COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

第15回藝大アートプラザ大賞展受賞作家インタビュー 皆川百合さん(大学院美術研究科博士後期課程美術専攻染織1年)

2021/03/05 インタビュー

アートプラザ賞を受賞した皆川さんの作品は、オリジナルの絞り染め技法を用い、美しい色彩とグラーデーションで海を表したタブローです。一見染めの作品には見えないのですが、その背景には「装飾」というテーマを核にした皆川さんの領域横断的な考え方がありました。

「絞染分綿地艶出海宙模様」はどのようなきっかけで誕生したのでしょうか。

以前、お寿司屋さんから暖簾の制作依頼があり、ご依頼主のカラーイメージが「海・鮮・ちょっとアクセントにガリ?(笑)」でした。そこから私なりにイメージをして、表裏が出ないような染め方で暖簾を仕上げました。それまではあまり青色の作品を作っていなかったのですが、その時に染めた暖簾が綺麗な色に仕上がったので、海をテーマに改めてタブローとしての作品を作ろうと思いました。


皆川百合「絞染分綿地艶出海宙模様」

どのようなコンセプトで制作したのでしょうか。

幼少の頃から水の中が好きでした。両親に連れられ、確か沖縄の海だったと思うのですが、そこでシュノーケルをしたことをきっかけに、海中の世界の虜になりました。無限に広がる未知なる空間と無重力に動く生命体やキラキラ光る泡を見て、幼いながらに美しいと感じたのだと思います。そこで、そのときの記憶の中にある宇宙のように広がる海中=「海宙」をコンセプトに作品を制作することにしました。また、幼い頃に海を未知であると感じた時の感覚を彷彿とさせるような染め方で制作しました。

表しているモチーフは何なのでしょうか。

具体的なモチーフはありませんが、「動」が感じられる表現になるように意識しました。人それぞれ異なった見え方が出来ると思います。

どのような工程を経て出来上がるのでしょうか。

「Larva tie dye(幼虫絞り)」と呼んでいるオリジナルの絞り染めの技法を用いています。基本は絞り染め技法(生地を染めたくないところを糸などで括ることで模様を表す技法)ですが、幼虫が蛹になり蝶へ羽化するような工程を辿るのでこのように呼んでいます。技法の詳細は秘密ですが、乾燥のタイミングや染料の配合率、薬剤などを工夫して模様をつくっています。

実はこの作品は、染め分け部分(色と色の境の部分)にもオリジナルの技法を使っています。技法名は付けていないのですが、型染めに使用する駒べラを使って染めています。私は特定の技法だけで制作していないのですが、その他の工程も含め、制作をする際は「素材が可能にする模様」を心がけて染めています。

審査員の方は、染織の作品だと言われるまで気付かなかった、絵画作品だと思って見ていたとおっしゃっていました。その理由は表面を覆う艶のあるコーティングで布らしさを軽減しているからだと思ったのですが、絵画に近づくようにあえて意図して制作したのでしょうか。

意図はいくつかあります。
まず、絵画作品と染織作品の概念に対する問いかけです。私にとってこの作品は、染めという技法を使った絵画作品であり、染織作品であると捉えています。布は絵画の支持体としても使われていますし、表現するうえで絵画と染織の垣根はないですね。
もう少し踏み込んで話すと、染色=染料というイメージが先行していますが、実際には大きく分けて染料と顔料の2種類なので、使う材料によっては表現の差異もさほどないと思います。

ほかにも、今回の作品は海をテーマにしているので、水の中で見る布の色を再現したくて艶加工をしました。また布の質感はどうしても温かさや柔らかさの印象が強くなるため、それらを抑えるためでもあります。そのため所謂「染織作品らしい」印象が弱かったのだと思います。 普段から私の作品は染織らしくないと言われているのですが、原因はきっと「染織」というイメージから離れているからだと思います。そういった意味で染織らしさは「色」や「技法」よりも、布の形状や質感(素材感)が大きく影響しているのだと感じました。

