COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

企画展「藝大もののけ祭り 百鬼夜行展」店長・伊藤久美子さんによる、みどころ解説

2019/09/08 インタビュー

企画展「藝大もののけ祭り 百鬼夜行展」が始まりました。

column190917_01.jpg

2019年9月6日からスタートした企画展「藝大もののけ祭り 百鬼夜行展」が、早くも大きな話題になっています。「百鬼夜行」とは、いろいろな姿をした鬼や妖怪どもが夜中に行列して歩くこと。そこから転じて、妖怪のように得体の知れない悪人たちがうようよ居るさまを「百鬼夜行が跳梁跋扈する」などと表現しますね。

でも、怖い妖怪が出てくる怪談といえば夏がシーズン。なぜ秋風が立ち始めるこの季節に、このテーマを選んだのでしょうか。藝大アートプラザのチーフアートディレクター、伊藤久美子さんにお話をうかがいました。

column190917_02.jpg
藝大アートプラザ チーフアートディレクター 伊藤久美子さん

妖怪といえば、夏がシーズンのような気がしますが…

確かに妖怪という言葉から、怪談に登場する恐ろしい化け物をイメージする方が多いと思います。でも本来、妖怪とは身近に存在する「自分たちとは違う他者」や「何か不思議をはらんだもの」に対するひとつの解釈のかたちなのです。そうした存在を人々は古くから身近に感じて、さまざまな絵巻物などにも残してきました。そこで今回の展示は現代版「百鬼夜行」として、現代アーティスト約60名に、自分たちにとっての「わけのわからないもの」「異形のものたち」をテーマにした作品を出品していただきました。作品を通して、現代人にとってのファンタジーや他者へのまなざしが浮かび上がってくると面白いなと思いました。

会場装飾がとてもユニークですね。ホワイトキューブの仕切りガラスには突き出した手が、奥の壁には不気味な女性の巨大な顔が現れています。

column190917_03.jpg

この絵は、「湯本豪一記念 日本妖怪博物館(三次もののけミュージアム)」所蔵の狩野宴信作『百鬼夜行図巻』をお借りして制作した装飾です。

column190917_04.jpg
狩野宴信「百鬼夜行図巻」より/「湯本豪一記念日本妖怪博物館(三次もののけミュージアム)蔵

『百鬼夜行図巻』は大まかにいうと、夜中にさまざまな妖怪があらわれて大暴れし、朝日が昇るとともに散り散りに消えていく様子を描いたもの。どの妖怪も楽しそうです。

column190917_05.jpg

column190917_06.jpg
狩野宴信「百鬼夜行図巻」より/「湯本豪一記念日本妖怪博物館(三次もののけミュージアム)蔵

妖怪といっても、ひとつひとつを見るととてもユーモラスで、どこか可愛らしかったり、不思議なおかしみがあったりします。日本には「付喪神(つくもがみ)」といって、長い年月を経た道具などに神や精霊(霊魂)などが宿り人をたぶらかすとされています。妖怪といっても、もとはずっと身近にある道具なので、親しみやすさを感じるのかもしれません。

column190917_07.jpg

これは「鐙」(あぶみ)という、鞍(くら)の両わきにさげて足を踏みかける馬具にとりついたもののけです。異形のものの怖さの中に、現代のゆるキャラにも通じるユーモアとかわいらしさがありますよね。それも『百鬼夜行図巻』を見る楽しさなのです。

会場の天井や窓ガラスの雲は、何をあらわしているのですか?

妖怪がたくさん登場する『百鬼夜行絵巻』のイメージに近づけるため、本展では小作品をたくさん展示したいと思いました。それに対し、大きなインパクトとして会場全体を支えるモチーフが必要だと思ったのです。 そこでこの会場に、先ほどの『百鬼夜行図巻』の大広間のシーンを再現したらどうだろうと考えました。狩野宴信作『百鬼夜行図巻』では、手前の囲炉裏から腕がぬっと突き出し、ふすまの間から巨大なお歯黒女の顔がのぞいています。その奥行きを、ガラスの仕切りを利用して表現しました。また天井と窓に雲を這わせたのは、外から見た時に、会場の中の人々も百鬼夜行の一員に見えるようにしたかったからです。

column190917_08.jpg

来場者も、知らず知らずのうちに作品の一部になっているというわけですね。

はい、ほかにも実際に中に入れる体験型作品を展示しました。

column190917_09.jpg
小西恵「( )a ghost.」(756,000円)

これはアクリル板にミラースプレーが施されています。均一な塗装ではなくムラがあることによって、作品に映る鑑賞者自身の姿が横に伸びたり、透けて見えたりする仕掛けになっています。立つ位置によって、普段知っているはずの自身の姿が歪み、風景の一部のようにもなっていく様は、自分というものの境界線を見失うような、アートならではの体験といえるでしょう。撮影も可能なので、「不思議なわたし」の姿をカメラに収めてはいかがでしょう。展示作品はすべて購入できますし、いろいろな作品を見比べることによって、現代のアーティストに共通しているものが見えてくるのではないでしょうか。

column190917_10.jpg
作家の小西恵さん

column190917_11.jpg
近正匡治「化け猫?の香合」(32,400円)。
お香を入れる器のシリーズで、牙がかみあうようになっている

column190917_12.jpg
妖怪美術館(香川県)主催の「妖怪大賞」で2019年のグランプリを獲得した彫刻家・武田充生の作品「貝裸」(756,000円)貝、スタイロフォーム、セメント、「思春期の憂鬱」(756,000円)貝、スタイロフォーム、セメント

column190917_13.jpg
書籍コーナーには「ときめく妖怪図鑑」(山と渓谷社)、「クセがつよい妖怪事典」(小学館)、「かわいい妖怪画」(東京美術)など、妖怪の見方が変わりそうな本も多い

column190917_14.jpg

「藝大もののけ祭り 百鬼夜行展」
2019年9月6日 (金) - 9月29日 (日)
営業時間:10時~18:00
休業日:9月9日(月)、17日(火)、24日(火)
入場無料


取材・文/桑原恵美子 撮影/ANZ 福永仲秋