COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

常設展 出品作家インタビュー 伊藤日向子さん(修士課程 工芸専攻鋳金1年生)

2019/08/23 インタビュー

現在、藝大アートプラザの店内には、伊藤日向子さんの風鈴による涼やかな音が響いています。鋳物の風鈴といえば、お寺の鐘や灯籠の形など渋いものが多いなかで、伊藤さんの風鈴はカラフルな花の形のポップなもの。そのような作品を生み出す発想には、彼女が育ってきた環境が関係していました。

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風鈴をつくろうとしたきっかけを教えてください。

この風鈴は卒業制作でつくったもののバージョン違いです。卒業制作では、全部で120個ほどの風鈴をつくって、屋外に吊るして展示しました。風鈴をつくろうと思ったのは、五感をつかって感じられる作品をつくりたかったからです。父親が彫刻家だったこともあり、幼少期から硬いものや重いものなど、いろんな素材が身近にあって、私はそれらを触ったり感じたりする経験をたくさんできました。その影響もあり、いまも日常生活のなかで、道を歩きながら些細なものでも触ったり、よく観察したりして面白さを発見して、そのようなことを作品作りに役立てています。ただ、現代社会では、子どもの頃から親に「これを触っちゃだめ」と言われることも多く、身の回りのものにアンテナを張って、感じることがおろそかになってきていると思います。そのようなことから、五感を使う作品をつくろうとした時に、見た目の面白さだけでなく、風に揺られる動きや、音を聞いて楽しむこともできるので、風鈴をつくれないかと思いました。

伊藤日向子「Hanayadori」

なぜ花をモチーフに選んだのですか?

すずらんなどの花を見ていた時に、この花が風に揺れて音が鳴ったら面白いなと思いました。しかも、鋳物の風鈴は全国的に有名なものがたくさんあるのですが、意外と花の形のものは多くありません。ユリやチューリップなど、花から思いついた形もあるのですが、芍薬の花のつぼみの形もあります。卒業制作のものは、実用ではなく展示するためのものだったので、大きかったのですが、それだと鐘のようになってしまうので、家庭用に小さくつくりなおしました。

伊藤日向子「Hanayadori」
伊藤日向子「Hanayadori」

音を鳴らすのは難しいのでしょうか?

以前、友達がお椀型の作品を仕上げるために叩いているのを見ていたときに、いい音が鳴っていました。なので、お椀状ならなにかしらの音がするのではないかと思っていたのですが、正直、最初につくったとき、音が鳴るか否かは賭けでした。どの金属だと良い音がするのかもわからなかったので、真鍮、錫の入った銅合金の砂張(さはり)、ブロンズ、の3種類の金属で試してみました。こちらで販売しているものは、音や値段、着色方法の関係でブロンズにしました。

伊藤日向子「Hanayadori」
伊藤日向子「Hanayadori」

色はどのようにしてつけているのですか?

青と黒は、昔からある鋳金の着色方法です。青はアンモニア水を蒸着(金属や酸化物の蒸気で化学変化を起こす着色法)して、黒は酸化させるようにして色を変化させています。赤と白と黄色は、ブロンズの上から彩色しています。

花の形はどのようにつくるのですか?

まず、粘土で花の形をつくって、それをシリコンで型取りします。そのシリコン型にワックス(蝋)を流して、ワックスでできたお椀状の花を増やしていきます。さらに、それぞれ花に金属を流すための湯道をつけて、石膏で埋めて、窯で焼き、蝋を溶かして、金属を入れられる空間をつくります。そのようにしてできた石膏型に金属を流し、できたものを仕上げて、鋳物の花ができます。雌しべ、雄しべの形にした舌(ぜつ/鐘に当てて音を鳴らす部分)は、細かいため金属を均一に流すのが難しく、精密鋳造という特別な方法を用いています。

伊藤日向子「Hanayadori」
伊藤日向子「Hanayadori」

植物の茎のような、緑色のフックもかわいいですね。

日常使いしやすいように植物の雰囲気を取り入れたS字にしています。鋳造ではなく棒材を曲げて叩いてつくりました。短冊も手製です。

なぜ藝大を受験して、工芸科の鋳金を選んだのですか?

私の父の影響が大きいです。父は藝大の鍛金の卒業生で、実家の石材店を継ぎながら、作家として作品も作っています。私は生まれたときから作家として活動する父の姿を見ていましたし、素材を触るのも、ものをつくることも好きだったので、当然のように、私も将来作品をつくるのだろうと思っていました。進学については、父から大学の面白い話をいつも聞かされていたので、物心ついたころから「私も藝大に行くぞ!」と思っていました。

専攻は大学に入ってから決めました。入学当時は、鋳造がどんなものかも知りませんでした。今の学生は違いますが私達の学年は、2年生の春から夏休みにかけて、工芸科6専攻のなかから3つをまわって体験する、通称「ドサ回り」というものがありました。私は染織と陶芸と鋳金を選んだのですが、鋳金は、小さな指輪から、大きな大仏まで、つくろうと思えばなんだってできるよと言われて興味を持ちました。作品をつくったときの手応えやリズム、できている感じも私と合っていました。鋳金は時間かけて原型をつくって、型をとって、ワックスを流してと、一回一回の手順を着実に踏んで進んでいける安心感があります。唯一、吹き(金属を流し込む工程)は、スピーディーで難しかったのですが、やっていくうちに慣れて、楽しい作業の一つになりました。

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現在は大学院の1年生ですが、将来はどうしていきたいと考えていますか?

自分の手掛けたものを誰かが使って、喜んでもらえるのが一番嬉しいです。いままでも作品を売ったことがあるのですが、それを買ってくださった方から、使ってみて良かったとか感想を聞くと、とても嬉しい気持ちになります。なにかを作って、それに対する反応が返ってくる。そのようなサイクルをずっと続けていきたいです。実家が石屋なので、家業と自分の仕事を組み合わせて、なにかおもしろいことをするのも良いですね。

また、私の地元は松本市です。松本にはクラフトフェアがあり、工芸が盛んで、それによって私の感性が培われましたし、まわりの作家さんにも影響を受けました。ですので、地元にもなにかしらの恩返をしたいです。

●伊藤 日向子プロフィール

2019 年  東京藝術大学美術学部工芸科 卒業
現在 同大学大学院美術研究科修士課工芸専攻 鋳金 在籍

【受賞歴】

2017 年  内藤春治賞 受賞


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。