さらに、「こんな染め物作品もあるんだよ!」と知ってもらいたい気持ちもあり、今回の作品名はあえて染め物だとわかる名前にしました。私は着物などの日本の伝統工芸品の名前の付け方が好きです。素材、技法、模様を素直に伝える作品名に、ものづくりや素材への愛情を感じるからです。また、鑑賞者が新たな名前をつけられる余地があるのも素敵ですね。

これまで、皆川さんはどのような作品を制作してきたのでしょうか。

タブロー形式が多いですが、それ以外にもアクリル板に挟んだ作品やタペストリー、風炉先屏風、着物、半纏、バレエの衣装、衣服、鞄、ストール、暖簾など、形状は様々です。


リバーシブルの法被


リバーシブルの法被


タブロー形式の作品


タブロー形式の作品


風炉先屏風

特に布は様々な見せ方や使い方が出来るのが面白いですね。工芸の表現方法は用途や鑑賞のレンジの広さが特徴です。なので、他の美術領域に比べて工芸「らしさ」を抽出すると、「用の美」を求められる機会が多いようにも感じます。しかし近年の領域レスな思考により、工芸「らしさ」の在り方も変化したことで、より作者「らしさ」に目を向けて作品を鑑賞してくださることが増えたように感じます。私は工芸を装飾芸術ととらえているので、空間を含め、装飾行為を意識して作品つくりをしています。

皆川さんのホームページに制作動機は「飾る精神」と書かれていましたが、これはどのようなことでしょうか。

「飾る精神」とは、一言で言うと「祈りの表現」だと思います。

M’DEARというブランドを立ち上げていらっしゃるようですね。

M’DEARは「~親愛なるあなたへ~大切な人を想う”祈り”」がコンセプトの、博士研究の一貫で作ったブランドです。全ての私の作品がM’DEARなわけではなく、基本的には作家個人名で制作しています。イメージとしては「皆川百合」のディフュージョンライン(オリジナルブランドの普及版)としてのレーベル分けのようなかたちですね。

作品を制作するときにこだわっている点があれば教えてください。

色と色の組み合わせへのこだわりは強くあります。色を扱うのは絶妙なバランス感覚が必要で本当に難しいことだと思っています。扱う色が増す程、色をまとめる力も必要です。なので、色をつくることにかなりのエネルギーを使っています。またコントラストの強い色は脳に刺激を与えるらしく、濃淡を意識してつくっています。

苦労していることはございますか。

染色は時間と一発勝負の戦いなので、制作する際は常に緊張感があります。他の工芸科の素材と同様、染料は化学反応や熱で発色や定着をさせるのですが、色や模様、カタチをつくるのに随分時間と労力がかかります。素材の声を聞かないと、こちらの言うことを聞いてくれないといいますか…。素材と仲良くなるのに苦労しました。でも、それが楽しいところなので、苦労というと少しニュアンスが違うかもしれません。また、制約から生まれる染めの計画性と偶然性の対称表現のために、独自の技法で色や模様を作り、その様を布に化粧を施すような感覚で仕上げています。

同時開催の「アートのかけら-1.1万円アートマーケット-」にも、作品を出品していますが、こちらはどのような作品でしょうか。

「Test piece series」はタイトルのまま、テストピースです。感覚的にはエチュードというよりも作品が出来るまでにうまれる「かけら」のようなものです。試行錯誤の中からヒントがうまれるので、普段からこのようなTest pieceを沢山作っています。


皆川百合「Test piece_20_c.s.g」「Test piece_20_c.s.g2」

ところで、なぜ美大・藝大を目指したのでしょうか。

そうですね。子供の頃から絵を描くことは好きで、特に「色遊び」が好きでした。小学校の時にバレエを習っていたのですが、舞台で踊ることよりも発表会前の衣装の採寸調整や子供達に化粧をしている親御さん達を見ることが好きだった思い出があります。そこからファッションや化粧など、装飾することに興味が湧いたのだと思います。

なぜ工芸専攻のなかの染織を選んだのでしょうか。

工芸を選んだ理由は素材の持つ力が大きいです。染織はファッションが好きだったことも理由ですが、染料の多彩さと水の動きが表現に直結しているところに惹かれました。実際に染色の作業をすると水仕事が多く、水源が豊かな日本だからこそ出来る表現だなと思います。

