藝大アートプラザでは、2024年6月1日(土)〜8月4日(日)の会期で企画展「The Art of Tea」を開催します。
東京藝術大学(藝大)の前身である東京美術学校の校長を務めた岡倉天心(覚三)の世界的なベストセラー『The Book of Tea』(『茶の本』)をテーマとした企画展は、エリアを3つに分け、3つのコンセプトで展示を行います。
ところで、浮かんでくるのは「茶の芸術って何?」「なんでTea(お茶)なの?」という疑問。実は、藝大アートプラザの方針に関わる、深くて熱い理由があるといいます。
藝大アートプラザタイムズ編集長・高木史郎に、本展開催のテーマや概要について語ってもらいました。
会期:2024年6月1日(土)〜8月4日(日)
前期:2024年6月1日(土)〜6月30日(日)/後期:2024年7月6日(土)〜8月4日(日)
※7月1日(月)〜7月5日(金)は展示替えのため休業営業時間:10:00-18:00
※営業日時が変更になる場合がございます。最新情報は公式Webサイト・SNSをご確認ください入場料:無料
会場:藝大アートプラザ(東京都台東区上野公園12-8 東京藝術大学美術学部構内)
出展予定作家一覧
※6月1日〜6月30日は、同空間にて企画展「上出 惠悟展 IZURA」も開催予定です。ぜひご覧ください。
なんでTeaなの? タイトルに込めた思い
藝大アートプラザタイムズ編集長・高木史郎の談
岡倉天心の名著『The Book of Tea』。実は、「Tea」という言葉が入っていますが、中心になっているのは茶道の話ではありません。主に語られているのは、茶道などの中に存在する日本の文化や価値観、ヨーロッパに対する東アジアのあり方についてです。しかし、その第一章は”The Cup of Humanity(人間性の茶碗)”から始まります。一服の茶を通して、西洋や東洋、優劣といった対立軸が消え去り、一つになるような理想を感じさせる章立てになっているのです。
日本に西欧的なアートの概念が入ってきたのは明治以降の話で、それと同時にアートの見方や受容の姿勢なども輸入されました。アートにおける欧米の影響というものは今もなお続いていて、日本人がアートを鑑賞する際、どうしてもファインアート的な見方をして、美術史や現代アートの文脈などと絡めて考えつつ、作品は独立したものだと捉える傾向があります。
しかし、アート作品の見方や楽しみ方を考えた時、私たち日本人が近代以前から受け継いできた、日本人ならではの美の感じ方、楽しみ方が本来はあるはずなのです。岡倉天心は、そのように指摘しています。
「The Art of Tea」を通して日本的なアートの鑑賞方法を探ってみたい。新しい気づきのきっかけを与えられないか。今回はそんな思いを込めて企画展のコンセプトを組みました。
三つの空間からなる展示 テーマは「ハーモニー」
3つの展示は、「ハーモニー」というテーマのもと、以下の3つの事柄を念頭に置いています。
ファインアートを組み合わせることで、三種の相互作用を促す「Art」
茶道具を置くことで、日本の伝統工芸を示す「Teaism」
普段使いの日本茶やコーヒーを置くことで、生活の美を実感する「Teatime」
ファインアートを組み合わせることで、三種の相互作用を促す「Art」
今回は、10人の作家による平面作品5点と立体作品5点、計10点ファインアートを、それぞれ組みにして展示しています。試みたのは、「作品と鑑賞者」「作品と作品」「作品と(展示作品を選んだ)鑑賞者代表」という三つの関係性を成立させることでした。
最初に、「作品と鑑賞者」という関係性について。現代のファインアートにおいては、作品は独立して存在していると思われがちです。しかし、茶道が「不完全なもの」を補う思想だったように、実は作品と鑑賞者は、足りないものを補完し合う関係にあると思うのです。
鑑賞の際、「これは何を言いたいのだろう?」などと考えながら作品に挑むのは、とても刺激的な体験です。また、作品を見て何かを読み取るには鑑賞者が積極的に「観る」必要があるので、参加している気持ちが強くなります。もちろん、これは私の見立てであって、鑑賞者が好きな平面作品と立体作品を頭の中で組み合わせてみてもらってもまったく構いません。そのような楽しみ方を提案しています。
