さまざまな特色を発揮しながら運営されている各地のアートギャラリーや画廊をめぐり、ギャラリストたちの多彩な視点をアーカイブしていく特集企画「ギャラリー・ライブラリー」。
今回は、東京・神保町に2020年にオープンし、2022年には京都市内にもギャラリーをオープンさせた「AMMON TOKYO」を訪れます。オーナーであり自身もアート制作に取り組む横山第悟(だいご)さんに話を聞きました。
私「芸術家になりたい」父「ふざけるな」
——AMMON TOKYOは横山さんが50代で自身初めて開いたギャラリーだそうですね。どういった経緯でオープンされたのですか。
横山 私はもともと芸術を専門的に勉強したわけでもなく、ギャラリーを運営したいという思いを長く持っていたというわけでもありませんでした。ただ、芸術家へのあこがれは昔からありました。子供のころから絵を習っていたこともあって、彫刻が若いころから大好きなんです。子供がプラモデルをつくって遊ぶような感じの延長線で、特にフィギュア製作が若い頃から好きでして、スカルピーっていう粘土があるんですけど、それで原型をつくってシリコンで型を取ってできた型にレジンを流し込んで・・・
——かなり本格的なんですね。
横山 昔流行していた映画の『エイリアン』のフィギュアを作ったり。「モノのかたち」が好きなんです。そんなことで、本当は芸術家になりたかったんですよ。でも親に反対されまして。うちは父親が自分で美容室の多店舗経営などいくつか事業をやっていて、美術の大学に行きたいという話をしたら「ふざけるな」と。それで挫折しました。一度は反抗して自転車で家出までしたんですけど、途中でお腹が空いて帰ってきてしまいました(笑)。
——(笑)。
“賃貸トラブル”がきっかけ
横山 それで結局大学は文系に進んで、卒業後は実家の会社に入りました。その後別の会社で勤めたこともありましたが、父の会社の一つだった不動産店を15年ほど前に引き継ぎました。趣味でフィギュアなどの製作も続けていましたが、これといった夢もなく30代40代と、だらだらと過ごしまして。
50代になってこのままではまずいぞと感じていた時に、今このギャラリーがある場所で20年以上前から商いをされていた古本屋さんが閉店することになったんです。私の会社が不動産屋として管理していたんですが、その古本屋の店主と大家さんが原状回復をどうするかで少し揉めまして。「揉めるくらいなら私がそのまま借りますから治めてください」といって借りることにしたんです。
——「まあまあまあ」という感じで。
横山 はい。で、借りたはいいけど何をしようかと。そのころちょうど20代の頃からの友人である和田画廊(※)の和田(卓也)くんと一緒に、ニューヨークへ行って美術館なんかを巡る機会があったんです。彼とはいろいろ趣味が合いまして。
そのとき、せっかく借りたこの場所で、ギャラリーができないかという発想が浮かんだんです。まあ思いつきみたいなものですよね。でもやっぱり、自分としては芸術家という存在に憧れのようなものがあったし、若いころ目指そうとしてなれなかった悔しさがあったんでしょうね。まだ名前は知られていないけれども、一生懸命頑張っている若手のアーティストを応援できるようなギャラリーにしようと思ったんです。
当初はうちで飼っていたネコの名前にちなんで「UCHIGO and SHIZIMI Gallery」と名付けたのですが、京都にもギャラリーを開いた際に現在の「AMMON TOKYO」と「AMMON KYOTO」に改めました。
悪魔的な魅力を感じさせる作品を
——オープン後は絵画だけでなく、立体を扱った企画展もされていますね。かなり幅広いジャンルを扱っていますが、ギャラリー運営はどういった方針で進められているのですか。
横山 AMMONという言葉にはいくつか意味があるようなんですが、古代エジプトの神の名前でもあり、ヨーロッパの伝承では「悪魔(amon)」を指す言葉でもあるそうなんです。観る人の魂を引き抜くような、悪魔的な美しさを持つ作品を送り出したいという意味を込めています。
私はやはり彫刻が好きなので普段からいろいろな彫刻作品を目にするのですが、たとえば、現代仏師の加藤巍山さん(※)の作品は、観た瞬間に魂を射抜かれたような気がしましたね。とにかく迫力がすごい。私なんかと比較するのはおこがましいですが、私が趣味でつくるようなものは塑像をベースにしているので盛ったり削ったりできますが、彫刻というのは木や石を彫るという作業ですから。巍山さんは本当に天才だと思いますね。
