藝大アートプラザにフォトスポットが誕生! 1万本の綿毛のブランケットでSNS社会のポートレイトの在り方を問う。青沼優介さん インタビュー

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藝大アートプラザの店内に、青沼優介さんが制作したフォトスポット「Blanket portrait」が設置されました。アクリル板にたんぽぽの綿毛が1万本植えられており、鑑賞者は綿毛の隙間から顔を覗かせながら撮影し、作品の一部となることができます。なぜフォトスポットなのに顔が隠れるようになっているのか?気になる疑問に答えていただきました。

このふわふわした部分は、たんぽぽの綿毛でできているのですね。驚きました。

アクリルにレーザーで穴を彫刻し、その穴に綿毛を一本ずつ、すぽっとはめるように挿しています。この作品で1万本ぐらいの綿毛を植えています。

青沼優介「Blanket portrait」部分
青沼優介「Blanket portrait」部分

「Blanket portrait」はアートプラザに恒久的に設置されるものだと伺いましたが、どのような経緯でできたのでしょうか。

2018年、今のアートプラザがオープンした年に、アートプラザ内に設置するフォトスポットをつくりたいという依頼をいただいたのが始まりです。僕は、もともと綿毛で建築物をつくっていたのですが、いままでのような綿毛の作品を設置して、それを見に来た人が写真に撮るだけではつまらない、どうにか見に来た人とつながれる作品をつくりたいと思いました。そんなことを考えつつ最近のSNS文化を調べていたら、ポートレイトをシェアするときにスタンプで顔を隠したりすることが気になるようになりました。あの手の写真は加工されていますが、アップした人からしたらポートレイトです。そのような顔のないポートレイトが増えているのならば、画面上にスタンプをバンと貼るのではなく、撮られる人と撮る人の間にスタンプではない、現代のポートレイトらしいフィルターがあったらよいのではないかと思いました。そこで、綿毛で見えるようで見えない曖昧な境界線のフィルターをつくり、写真を撮られる側は顔が写らないので気持ちよく撮られることができ、撮る側もよく見たら綿毛ということに気づいてもらえて楽しい写真が撮れる。そのようなポートレイトにブランケットをかけるぐらいのやさしい気持ちで写真が撮れる場所を提案させていただきました。

青沼優介「Blanket portrait」
青沼優介「Blanket portrait」

顔を写すこともできますし隠すこともできますし、自由度が高いですね。

どこに顔をおいても、隠れるところと隠れないところのバランスをとれるように、ランダムな帯状にしています。2人分くらいのサイズはあるので親子でも撮れますし、子供の背丈ぐらいの低い位置にも綿毛を植えて顔を隠せるようにしています。この作品の写り方で、被写体の意識のあらわれがちょっとだけ出るんですよ。そのような違いも楽しめます。また、絵画のなかに入っているような構図で撮れるように、枠もつけています。

顔ハメパネルと逆の発想ですね。

顔ハメとは違う路線の作品ですね。今までは顔だけ出して写真を撮っていましたが、この作品ならば、顔を隠すのか隠さないのか自分で決められます。また、SNSやInstagramにアップされている展覧会場で撮った写真のなかには、作品を見に行ったはずなのに、撮られている本人が主役になって作品がおざなりになっていると感じてしまうものもあります。そうではなく、作品と一緒に写って、自分も作品の一部になれたら、撮る人と被写体と作品との一番良い関係ができるのではないかと思いました。

青沼優介「Blanket portrait」
好みの顔の出し方で撮影を楽しめる。

技術的な面も伺いたいです。帯状の綿毛に濃淡があるように見えますがこれはどうなっているのでしょうか。

帯が折り重なっている部分には、2倍の数の穴を空けて2倍の綿毛が植わっているので、ある程度、手前と奥がわかります。あとは単純に、綿毛にも個体差があるので、ふさふさした大きい綿毛が集まっているところは濃くなっています。穴の開け方も、綿毛同士がぶつかって反らないような間隔、どんな大きさの綿毛でも入りやすく抜けにくい大きさになるよう研究を重ねています。

植えるスピードはどうですか?

調子のいいときで、一日にこの帯の一列程度です。気が滅入ったときは進められません。修行のようです。

青沼優介「Blanket portrait」部分
青沼優介「Blanket portrait」部分

たんぽぽはどのように集めているのですか?

5、6月くらいが収穫期なので、谷中や実家、住んでいる家の近辺を歩きながら探して、1000房くらいの綿毛をためて、それで1年間の作品をつくっています。最近は通り過ぎただけで、目の端でたんぽぽがあるかないかわかるようになってきました(笑)。

たんぽぽ畑をつくれば簡単に集められると思うのですが。

それはしないようにしています。綿毛を採集するフィールドワーク自体も楽しいです。綿毛のある場所って人気(ひとけ)がないのですよね。陰っている空き地や路地の排水口の奥とかにあって、見つけると嬉しい。畑という一つの場所に集まってしまうと見つける楽しみがなくなってしまいます。

屋外に設置することもできるのでしょうか?

当初は外に置く案もあったのですが、湿度の関係で屋内の作品になりました。ドライフラワーにしているので、基本的には今の状態で何年もキープできるのですが、梅雨の時期の湿気があると芽が出てしまう可能性があります。それだけ種は強いです。

ドライフラワーにするとどんなメリットがあるのですか?

乾燥させると茎と綿毛の部分がピンと張ります。横から見ていただくと、綿毛がまっすぐピンと立っていることがわかると思うのですが、このまっすぐ立つ姿もドライフラワーにしているからなんです。また、カビが生えてしまうのを避けるためでもあります。そうでないと美術館に展示することができません。

綿毛に注目したのはいつ頃からなのですか?

