大奥も!男の子も!心華やぐ「ひな祭り」が描かれた浮世絵【誰でもミュージアム】

ライター
瓦谷登貴子
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昔は花が咲くことを笑うと言いました。「桃始笑(ももはじめてわらう)」は、七十二候(しちじゅうにこう)※の啓蟄(けいちつ)の次候を指します。花びらが開いた様子を笑うと表現するなんて、古の人達の感性は鋭いですね。三月三日のひな祭りは、桃の節句と呼ばれています。それは旧暦では新暦の三月下旬から四月上旬にあたり、桃の花が咲く時期だったからだそうです。

ひな祭りは、いくつになってもわくわくした気持ちになりますね。でも、ひな飾りを出すのは大変! とか、うちにはおひな様がない! という方もいることでしょう。浮世絵には、様々な絵師が描いたひな祭りの作品があります。パブリックドメインの画像でお祝いするのはいかがでしょうか。

※中国、日本に古くから普及している季節の区分

大奥のひな祭りは、一大イベント!

ひな人形を飾り、ひし餅や桃の花を供え、白酒で祝う。この女の子の節句・ひな祭りの形式が整ったのは、江戸時代からなんだそうです。元々は、人形(ひとがた)に供え物をささげて水に流した祓(はらえ)の風習が源流だと言われます。平安時代に行われていた、小さな紙人形でままごと遊びをする「ひいな遊び」と合わさって、ひな人形の原型がつくられていったようです。

『千代田之大奥』 楊州周延 1896年頃 メトロポリタン美術館

この賑やかで華やかな浮世絵は、楊州周延(ようしゅうちかのぶ)が、大奥の行事を想像して描いた作品です。発表されたのは明治時代ですが、当時の人達にとって、大奥は興味をそそられる題材で、人気があったようです。

豪華な飾りを一目見ようと、大奥の女性達が群がっている様子が、なんだかユーモラスですね。あれ? 小さな女の子も混じってますね。この日は親類縁者も見に来ることが許されたのだとか。大きな行事だったことがしのばれます。この幕府の大奥や、京都御所のひな祭りから徐々に町民や、地方へと広まっていったようです。

気品漂うひな祭り

まるで水彩画のような淡い色調の作品は、水野年方(みずのとしかた)が、明治24年から27年に描いたシリーズ作品の『三十六佳撰』です。藤原公任(ふじわらのきんとう)が選んだ和歌の名人の総称、『三十六歌仙』から題材を得て制作しています。年方は月岡芳年の門人として美人画や歴史画などの浮世絵を描く一方、岡倉天心や横山大観たちと共に新しい日本画の創作を試みていました。

『三十六佳撰』水野年方 1893年 国立国会図書館デジタル

なんだかうっとりと見とれてしまう浮世絵です。美しい親子の上品な会話が聞こえてきそう! 少女はお供えのお膳を用意しているのでしょうか? おままごとみたいで楽しそうです。

庶民はおもちゃ絵でお祝い?

江戸時代にひな祭りが広がっていったとはいえ、どの家庭にも高価なひな人形があった訳ではありません。この浮世絵は、おもちゃ絵と言われる子ども向けの浮世絵です。ひょっとしたら、庶民は、このおもちゃ絵で遊んでひな飾りの代わりをしていたのかもしれません。

おもちゃ絵 国立国会図書館デジタル

五人囃子(ごにんばやし)の表情が生き生きしていますね! 能楽の囃子方(はやしかた)を人形で表していて、右側から謡(うたい)、笛、小鼓(こつづみ)、大鼓(おおかわ)、太鼓(たいこ)の順番に並んでいます。

男の子も祝いたい! ひな祭り

江戸時代の子どもたちは四季に合わせ、集まっては様々な遊びに興じました。ひな祭りや七夕、端午の節供など年中行事は、最も盛り上がる楽しいイベントだったようです。そんな様子を浮世絵に描いたのは、石川豊雅(いしかわとよまさ)です。石川豊信の早世した子ども、あるいは雅望(まさもち)※の初期の名前とも言われ、はっきりとはしません。

『風流子ども遊十二月』 石川豊雅 1767年 メトロポリタン美術館

女の子の節句のひな祭りですが、この浮世絵に登場しているのは、男の子達です。かごの中に人形を入れて、大名行列をしているのでしょうか? ほうきを背中にさしている男の子は、警護する役割? 実際の行列を見て、真似ているのかもしれません。時代が移り変わっても、子ども達の遊びはどこか共通するところがありますね。

※石川豊信の五男、狂歌師、国学者、戯作者など多方面で活躍。

本記事は「和樂web」の転載です

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「誰でもミュージアム」プロジェクト、始動! パブリックドメインの作品で自分だけの美術館をつくろう

参考文献:日本大百科全書 小学館

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