浮世離れマスターズのつあおとまいこの2人は、東京藝術大学の一画にある藝大アートプラザの看板にあった「What’s 藝大?」という言葉に目を留めます。「藝大を知らん人なんておるんかな?」などと斜に構えていたつあおは中で展示を見て「なるほど、意外な藝大があるんだな」などとつぶやき、まいこは「やっぱり藝大は一筋縄ではいかない」などとおもしろがり始めます。
えっ? つあおとまいこって誰だって? 美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生がぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」を結成。さて今日はどんなトークが展開するのでしょうか。
今回は、16回におよぶ藝大アートプラザ大賞受賞作家の新作を展示する企画展「The Prize Show!~What’s 藝大?~」(2022年9月10日〜10月30日)をレポートします。
生命がいない世界?
つあお:何だろう? このロールシャッハテストみたいな作品は? でも、かなり凹凸がありますね。たくさんの塊が貼り付けられている感じがする。ひょっとしたら透明な塊は、ガラスなのかな?
まいこ:大粒ダイヤの原石みたいなのがたくさんくっついてますね。きらきらしていて美しい。
つあお:壁に掛けるタイプの平面作品なのに、もこもこっとしたところに物質感があって、何だかいいですね。
まいこ:投げたものがカンヴァスに衝突してくっついちゃった! みたいな感じもします。
つあお:確かに! 金属みたいなものが、べちゃっとくっついてる。これから何かが起きる…じっと見ていると、そんな「予感」を感じますよ。
まいこ:銀色が結構目立っていて、くっついていたり、結構盛り上がっていたりしますね。
つあお:ひょっとしたら、人類がまだ存在していなかった頃の世界を表現しているんじゃないでしょうか。そもそも生命がいない空間を表現しているのかもしれません。
まいこ:そうですね! 鉱物で成り立った世界なのかな? 無機的ですね。
つあお:それでいて、結構シンメトリー(左右対称)な印象です。
まいこ:ホントだ。コウモリが羽を広げてるみたいな感じに見えるものもある!
つあお:おお、いきなり生物の気配が! でも確かに、シンメトリーは生物の特徴だったりしますし。
まいこ:無機的な世界に、突然変異が起きて、生物の素みたいなものが出てくることもあるのかもしれませんね。
つあお:となると、生物の発生を表現しているのだろうか?
まいこ:なんと壮大な! この抽象的なイメージからそこまでたどり着けるのって凄すぎ?!
つあお:勝手に言ってしまえば、無機物と有機物の「出逢い」がここにあるのです(キッパリ)。
まいこ:地球の起源?!
つあお:っていうこと…なのかな? どうかな?
まいこ:皆さん、答え合わせは会場にて!
つあお:答えが存在するのかどうかは不明だけど、すごくロマンがある作品だから、実物を見るとますます想像が膨らみますよ!
球根が甲羅を兼ねている?!
つあお:この球根から生えている花の彫刻は、なかなか立派ですね! 凛(りん)としている。
まいこ:メタリックな赤が華やかで、ずっと枯れないから部屋に置いておくとよさそう。
つあお:金属製っぽいんだけど、かなりリアルなイメージなので、不自然さは全然ないですね。
まいこ:赤いやまゆり?!という感じで華やかですものね。
つあお:そうそう、花びらには温もりさえあるような気がするんですよ。
まいこ:そう思いつつ根っこのほうに目をやると…ひょっとして、亀?
つあお:おお!
まいこ:しかも甲羅がない。
つあお:球根が甲羅を兼ねているんですね。
まいこ:すると、この艶やかなお花は、亀の上に生えているということになるのかな?
つあお:きっとそうです。でもね、花が咲いてる亀なんて考えてみたら、とっても素敵じゃないですか!
まいこ:素敵だけど…ある意味グロいかなぁ。亀の生き血を吸って美しい赤い花を咲かせている!
つあお:人間だってすっぽんの生き血を料理屋さんでいただくこともありますから、きっと大丈夫ですよ。
まいこ:誰が大丈夫なの(笑)?! 花には精力がつきそうですね。
つあお:でも、亀も花を支えていることに喜びを感じてるんじゃないかなぁ。
まいこ:作品名が『Camoufrage』(カモフラージュ)だから、彼も身を守るために花を咲かせてるんですね!
つあお:持ちつ持たれつとはこのことだ。
まいこ:うまい!
まいこセレクト
なんてみずみずしく軽やかな作品なんだろうと気になっていたところに「これは水がなりたいと思っている形なんです」という解説を聞いてぞっこん。ペットとコミュニケーションを取れるようにと『いぬの気持ち』とか『鳥の気持ち』という本をたまに書店で見かけるけど、「水の気持ち」というのもあるのですね! 通常は、一瞬たりとも同じ姿でいられない水が、一番なりたい姿をガラスでとどめてもらえるなんてきっとうれしいだろうな。その喜びがはじけているような丸い粒が集まって、生き生きとした透明の輝きを放つキューブ。
実はこれ、ネックレスなのです。ひもの長さを調節してチョーカーにもできます。しかも6600円?! それでアートを身に付けられるなんて最高!
つあおセレクト
作者の中村弘峰さんは、何と、博多人形の制作を家業としている方だそうです。伝統の味わいに現代の感性が加わり、華やかでかつ慈しみたくなる愛らしさが表現された牛を、大変興味深く見ることができました。博多のある福岡市に近い太宰府天満宮には、伏せた牛『御神牛』の銅像がありますが、あるいは、その『御神牛』が立ち上がったところなのか! という勝手な想像をも呼び起こされました。
つあおのラクガキ
浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。
水代達史さんの花を背負った亀の作品を見て、亀の人生(亀生?)について考えさせられ、亀式の車を描いてみました。亀は歩みはのろいけど、寿命は数十年から百年以上。「万年」は生きないにしても、長生きすることは間違いありません。しかもあの歩みですから、感覚的にはやっぱり「万年」に近いのかもしれない! なんて思ってしまいます。水代さんの作品では、亀は自分の体に比べてずいぶん大きな花を背負っているので重そうにも思えますが、きっとすごく頑健な体を持っており、何食わぬ顔をして歩み続けるのだろうと想像しています。
日常生活を車にたとえれば、いろいろなことが慌ただしく過ぎていく日々を過ごす中で、ちょっとスローに走ってみることには、意義がありそうです。車は早く移動するためにあるものだけど、ゆとりのあるスピードに落として走るだけでも、普段とは異なる風景が見えてきたり、気持ちに余裕ができて、新たな心地よさが生まれる。人生もまた、そういうものだと思うのです。たわくしも明日から、亀の気持ちになって運転してみようと思います。
展覧会基本情報
企画展:The Prize Show!~What’s 藝大?~
会期:2022年9月10日(土) – 10月30日(日) 11:00〜18:00
前期 9月10日(土)- 10月2日(日)第1回-9回受賞者による展示
後期 10月8日(土)- 10月30日(日)第10-16回受賞者による展示
※月曜休(祝日は営業、翌火曜休業)
※10月3日(月)- 7日(金)は展示入れ替えのため休業
※一部作家は、展示期間が異なる場合がございます
住所:〒110-8714 東京都台東区上野公園12-8 東京藝術大学美術学部構内 藝大アートプラザ