4年ぐらい前です。修了作品展で、人工の綿毛をつかったインタラクティブアートをつくりました。そのときに純粋に綿毛をかわいいなと思って、綿毛だけで作品にしたいと思うようになりました。それで、綿毛を並べているうちに、茎の部分は柱、種の部分は最終的に根っこが生えるので建物の基礎、綿毛は水をはじくので屋根の役割という具合に、綿毛一つを建築物に見立てられるなと思って、綿毛を並べた建築物をつくりました。それが最初の綿毛を使った作品です。穴のあいた薄いアクリル板をつくってそこに綿毛を植えて、その上にさらに綿毛の植わったアクリル板を乗せて、15階建ての建物までつくりました。

青沼優介「息を建てる/都市を植える」
青沼優介「息を建てる/都市を植える」
※藝大アートプラザには展示しておりません。

美大に進学しようと思ったきっかけを教えてください。

もともとは野球でプロに行くことを目指していて、高校も野球推薦で農業高校に入りました。ところが、監督と喧嘩してすぐに野球部をやめてしまって、やめたらとたんにやることがなくなってしまったんです。そんなときに実家にとっておいた子供の頃につくったものを見て、ふと、自分はみんなと遊ぶよりも一人で何かをつくっていることが多かったことを思い出して、ものづくりの方向にシフトしました。イヤホンやヘッドホンが好きだったので、そういったものをデザインしたいと思って進路を探し、大学はムサビ(武蔵野美術大学)の工デ(工芸工業デザイン学科)に行きました。そこでインテリアデザインを専攻して、内装、設計や施工、家具のデザインなどを学びました。

青沼優介

大学卒業後、すぐに藝大に入ったのですか。

学んだことに近い会社に就職したのですが、ずっと違和感があって、高い学費を両親に出してもらった結果、今、したいと思っている仕事ができているかと自問自答して、このままではいけないと思って会社をやめる決断をしました。私大はデザインを仕事にするためにデザインの勉強をするような感覚があったのですが、そうではない視点が欲しくて、藝大のデザイン科はアーティストを排出している一方、デザインで活躍されている方もいるのでバランスが良いなと思って、幅を広げるために藝大デザイン科に大学院から入りました。まわりの学生にも映像作家がいたり、彫刻をつくる山田勇魚くんがいたり、「ここはデザイン科なの?」と思うような学生がいっぱいいて、先生もそれを止めたりしないでむしろ「やれやれ」という感じで、そのような居場所を得られたことが大きかったです。社会人経験があったので在学中も、カフェの設計、市場のプロデュースなど、デザイナーとして仕事をしつつ、いろんな人とコミュニケーションをとって、やったことのないことを吸収していくような行動をしていました。

現在も、デザイナーと作家と二本の柱で活動してらっしゃるのですか。

二本というよりかは最近一体化してきました。アートを見てデザインの仕事をくださる人もいるし、デザインの仕事を見てアートの仕事をくれる人もいるし、僕自身どちらが柱かわからなくなっていますが、この春には僕ともうひとりの仲間とデザインユニットをつくります。

どのようなユニットなのですか?

僕のアーティストワークの制作コンセプトは「詩的な好奇心」です。たとえば「綿毛で建築をつくる」という言葉が先に頭に浮かんで、そのポエティカルな好奇心からものをつくる。言葉としての発想が先で形が後についていきます。デザインという仕事を通じて社会に還元する際にも、「詩的な好奇心」をテーマにデザインしていきたいと思って事務所をつくりました。仕事を引き受けたら、相手とコミュニケーションを重ねて、相手のなんとなく思っている部分、それが僕の考える詩の部分なのですが、それを汲み取ってものをつくるのがポリシーです。僕は、ニュアンスの部分を正しく伝えるために実体化するのが、デザインやアートだと思っています。ですので、仕事においても、「僕らはこう考えているのだけれどもどう思いますか?」という対話を大事にしながら、相手を観察して、その言葉の先にあるものを実体化していきたい。そういう温かいものづくりを目指しています。

どんなものを依頼できるのですか?

なんでも引き受けます。建築をつくりたい人がいたら、建築家を呼んでユニットをつくればいい。同世代の横のつながりも大きくなってきているので、僕らの発想に共感してくれる人と仲間になってつくっていけばいいわけで、自分の専門分野を限定せずになんでもします。アートワークもつくるしデザインの仕事もする。デザイナーにならなくてもいいし、アーティストにならなくてもいいと思っているので、肩書をきかれると毎回困っています。

今後の目標を教えてください。

6月6日から表参道のDiEGOというギャラリーで個展があるので、それまでに作品をつくらなければなりません。綿毛を使った月のシリーズの新作を何点か、今回の「Blanket portrait」から着想を得た作品もつくっています。僕は依頼されてつくったものを必ず次につなげようとしていているので、この作品のコンセプトでしばらく作品をつくる気がしています。

●青沼優介プロフィール

略歴:

2012 年  武蔵野美術大学 造形学部 工芸工業デザイン学科卒業
2016 東京藝術大学大学院 美術研究科 デザイン専攻 修了
2016 〜2020年 東京藝術大学デザイン科にて、教育研究助手として勤務
2020 〜 東京藝術大学デザイン科デザインガレージ、非常勤講師に着任
デザインユニット「STUDIO POETIC CURIOSITY」設立

展示、受賞歴:

2018 年  個展「息を建てる」@DiEGO表参道
個展「息の触り心地について」@Gallery O2 金沢
Tokyo Midtown Award 2018 アート部門 グランプリ受賞
2019 Tokyo Midtown ストリートミュージアム
六本木アートナイト2019
ART START UP 100 ピックアップ作家選出
2020 個展「ノンブルにとってのサテライト」@DiEGO表参道 開催予定

twitter:@_yskanm_


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

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