20代の二人が創り出す銀座の次世代ギャラリー【GALLERY HAYASHI + ART BRIDGE】

ライター
安藤整
関連タグ
銀座 インタビュー ギャラリー

さまざまな特色を発揮しながら運営されている各地のアートギャラリーや画廊をめぐり、ギャラリストたちの多彩な視点をアーカイブしていく特集企画「ギャラリー・ライブラリー」。

今回は、老舗の画廊が立ち並ぶ東京・銀座で、弱冠20代の二人がディレクターを務める「GALLERY HAYASHI + ART BRIDGE」を訪れます。林晃輔さんと鈴木篤史さんのお二人に話を聞きました。

若手の作品を「美術史の中に」

——「GALLERY HAYASHI」の後ろに「+ ART BRIDGE」とありますが、このギャラリーの特徴はどのような点にあるのでしょう?

林晃輔 もともとは父親がこの場所で、2008年にいわゆるセカンダリー(※)の画廊として「ギャラリー林」を始めました。僕自身はアートについて専門的に学んだりしたわけではなく、高校卒業後にイタリアに渡った後、帰国して父の仕事を手伝いたいと思い、ギャラリーの業務に携わるようになったんですね。

※セカンダリー:作品が初めて世に出るアートフェアなどの1次市場をプライマリーと呼ぶのに対し、購入者の手元を離れた作品が売買される2次市場のこと。セカンダリー市場では、作品の多くがサザビーズやクリスティーズなどに代表されるようなオークション会社やギャラリーなどを介して売買される。

 銀座には、時代のポイントになるようなアートシーンやムーブメントをつくってきた画廊・ギャラリーが多くあります。その一方で、今の若手アーティストの作品が美術史の文脈から切り離されたようにして扱われている気がしました。
 「ART BRIDGE」という活動自体も、もともとは父がNPO活動として始めたものでしたが、若手アーティストの作品を、長い美術史の中にしっかり位置づけて展示をしてみたいと思い、中学からの同級生である鈴木と一緒に「ART BRIDGE」を引き継ぐかたちで、アートに関わる活動を始めました。

【はやし・こうすけ】1996年生まれ。2年のイタリア留学の後、帰国しギャラリー林の業務に携わる。2018年から鈴木篤史とともに「NPO Art Bridge」に加わり、キュレーションを担当。現在はGALLERY HAYASHI + ART BRIDGEで展覧会のディレクションなどを行う。

林 とはいえ、初めは僕らがこうしてギャラリストになるなんてことはまったく想像していなくて、アートというより、何かしらのアートカルチャーに僕らも入っていって、一緒に内側から盛り上げたいという感覚でした。

 鈴木は音楽の世界でプレイヤーとして活動しましたし、当初は渋谷のライブハウスを借りて音楽のある場で気軽に絵画を観るといったことを企画したりもしました。そこでつながったアーティストの方もいましたが、僕らは二人とも芸大も美大も出ていないので、やはりまずは自分たちがちゃんと学ぼうということになり、いろいろな展覧会や企画展に出かけていくようになりました。

鈴木篤史 気づいたら自分たちが一番のアート好きになっていたという感じですね。「GALLERY HAYASHI + ART BRIDGE」は、ただ単に作品を売っているだけのギャラリーではなくて、いろいろなカルチャーをつくってきたギャラリーの良さを受け継ぎつつ、自分たちと同世代の作家さんたちと一緒に、新しい歴史をつくっていくギャラリーになりたいと考えています。

世界の「プロ・ギャラリスト」たちを目にして

——そこから現在のようにギャラリストとして活動するようになったきっかけは?

林 2018年に勉強を兼ねてアートバーゼル香港(※)に行ったんですね。僕らにとってはそれがすごく大きな出来事になりました。

※アートバーゼル香港:アジア最大規模のアートフェア。2022年は世界28の国と地域から130軒のギャラリーが集い、さまざまな作品が並んだ。

 運良くプレビューの日に入ることができたんですが、有名なアーティストの作品、世界トップレベルのアート作品が何千と並んでいる。なにより、そこにいるコレクターやギャラリスト、ディレクターの人たちも、やはりトップレベルの人たちでした。

鈴木 アーティストはもちろんなのですが、そうしたギャラリストやディレクターたちが醸し出しているオーラのようなものがはっきり感じられました。「プロ」としてアートに関わっている人たちの視線の鋭さというか・・・

林 「この人たちがアートシーンをつくっていっているんだ」という感じがしました。プロスポーツ選手を初めて目の前で見た子供みたいな感覚でしたね(笑)。
 帰国後、「ART BRIDGE」の活動に加えて、ギャラリーという拠点を持ちたいという話をしました。家族で相談を重ねて、僕と鈴木がディレクターとして務めることになり、2018年からここで「GALLERY HAYASHI + ART BRIDGE」をスタートさせました。

作家と「一緒に成長していく」ギャラリーに

——現在は、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズを出た小野久留美さんや、同大でグラフィックコミュニケーションデザインを学んだ木梨銀士さんら複数の若手作家の作品を扱っていますね。

鈴木 自分たちと同じ世代のアーティストを扱うというところにこだわりを持っています。そういうやり方は、ほかのギャラリーにはあまりないんじゃないでしょうか。
 「流行らなくなったら、次の人」みたいな考え方ではなく、「一緒に年取って、一緒に成長していこう、死ぬまで一緒にやろう」というようにアーティストのみなさんには話をしています。

