藝大×子ども展vol.1 森の宝物をさがしに 出品作家インタビュー 森栄二さん

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今回の展覧会に、子どもそのものをモチーフとする作品を出品した、森栄二さん。なぜ森さんの作品の子どもたちは、寂しそうで物憂げな表情を浮かべているのでしょうか。そのような作風に至った理由や制作に対するこだわりについて伺いました。

普段から子どもをテーマにした作品をつくっているのですか?

そうですね。子どもか植物をテーマにしています。子どもは全体の8割を占めます。

子どもを表現するようになったきっかけは何かありますか?

大学生の頃、植物の作品をつくっていました。その後、どうしようかと考えていた時期に、兄に子どもが生まれました。大学生だったので時間があり、子守をしていくうちに、親族だからかもしれませんが、姪っ子が子どもだったころの自分と似ていると思うようになりました。一緒に遊んでいるのにもかかわらず、自分と遊んでいるような不思議な感覚があって、姪っ子を表した作品をつくれば自分をつくっているかんじになるかなと思って、その子を一番最初につくりました。一概には言えませんが、基本的にはいまも自分の子どもの頃、あるいは現在の自分を重ね合わせながらつくっています。

今回の展覧会の出品作「はな」にもご自身の記憶が反映されているのですか?

この作品もそうですが、僕のつくる子どもは、目をつぶったりうつむいたりしていることが多いです。それは、自分が一人でいることが多い子どもだったことが影響しています。一人親家庭で、親は働きに行っていたのであまり家にいなかった。そういう寂しい思い出が尾をひいているのかもしれません。笑った作品をつくる気もなくはないのですが、いざつくろうとすると違うなと思います。

森栄二「はな」
森栄二「はな」

作品をつくる手順を教えてください。

子どもの写真を撮って、それをドローイングにしてから立体にしています。最初は、彫刻のための資料として、姪っ子や自分の子などの写真を撮っていたのですが、そのときに撮った写真が面白かったので、どんどん写真を撮りたくなって、今は彫刻を目的としなくても撮影しています。やがて、それらをドローイングしたらどうかと思うようになって、いいドローイングができると、それを立体にしています。今回出品しているドローイングの「私の庭」もそのような過程のなかで描いたものですし、彫刻の「はな」にも対応するドローイングと写真があります。

森栄二「私の庭」
森栄二「私の庭」

ドローイングは、写真と同じ表情を同じ構図で描いているのでしょうか。

絵が写真になってしまうといけないと思っているので、写真に似せようとは思っていません。写真から表情をすくいとるように、部分的に抜き取るかんじで、消したりなおしたりしないで一気に描いています。そのときのスピード感で、へんな表情や、まぬけな顔、寂しい顔になったりいろいろするのですが、そのような偶然性も大事にしています。写真は見ますが見すぎないように注意しています。

森栄二「私の庭」
森栄二「私の庭」

彫刻に色を塗っていますが、彩色に対するこだわりがあるのでしょうか?

最初から彩色ありきで木彫をつくっていました。大学院で仏像の修理を学ぶ、保存学専攻の修復技術に入りました。仏像は基本的にこってりと色を塗った極彩色です。そのつくりかたが基礎にあるので、塗ることを前提に制作していました。最初は漆を塗っていたのですが、漆を省いて、さらに岩絵の具や胡粉も省いて、今は色鉛筆や油彩・水彩で彩色するようになってきました。最近は彩色しないこともあり得るなと思って、常に自問自答しています。

ツミキノコはなぜ水玉模様にしたのでしょうか?

これは、植物の葉っぱの斑点の模様が星空のようだなと思ってつくりました。植物と子どもはまったく別のモチーフなのですが、自分の生きている環境に存在しているものを引っ張りだしている点では共通しています。よく犬の散歩をするときに、いろいろな落ちているものを拾うのですが、そういうものを絵や彫刻にしてまとめているかんじです。

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森栄二「永遠の五月」

過去の作品も含め、全身像を彫らない、描かないことが多いようですが理由はあるのでしょうか?

絵にしても彫刻にしても、断片的に切り取ることや、きっちりやらずに途中のままにしておくことが好きです。それは理屈ではないですね。全身像の彫刻をつくったのは一度くらいしかありません。ドローイングの「私の庭」も一瞬で描いているので、服は描かないで、この表情ができたらそれが完成です。好きな作家もセザンヌやホックニーですし。

セザンヌの絵は塗り残しが多いことで有名ですね。

そうなんです。絵をみたときにキャンバス地が見えていたりするとすごく嬉しいです。

学部はグラフィックデザイン専攻ですが、なぜデザインを選んだのでしょうか?

本当は映画が撮りたかったんです。でも、僕が受験した頃は映画を勉強できる大学があまりありませんでした。それでも、どこかしらの美大に行けば映像をつくれるだろうと思って、受験勉強をし始めました。勉強していくうちに、だんだん絵画や彫刻をつくることが好きになりました。藝大のデザイン科を受けていたのは、立体も平面もどちらもできそうだったからです。結局、藝大にはどうしても受からなくて、多摩美(多摩美術大学)のグラフィックデザイン専攻に通いながら、絵を描いたり彫刻をつくったりしていました。卒業制作も彫刻だったので、変なタイプでしたね。デザイナーになろうとはまったく思っていなかったですし、有名なデザイナーの名前も知らなくって、友達に「お前はなんでデザイン科にいる」と言われたりしていました。

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大学院は藝大の文化財保存学を選んだのですね。

大学4年になる頃には、興味が仏像や木彫に向かっていました。もっと木彫の伝統的なことを勉強できないかなと思って、文化財保存学に入りました。仏像の勉強をしてそれを自分の作品制作にもつなげていくという教えだったので、毎日学校に通って忙しかったですが、のんびりした雰囲気で良かったです。修了する時は高さが134cmある快慶作の童子像を2年かけて模刻しました。

今後の抱負はありますか?

今回の出品作「はな」もそうなのですが、最近は塑像もやったり、木から離れた素材でつくっていたので、もう少しじっくり木彫をやりたいと思っています。ずっとせめぎ合っていることではあるのですが、彩色をどこまでやるの

●森 栄二プロフィール

1967 年  神奈川県生まれ
1992 年  多摩美術大学グラフィックデザイン専攻 卒業
1995 年  東京藝術大学大学院美術研究科修士課程文化財保存学専攻修復技術彫刻 修了
個展・二人展
1997 年  タケダエキジビットハウス(鎌倉)
1998 年  ギャラリー山口(京橋)
2004 年  茅ヶ崎市立美術館プティ・サロン(茅ヶ崎)
2006 年  柴田悦子画廊(銀座)
2009 年  LOWER AKIHABARA(東神田)
2012 、  14、15、16年 Gallery花影抄(根津)
2016 年  「-かすかな光・覚めてみる夢- 森栄二+森京子展」茅ケ崎市美術館
2019 年  「貝の夢」森栄二+森京子 ギャラリーあづま(銀座)


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

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