藝大×子ども展vol.1 森の宝物をさがしに 出品作家インタビュー 坂崎千春さん

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絵本作家、イラストレーターであり、JR東日本の「Suicaのペンギン」、千葉県のマスコット「チーバくん」などのキャラクターデザインでも大活躍中の坂崎千春さん。じつは、坂崎さんは藝大の卒業制作でもペンギンをモチーフにしたほどの、根っからのペンギン好き。本展にもペンギンの絵画を出品してくださっています。そんな坂崎さんに、出品作についてのお話や学生へのメッセージなどを伺いました。

販売する絵画はどのくらいの頻度で描くのですか?

1年に1回くらい、展覧会に参加するときに販売する絵を描いています。デパートの伊勢丹さんで開催する個展「ペンギン百態」や、グループ展の「ペンギンパレード」などペンギンに関連した作品が多いですね。

ペンギンの一番の魅力は?

子供のときからフォルムに惹かれていて、気づいたら好きになっていました。なので、好きになった明確な理由はないかもしれません。

今回の出品作に描かれたペンギンの種類は?

「森のペンギン」以外は、アデリーペンギンを描いています。アデリーペンギンは南極に近い寒いところに住んでいるペンギンです。くちばしも黒くて、黒と白だけのシンプルな形が好きです。とくに白黒をテーマにしようとしているわけではないのですが、シンプルにぱきっと描くと自分の絵の良さが出るかなと思っていて、ペンギン以外にもパンダとか白黒の動物をよく描いています。

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坂崎千春「きのこの森」

今回の出品作のような、いろんな色を使う作品は珍しいのですか?

そうですね。今回の展覧会のテーマが子どもと森だったので、シックな色よりカラフルにした方が楽しいと思いました。また、普段はペンギンの絵ばかり描いていますが、今回の展覧会は、きのこが重要なキーワードなので、きのこも描いてみました。

「森のペンギン」は、なんという種類のペンギンですか?

フィヨルドランドペンギンです。ペンギンって海と氷のある寒い場所に住んでいるイメージが強いですが、温暖なところにも住んでいます。フィヨルドランドペンギンは森に住んでいます。日本の動物園にいるペンギンは、そんなに寒くなくても大丈夫な子が多くて、掛川花鳥園で見たペンギンは冬にストーブにあたっていました(笑)。

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坂崎千春「森のペンギン」

「きのこ帽」についても教えてください。

子どもと森と宝物というテーマから楽しげな方向に振っていたのですが、展覧会のプロデューサーの石田さんからいただいた企画書に「(子どもの世界の)とてつもない寂しさや残酷さをも藝大のアーティストが表現」と書いてあったことに気づいて、動物たちに「きのこ帽」をかぶせてみました。飼い猫が頭にみかんをのっけられてぼーっとしているとか、そういった写真が好きなので、キャラクターというよりかは実際の生き物がきのこ帽をかぶらされて、「なぜ?」と困惑して呆然としているイメージで描きました。そこからそこはかとない寂しさを感じ取っていただければと。

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坂崎千春「きのこ帽」

坂崎さんの絵本などの絵は、輪郭線がギザギザしていますよね。こだわりがあるのでしょうか?

絵本や飾る絵は、生き物を描いていることが多いので、線に手の感じを残して生きている感じを出そうとしています。私は、鉛筆で絵を描いていて、それをパソコンに取り込んで、鉛筆のグレーの色を真っ黒に変換しています。そのときに生じる荒れた感じをいかして味のある線にしています。そうやって描いているので、じつは出版した絵本に関する紙の原画が存在しないんです。こういう展覧会の時に、絵本作家さんは原画を出すことが多いと思うのですが、私の場合はできあがった絵本の絵を見ながら、もう一度描いています(笑)

卒業制作もペンギンがテーマだったのですよね?

