COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

「おみやげ 展 -Souvenirs of life-」出品作家インタビュー 熊谷直人さん(油画研究領域修了)

2019/10/19 インタビュー

「植物の存在」をテーマにした作品を多く制作している熊谷直人さん。今回の展覧会には、普段の作品とは少し毛色の違う、旅の記憶を表現した作品も出品しています。熊谷さんは、描きたいイメージを具現化するために筆を動かすのではなく、絵の具が良い状態になるように探っていった結果、形ができあがると言います。その制作スタイルに迫りました。

今回出品いただいた作品のうち3点は、今年の夏にタイに行った経験がもとになっているのですよね。

はい。一週間くらいのタイの滞在をきっかけにつくりました。帰国直後に、今回の展示の話をいただいたので、「おみやげ」というテーマに合っているのではないかと思いました。普段は、特定の記憶ではなく、自分が生活しているなかで頭に残っている共通するイメージを作品化することが多いです。


熊谷直人「Thai」

タイは旅行で行ったのですか?

小学校のときにお世話になった先生が、日本の児童とその親御さんをタイの山岳民族の子どもたちと交流させる活動をしていて、それに付いて行きました。

タイの山岳の風景なのですかね。

そうです。二つの「Thai」は、向こうで撮った風景写真がきっかけになっています。この(水色と茶色の)「Thai」には、木のシルエットが描かれています。「boy」はタイの子どもの写真ですね。ですが、写真をそのまま写したのではなく、写真と記憶をきっかけに、普段通りの制作スタイルで、画面と一対一で向き合いながらつくりました。


熊谷直人「Thai」

普段のスタイルでは、どのように描いているのですか?

絵の具が良い状態になるように一番気をつけていて描いています。この絵にとって、どのような状態で絵の具がキャンバスと定着して一体化していくのがふさわしいか、それを探っています。薄い絵の具を重ねたり、拭き取ったり、乗せたり……。厳密にどのように描こうか計画しているわけではなく、素材に対する絵の具の感覚をつかみつつ、絵の具の重なりや厚みに瞬間的に反応しながら描いています。ですので、描きたいイメージにあわせて絵の具をコントロールするというよりかは、絵の具のいい状態をつくっていった結果このかたちができる。そういう考えかたです。


熊谷直人「boy」

出品作はどのように描いたのですか?

今回の作品は写真をもとにしているので、具体的な形のニュアンスと、自分のつくっている絵のよい状態とのバランスがとれるところを探っています。ですので、3枚それぞれ絵の具の状態が違っています。こちらの(水色と茶色)「Thai」は、水彩絵具のように油をいっぱい入れて、薄くて広がりやすい液状にしています。キャンバスは下処理した白いものを使っているのではなく、そのままの麻の布地に近いものを自分で下処理して、吸い込みの強い状態にしています。そのザラっとした下地に、液状の絵の具を定着させていい状態を探っていきました。なので、にじんだような形になっているところもありますし、布地の粗い目がダイレクトに表面に響いています。


「おみやげ 展 -Souvenirs of life-」展示風景

普段は、「flower」のような花のイメージの作品を多く描いてらっしゃいますが、花は熊谷さんにとっての大きなテーマなのでしょうか。

自然や植物を中心に描くことが多いです。植物の姿かたちを描くというよりは、植物の存在の仕方を作品とリンクさせたいと思っています。植物を描き始めたときは、緑の森など、具体的なイメージを描いていました。次第に、自分が植物や自然の何に興味があって描くのかと考えたときに、かたちやイメージではなく、植物の存在そのものが好きで、それを描きたいことに気がつきました。絵の具と支持体を組み合わせて植物のような存在の仕方に近づけて、そこにプラスアルファで絵としてのイメージを組み合わせて、バランスを探りながら両立させています。


