“税理士ギャラリー”とは?レトロなビルから広がるアートの縁【Kiyoyuki Kuwabara Accounting Gallery】

ライター
中野昭子
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個性あふれる各地のアートギャラリーや画廊を巡りながら、各ギャラリストたちの多様な視点に焦点を当て、アーカイブしていく特集企画「ギャラリー・ライブラリー」。

今回は、東京・馬喰町(ばくろちょう)のアガタ竹澤ビルにある「Kiyoyuki Kuwabara Accounting Gallery(KKAG)」を訪れます。税理士であり公認会計士であるという異色の肩書を持つギャラリスト、桑原清幸さんにお話を伺いました。

Kiyoyuki Kuwabara Accounting Gallery(KKAG)代表 桑原清幸さん

「税理士ギャラリー」という珍しい場所

——このギャラリーは、「KKAG」、Kiyoyuki Kuwabara Accounting Galleryという名前の通り、会計事務所を兼ねています。桑原さんはギャラリストであると同時に、税理士・公認会計士でもあるそうですね。

桑原:はい、過去にはコンサル会社や会計事務所で働いていまして、5年前の2018年に独立開業しました。作家志望の方が多い専門学校で税金や確定申告のセミナーを行ったり、今は任期が終わりましたが、国立系大学の大学院で会計士の資格を取りたい方に向けて教鞭を執っていたこともあります。
ギャラリーを運営する場合、恐らくレンタルギャラリーですと、絶え間なく借りていただくように努める必要があると思いますが、KKAGは会計事務所としても機能していますので、好きなようにできるというメリットがありますね。ギャラリーとしての営業は15時から21時までで、前の時間帯は会計事務所として使っていますので、ここでお客様と税金の話などをしていますよ。

——この空間でお仕事の話をするのは、とても贅沢だと思います。お客様にも羨ましがられるのではないでしょうか。

桑原:ところが、税金関連のお客様の中で、展示されているものには全く言及なさらない方もいらっしゃるんです(笑)。アートは、普段目にしていないと気づかないものなのかもしれませんね。
一方でアートギャラリーと会計事務所を一緒にやることで、思わぬ繋がりができることもあります。先日も、GIN-ICHI(銀一株式会社) さんという、撮影機器を扱っている会社さんから、インボイスのセミナーを依頼されました。そのほか、アーティストさんの税金相談に乗ることもあるんですよ。

KKAGは、すっきりした白い壁に作品が並ぶ素敵な空間。ここで仕事の話をしたら、豊かな気持ちになれそうですね。

——桑原さんは『令和改訂版 駆け出しクリエイターのためのお金と確定申告Q&A』などの書籍も執筆なさっていますし、アーティストさんにとって税金絡みの詳しいアドバイスは心強いでしょうね。税理士さんの運営するギャラリーというのがそもそも珍しいと思います。

桑原:弁護士さんのギャラリーは知っているのですが、税理士ギャラリーというのは、私もここ以外では聞いたことがないですね。

カメラ・写真好きからギャラリー開業へ

——いろいろなお仕事をなさり、お忙しい中でKKAGを立ち上げたきっかけを教えていただけますか。

桑原:5年前に独立開業する際、もともとカメラ、特にライカの収集や写真撮影が趣味だったので、個人事務所と同じスペースでギャラリーを開きたいなあと妄想レベルで考えていたんです。ちょうどその頃、ある銀座のギャラリーで森山大道の作品を購入しまして、オーナーの方に、「税理士ギャラリーというコンセプトで、こういう写真を展示できるような場所をつくりたい」というお話をしたら、いろいろとご協力くださいました。空間デザインをやってくださる方もご紹介いただきまして、このギャラリーにあるインテリアの一部は、その時のアドバイスを活かしています。

空間に馴染む椅子は、フランスの建築家・デザイナーであるピエール・ガーリッシュの名作。こちらはKKAGの空間デザインを手掛けた方のご推薦とのこと。

——KKAGが入居しているアガタ竹澤ビルは、1962年竣工という古い建物で、ギャラリーやおしゃれな雑貨屋さん、飲食店などが入居している素敵な空間です。どうやって見つけたのでしょうか?

桑原:最初は恵比寿や目黒で場所を探していたのですが、なかなか条件に合う場所がなかったんです。そんな中、個性的な物件を紹介するサイト、東京R不動産を見ていた時に偶然この物件を見つけて、当時アドバイスいただいていた方たちにも相談したところ、「ここはいい」とおっしゃっていただきました。
そして入居の申し込みをする際、「なぜ会計事務所がここに」という話になりました。もしかすると、会計事務所単体だとお借りするのは難しかったけれども、ギャラリーを併設することでお借りできたのかもしれない、と思います。
こちらのビルには、数か月前に移転してしまいましたがgallery αM※さんも入っていましたし、近年、ミナ・ペルホネンの直営店であるミナ・ペルホネン・エラヴァⅡが開店して、ますます活性化しています。

※gallery αM……武蔵野美術大学が運営する非営利ギャラリー。30年以上の歴史を持ち、1988年吉祥寺に開設、2002年にクローズした後、2009年にアガタ竹澤ビルに開設、2023年に武蔵野美術大学市ヶ谷キャンパスに移転して新たな活動を展開する予定。

広がり続ける縁 10年継続を目指し、新しい交流も

——展示する作品は、もともと写真がお好きだったこともありますし、写真がメインでしょうか?