二つ目は、「作品と作品」の関係性。今回はまったく異なる作家の平面作品と立体作品の組み合わせが5組ありますが、作品同士に主従関係はなく、相互に関わり合っています。作品が複数あることでどんな楽しみ方ができるのか、どういった効果が生まれるのかを体感いただければと思います。
そして最後にあるのは「作品と(作品を選んだ)鑑賞者代表」という関係性です。鑑賞者代表とは、今回の展示で言えば、私(高木)自身です。キュレーターと呼ばれるかもしれませんが、私自身、キュレーションした内容に主義や主張を込めているわけではないので、「鑑賞者代表」だと考えています。
今回、鑑賞者代表である私は、日本の床の間を想定して作品を選びました。これは、茶道においてお茶を点てて振舞う亭主のような存在と考えてもらえればと思います。
そのように捉えると、この企画展全体が非常に贅沢な「遊び」であり、風情の異なる茶室を五つ設えた茶事のようなものだと捉えることができるかもしれません。
茶道具を置くことで、日本の伝統工芸を示す「Teaism」
さらに、本展では、茶碗や茶器、釜などといった、藝大の卒業生の手による茶道具を中心とした工芸作品も展示します。現代のファインアートと、工芸の技巧と粋が集結した茶道具を同時に鑑賞、さらには購入できるのは、ここ藝大アートプラザで実施する「The Art of Tea」ならではと言えると思っています。
ファインーアートと工芸は対立的に語られがちですが、工芸作品を「生きた芸術」「使うアート」として生活に溶け込ませることができればとも考えています。
普段使いの日本茶やコーヒーを置くことで、生活の美を実感する「Teatime」
最後に、「The life of Tea」と題したエリアは、日常の中での「Teatime」をアートとともに楽しんでもらうことを意図して、即売コーナーとしてさまざまな作家の作品を並べています。
藝大アートプラザではすでに「LIFE WITH ART」と題して生活の中にアートを取り入れるという楽しみ方を提案していますが、例えば、毎日の暮らしの中で、好きな陶芸家のマグカップでコーヒーを飲むと気持ちが豊かになりますよね。ここでも、日本においてはアートとは生活の延長上にあるものであって、「生活そのものがアート」であることを提示したいと思っています。
一服の茶のようにアートを楽しみ、そしてアートを楽しみながら一服の茶を喫することができるこの空間は、「日本中の言えをアートだらけにする!」「日常そのものをアート化する」という藝大アートプラザが掲げる命題を実現させるために設けた場所でもあります。
共存し、肯定する場としての「The Art of Tea」
このように、本展では三つの展示スペースを設えました。どれもが主従関係にあるわけではなく、アートとはこういうものだと決めつけないで「全部いいよね」と言いたいですね。それは、空間全体の「やさしさ」とも言えるものだと思います。
茶道においては、たとえ大名や将軍であっても、茶室の中では身分の差はなく、亭主と客という関係性の中に組み込まれます。「The Art of Tea」では、分断されてしまったアートの領域や区分を乗り越える、茶室のような空間にしたいのです。そのようにすることで、岡倉天心が示した”The Cup of Humanity”、つまり無数の人間性が一つになってハーモニーを奏でる、という理想を叶える場になればと思っています。
会期:2024年6月1日(土)〜8月4日(日)
前期:2024年6月1日(土)〜6月30日(日)/後期:2024年7月6日(土)〜8月4日(日)
※7月1日(月)〜7月5日(金)は展示替えのため休業営業時間:10:00-18:00
※営業日時が変更になる場合がございます。最新情報は公式Webサイト・SNSをご確認ください入場料:無料
会場:藝大アートプラザ(東京都台東区上野公園12-8 東京藝術大学美術学部構内)
出展予定作家一覧
【前期】
石川 将士/大谷 陽一郎/片岡 操/クリスティーナ ヴェントゥロヴァー/作田 美智子/佐々木 誉斗/佐治 真理子/佐瀬 梓/城田 崚吾/長島 友治/野村 俊介/早野 樹/牧野 真耶/真鍋 由伽子【後期】
奥山 鼓太郎/香久山 雨/北村 真梨子/薦田 梓/重野 克明/田村 正樹/布下 翔碁/福島 李子/森 一朗/山田 雄貴/ヤマモト ヒカル/山本 真衣/吉田 周平/渡邊 一翔【通期】
奥澤 華/ウォーラー カミ/萩原 睦/樋口 唯/渡邊 浩幸※6月1日〜6月30日は、同空間にて企画展「上出 惠悟展 IZURA」も開催予定です。ぜひご覧ください。