個性溢れるアートギャラリーや画廊を巡りながら、ギャラリストたちの多彩な視点をアーカイブしていく特集企画「ギャラリー・ライブラリー」。
今回は、東京・上野にほど近い文京区湯島にある「ロイドワークスギャラリー」を訪れます。
ロイドワークスギャラリーを立ち上げた井浦歳和(いうらとしかず)さんと、現在、AaP/roidworksgallery(AaPはArt and Pulseの略)共同代表として井浦さんと一緒に活動なさっている能勢潤(のせまさる)さんにお話を伺いました。
若い作家による発表の場を提供し、メディアミックスで展開する
——ロイドワークスギャラリーを立ち上げたきっかけや経緯を教えていただけますか。
井浦:ギャラリーを始めたのは2009年です。私はもともと美術商でして、美術品を売買しているのですが、私自身アートが好きということもあり、作品を売買で動かすスピード感に消耗し、疑問を持ったことがありました。その際、「生産性」という言葉が適切かは分からないのですが、生産性のあることをやりたいと考え、若い作家が発表する場を提供するなど、つくる側に関わろうと思ったのがきっかけですね。
――井浦さんはもともと美術商だったのですね。ご自身で絵などを描かれていたのでしょうか。
井浦:私自身は絵を描くなどの創作は行っていないのですが、弟が東北芸術工科大学の彫刻コースで勉強し、大学院まで行って美術を学びました。私の実家は昔から続いている古心堂という表具店※なのですが、店は弟が継いでいます。
実家は以前、表具店を母体として、日本画を中心に扱う画廊を経営していました。画廊は25年前にやめたのですが、私がアートを見る時の基準は、近代からさかのぼる美術・芸術を扱っていた実家の影響が大きいと思います。
※表具店……表具とは、布や紙などを張って仕立てる障子、襖、画帖、衝立、屏風、貼り付け壁、掛け軸、巻物、額装などのこと、もしくはそれらを仕立てることを指す。表具店では表具の骨に障子紙や襖紙などを張る。
――現在は、井浦さん・能勢さんのお二人で、AaP/roidworksgallery共同代表という形で運営されていますね。
井浦:私は、2016年から放送を開始した、BSフジで放送中の番組『ブレイク前夜~次世代の芸術家たち~』(毎週火曜日21:55~)のプロデュースをしています。こちらは若い作家を紹介する番組で、7年間で350回程度放送されているのですが、200回目くらいから能勢さんに手伝っていただき、それがご縁になりますね。能勢さんは美術愛好家でありアートコレクターでもあり、また長く美術商を経験されているので、アートプロジェクトに広く関わっていただいています。
能勢:井浦さんから「一緒にやりましょう」というお話があって、2020年から参加させていただいています。参加当初はコロナ禍の最中で、リアルの展示だけだと限界があると思ったので、バーチャルギャラリーやデジタルカタログをつくり、ネットで世界中からアクセスできる形にして、メディアミックスで展開しています。当ギャラリーでは作家が活躍なさっていて、店頭販売が好調ですので、Webの方はプロモーションとして使って実売につなげていますね。
アートコレクター、アーティスト、ギャラリーの三位一体の関係性をつくりたい
――展示はどういった方針で行っているのでしょうか。また、作品はどのような基準で選んでいるのでしょうか。
井浦:例を挙げると、2023年2月から3月にかけて開催する展示「AaP2023 Towards The Future」の出品作家は30歳以下の若手です。「AaP2023 Towards The Future」では、昔からやっている売れっ子作家とは別に、次世代の作家を探すことを試みました。
作品選びに基準はありますし、ブランディングに沿った作品をセレクトするようにしていて、能勢さんと私がピンとくる作品をピックアップしています。
能勢:展示においては、毎回新しいことにチャレンジするようにしています。
作家や作品を選ぶ際は、個性に比重を置きます。なるべく似ていない作家のもので、その中でもギャラリーという一つの空間に置くとまとまりが出る作品を扱っています。
私たちは顧客サイクルを回すことを重視していて、お客様が作品を買ってくださった後、同じ作家の作品を購入いただくのも有難いのですが、違う作家の作品にも興味を持って下さるのが望ましいと考えます。アートコレクターの中には、当ギャラリーで購入した作品専用の部屋をつくりたいとおっしゃる方もいるんですよ。
