COLUMN & INTERVIEW コラム&インタビュー

旅展/ここではないどこかへ 出品作家インタビュー 瓜生剛さん(修士課程絵画専攻油画修了)

2021/04/16 インタビュー

鮮やかな色彩と独特の配色で風景を描く瓜生剛さん。リニューアル前のアートプラザから作品を出品している人気の作家です。色の発色を大事にしている瓜生さんが行き着いたこだわりの描法とは…。

今回は7点の作品を出品していますね。

展示のテーマが旅だと聞いて、自分は風景を描き続けているので、ぴったりだと思って出品しました。

いずれも実際に見た景色なのでしょうか。

実際に行った場所です。旅先の一時を写真に撮って描くことが多いです。

「緑の家/深緑」「緑の家/鮮紅」はどこを描いているのでしょうか。

大学院を出たころ、身近なところに面白いものがあることに気づいたときがあって、近所でこの家を発見しました。蔦が絡まり、入り口がわからないくらいに侵蝕しようとしているのですが、部分的に人工的なところも見えていて、その塩梅に惹かれました。通る度に写真に収めて季節ごとに描いていました。


瓜生剛「緑の家/深緑」


瓜生剛「緑の家/鮮紅」

同じ家を描いていますが、色を変えていますね。

「深緑」は夏の日差しが強い時間帯を、「鮮紅」は秋を描いています。

「極光深淵 躍」「極光深淵 波」はオーロラを描いているのでしょうか。

部屋を貸してくれる作家さんがいたので、ニューヨークに3ヶ月間滞在していました。そのときに、ニューヨークからカナダのオーロラの名所・イエローナイフは近いんじゃないかなと思って、行ってみました。実際は日本から行くのと変わらないくらい時間がかかりました(笑)。


瓜生剛「極光深淵 躍」

天候が良かったのですね。行ってもみられないことがあると聞いたことがあります。

運が良かったです。大気で現象としては常に起こっているのですが、雲がかかっていると地上からは見られません。自分が行ったときも前日の夜に着くはずだったのですが、天気が悪くて行けなくて、翌日の朝に到着しました。帰るときには雪が降っていました。ということは、自分の前のグループも後のグループも見られていないかもしれません。


瓜生剛「極光深淵 波」

絵が発光しているように見えます。

実際にはこの絵ほどの色には見えなかったのですが、写真に写すと光を集めてくれるので、この絵のように写ります。理想に近づけるように、絵の具で実験しながら色の出方を見て描きました。

「氷刻瀑布」と「大息」はどこの滝ですか。

ナイアガラの滝をアメリカ側から見たところです。滝でアメリカとカナダの国境が分かれていて、有名なのはカナダ側です。これもニューヨークに滞在した時期に見に行きました。「清閑 2」もナイアガラの近くで見たコガラという鳥を描いています。


瓜生剛「氷刻瀑布」


瓜生剛「氷刻瀑布」部分


瓜生剛「大息」

「清閑 2」は他の瓜生さんの絵と雰囲気が異なるように思いました。

抽象的なところがあるのでそう感じるのかもしれません。鳥のまわりの線は枝で、少し雪が積もっているところを表しています。でも、何かに見えなくても良くて、枝も雪もあまり説明しすぎないようにしています。その意味で絵として自由です。


瓜生剛「清閑 2」

ニューヨーク滞在をきっかけに描いた作品が多いのですね。

たまたまニューヨーク滞在のときの作品を多く出品しましたが、それ以外の場所を描いたものもあります。大学院卒業後、大学で助手をしていたのですが、その期間は全然旅行に行けなかったので、助手が終わってから海外に長期滞在しました。助手を終えた年の夏にヨーロッパでドクメンタやミュンスター彫刻プロジェクト、ヴェネツィア・ビエンナーレなどの展示を回りました。なので、ドイツ滞在中の絵も一時は描いていました。

作品の色使いが特徴的だと思ったのですが、色についてこだわっている点はありますか。

鮮やかな色で描くと気持ちがよいので、なるべく彩度が落ちないようにしています。絵の具同士をパレットで混ぜないで、絵の具をカンヴァスに乗せて乾いた上に、オイルを多くした油絵の具をかけると、下の色が透けて濁らない状態で色を重ねられます。絵の具を混ぜて色をつくるのと、重ねるのでは見え方が異なるんです。たとえば、「極光深淵 波」の下の地面の部分は、オレンジに青を重ねて、補色の関係でグレーのように見せています。黄色に紫を重ねて茶色に、黄色に緑で黄緑、オレンジに紫をかけると赤になる、そういったことを考えながら楽しんでいます。一見、自分の絵は青や緑、紫色が目立ちますが、黄色、オレンジ、赤など暖色系で下地を描いてから寒色を重ねることが多いです。

人物を描くこともありますか。

人物はほとんど描かないですね。描くとしても風景に溶け込んでいることが多いです。自分にとって油絵を描くときの共通のテーマが、侵蝕、増殖、そこにあったけれどもなくなっていくものなのですが、人物はそのようなテーマにはまってきません。また、原色の発色のいい色が好きなので、白を混ぜることが多い人の肌は描き難いという理由もあります。