桑原:今までは基本的に写真の展示だったのですが、この先イラストの展示も控えていますね。私はモノクロのドキュメンタリー系の写真が好きなのですが、展示するものは好みの範囲に限ってはおらず、いい作品をつくられる方でしたらどなたでも展示いただきたいです。
展示いただく写真家さんに関しては、写真集を一冊はつくっている方、という点を基準にしています。無数にある作品をテーマによってまとめて写真集にする経験がある方は、作家としての力がある方だと思っているためです。写真集は大手の出版社から出している必要はないですし、自費出版でも全く問題ありません。あとはプラスアルファでお人柄、でしょうか。

写真家さんに関しては、写真集を一冊はつくっていることが基準とのこと。その経験が重要なのだそうです。

——展示の方針はあるのでしょうか?

桑原:テーマを決める時に、選択肢がいくつかあるので絞り込みたい、などといったご相談には乗りますが、基本的に作家さんの好きにやっていただく、というのが方針です。作家さんのコンセプトがあるはずですので、好きに表現していただきたいですね。うちの場合、ギャラリーは文字通りのホワイトキューブ、ただの箱でありたいと思っています。むしろ作家さんの邪魔をしないように心掛けていますね。

——今まで、植田正治さんの「植田正治 べス単写真帖 白い風」や、ハービー・山口さんの「時間(とき)のアトラス」など、さまざまな写真家さんの展示を実施しています。一緒に仕事をする方は、どうやってお知り合いになるのでしょうか?

桑原:作家さんから、人づてに教えていただくことが多いですね。例えば、過去になぎら健壱さんの写真展をやったのですが、なぎらさんは写真家の大西みつぐさんにご紹介いただきました。
作家さんご本人とお酒の席でお会いして、企画展のお話になることもあります。例えば以前、渋谷にアツコバルー※さんというギャラリーがありました。KKAGの「夜にお酒を出す楽しい空間」というコンセプトは、アツコバルーさんのコンセプトを参考にさせていただいているのですが、アツコバルーさんでお会いした作家さんの企画展も行っています。KKAGのカウンターにある白いハイチェアは、アツコバルーさんが閉廊される際にいただいたものなんですよ。

※アツコバルー arts drinks talk……渋谷・松濤にあったアートスペース。東北大震災後にアートを通して人が語り合う場所を目指して2013年にオープンし、2018年12月に閉廊、その後は活動拠点をパリに移した。

——ハイチェアは、アツコバルーさんのギャラリーからここに来たものなんですね。ギャラリー立ち上げ時に偶然知り合ったアート系の方たちに関わっていただいたことに始まり、展示だけではなく空間全体が素敵な縁で成り立っているようにも感じます。今後の展望を教えていただけますか?

桑原:2018年にギャラリーを開催して今年で5年になりますので、いったん10年続けることを目指したいですね。あとは最近、2回目・3回目と続く作家さんも増えてきて嬉しいのですが、それと同時に新人さんなど、初めて個展を行いたい方とも企画展もやっていきたいです。

——KKAGは展示だけではなく、いろいろなイベントも開催していますね。

桑原:俳優の写真を撮影する写真家さんの展示では、映画の上映会をやりましたし、私は群馬県出身なのですが、全員群馬県出身の落語家ユニット「上州事変」の方々の落語会も実施しております。
その他、ジャズ関連の写真展だとジャズのライブを行いましたし、なぎら健壱さんや安達ロベルトさんの写真展の際にはギャラリーライブも実施しました。ピーター・バラカンさんには継続的に出前DJをやっていただいています。

——映画や落語や音楽といったイベントを開催すると、さまざまなジャンルのお客さんが集まりますね。そういった方々とお話すると、また広がりが生まれるように思います。

桑原:ええ。この仕事をやっていると、いろいろな世界の方とお話できますし、広く交流できることが醍醐味だと思っています。

photo by 久下典代

info

Kiyoyuki Kuwabara Accounting Gallery(KKAG)
住所:〒101-0031 東京都千代田区東神田1-2-11アガタ竹澤ビル405 桑原清幸会計事務所内
電話番号:03-3862-1780
開館時間:15:00~21:00 (水・木・金・土)
休館日:日・月・火
Twitter @KKAGinfo
FB @KiyoyukiKuwabaraAG
Instagram @kkaginfo
※鑑賞料は展示によって異なる
※展覧会会期中のみ開廊
※最新情報はKKAGウェブサイトにて要確認

「大西みつぐ写真展「町の灯りを恋ふる頃」 -WONDERLAND 1970s-」

2023年5月17日(水)~6月3日(土)
時間:15:00~21:00 (水・木・金・土)※最終日6月3日は18:00閉館
休館日:日・月・火
料金:無料

詳細はKKAGウェブサイト
KKAGでは、ギャラリーレンタルも受け付けています。

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