「ありがとう」を伝えたくて。楽しくて苦しいけれど、追い求めたい アートアワード2026受賞者に聞く【上垣内若葉氏インタビュー】

ライター
中野昭子
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第20回「藝大アートプラザ・アートアワード」の大賞を獲得した上垣内若葉(うえがいと わかば)さん(美術学部工芸科陶芸専攻)。受賞作「よいしょ -キミのおかげ-」(写真下)は、温かみのある色やすべすべとした質感、味わい深い表情、ユニークな造形が相まって場に明るい雰囲気をもたらし、忘れられないインパクトを残します。

お話を通して、陶芸の魅力や創作にかける思い、作品への深い愛情などが伝わってきました。

上垣内若葉作「よいしょ -キミのおかげ-」
日比野克彦・東京藝大学長をはじめとする審査員の講評はこちらからご覧ください。

悲しみを乗り越える力をくれた「よいしょさん」

――今回の受賞作は「よいしょ -キミのおかげ-」ですが、上垣内さんは、2024年の第18回「藝大アートプラザ・アートアワード」でも「よいしょ」という作品を出品なさっています。

上垣内 私はこの作品全体を「よいしょさん」と呼んでいます。初代のよいしょさんは、当時祖母が亡くなるなど悲しい出来事が重なり、乗り越えられるようにと思ってつくりました。そして2024年の第18回「藝大アートプラザ・アートアワード」に提出したら賞を頂けました。

――思い入れが強くなりますね。

上垣内 よいしょさんは私にとって、とても大切な存在になりました。ただ、大事すぎて二度とつくれないかもしれない、という気持ちもありました。今思えば、守り方が分からなかったんでしょうね。そんな時、インスタグラムのDMで「よいしょさんをつくってください」というメッセージをいただいて、新しいよいしょさんをつくる勇気をもらいました。

――素敵なご縁があったのですね。そもそもよいしょさんは、具体的な動物をモチーフにしているのでしょうか。

上垣内 1種類の決まった動物ではなくて、ラクダや馬など、いろいろなものを連想してつくっています。その方が人によって見方が変わる余地がありますし、いろいろな名前で呼んでいただけると思っています。以前、よいしょさんを「生まれたての草食動物」と形容してくださった方がいらしたのですが、その言葉は自分の中でも腑に落ちました。

――確かにいろいろな動物の特徴を備えていますね。

上垣内 最初のよいしょさんは、デッサンなどをしたわけではなくて、頭の中のストックをつなげてつくりました。きれいな脚やかわいいお尻、すんなりしたお腹や首のラインなどをつなげていったんです。2作目のよいしょさんは1作目をエスキース(素描)してつくっています。どちらも楽しそうな雰囲気になってくれました。

支えてくれた人への感謝の印

――初代のよいしょさんと、今回のよいしょさんは違いがあるのでしょうか。

上垣内 今回のよいしょさんは、アドリブで角をつけました。他に新しくつけたものとして、体に象嵌で模様を入れて福島の土を入れているのですが、柄は私の名前「若葉」に由来する植物の模様にしました。今回のよいしょさんは2年前のものに比べると1.5倍くらいの大きさです。

風になびくようにも、炎のようにも見える角もチャームポイント。

上垣内さんの名前に因んだ「若葉」の模様も、溌溂としています。

――大きくて頼もしくなりましたね。

上垣内 昔のよいしょさんも、いろいろな方に支えてもらっていることを象徴していたのですが、今回は前よりもっと元気な印象にしたいと思い、今にも走っていきそうな感じにしました。「ぼく、ここまで大きくなったよ」と言っているような、見る人にもう大丈夫だな、と感じてもらえるような子になったと思います。

――新しくつくってみて、どうでしたか。

上垣内 今回のよいしょさんは、この作品を見ていただいた方や身近に置いて下さった方など、関わって下さった全ての方にお礼をしたいという気持ちでつくりました。是非、いろいろな方に鑑賞いただきたいと思っています。
今、私は大学4年生なのですが、3年生の時に実家を出て自立を意識するようになったので、その影響も出ていると思います。両親には『あなたは3歳児だから』と言われるのですが(笑)、両親なくしてはよいしょさんは生まれなかったので、もう心配しなくても平気だと思ってもらいたかったし、心から『ありがとう』と伝えたかったんです。だからよいしょさんが無事に出来上がって大賞もいただけて、とてもうれしいです。

――今後もよいしょさんを制作されるのでしょうか。

上垣内 初代のよいしょさんと今回のよいしょさんは、既に購入してくださった方がいらっしゃって、今は別のご依頼で新しいよいしょさんを制作しています。また、他の方からもほしいとおっしゃっていただいているので、その分もつくります。ご依頼が全て終わったら、小さめのよいしょさんをつくってお礼として皆さんに届けていきたいです。