染織の魅力は何でしょうか。

私が染色工程の中で一番好きなのは、布に染料を定着させた後の水洗い工程です。この時の布は、染めの色が一番綺麗に見える時だと思っています。澄んでいて凄く綺麗なんです。水の中にいる布の動きも本当に綺麗で。この姿が見たくて染めているとも言えます(笑)。

大阪芸術大学、京都芸術大学、そして東京藝術大学と、3つの大学に通っていますが、何か理由はございますか。

元々染織希望だったので、繊維や染織に関する産地の多い関西の大学を志望していました。大阪芸術大学で初めて染織を学び、制作を続けるうちに自分の方向性がどんどん具体的になっていきました。

大学院は、表現技法などを学びたい教授がいること、現代アートへの興味から、京都芸術大学に進学しました。総合造形領域に所属し、領域レスな環境に身を置きました。そこで初めて現代アート思考と工芸思考のギャップ、知らなかった思想や思考などを知り、大変ショックを受け、芸術が何かわからなくなり悶々としたこともありました。地域性もあり染織に対する捉え方や方針、評価も学部のときとは異なり、環境を変えるだけで価値観が大きく変化することに面白さを感じました。

大学院修了後に海外留学の進路も考えたのですが、制作を続ける上で日本の社会(アパレル業界)を知りたいと思い、就職しました。そこではランジェリーデザイナーとして仕事をしました。勿論今までのアートの世界とは違う別世界が広がっていたのですが、仕事で東京に出張する機会が増え、次第に今度は東京を拠点に作家活動したいなと思い、就職する際に目標にしていたことを達成したタイミングで上京を決め、藝大受験しました。

異なる環境だと価値観や評価が大きく変わることを学べた経験は大きいですね。打たれ強くなったと言いますか…(笑)。経験がいろんな意味で自信につながりました。私的には何歳になっても大学に通う選択肢は持っていいと思います。勿論大学に行かなくても自学自習は出来るのですが、同志が居る環境というのは心強いです。持論ですが「人生一生学生(がくしょう)」だと思います。

今後の目標や野望があったら教えてください。

いろいろあるのですが、直近の目標ですと、4月4日から千駄木にある「ギャラリーKINGYO」で二人展、7月11日から恵比寿の「America Bashi Gallery」で個展をするのでそれを成功させたいですね。

個人的には染め表現のエポックメイキングを目指しています。作家の活動としては、国内外問わずもっと社会の中で染織作品や文化の認知度を高めたいので、グローバルに作家さん達とチームを組んで活動していく予定です。また、ジャンルを問わず様々な人達と新しいカルチャーを創っていけたらいいなと考えています。そのためにも、まずは自分の研究と制作をしっかりやっていきたいです。

ほかにも一度、商業施設などの大きな空間のパッケージ、とくにエレベーターやホテルの客室なども含めた空間をトータルにデザインしてみたいです。さらにちゃんと作家として食べていけるようになって、広いアトリエを持つことも目標です。最近は空き屋や廃工場探しをして夢を膨らましています(笑)。海外のギャラリーでも作品を展示したいですし…。まだスタート地点にも立てていないのですが、Living the momentで、良いご縁があることを祈りながら頑張ります。

●皆川百合プロフィール

1992 年  奈良県生まれ
2014 年度 大阪芸術大学卒展 工芸学科学長賞
2015 京展 入選 京セラ美術館
2015 将来を期待される作家 五彩あやなす3展 出展 染めmuseum 清流館
2016 京都府新鋭選抜展 入選 京都文化博物館
2019 FENDI Fur tablet design competition 優秀賞
2020 佐々木泰樹育英会 デザイン工芸美術 奨学生
2020 藝大アートオークション 選抜出品
2021 第15回藝大アートプラザ大賞展 アートプラザ賞


取材・文/藤田麻希 写真/作家提供(2枚目、8枚目のみ 撮影/五十嵐美弥[小学館])

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