COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

常設展出品作家インタビュー 添田亜希子さん(絵画専攻壁画修了)

2019/12/27 インタビュー

柔らかく温かな雰囲気の漂う、添田亜希子さんのガラスの作品。ガラスは、素材自体に夏のイメージがありますが、添田さんは四季折々の生活で取り入れられるように、工夫しています。今回の常設展に出品してくださった、冬向きの作品に込めた思いについて、そして、なぜ油画・壁画を専攻した後にガラス作家に転向したのか伺いました。

添田亜希子さん

添田さんの作品はタイトルも素敵ですね。

ありがとうございます。タイトルは制作の過程のなかでも大切にしていますし、楽しんでいる部分でもあります。グラスの柄は抽象的なものが多いですが、タイトルに言葉が一つあるだけでイメージがぐっと広がります。なので、季節感を想像できるように考えています。藝大アートプラザでは作品と一緒にタイトルを掲示していただけるので、タイトルも含めて作品を楽しんでもらえれば嬉しいです。

「冬の景色」は、冬のイメージでつくっているのですか?

そうです。クリスマスは冬のイベントのひとつで、リクエストもいただくのですが、いわゆるクリスマスツリーはうまくつくれなかったので、ツリーからは離れて、私なりに飾って楽しめるものをつくろうと思いました。もともと学生時代は絵画を勉強していたので、色や模様を重ねて景色を表わしたいと考えました。全体の白が雪を表わしていて、鳥が飛んでいます。紫や緑の模様は山にも、茂みにも見え、遠景にも近景にも想像できるようにしています。

添田亜希子「冬の景色 ミニ/小」
添田亜希子「冬の景色 ミニ/小」

どのように成形するのですか?

金属の棒の先に溶かしたガラスを巻き取ることを「タネを巻く」という言い方をするのですが、まず、タネを巻いて円柱形にします。そして、金属のテーブルに型紙とガラスパウダーを使って用意しておいた絵の上に、さきほどの円柱形のガラスを転がして、絵を写し取ります。ガラス同士が熱でくっつくことを利用しています。ずらしながら何色もの柄をつけて、最後に円錐形に整えます。

「ブーツの花入れ」はどのように形作るのでしょうか?

コップをつくる要領で途中まで作業したら、先端だけ柔らかくして、板でギュッと角度をつけながら押し付けると、このような形に変えられます。これは、珍しくストレートにクリスマスグッズにしました。ガラスは夏のイメージが強いですが、それぞれの季節だからこそ楽しめるものをつくりたいと思っています。

添田亜希子「ブーツの花入れ」
添田亜希子「ブーツの花入れ」

ネックレスも素敵ですね。

冬は、ざっくりしたセーターの上に付けていただいても楽しめます。「ほの灯りのペンダント」は冬向きに作ったので、透明ではなく表面をラメにして、光の反射を柔らかくしました。

添田亜希子「ほの灯りのペンダント」「葉のペンダント」
添田亜希子「ほの灯りのペンダント」「葉のペンダント」

猫もいますね。

こちらはリングホルダーです。現在、家に二匹の猫がいて、猫は大好きなのですが、好きすぎてずっとつくれずにいました。今年の春の「藝大の猫展」に出品することをきっかけにようやく形になりました。「期待に胸を膨らませてしっぽをぴーんとさせている猫のリングホルダー」というタイトルにしたかったのですが、さすがに長すぎるかなと思って(笑)、「猫のリングホルダー」というタイトルにしています。

添田亜希子「猫のリングホルダー」
添田亜希子「猫のリングホルダー」

添田亜希子「こにゃばち さび/白三毛/茶白」
添田亜希子「こにゃばち さび/白三毛/茶白」
※今回の展覧会の出品作品ではありません。

「よくばりな鏡餅」も楽しい作品ですね。

飾るだけではなく、できるだけ使って楽しめるものをつくりたくて、グラスと箸置きになる「よくばり」な鏡餅ができました。

添田亜希子「よくばりな鏡餅」
添田亜希子「よくばりな鏡餅」

干支のものは毎年作っているのですか?

