COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

意外性あふれる作品の競演!企画展「Glass Wonderland」の個性派作品を一挙紹介します!【かるびの「秘境」藝大探検 Vol.7】

2020/03/12 コラム

「Glass Wonderland」外観

こんにちは!
新型コロナウイルスへの対応で、美術館や博物館など、上野公園の大型文化施設はどこも休館中となっていますが、藝大アートプラザは今日も元気に営業中です。

さすがにこの情勢では、客足にも影響が出ているかもしれないな・・・と思って、先日お店を覗いてみたのですが、展示を見てびっくり!現在開催中の企画展「Glass Wonderland」で出展中の多くの作品に「売約済」の赤いシールが貼られているじゃありませんか!意外にも、作品の売れ行きは比較的好調なようです。

前回のレポートでもお伝えしましたが、今回の展覧会は東京藝術大学でガラス工芸を学んだ、若手を中心とする精鋭34名の最新作品が楽しめます。その特徴としては、なんと言っても非常に個性的な作品揃いであるということ。豆皿、グラス、ネックレス、ブローチなど日常生活の中で実際に使って楽しめる美しい作品から、「なんだろうこれは?!」と思わず考え込んでしまうような独創的なオブジェまで、多彩な作品がズラリと並んでいます。

そこで今回は、本展の中でも「オブジェ」を中心にオリジナリティあふれる作品を一挙紹介してみたいと思います!

藤原信幸「小文間の植物シリーズ 2020-01」(297,000円/税込)
藤原信幸「小文間の植物シリーズ 2020-01」(297,000円/税込)

先日、箱根の美術館を回った時にルネ・ラリックやエミール・ガレ、ドーム兄弟といった、クラシカルなガラス作品を鑑賞することができました。アール・ヌーヴォーやアール・デコの巨匠達って、動植物のフォルムを大胆にデザインに取り入れ、優れた作品をたくさん残しているんですよね。

でも、藤原さんの作品は違います。植物を着想源にしている・・・というより、作品のかたちがもう植物そのものなんです。何らかの有機体を、瞬間冷凍してそのままの形で固めたような、ガラス素材ならではの緊張感も加わって、「これは一体なんだろう?」と思わず覗き込みたくなるような存在感があります。

具体的に、何の植物を表現しているのかパッと見てわからないのも、面白いですよね。いかにも自然界に存在していそうな形をしているのですが、では具体的にこれは何なのか・・・というと、ちょっとすぐには思いつかない。キャベツのようなアブラナ科の野菜だったり、深海に揺れるイソギンチャクや藍藻類に見えたり。(ちなみに僕の小学生の息子は、焼き肉屋でよくオーダーする「サンチュ」に似ていると大ウケでした)

藤原信幸「小文間の植物シリーズ 2020-01」部分拡大図
藤原信幸「小文間の植物シリーズ 2020-01」部分拡大図

また、拡大して部分だけを取り出してみると、雪や氷の結晶みたいにも見えてきますよね。触ったら「パリン」と音を立てて割れるか、手のひらの中で溶けだしそうな、そんな繊細さも味わえる作品です。

ちなみに、藤原信幸さんは、東京藝術大学のガラス造形研究室の教授であり、本展「Glass Wonderland」のプロデューサーを勤められました。こちらのインタビュー記事は必見!ご本人の作品をはじめ、展示作品の魅力や見どころをわかりやすく解説してくれています。

トガシヨウコ「あわい 1-20」(40,260円/税込)、「あわい 3-20」(37,400円/税込)、「あわい 4-20」(149,600円/税込)
トガシヨウコ「あわい 1-20」(40,260円/税込)、「あわい 3-20」(37,400円/税込)、「あわい 4-20」(149,600円/税込)

藤原さんの作品とはタイプは違いますが、複雑に入り組んだ曲線の美しさが見飽きないトガシヨウコさんの作品もオススメ。清潔感のあるマットな質感の「白」からは、白鳥などの渡り鳥や、ユリのような白い花の花びらなど、豊かな生命感が感じられます。

トガシヨウコ「あわい 4-20」部分拡大図
トガシヨウコ「あわい 4-20」部分拡大図

トガシヨウコ「あわい 3-20」(37,400円/税込)
トガシヨウコ「あわい 3-20」(37,400円/税込)

機械では絶対に作り出すことができない複雑な曲線が本当に美しい作品でした。いろんな角度に置き直すと、見るたびに違うイメージが湧いてきそうです。

 多田えり佳「Manoeuvre Ⅱ」(198,000円/税込)
多田えり佳「Manoeuvre Ⅱ」(198,000円/税込)

さて、続いてはこちら。一見して強く思ったのは「スライムみたいでかわいいな」という感想でした。

よく見てみると、スライムのように見えるぷるぷるした物体は、風船のようなゴム状の袋を表現しているようです。上部に取り付けられたレトロな木製工具はいかにも大仰で、厳重に入り口が締められていますよね。そこまでして守りたい中身って何なのだろうか?と思って、帰宅してから日本ガラス工芸協会に掲載されている多田さんのプロフィールのページを見てみました。このように書かれています。

「私の作品はガラスを用いて経験に関わる親しみのある事物を表現し、過去の記憶を形として再現するというものである。記憶自体は明確な形として存在しないため、自由な創造によって記憶を確かな形として留めれば、豊かな表現の世界を生み出すことができる。」

このスライムの中に封印されているのは、大切な過去の記憶のイメージなのでしょうか?あるいは忘れてしまいたい心の痛み?見る人によって、見え方が様々に分かれてくる不思議なオブジェでした。

奥田康夫「hibiki -duet15-」(132,000円/税込)
奥田康夫「hibiki -duet15-」(132,000円/税込)

続いては、奥田康夫さんが制作したフランスパンのような細長い大きなガラスの塊。重量感がもの凄く、どっしりとした存在感を感じます。実際に持ち上げてみるとめちゃくちゃ重い!!