【すずき・あつし】1996年生まれ。明治大学国際日本学部卒。ロンドンのUniversity of Westminsterへの留学を経て、2018年、中学・高校の同級生である林晃輔とともにART BRIDGEとしての活動をスタート。現在は林とともに、GALLERY HAYASHI + ART BRIDGEで展覧会のディレクションなどを行う。

林 ギャラリーと作家が、長いスパンで、キャリアを共にしていく関係を築くことができれば、作家にも良い影響を与えられるんじゃないかなと思います。

——一方で、アート一本で食べていくのは厳しいという話はいまも昔も変わらずあると思います。

鈴木 確かにそれはあると思います。でも、じゃあ月給をもらえれば良い作品ができるかというとそうでもない気がします。私も音楽の世界にいた経験がありますが、むしろ、厳しい環境の中で悩むことで、その人にしかつくれないものが出てくるんだろうと思います。だからこそ、「つくり続ける奴」が勝つんじゃないですかね。「それでも描きたいんだ」って。私はアーティストではないのでなんとも言えない部分がありますが。

林 ギャラリストの立場からすると、たとえば、良い作品をつくってせっかくコレクターも買ってくれ始めていたのに、「アートの世界は厳しいから辞めます」というのは、ある意味でこれまで買ってくれたコレクターを裏切る行為だとも言えると思うんです。若手アーティストの作品を買うということは、応援することでもあるわけなので。
 長いキャリアの中では「良くない」時期というのもきっとあるとは思いますが、良いときも悪いときも、やっぱりつくり続けることが大事だと思うんです。「辞めようかな」と思うときもあるかもしれないけど、そういうときに「一緒にやっていこうよ」って支えてあげられるギャラリーでありたいし、そうした関係の中でこそ、僕らも成長できるんだと思っています。

鈴木 そういう長いスパンで考えるために、やっぱり同世代のアーティストと一緒にやりたいんですよね。

——一冊の本をつくるときの編集者と作家との関係にも近い気がします。

林 僕らは作品の中身にまでは口を挟むことはありませんが、目指す関係性としては近いかもしれませんね。

鈴木 作家にインスピレーションを与えるという意味では、やはり展示のきっかけをつくるということが、ギャラリーが与えられる一番の刺激だと思います。多くの人の評価を聞くことができるのはもちろんですし、「売れる・売れない」も如実にわかるわけですし。

林 売れれば良い作品というわけでは決してないと思いますが、「なんでだろう」と考えるきっかけにはなりますよね。また、マーケットのトレンドに乗っていればいいというわけでもありませんが、その流れというものはアーティストとしても知っているべきだと思います。

日本のアートはガラパゴス化している?

——「GALLERY HAYASHI + ART BRIDGE」の今後として、どのようなビジョンを描いていますか。

鈴木 海外のアーティストをぜひ呼んできたいと思っています。昨年9月に韓国のアートフェア「Frieze Seoul」を見てきたんですが、世界的な流れと日本のアートの流れになんとなく違いがあるように感じました。これは本当に僕個人の感覚的なものではありますが。

林 よく鈴木とも話すんですが、日本はもともとアートの市場規模が韓国などアジアのほかの地域よりもある程度大きかったために、日本の市場の中だけでお金が回すことができちゃったんだと思います。だから、なんとなくアートの流れもガラパゴス的なものになっているのかもしれません。

鈴木 僕らが海外のアーティストとのつながりを深めていけば、ほかの国内アーティストへの刺激にもなると思いますし、一緒に海外で戦えるような日本のアーティストさんと仕事をしたいと感じます。

林 僕もそう思います。たとえばロンドンで学んだ木梨さんも「メンタル」が違う気がします。「自分はもうこれしかつくらない」ぐらいの勢いがあって、悩んだりしていない(笑)。そういう強さも大事なんですよね。ギャラリーとしても、あるいはコレクターであったとしても、やはりそういうアーティストは、応援したくなります。

まだ世界に価値を示せていないアーティストを

——アートに携わる職業人として、ご自身のキャリアはどのように考えていますか?

鈴木 先日のパリコレを観てて、すごくかっこいい服があったんですね。油画とファッションとか、音楽とか、そういう境界線を持ちたくないなと思いました。日本は境界線を超えたつながりが薄いなという気もするので、自分はそういう点でもいろいろ発信していけたらと思います。

林 父の仕事を見てきて、ギャラリストとして最も大切なことは、プライマリーであってもセカンダリーであっても、「作品」を一番大切にして、それを後世に伝えていくことであって、そうした思いに共感してくれるお客様に作品をしっかりつないでいくことだと感じます。

 自分自身は、今はまだ「こういう高い評価の作品があるということは、この作家さんの作風も良いのではないか」というような見方をしてしまっているのですが、もっと多くの作品を観て、勉強し、経験を積んで、自分の中に「柱」というか「ギャラリストとしての芯」を持って作品を評価できるようになりたいと思います。

 父の姿勢を大切にしつつ、僕らはまだ世界で価値を示せていない若手アーティストたちの作品、そしてアーティストさんたち自身も大切にして共に歩んでいきたいと思います。

info

GALLERY HAYASHI + ART BRIDGE
住所:東京都中央区銀座7-7-16
電話番号:03-3571-4291
開館時間:11:00〜18:00
休館日:日
料金:無料

木梨銀士「Flux」

会期 2023年2月3日(金)~2月18日(土)  期間中終日開催
時間
11:00 – 19:00
2/3 11:00 – 20:00
2/18 11:00 – 17:00

詳細は同ギャラリーウェブサイト

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