2008年のねずみ年から干支をつくっています。生まれたお子さんの干支を買ってくださったり、十二支を順番に集めてくださっているお客様もいます。

左右:添田亜希子「淡花シリーズ フリー変形グラス/浅片口大」 中:「干支 子」
左右:添田亜希子「淡花シリーズ フリー変形グラス/浅片口大」 中:「干支 子」

「淡花」シリーズは定番の作品なのですよね。こちらは吹いてつくるのですか?

はい。吹きガラスです。丸い状態のガラスのタネに、いろんな色を混ぜたおはじき状のガラスをくっつけます。それらをなじませて柔らかくなったら、ラテアートみたいに引っ掻いて色を動かします、ガラスの透明感によって色の重なりができます。この時点ではまだガラス全体は丸いので、吹いて空気を入れて膨らまし、成形します。吹きガラスは、色柄を先につけてから成形することが多いので、ガラスの膨らみかたによって柄は伸びたり縮んだりします。ある程度計算はしていますが、計算外のこともあって、そこがとてもおもしろく、独特です。

添田亜希子「淡花シリーズ 各種」
添田亜希子「淡花シリーズ 各種」

半透明できれいですね。

このシリーズは、サンドブラスト(砂を吹き付けて磨りガラス状にする技法)をしています。一番小さなサイズは内側をサンドブラストして、中に日本酒やお水を入れたとき、磨りガラスが透明になる仕掛けをほどこしています。また、底に厚みを残した透明のガラスとの対比もきれいです。もう少し大きいサイズのものは、そばつゆを入れたり、麦茶を入れたり用途がいろいろあります。内側を磨りガラスにすると茶渋などがつきやすいので、外側にサンドブラストをしています。

美大・藝大を目指した理由を教えて下さい。

絵を描くことが好きでしたし、ほかに得意なこともなかったからです。小さい頃は舞台を見るのが好きで、舞台の小道具を作る人になりたいと思っていました。そのためにはいろんな素材を扱えなければならないと考えて、母が「美大に行かないとできないのではない?」と言ったのを鵜呑みにして予備校に通い始めました。やがて、油絵やデッサンが面白くなってきて、いつのまにか舞台の小道具さんになる夢は忘れていました。好きなことをやらせてくれた両親には感謝しています。

添田亜希子さん

学部時代は油画を勉強されていたのですよね?

油絵具という素材に興味があり、憧れもあったので、受験するときには油絵を勉強すると決めていました。浪人中は、工芸も面白そうだなと思って迷ったのですが、予備校で工芸科はデザインをするので、誰がみてもここからここに伸びているとわかる、まっすぐな線を引けなければならないと言われました。一方で、油画科の場合は、どんなにゆらいだ線を引いても全部線、と言われて、単純に「じゃあ、油画がいい」と思いました。

何がきっかけでガラスに興味を持ったのですか?

学部の3年生で、インスタレーションをやっていたときに、パーツとしてガラスを使いたくなりました。当時藝大にはガラスの研究室がなかったので、学外の吹きガラス教室に習いに行きました。工場の片隅で食器のつくりかたを教えていただいたのですが、「使えるものをつくれることは、なんて楽しいのだろう」と思って、それで本格的にガラスにのめり込み、大学院に通っている間もその工場で習っていました。卒業後はその工場の企画課に就職したんです。企画課ではデザインもしますので、結局図面を引かなければいけなくなり、まっすぐな線を描くことになって、すごく苦労しました(笑)。

添田亜希子「縁取りグラス」
添田亜希子「縁取りグラス」

偶然の要素に左右されるガラスの制作と、筆をコントロールできる絵画とでは、考え方がかなり違うのではないですか?

