初はビロードのカーテンが目に入るのですが、じっと見ていると、だんだんとイメージが奥から浮かんできます。

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内田麗奈「drawer」

和田宙土さんの作品はとっても色が鮮やかですね。

今年、日本画の大学院を修了したばかりの、アートプラザには初出品の方です。日本画は、油絵とは違って表面がメディウム(顔料をむらなく分散、付着させるための媒体となる液状成分)で覆われていないため、顔料の色の強さや物質性がストレートに伝わってきます。変形した木片に描いてあるので、ころっとした石のようにも見えます。また、具体的に描かれているので一見わかるようなのだけれども、とらえどころがなくて、よくわからない。そのもどかしさも、答えのない謎掛けみたいで良いです。

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和田宙土「Sea of love」

油画や日本画研究室の協力もあって、今回の展示に参加した作家の半分近くが、初めてアートプラザに出品する方になりました。学生さんや卒業したての方も多く、いままでの絵画のかたちだけにとらわれない、みずみずしい作品が多いのが特徴です。アートプラザに足を運んだことがある方も、そうではない方も、新鮮にご覧になれると思いますので、ぜひお越しいただければと思います。


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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