土に触れ、自然とつながりたい

――よいしょさんを始め、制作方法などを教えていただけますか。

上垣内 最初のよいしょさんは野焼きでつくりました。野焼きは割れやすいのですが、よいしょさんは燃えさかる火の中で懸命に立ちあがり、奇跡的に壊れていない姿で私の手元に戻ってきてくれました。その姿に元気をもらったんです。
ただ、野焼きで薪を使うと体調が悪くなることがあるので、今回賞をいただいたよいしょさんは電気窯を使い、陶製の箱の中に籾殻や木屑を入れ、薬品をかけて色をつけ、野焼きに近いテイストで焼きあがるように試みています。この2年間で電気窯の制作でも野焼きに近い色を出せるようになったので、前向きに考えれば、自分の成長の証でもあるのかなと思っています。

よいしょさんの制作過程。既にのびのびとした魅力があります。

籾殻や木屑と共に、電気窯に詰められるよいしょさん。

――野焼きが好きなのはなぜでしょうか。

上垣内 私は「自然」という言葉も自然そのものも好きで、制作の時は自然に身を任せて、なるべく自分で選択しないように心がけています。
野焼きは自分で操作できないところが多く、自然に任せることができて、仕上がったものに自然の表情があらわれるので良いなと思いますし、一番自分に馴染む方法だと感じています。野焼きの、「自分でつくっているけれども、自分でつくれない」部分を大切にしたいのです。ただ、日本は地震が多いので、壊れやすい野焼きはあまり現実的でないですし、今後どうしていくのかは課題にしています。

――昔から陶芸が好きだったのですか。

上垣内 小学校高学年の時に藝大の鍛金のワークショップに参加して職人への憧れを抱き、金工、特に鍛金を学ぶことができる高校を選びました。そして大学に入ると、陶芸の三上亮教授は自然とつながっていらっしゃる感じがして憧れを抱きました。結局鋳金と陶芸どちらにするか迷ったのですが、いつの間にか陶芸に心を持っていかれました。特に土が好きで、粘土を掘って制作するのが生きがいになっています。

――確かに上垣内さんの作品は、土の肌合いが生きていますよね。

上垣内 陶芸の全ての行為が腑に落ちるのです。陶芸は籾殻で色をつけるなど、植物を使って色を残せるところもいいですね。金属は道具を介さないと直接触れないのですが、陶芸は手で触れた部分がすぐに形になるのも魅力だなと思っています。

――道具を使うことに違和感があるのでしょうか。

上垣内 言いあらわすのが難しいのですが、金工で金槌などを使って作業をしていると、自分の作品ではない感じがしてしまいます。過去に自分の指先だけをつかって「妖精さん」という作品をつくったのですが、これは自分のやりたかったことだと実感しました。多分私には、思いを直接残すこと、そのままつくること、作品とつながることが重要なんだと思います。よいしょさんも道具はなるべく使いすぎずに、磨く時も自分の手のひらを使ってみたりしました。

「妖精さん」。自然の温かさや愛らしさを体現しているような、ユニークな作品です。

――藝大では道具を使った技術を学ぶのでは?

上垣内 そうですね、ただ技術は大切ですが、作品をつくる上でのツールだと思っています。技術を学んでつくることもあるのですが、そうすると反動で別の作品を創作したくなります。例えば授業の一環で、磁土の作品に道具を使って彫り込む作業を行っていたのですが、反動で直接指を使う作品をつくりたくなりました。

――陶芸の場合、窯という道具を使いますよね。

上垣内 窯は陶芸において重要ですし、悩みどころではあるのですが、なるべく野焼きに近い形で制作するようにしています。釉薬にも少し違和感があり、誰かの手でつくったものを自分がそのまま使っていると、道具を使っているのと同じ感覚に陥ります。ですので石をすり合わせるなどして自分で釉薬をつくるか、もしくは釉薬をかけずに発生する自然釉を生かして作品をつくりたいと思っています。自分の力で自然に近い状況を再現したいのです。

――ご自身の感覚に合う方法や手段を探しながら制作するのですね。

上垣内 そうですね。うつわなどもつくりますが、制作に集中するというよりも、いろいろ試みながらつくっている気がします。
陶芸は1人につき1技術あると言われていて、無数の選択肢があります。自分に合う技術を追い求めるのが、楽しくて苦しいです。

アートとは「人生において、やらなければならないことの1つ」

――上垣内さんにとってアートとは、どのようなものですか。

上垣内 息をすることの次くらいに行いたいもので、無くてもきっと生きていけるけれどあってほしいもの、人生を楽しく生きていく上で必要なもの、でしょうか。私にとっては、自分の感情を表出するための1つの媒体で、ないと自分らしくいられないもの、だと思います。美術館へ行っても見て満足するだけではなくて、自分の創作にどう生かすかを常に考えている気がします。あと、誰かのためにつくったものは、別の方にも喜んでもらえることが多いのもやりがいですね。

――今後の予定を教えてください。

上垣内 今は進学したいと思っています。なんだか不思議なのですが、心のどこかでアートは「人生において、やらなければならないことの1つ」だと感じていますので、いずれ卒業したら安定して生活ができるようにしつつ、創作を続けていきたいですね。

【上垣内若葉(うえがいと わかば)】
2021 東京藝術大学美術学部工芸科入学
現在、東京藝術大学 美術学部4年 工芸科陶芸専攻 在籍中

Instagram:https://www.instagram.com/jaku_yo

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