私は油絵を描くときも、色を重ねて、そのなかから偶然出てきたかたちを拾い起こしていくやり方をしていました。ですので、油絵と今やっているガラスの色の重ね方には、似たところはあります。選ぶ色の組み合わせや好きな色もそんなに変わっていないので、油画の同級生がガラスの作品を見てくれたときには「当時もこういう絵を描いていたよね」と言われます。進歩がないのか、良く言えばぶれていないのかわかりませんね(笑)。

大学院は壁画研究室なのですよね?

はい。ステンドグラス、フレスコ、モザイクなどの専門的なことにプラスして、インスタレーションでも何でも好きなことをやらせてくれる研究室でした。当時は、インスタレーションをつくっていました。ギリギリ凍る濃度の塩水の氷をつくって、それを編んだ布の上に置き、溶けた塩水をガラスで受けて、そこに糸をたらし、糸に塩の結晶ができるという、とても時間のかかることをやっていました(笑)。

添田亜希子「街に雪 はしおき」
添田亜希子「街に雪 はしおき」

就職先には何年くらいいたのですか?

それが、1年半で会社が廃業してしまったんです。慌ててしまいまして。でも、やっぱり図面を引くより、ガラスそのものに触れたくて、ちょうどガラス作家さんがアシスタントを募集しているのを知って、まだそんなに作れないにもかかわらず飛び込みました。そのあとは個人工房を転々として、お手伝いをしながら学びました。

アシスタントを雇うガラス作家の方がいるのですね。

そうですね。個人工房だと、アシスタントになった若い人は、工房を仕事で使わない昼休みなどに好きにガラスを触らせてもらえます。私もおにぎりを食べながら、昼休みにガラスを巻く練習をしていました。ありがたい環境でした。

ガラスは特別な設備が必要ですよね。

吹きガラスの場合、夜の間半日かけてガラスの原料を溶かしてやっと使える状態になるので、その状態を維持するためにずっと火を入れっぱなしなんです。高温をキープするために1週間に4日だけタネを巻いて残りの日は火を落とすということはできないので、何かをつくり続けていないとコストに見合いません。私は窯を持っていないので、時間貸ししてくれる工房を借りて制作しています。

右から添田亜希子「季節のいろの墨流し」「はなびら舞うグラス」「淡花 冷グラス」
右から添田亜希子「季節のいろの墨流し」「はなびら舞うグラス」「淡花 冷グラス」
※今回の展覧会の出品作品ではありません。「淡花 冷グラス」のみ入荷予定です。

今後の目標や抱負はありますか。

器の新シリーズ、挑戦したい色、試してみたい型作り、そして絵付けなど、形にしたいことは沢山あります。この頃は、再び絵を描いてみたいと思うようになってきたので、吹きガラスに加筆した今までとは違う景色を形にできたら良いなと思っています。今は実験と練習の段階ですが、来年には形にしたいですね。思い付いた柄や形が作れるように、少しでも多く素材を触って鍛練することは、いつまでも変わらない事なのですが、触れたことのない技法や材料にも挑戦して、組み合わせていきたいです。

また、私のガラスが、普段の生活の中のちょっとした新しい行動のきっかけになったら、嬉しいです。この器を使いたいから今日はいつもと違うビールを空けてみようとか、普段このサイズのグラスは使わないけど、日本酒を飲むのに使ってみようかな、とか。以前、グラスをきっかけに花見に出かける気になってくださったら良いなと思って、「酒宴のためのマイグラス」という、お花見用のグラスと、それを包む手ぬぐいと袋がセットになった作品をつくったこともあります。非日常と日常をハレとケと言いますが、私のガラスがケの日のなかのちょっとした楽しみに役に立てば嬉しいです。

●添田亜希子プロフィール

1974 年  東京都生まれ
1995 東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻 卒業
 「ami」として活動開始
2001 同大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻壁画 修了
株式会社タキナミ企画課 入社

のちにカタギリグラススタジオを経て、2005年なかむら硝子工房へ
瀧波硝子工場跡にて「TAKINAMI PARTING PRESENTS」企画・運営
京王百貨店(新宿)個展、高島屋(日本橋、新宿他)グループ展、森田画廊(銀座)企画展 等


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。