人物や動物をモチーフにした木彫をつくっている東條明子さん。彫刻といえば、大きくてゴツいイメージがありますが、東條さんのやわらかい色で彩色された小ぶりの作品は、思わず家に持ち帰って愛玩したい気持ちにさせられるものばかり。そんな作品をつくる東條さんにお話を伺いました。
――技法について教えてください。
木彫に彩色をしています。彩色は下地材を塗って水彩(絵の具)と色鉛筆を使っています。洋服は着物の文様や柄を参考にして描き、顔や手などの人の肌は木の色を生かして塗らないようにしています。光るところは、金などを塗って、目のキラキラとしたところはマニキュアを塗っています。
――素材は何を使っていますか。
ヒノキです。学生のときは大きな作品を作るので、クスノキを使っていました。ただ、卒業してからは大きい作品は家ではなかなか作れないので…。その点ヒノキだと扱いやすいです。ヒノキは白っぽくて木目がきれいなので、人体を作るのに適しています。ある程度、細かく彫ることができますし、あと、香りも良いです。
――ヒノキは柔らかいのでしょうか。
はい。柔らかいです。ただ木にも個性があって硬いのと、柔らかいものがあります。今回の作品に使った木にも、硬いもの、柔らかいもの、どちらもありました。彫ってみないとわからないところがあります。
――こちらの「珠」の女性のスカートに座っているのは犬ですか。
狐です。玉があるほうが花火の「たまや」という掛け声で、こっち(「鍵」)は狐が鍵をくわえていて、「かぎや」という掛け声を表していています。花火の一瞬咲き誇って、また散っていくかなさを人と重ね合わせています。服の柄も花火っぽくしているんです。
稲荷神社は火を扱う職業の人から(防災の神様として)信仰を集めてきました。そこに祀られている狐は鍵と玉と、稲穂と巻物の4つをくわえています。その玉と鍵と狐をそのままもってきて作品にしました。
――作家になろうと思ったのにはきっかけはあるのですか。
昔すぎてはっきり覚えていないのですが、本音でいうと、それしか取り柄がなかったんです。子供の頃から、絵を描くことが自分の根底にあって、高2くらいから美術予備校に通いだしました。そこで、作家という道があることを知って、それから作家としての将来を考えるようになりました。彫刻を選んだのは、もともと立体が好きで、つくっている時の感触が自分には合っていたのかなと思います。また、いろいろな彫刻家の作品を見た時に彫刻のもつ力というか、ものとして存在することの凄さに衝撃を受けました。
――木彫を選んだのはなぜですか。
人体とか動物とかに興味があって、それを表現するには木がよいと思いました。彫っていく時の感触が好きで素材としての扱い易さもあると思います。また、箱に入れて固定するとか、色をつけるといった加工をやる際には、木がやりやすいかなと思いました。
――学生時代から人物の彫刻を作り続けているのですか。
そうですね。大学院の修了作品では人物彫刻をいくつか組み合わせて、人物が重なり合ってできる空間を見せる作品を作りました。自分の日常で起きている、女性特有、というより人と言い換えてもよいのですけれども、その感情の動きや揺れ、いろいろな感じたことを、動物や女性など具体的な形に込めて制作しています。
とくにこれ(「てふてふ―華―」「てふてふ―蝶々―」)は、標本箱のシリーズで、チョウチョウなど、美しいものの一瞬を切り取って保存してしまう標本箱の感じを、人間に置き換えてみて、人間の美しいところを保存してしまう標本箱にしてみました。女性が背中合わせになっている作品は、まさにチョウチョウをイメージしていますね。ちなみに、箱は、ドイツ製の標本箱として売られているもので、気密性も高いそうです。
――どの女性も似ているようですが、同じ人物を彫っているのですか。
モデルはいないです。自分のなかにある女性、というか人の形ですね。ただ、女の子ではなくて、大人の女性でもない、その中間ぐらいの大人になりきれないぐらいの人を作ろうとしています。その精神を表わそうとしています。ポーズは自分でとったりして参考にすることはありますが、顔はほぼ想像で作っているので似てしまうのかもしれません。とくに顔と手は私の作品の中で大切にしているところです。
●東條明子プロフィール
1984年 東京生まれ
2009年 東京藝術大学美術学部彫刻科卒業
おもな展覧会
2009年 With My Eyes Closed(NY)
2011年 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻修了
2012年 夏の芸術祭 2012 (日本橋三越・東京)
2014年 木の系譜 -進化する奔流-(高島屋)
2015年 Artistic Christmas (新宿高島屋・東京)
2016年 女子感(新宿高島屋・東京)
2017年 小さなアートの専門展(新宿高島屋・東京)
2018年 木彫三昧(高島屋)
取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)
※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。