描きたい色が確固としてあるのですね。ところで、コロナ禍で描くものは変わりましたか。

少しずつ変わっていきていて、コロナ禍でも消えないものはあるのだろうかと考えたりしていました。すべてのものがその瞬間にたまたま見えただけのものなので、不変のものってなんだろうと思い、個展でも水平線や穏やかな夕凪の絵など、大人しいテーマの作品が増えました。

旅先で見た風景を描いているので、コロナ禍は制作が大変そうですね。

もともと旅に行ったからといってすぐに絵に出るわけではなかったのですが、いざ行かなくなってしまうと描こうとするための刺激がなくて、なかなか描く気分にならなかったです。昨年は、地元にある京葉銀行の2021年のカレンダーの原画を描く依頼がありまして、そのために千葉の海に行って取材することができたので、少し旅に行く気分は味わえましたね。春だったら桜、冬だったら雪景色といった具合に春夏秋冬を意識して描くのは初めてでしたので、良い経験になりました。

下描きはするのでしょうか。

ドローイングはしないです。2回描くと飽きてしまいますし、イメージが固まりすぎてしまいます。この写真を使って描きたいと思ったら、どうやったらイメージ通りになるか考えます。この色を出したい場合はどうしようと考えて、絵の具の重なり方まで見えて初めて描き出します。なので、描くまでに半年から1年くらいかかることもあります。

子供の頃から描くのが好きだったのでしょうか。

小学校の図画工作の授業で何かをつくったりすることが好きでした。一方で、近所の習字教室で習字をやるのも好きで、高校は書道推薦で入りました。部活は書道部だったのですが、推薦で入ったのに芸術の科目は書道ではなく美術をとっていました。書道部の先輩には推薦で書道の大学に行く人がいたので、それもいいなと思っていたのですが、遅刻が多かったので推薦がとれなくて(笑)。父がインテリア関係の仕事をしていたので、インテリアに関する仕事をやってみたいと思って、3年生の春に予備校のデザイン科の春期講習を受けました。ただ、受験の課題が性に合わなくて、予備校の先生から油絵に行ってもデザインはできると言われて、油画の受験を勧められました。それで夏から勉強して、2浪で合格しました。途中からデザインのことは考えなくなっていましたね。

作品のタイトルに漢字を多く用いていますが、そのあたりに書道の影響はありますか。

直接影響があるかはわかりませんが、タイトルをつけるときには漢和辞典でそれぞれの漢字の意味を調べて、その漢字の持つ雰囲気を寄せ集めてタイトルにしています。「燦々」であれば、きらきらしている雰囲気でいいなとか、そういうことです。造語をタイトルにすることも多く、個々の漢字の雰囲気が重要なので読み方をきっちり決めていないこともあります。英語のタイトルを付けることは、翻訳しなければならないとき以外ありません。

毛筆で字を書くことと絵筆で油絵描くことに、共通点はありますか。

書道は、墨をつけて書いて墨がかすれたら墨を足すということを繰り返します。墨が溜まったところとかすれたところに生じるリズムを意識して書きます。また、大きな一文字を書くときには、墨をどこに落として白い空間を埋めようかと考えます。そのようなリズムや間の収め方を考える点は、絵と共通しているかもしれません。筆の運びを一発で決めるところも絵に生かされているかもしれません。「清閑 2」は、筆の運びのおさえているところとそうでないところのリズムを強く意識していますね。


瓜生剛「清閑 2」部分

今後の目標はありますか。

展示会場で絵を見た人と話すのが好きです。自分の絵が、ふらりと来た人の琴線に触れて、思い出が蘇って、そこから会話が生まれる。そういう絵を描けることが理想です。たくさんの絵を描きたいわけではないので、極端に言えば1年に1枚傑作が描けて、その絵を展示してお客さんとずっと話していられたら満足です。でもそんなに傑作は描けないですし、食べていけるわけでもないので難しいのですが…。 描きたい時に描きたいものを描けて、売れるか売れないかもそんなに気にしなくてよい。適度に人とお話して社会に出て、自分の絵を大事にしてくれる人のところで飾ってもらえる、そんな生活に憧れます。

●瓜生剛 プロフィール

1981 年  ニューヨーク州(U.S.A)生まれ
2008 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻油画 修了
2014 同大学美術学部油画第6研究室 教育研究助手(~2017.3)
2008 第23回ホルベインスカラシップ奨学生
2009 シェル美術賞展2009 中井康之審査員賞受賞
2012 アートフェア東京2012(東京国際フォーラム)
2019 船橋市所蔵作品展「まちを描く/まちで描く_地域ゆかりの作家の仕事から」
2021 ~京葉銀行2021年カレンダー原画発表~ 瓜生剛展(東武百貨店船橋店)

「旅展/ここではないどこかへ」
会期:2021年3月20日 (土) - 5月16日 (日)
営業時間:11:00 - 18:00
休業日: 4月26日(月)、27日(火)、5月10日(月)
入場無料


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。