そうですね。トランプ仕立てになっているペンギンの絵本を含む3種類の本をつくりました。学生時代はあまり真面目な生徒ではなく、課題をこなす程度でしたが、絵本がつくりたかったので公募展に出したりしていました。

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昔から絵本に興味があったのですね。

いわゆる絵本というより、『ドリトル先生』『エルマーの冒険』『くまのプーさん』とか童話寄りのものが好きでした。ただ、長い文章を自分に書くのは難しいと思ったので、詩みたいな短い文章と絵が組み合わさったものを目指そうと思いました。ちょうど若いときに、(M.B.)ゴフスタインとか、大人向けの絵本が出始めていて、そういう作品からも影響を受けています。

美大、藝大を目指した理由はありますか?

絵は好きだったのですが、得意というわけではありませんでした。ただ、高校生のときに親から手に職をつけろと言われまして、最初、薬剤師さんならば安心感もあって良いかなと思ったんです。だけれども、理数系が全然だめでこれで受験は厳しいと思い、方向転換を迫られました。そんなときに、美術の授業でほめられたことを思い出して、御茶ノ水予備校の夏期講習に行って、そこで石膏像のデッサンをしたのが楽しくて、受験勉強をこれでできるならいいじゃないかと思いました。デザイン科ならば手に職がつくイメージがあって、本が好きだったのでブックデザインに関わりたくて、デザイン科に進みました。

今後の活動や抱負を聞かせてください。

『ちびゴジラ』(『ゴジラ』生誕65年にむけたキャラクター)の絵本を二冊出しているのですが、そのアニメーションをつくる野望を抱いています。これまでCMなどでキャラクターが動くことはありましたが、完全なアニメーションはつくったことがなかったので、挑戦してみたいですね。

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さかざきちはる『がんばれ ちびゴジラ』

あと、「ペンギン百態」展の4回目を来年頃にやる予定で、いつかそれらを集めた「ペンギン千態展」もやってみたいです。展覧会のたびに、小さい絵を100点と10羽のペンギンがいる絵を10点描いているので、一回の展覧会で200態のペンギンを描いている計算になります。だから、5回展覧会をやれば1000態になります。

学生さんになにかメッセージはありますか?

人は変わります。そのときにやりたいと思ったことを、後でやりたいと思わなくなることもあります。ですので、今やりたいと思えることにぜひ挑戦していただきたいです。イラストレーターになりたい場合、イラストレーターという肩書がほしいのではなく、イラストを描く人になりたいわけですよね。それならば、売れる売れないの話は別として、イラストを描いてしまえばいいんです。そうやって、描きたいものや、やりたいことを頑張っていくと、道が開けていきます。

私は、明確にやりたいことがあったわけではなく、依頼のあったものでほめられるものを頑張っていたら、自分でも思っていない方向に進んでいきました。なので、やりたいことがないことに悩んでいる人もいるかもしれませんが、目の前にあることを頑張っていれば、意外と大丈夫です。人がいいといってくれるものにはなにか良さがあるので、それをヒントにしてもいいかもしれません。得意とすることをほめられても、自分ではたいしたことないと思うかもしれませんが、意外とできない人にとっては難しいことだったりします。たとえば、私は簡単に線で動物を描くことが得意だったのですが、それは誰でもできるし、つまんないと思っていました。背景を細かく描くとか立体物や風景を描くことが苦手で、そういう絵を描く人に憧れていました。でも、細かく描くことができる人は、意外と省略して描くことが苦手だったりします。憧れを持つことはもちろん良いのですが、自分にないものを追い求めるよりも上手にできることをのばしていくのも良いと思います。

●坂崎 千春プロフィール

1967 年  千葉県生まれ
1991 年  東京藝術大学美術学部デザイン科 卒業
1998 年  〜、フリーのイラストレーター、絵本作家として活動
2011 年  市川市民芸術文化奨励賞 受賞

主なキャラクターデザインに、JR東日本の「Suicaのペンギン」、千葉県のマスコット「チーバくん」、ダイハツ工業の「カクカク シカジカ」等がある。


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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