でも立体だけではなくて、平面の絵画作品にもグッとくるものはたくさんあります。和田画廊の和田くんにはエグゼクティブディレクターになってもらい、企画展の構成などを考えてもらっていますが、たとえばいまやっている東京藝⼤の学生でもある唯夏さんの「新家族計画」でも、観る人の魂を溶かすような空気感を感じますね。
私もここをギャラリーにしようと思ったときや、自分の作品を制作しているときには、なんとも言えない衝動のような、自分を中から突き動かすような衝動を感じることがあるんです。そういう衝動を感じさせるような、これからアーティストとしてやっていくんだという、モチベーションがある方をぜひ扱いたいと思っています。
アートへの投資は社会貢献でもある
——書家の金澤翔子さんの個展をされたときには、書を壁面だけではなく上下左右に飾って、空間を立体的に使った展示をされておられましたよね。
横山 そうですね。金澤さんのすごさは、一見バランスを崩しているように見えて全体としてみるとバシッとバランスが決まっている、これしかないというほどに完成された状態になっていることですよね。書の概念をアップデートしているように思います。
金澤翔子氏の個展「天地創造の物語」について、詳しくはこちらからどうぞ(和樂web 子育ては「諦めることから始まる」 書家・金澤翔子を育てた母・泰子さんに聞く二人の歩み)
彼女の個展はAMMON KYOTOでも開催したのですが、会期中に町の人がふらっと入ってきて「山」の字を買いたいとおっしゃってね。店を開くからそこに飾る絵を探していたそうなんですが、金澤さんの字を見て、「これしかない」と心に突き刺さったんだそうです。ギャラリーの良さというのはそういうところにもあるなと感じましたね。だからこそ、ひと目で魂を鷲掴みにするような作品が必要なのではないかと感じます。私も、彫刻家の大森暁生先生(※)の作品に、街を歩いているときにふと目があって一目惚れし、その後弟子入りまでした経験があります。
そんなふうにして、街を歩いていて、ふとアートに出会う機会がつくれるのは、ギャラリーにしかできないことでしょうね。
——国立西洋美術館をはじめ、日本の多くの美術館がさまざまな事業で財を成した人たちのコレクションに原点があることを考えると、アートに興味を持つ経営者がもっと増えたらいいなと感じますね。
横山 そうですね。企業は利益を出すことが目的なので、株主の意見などいろいろ難しいことはあると思いますが、それでもやっぱりそういう心ある人たちがアートに投資をして、若手アーティストを支えて、しっかりコレクションしてあげるっていうことは一つの社会に対する投資というか、社会貢献のような気もしますね。変に投機目的で売買するのではなく・・・まあそれも悪いことではないですけれど。
私はアートのことを専門的に知っているわけではありませんが、モノをつくる人の気持ちっていうのはすごくよくわかるんです。自分が多くのアーティストのパトロンになろうと思っているわけではないし、皆が皆そうなる必要もないとは思いますが、経営者としてもキャリアを積み重ねる中で、アーティストを経済的に支援する人というのは必要なのだろうし、そのために自分ももっとがんばろうと思いますね。
これからもAMMONを通して、さまざまなアーティストたちをできる限り応援していきたいと思っています。
info
AMMON TOKYO
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町2-11-4 メゾン・ド・ヴィレ神田神保町
開館時間:月曜〜日曜10:00 – 18:30
休廊:祝日休廊
料金:無料
AMMON KYOTO
〒604-8004 京都市中京区三条通河原町東入中島町87
開館時間:月曜〜日曜 11:00 – 19:00
休廊:無休
料金:無料
公式サイト
http://www.ammon.co.jp/
DAIGO展
前期: Works 2023年7月21日(金)- 8月6日(日)
後期: Collection 2023年 8月9日(水)- 8月27日(日)
オープニングレセプション: 7/21(金) 16:00~19:00(予約不要)
※8月7日(月)〜8月8日(火)は展示入れ替え期間のため休廊いたします。