奥田康夫「hibiki -duet15-」部分拡大図
奥田康夫「hibiki -duet15-」部分拡大図

ぐぐっと近づいて見てみると、マットな表面の下に、ランダムに深く刻み込まれた貫入と、ガラスの中に閉じ込められた無数の気泡を楽しむことができます。窯の中で膨張して中身が一部飛び出してきているのも趣深いですよね。

人の手によって窯で焼かれて創り出された作品なのに、鉱山の奥深くから掘り出されたパワーストーンのような情趣がある、不思議な作品です。

野田朗子「陰陽 -満月」(132,000円/税込)
野田朗子「陰陽 -満月」(132,000円/税込)

今回、美しい皿や花器など多数の作品を出展中の野田朗子さん。彼女の作品の中で、一番驚いた作品がこちら。ボール状のガラス玉を真ん中から輪切りにしたような形をした小さなオブジェなのですが、上から覗き込むと、ガラス全体が金色のほのかな光に包まれ、その中に色々な形や模様が見えるんです。

この柔らかくて上品な黄金色は、どうやって表現しているんだろう・・・と思って、試しに作品の裏側を見てみると・・・

野田朗子「陰陽 -満月」(132,000円/税込)
野田朗子「陰陽 -満月」(132,000円/税込)

なんと裏側の全面に金箔が貼り付けられており、器面の表面には「月」をデフォルメしたようなクレーター状の模様が施されていたんです。 (※特別に許可を頂いて裏側を撮影)

日本画では、しばしば「金」の色調を和らげるために、表側ではなく紙や絹のキャンバスの裏側にわざわざ金箔を貼り付ける「裏箔」という奥ゆかしい技法が使われることがありますが、ガラス工芸で裏箔のような技法を見たのは初めてでした。

吉井こころ「そこはかとなく」(22,000円/税込)、「Life is beautiful」(50,600円/税込)、「いのしし」(各11,000円/税込)
吉井こころ「そこはかとなく」(22,000円/税込)、「Life is beautiful」(50,600円/税込)、「いのしし」(各11,000円/税込)

続いて、吉井こころさんの作品群をご紹介します。「子供の頃からマイペースでぼんやりしたところがあった」と語る(https://www.youtube.com/watch?v=ds4gfx286ho)吉井さんの作品には、どれもユニークな造形ながら、どことなく鑑賞者を和ませるようなある種の柔らかさがあります。

吉井こころ「そこはかとなく」(22,000円/税込)
吉井こころ「そこはかとなく」(22,000円/税込)

こちらは、ファンタジー映画などによく出てくるパワーストーンのような趣のある正方形のオブジェ。でも、よく見るとなだらかなグラデーションを描いて色彩が変化するガラスの中には、様々な空間が閉じ込められています。「おっ、なんだろう?」と思わず手にとってみたくなり、手にとって近づいて覗き込んでみると、ハコの中には複雑な色や模様が楽しめるので、遠くから見ても近くで見ても面白い作品でした。

吉井こころ「いのしし」(各11,000円/税込)
吉井こころ「いのしし」(各11,000円/税込)

こちらは、子供心をくすぐられるような、一対のいのししの置物。ユルかわでシンプルな造形は、いつまでも見飽きない可愛さがありました。

内田有「cool it (xs) aloha jungle」、「cool it (xs) aloha pineapple」(両方とも88,000円/税込)
内田有「cool it (xs) aloha jungle」、「cool it (xs) aloha pineapple」(両方とも88,000円/税込)

本稿のトリを飾るのが、内田有さんの作品。本展には、ガラスのシロクマ「cool it」シリーズから2点出展。このシロクマのシリーズは、制作を始めて今年で10周年。内田さんの代表作の一つなんです。

どちらかといえば「和」のテイストを色濃く感じる作品が多い本展において、内田さんの作品は異色です。明るい蛍光色でカラフルに縁取られたアクリルケースの中に収まった、シロクマ達は非常にポップでキュートなんです。サングラス姿で、アイスキャンディーのような棒に刺さった非常にユニークな造形にも引き込まれました。

内田有「cool it (xs) aloha jungle」部分拡大図
内田有「cool it (xs) aloha jungle」部分拡大図

しかし本作はただ単に「ポップ」で「かわいい」だけではありません。よく見ると、シロクマの手足の先端が溶けかかっていますよね。ここには、大量消費社会へのアイロニーや、地球温暖化への警鐘といったメッセージが込められているそうです。

残り1週間!面白い作品をお見逃しなく!

いかがでしたでしょうか?展示作品の中から、意外性に富んだオブジェ作品をいくつか紹介してみました。技術習得には非常に時間がかかるガラス工芸は、職人的な世界でありながらも、素材やモチーフの組み合わせ次第で、非常に多彩な表現が可能なのですね。

会期はまだあと1週間あります!東京藝術大学で学んだハイレベルなアーティストの競演をぜひ楽しんでみて下さいね!

「Glass Wonderland」外観

会期:2020年2月21日(金)~3月15日(日)

※本展期間中2月21日(金)~3月13日(金)は10:00~17:00までの短縮営業です。
※入試期間中のため、スロープのある旧正門が閉まっています。
車いすやベビーカー等でお越しのお客様は、正門の守衛所にて、藝大アートプラザにお越しいただいた旨をお伝えください。店舗スタッフが正門までお迎えに参ります。 ご不便をおかけいたしますが、何卒よろしくお願いいたします。


取材・撮影/齋藤久嗣 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。