あのミシュラングリーンガイドで二つ星を獲得!「谷中霊園」は歴史的価値と豊かな自然が両立する場所だった

ライター
中野昭子
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東京の日暮里駅から谷中方面に向かうと、たくさんの木々が見えてきます。高層ビルや東京スカイツリーに囲まれながらも、緑を楽しむことができるこの不思議な空間は谷中霊園(やなかれいえん)。多くの著名人が埋葬されていることで有名なこの場所は、平成27(2015)年のミシュラングリーンガイドで二つ星を獲得しており、立ち寄る価値のある場所として評価されている稀有な霊園でもあります。

今回は、都心にあって駅から近いという利便性と、歴史的な価値と自然の豊かさを兼ね備えている谷中霊園のなりたちや名所をご紹介します。

谷中霊園ってどんな場所?
広大な敷地に深い歴史が潜む霊園

およそ7000基の墓石がある谷中霊園の面積は約10ヘクタール。東京ドーム2個がすっぽり入る、広大な敷地です。

広大な霊園の真ん中を貫く中央園路を歩いていると、天王寺が目に入ります。谷中霊園の起源は、この天王寺に深く関わっているのです。

天王寺はもともと感応寺という名前で、創立は鎌倉時代にさかのぼります。法華宗を開いた日蓮上人が谷中の地に泊まった際、宿泊先の家主の妻がお産で苦しんでいました。そこで日蓮上人がしゃもじに曼荼羅経を書いて妻に触らせると、子どもは無事に生まれたそうです。感謝した家の主人が草庵をつくり、しゃもじと像を祭ったのが感応寺の起源と言われています。

この感応寺は、江戸幕府第5代将軍・徳川綱吉に、富くじ(今でいう宝くじ)の興行を許されました。湯島天神・目黒の不動尊・感応寺の富くじは「江戸の三富」として流行したそうですが、感応寺は最も人気があり、売り出しの日には一獲千金を夢見る人々が殺到したそうです。当時は敷地付近に茶屋も並んでいたそうですので、参拝客の休憩所として賑わったことでしょう。なお、感応寺は江戸時代に天王寺と改称されました。

その後、明治7(1874)年に東京府が天王寺の敷地等を引き継ぎ、谷中墓地として官営化し、公共の墓地としました。そして昭和10(1935)年に谷中霊園と名称を改め、今に至ります。谷中霊園の区域は、寛永寺や天王寺の墓地が入り組んでおり、霊園全体が非常に複雑になっています。

谷中霊園案内図を見ても、霊園が複雑な形になっているのが分かりますね。

二代歌川広重の浮世絵にも登場した情景の跡地
貴重な史跡や桜の名所を堪能

谷中霊園の敷地内の中央付近では、幸田露伴の小説『五重塔』のモデルとなった天王寺五重塔跡を見ることができます。

この塔は感応寺の塔として建てられ、江戸期の大火で燃えてしまいますが、総けやき造りの大変立派な塔として再建され、江戸のシンボルとして謳われました。その後、五重塔は東京市に寄贈され、震災や戦災に耐え、谷中のランドマークとなっていましたが、残念ながら昭和32(1957)年に谷中五重塔放火心中事件にて焼失してしまいました。なお、天王寺五重塔跡は都指定史跡となっています。

天王寺五重塔跡。看板の写真で焼失前の姿を確認することができます。

谷中霊園の中央園路は通称「さくら通り」と呼ばれ、その名の通り、左右に約170本もの桜が植えられています。ここは桜の名所として有名で、春を迎えるとまるで桜のトンネルを通っているかのような幻想的な情景を楽しむことができます。

春の中央園路は、夢の中の光景のようですね。

桜の大半はソメイヨシノですが、ソメイヨシノよりも1~2週間遅く開花し、浅黄緑色の八重の花を咲かせる桜・鬱金桜(別名:浅黄桜)も鑑賞することができます。なお、この鬱金桜は江戸期の浮世絵にも登場しており、「東海道五十三次」シリーズで有名な初代歌川広重の門弟、二代歌川広重の手による『江戸名勝図会 天王寺』に「谷中天王寺…中略…境内に桜木多し、なかんずく浅黄桜の名木あり」という記載があり、画中に天王寺五重塔と鬱金桜が描かれています。

広重『江戸名勝図会 天王寺』国会図書館デジタルコレクション

園内の鬱金桜は平成に入ってから植樹されたもので、二代歌川広重らが見ていたものとは異なりますが、江戸時代の情景を想像しながら鬱金桜を鑑賞するのもまた一興ですね。

園内の鬱金桜を紹介する看板。

あの芸術家や小説家、俳優や政治家や学者が!
至るところに著名人たちの名を発見

多くの幕末・明治以降の著名人や歴史的人物が眠っていらっしゃるのも谷中霊園の特徴。芸術関連であれば、東京藝術大学に統合された東京美術学校の第1期生であり、同大学の助教授にもなった日本画家の横山大観、小説家では獅子文六、俳優では長谷川一夫、政治家では鳩山一郎、学者では牧野富太郎、実業家では渋沢栄一など、そうそうたる人々の墓碑が集結しているのです。

墓石も、石自体が美しかったり、彫刻のような加工がなされていたりと、実に個性豊かです。お墓は、ご本人ではなくご遺族が建立しているものが多いと思いますが、後世に名を残し、来訪した人に名を知らしめる大切なものであることを実感します。

桜や史跡、著名な方の墓碑など、見どころ盛りだくさんの谷中霊園。都立霊園の公式サイトから詳しい情報や地図を入手できるので、事前に閲覧しておくと参考になるでしょう。なお、来訪時には谷中霊園管理所に立ち寄って、無料の地図を入手するのもお勧め。地図をチェックすれば、迷わずに巡ることができるでしょう。地図が手元にない場合、園内には案内板があるので、そちらを頼りにすることもできます。

谷中霊園管理所の前にある看板。

お出かけスポットとして非常に魅力がある谷中霊園ですが、そもそも霊園は故人が眠っていらっしゃる慰霊の場であることをお忘れなく。ご遺族の要望により公表を控えている墓所や、許可なく入ってはいけない場所もあるので、マナーを守って散策を楽しんでいただければと思います。

谷中霊園 基本情報

住所:〒110-0001 東京都台東区谷中7丁目5−24

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