熊谷直人「flower」

植物の存在の仕方とは、どのようなことでしょうか。

たとえば、一粒の種が成長していく時、太陽の位置や環境に順応して、そこにあるからこそできあがる必然性のあるかたちになります。そのようなことです。

そのような植物の存在の仕方と、絵はどのようにリンクするのですか。植物が環境に応じて成長して変わっていくように、作品もそのときの環境や絵の具の具合によって、少しずつ変化していく、ということでしょうか。

日々生活しているなかで生まれる、つくりたいと思っているイメージや考えていることと、そのときの肉体のコンディションが組み合わさったときにしかできない絵画をつくろうと考えています。それは、僕自身の環境や年齢によっても変わりますので、その1点でしか成り立たない存在の仕方があると思います。それが、植物の存在の仕方とリンクすると言ったらよいでしょうか。


熊谷直人「flower」(部分)

植物の存在の仕方を表そうとするときに、モチーフにするのは、やはり植物なのですね。

僕にとって、現実のイメージや物質と絵画作品の仲介役として、一番適しているのが植物でした。具象と抽象の間にある存在です。透明感があって、生命や命、存在していること、そういった抽象的な概念が具現化したかたちが植物であるように思います。ですので、存在を考えていく時に植物をもとにつくるのがスムーズなんです。

動物ではだめなのでしょうか?

やってみたら面白いのかもしれないですし、実際にスケッチすることもあるのですが、動物だと個性や「我」、具体性などが強くなりすぎる気がしています。僕は、すべての生命や存在の根底にあるものをつくりたいので、そうなると、抽象的な植物の方が良いわけです。また、絵の具の状態に合わせて具体的な形を画面のなかに探っていくときに、動物や人間は具体的なかたちが決まっているので、崩した時に違和感が強く、崩したこと自体に意味が出てきます。植物は形も流動的でもっと自由です。

たしかに、「flower」は、形を崩していても、花に見えますね。花には、チューリップやユリなどの品種とは関係ない、漠然とした「花」の形があるように思いますが、動物にはイヌやゾウといった分類から離れた、漠然とした「動物」の形はないように思います。それが植物の抽象性なのですね。話は変わりますが、美大・藝大を目指したきっかけを教えてください。

父の仕事の関係で家に漫画がいっぱいあったこともあり、漫画や扉絵のイラストをよく真似していました。美術の時間も好きでしたが、どちらかというと体を動かしているのが好きで、小学校から高校までずっとサッカーをやっていました。ただ、高校2年、3年で進路を考えるとき、サッカーで進学するほどの選手ではなかったし、やる気もそんなになくて。そんなときに、ふと美大が面白そうだなと思って、本格的に絵をやろうと思いました。

サッカーと美術は、真逆のように思いますが。

いまもサッカーは好きですが、チームプレイはどうしても気を使うので、性に合っていなかったんだと思います。一人でこつこつやる絵の方が向いていたのだと思います。

油画を選んだ理由はありますか?

高校の美術の先生が油画出身の先生で、その先生が褒めてくれたことがきっかけで、油絵を選びました。美術がやりたいというより油絵がやりたいと思っていました。

今後の目標を教えてください。

具体的なことでいうと、来年開催する予定の個展を、しっかりいいものにしたいと思っています。また、作家として活動の幅を広げて、つくり手としてもっと成長していきたいですし、当然なのですが、いい作品をつくり続けたいです。

●熊谷直人プロフィール

1978年 東京都生まれ
2007年~09年 ベルリンにて活動 (2007-08 文化庁研修員)
2011年 東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻(美術博士)修了

【個展・グループ展】

2013年 Imago Mundi Fondazione Querini Stampalia (ベネチア)
2015年 AYUMI GALLERY/CAVE (東京)
2016年 AYUMI GALLERY/CAVE (東京)
2016年 Imago Mundi
Pratt Institute/The Rubelle and Norman Schafler Gallery (ニューヨーク)
2017年 gallery Gigi (神奈川)
2019年 AYUMI GALLERY/ CAVE (東京)
2019年 「濾過と抽出」medel gallery shu (東京)


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

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