「藝大もののけ祭り 百鬼夜行展」出品作家・平良志季さんに伺う、20の質問

ライター
藝大アートプラザ
関連タグ
インタビュー

絹本に、妖怪やもののけ、女性像を描く作品で、人気を集める平良志季(たいらしき)さん。今回の展覧会には、「天狗書画会之図」を出品していただきました。画材や形式のこだわり、制作する際の心持ち、果ては好きな妖怪にいたるまで、さまざまな質問にお答えいただきました。

「天狗書画会之図」について伺いたいです。ある人物が描いている絵から、巻物を手にした天狗が飛び出しているように見えますが……。

見る人によって、それぞれの捉え方あって良いと思っておりますが、今回の作品は、人物が絵を描いていているときに、その内容自体が実態化して軸から飛び出ているようなイメージで描いています。妖怪自体も実態化しているので「会」という字をつけました。

column190919_2.jpg
平良志季「天狗書画会之図」

妖怪やもののけを描くようになったきっかけについて教えてください。

幼い時からおばけなど、目に見えない物についての絵本や物語を好んでずっと読んでおりましたし、家の者も目に見えない世界についてごく普通に接していましたので、自然と妖怪、もののけ、神仏を描くようになりました。いずれについても全て同じ心持ちで制作しています。

日本画の画材を用いるようになったきっかけを教えてください。

元々はデザイン科なので、画用紙にアクリル絵具を使用しておりました。ただ、古事記や神仏、妖怪など日本古来のモチーフを描いていたので、当時の教授に日本画材の方がより説得力が増すと言われ、修了制作で初めて日本画材を使用しました。

column190919_3.jpg

アクリル絵具と日本画材では、運筆も違うと思いますが、苦労はございませんでしたか?

初めて日本画材で取り組んだ作品が、全面に金箔を押した3m以上のものでしたので、まず箔押しが大変でした。さらに、和紙ではなく箔の上に描くので、顔料が弾いてしまったり染み込まず、苦労しました。

column190919_4.jpg
平良志季「天狗書画会之図」(部分)

日本画専攻出身の方でも和紙を用いることが多いなかで、平良さんは絹本を支持体に選んでいます。絹本に描く良さとは?

絹に着彩することは、布に染付をしているようなイメージで描けるので、画用紙にアクリル絵の具で描いていた時と同じ様な感覚でしたし、むしろ、描きやすく感じました。

「天狗書画会之図」は、掛け軸や額ではなく、絹を枠に張って、厚みの部分に織物の布を巻いています。絵を飾るための形式にもこだわりがあるのでしょうか?

普段は額に入れております。今回は時間のこともあり、お盆休みで額が間に合わなかったので、今回はこのような額なしの形式になりました。周りに廻らしている素材についてですが、絹に描いているので紙にすると弱く、同じ素材の方が合うので布にしています。絵に合いそうなものを20種類ほど買って、そこから選んでいます。

column190919_5.jpg
平良志季「天狗書画会之図」(部分)

作品を描くときに気をつけていること、こだわっている点があれば教えてください。

ただ綺麗、上手、ではなく、物語性やセリフ、動きを想像していただき、面白いと感じて欲しいです。そのために、さまざまな解釈ができるよう、妖怪好きなら分かるひっかかりや小物など、謎解きのようなポイントをたくさん入れています。ですので、普段は自分から作品の説明はあまりしません。逆に、ご覧下さった方々の解釈を聞き、「こう描くとこう思われるのか」と、楽しんでいます。それを次の制作に活かしております。

なぜ藝大のデザイン科に進んだのですか?

幼稚園の頃から画家になるのが夢でしたが厳しそうなので、美術系の職に就こうとデザイン科を選びました。しかし、あまりにパソコンや機械が使えず、アナログ仕事しかできなかったので、今は作家として活動しております。

column190919_6.jpg
平良志季「美人に閻魔のペンデェラム占い」
※藝大アートプラザには展示されていません。

平良さんのTwitterのアイコンが、河鍋暁斎(幕末から明治時代の絵師)の肖像になっていますが、暁斎が好きなのでしょうか?

自分の絵や顔は嫌でしたので、好きな暁斎にしています。

好きな妖怪はありますか?

特に何の意味もない妖怪や、民俗学的に面白い背景のある妖怪が好きです。長面妖女(ちょうめんようじょ/巨大な顔の大女の妖怪)、黒坊主(黒い坊主姿の妖怪)は好きです。メジャーどころでは天狗も好きです。

column190919_7.jpg
平良志季「うつろ舟蛮女」
※藝大アートプラザには展示されていません。

よく描かれている、壱目様は平良さんオリジナルの妖怪とのことですが、どのような妖怪ですか?

忘れ去られた神が妖怪化するという説があるのですが、その説がとても好きです。壱目様は、古事記にも出てくる天目一箇神(あめのまひとつのかみ)からヒントを得て作りました。この神は、ひょっとこ、一本だたらなど、一つ目の原点となった、鍛治の神です。製鉄力自体が国力であったような時代には、天照大御神などに次ぐ様なメジャーな神でしたが、今は忘れられている神の一つだと思います。

column190919_8.jpg
平良志季「御宝幽霊船」
※藝大アートプラザには展示されていません。

妖怪やもののけの魅力は何ですか?

人間の精神を具現化した存在であり、共感性の高いところです。

平良さんご自身は妖怪や幽霊を見たことはありますか?

霊体を見たことはあります。能力者の元へ取材にも行きますし、様々な能力者の話を集めてすり合わせをして作品に活かしていますので、見える人は体験談について連絡をいただけますと嬉しいです。

朝起きてから寝るまで、平均何時間くらい絵を描いているのでしょうか。

最近はずっと描いています。

絵を描くのは好きですか。

今は、絵と目に見えない世界という、二つの好きな事が合わさった活動をしているので、それ以外にしたい事はありません。

女性像を描くときは、特定のモデルがいるのですか?

ほぼ、いとこを描いています。家で着付をしけてポーズをとってもらっています。

column190919_9.jpg
平良志季「小鬼に美人」
※藝大アートプラザには展示されていません。

挑戦してみたいモチーフはありますか?

かなりの知識量がないと描けないようなモチーフに挑戦したいのですが、制作期間が長期になってしまうので、取りかかれるのはまだ先そうです。

絵を描くなかで、どの瞬間が一番楽しいですか?

どの瞬間もほぼ同じ精神状態です。描く時は常に楽しいですし、生きている中で一番楽です。

絵を描くなかで、どのような点に苦労しますか?

物理的に画面が大きいと体勢がきついので大変です。

今後の抱負や展望はございますか?

とにかく自分自身が楽しんで描くことを一番に、今後も制作を続けたいです。

●平良 志季プロフィール

1990 年  東京都生まれ
2013 東京藝術大学美術学部デザイン科 卒業
2015 同大学大学院美術研究科修士課程デザイン専攻描画・装飾 修了
2017 個展/池袋西武本店
吉祥展/京都大阪高島屋
2018 アートフェア東京/東京国際フォーラム
吉祥展/京都高島屋
2019 個展/井筒屋山口
個展/福井西武


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

おすすめの記事