井浦:私たちは、作家とお客様のコミュニティを大切にしたいと考えています。作家一人ひとりの力も大切ですが、ギャラリーのユニット感も重要だと思っていまして、お客様には作家の人となりをお伝えし、内部で生まれるコミュニケーションを楽しんでいただきたいですね。アートコレクター、アーティスト、ギャラリーの三位一体のような関係性をつくりたいのです。
アートや美術の凄いところは、自分たちが想定していたことを、一つの作品で覆す作家が出てくることだと思うので、「こうでなければならない」ということはないと考えます。一方で、当ギャラリーのセレクションとしては、一定のレベルを維持しながら底上げしていきたいですね。
――ロイドワークスギャラリーで記憶に残る展示や、印象的な作家などはいらっしゃいますか。
井浦:印象的な作家といえば、当ギャラリーのアーティストが全員当てはまりますね。中でも木原千春は、メルカリで1万枚ドローイングを売るという試みをやりまして、今は超売れっ子ですし、根強いファンもいます。
あとは、能勢さんと初めて一緒に展示をやったのが「AaP第一弾 星山耕太郎個展
Psychological Collage II FRAGMENTS」だったのですが、オープンした途端にどっと人が押し寄せたことが記憶に新しいですね。事前に小山登美夫さんと組み、代官山のヒルサイドテラスで「ブレイク前夜展」を実施しておりまして、その時に星山くんもリストに入っており、アートコレクターの中で彼の評価が高かったのが人気の理由です。
――作品を購入される方々は、どういう層なんでしょうか。
井浦:10年くらい前はサラリーマンコレクターが多く、10万円くらいまでの作品が売れていました。この4~5年ですと、会社経営をされている方ですとか、エンジニアで稼いでいる方などの20〜40代の比較的若い層が多くなり、時代を反映していますね。アートコレクターのあり方も変わってきているのだろうと思います。
資産の一環としてアートを組み入れて、買っているうちにアートが好きになり、根強いファンになる方もいらっしゃいます。また、ご自身の好みに加えて応援目的で買って下さる方も多いのですが、そういった方はご自身で勉強されているので、私たちもアートコレクターから情報を得て作品を見に行くこともあります。絵が売れると文化の向上に寄与しますし、作家への応援になりますので、ギャラリーとしても大変有難いですね。
作家の可能性を伸ばし、活動を継続するための後押しを
――今後の展望などはありますか。
能勢:当ギャラリーでは、作家と楽しい時間もつらい時間も共有したいと思っています。一緒にやっている作家は、当ギャラリーに所属していると言って下さる方が多いのですが、私たちとしては、作家をがんじがらめにして可能性を狭めたくないので、契約自体はしていません。だから、海外などの他のギャラリーから、作家にとって良いお話が来たら、できる限り後押しをしたいですね。
井浦:アートを取り扱う場合、その作家の一生を見せるのだという感覚があります。アート業界そのものの調子が良い時も悪い時もありますし、作家自身も人生の中でアップダウンはあるでしょうけれど、ずっと寄り添っていきたいですね。当ギャラリーを基軸に作家の歴史を振り返ることができるような存在でありたいです。
アートはこの3~4年ブームになっていますが、私たちはブームの前から運営しているので、作家といかに持続可能にやっていけるかという点を重視しています。作家との信頼関係を築きたいですし、制作活動を継続するための後押しをしたいのです。一人の作家の中で作風の変化を見るのが美術の醍醐味でもありますから、良い作家たちと長く継続してギャラリーをやれたらいいなと思っています。
info
ロイドワークスギャラリー
住所:〒113-0034 東京都文京区湯島4-6-12 湯島ハイタウンB棟1F
電話番号:03-3812-4712
「AaP2023 Towards The Future」
PART1:2023年2月18日(土)-2月26日(日)
PART2:2023年3月4日(土)-3月12日(日)
時間:12:00-19:00 (最終日は18:00まで)