アートプラザ受賞者招待展 出品作家インタビュー その2 前田恭兵さん

ライター
藝大アートプラザ
関連タグ
インタビュー

金属の素地にガラスの釉薬を焼き付けて装飾する七宝焼。前田さんのつくる風景や動物をモチーフにした繊細な作品は、七宝でありながら絵画的です。技法の開発にも挑戦し、既成概念にとらわれない新しい七宝を生み出しています。出品作品について、なぜ七宝という表現方法を選んだのかなど、さまざまなお話を伺いました。

――こちらの「reflection」は、奥行き感がよく表現されていますね。

これは銅ホーローという、銅板に白いガラス釉薬を焼き付け、その上から様々な色の釉薬をのせて焼き付けて、絵のように見せています。僕は、一般的な七宝よりも焼成回数が多く、だいたい十数回、焼きます。そうやって増やした厚さ2mmくらいの層のなかに、奥行きをつくっています。

たとえば、奥にある木は最初に描いて、手前にくる木は7、8回載せた途中から描いています。最初に描いた木の上には、無色透明のガラスを重ねて行くのですが、そうすると、無色透明なガラスから出る気泡によって、木の色が淡くなり、結果的に、遠くにあるように見えてきます。

3V9A1234f.jpg
前田恭兵「reflection」

3V9A1229f.jpg
前田恭兵「reflection」

――どうして、七宝による風景画をつくるようになったのでしょうか。

もともと絵を描くのが好きだったのですが、学生のときは工芸科の彫金専攻を選び、金属を使って立体やジュエリーをつくったり、金属を彫って平面作品をつくったりしていました。一方で、プライベートでコンペに出すときは、絵を描いており、自分のなかで葛藤がありました。

大学4年のときに課題で七宝に出会い、七宝ならば工芸でも絵が描けることがわかり、今まで自分のなかでもやもやしていたものが晴れました。モチーフは風景でなければいけないわけではないのですが、七宝の持つ奥行きの面白さを表現するのにうってつけのモチーフの一つです。手を動かして作品をつくり始めていると、自然と風景が多くなっていきますね。ドローイングに近い感覚ですね。

――「float」はどのような作品でしょうか。

こちらの鳥の作品は、打ち出しという彫金の技法で、銅板を叩いて起伏をつくった上に色ガラスを載せています。ですので、立体感が少しありますけど、基本的に載っているガラスの厚みは均等なんです。鳥の羽根の細い線は、リューターと呼ぶ歯医者さんが歯を削る時に用いるものと同じ機械で、焼いた後に”チュインチュイン”って、削るんです。だから、削った部分には艶がなくなり、触ればざらざらしています。

3V9A1248.jpg前田恭兵「float」

――それは、オリジナルの技法なのですか。

そうですね。七宝は、焼いて仕上げるか、研いで仕上げるのがオーソドックスな仕上げかたです。ただ、僕は、ボールペンでドローイングをするような、線で見せる表情が好きなので、ガラス自体に線を引くとなると、削るのもありなのかなと思って、焼いた後に一手間かけています。

――ガラスの間に作品を挟む飾り方も面白いですね。

額も市販で良いものがなかったので、自作しています。「float」のシリーズはその名の通り、「浮く」ことを意味しています。鳥が飛んでいる瞬間をフレーミングしたい、(魚の作品もあるのですが)魚のきれいだなと思う向きをフレームに留めておきたいと考えた時に、どうしても背景が邪魔に思えました。そのためこのような飾り方になっています。標本を作るのに近い感覚かもしれません。

――苦労したことはありますか。

あえて言うなら鳥の目でしょうか。焼いているうちにガラスに引っ張られて位置が動いたりするので、ガラスの分量や焼き加減を調整しなければなりません。目の位置がずれるとかなり印象が変わってしまいますね。

――どのような経緯で藝大に入ったのですか。

最初から、彫金に入りたいというのは決めていました。そんなに深い理由はなく、とにかく手を動かすことが好きだったから、工芸科に入ろう、ぐらいです。じつは、祖父が釣り針職人で、父親も釣り関係のメーカーに務めていたので、魚釣りが身近で、昔から、祖父のところで浮きを削ったり、魚釣りの道具をつくっていました。僕のなかでは、エサを変えたり、ウキ下を変えたりしながら、自ら狙っていく釣りと、目に見えない完成作のために、あれこれ試行錯誤していく作品制作は似ています。だんだんと、手を動かすことを将来の仕事につなげたいと思うようになり、藝大を受験しました。

3V9A1328.jpg

――今後の展望を教えてください。

七宝は教科書に載っている技法がある程度確立されていますが、やっている人口が少ない分、おもしろいチャレンジをする余地があります。僕は研究しはじめてから、まだ10年もたっていないのですけれども、それでも今までにない表現をいくつか見つけることができました。オーソドックスな技術は磨きつつ、新しい技法による新しい七宝を創っていきたいですね。

●前田恭兵プロフィール

1984年  兵庫県西脇市生まれ
2010年  東京藝術大学大学院美術研究科修士課程彫金専攻修了
2018年現在  東京藝術大学共通工房金属表面処理室 非常勤講師
        公益社団法人日本七宝作家協会 理事

近年の主な活動
2018年  東京藝術大学五大陸アーツサミット記念品制作を担当
個展「biotope」 GALLERY HANA下北沢(東京)
「RESONANCE MATERIALS project 素材の乗算」FuoriSalone2018,OPIFICIO31 (ミラノ)
「粋SUI展」そごう横浜展美術画廊(神奈川)

取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

おすすめの記事