上野にもうひとつの動物園が出現!企画展「Art Jungle 藝大動物園」鑑賞レポート

ライター
浮世離れマスターズつあお&まいこ
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浮世離れマスターズのつあおとまいこの2人は、東京藝術大学の一画にある藝大アートプラザで「Art Jungle 藝大動物園」というテーマの展示を見る機会を得ました。「えっ? 東京藝大にはジャングルがあって、動物みたいな学生がたくさんいるのか」などと藝大出身の知人の記憶を手繰るつあおとまいこ。ところが、よくよく聞いてみると、藝大の近くにある上野動物園がコロナ禍で休園していた間に、せめて藝大でその代わりになるようなことはできないか、という発想があって生まれた企画展示であることがわかりました。そこで見たのはどんな「動物」たちだったのか…。

撮影/五十嵐美弥(小学館)

えっ? つあおとまいこって誰だって? 美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生がぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」を結成。さて今日はどんなトークが展開するのでしょうか。

今回は2022年4月23日(土)から開催中の企画展「Art Jungle 藝大動物園」をレポートします。

インコラバーの血を感じる

(左)須澤芽生『Brilliance』 絹、膠、墨、岩絵具、箔、泥
(右)須澤芽生『Glimmer』 絹、膠、墨、岩絵具、箔、泥

つあお:鳥、鳥、鳥…鳥がいっぱいいる楽しい絵を描く作家さんですねぇ。

まいこ:右側の絵の真っ赤なほっぺの鳥は、オカメインコです。よく見るとたくさんインコ系の鳥がいますね!

つあお:ほんとだ。何羽いるんだろう?

まいこ:ざっと数えたところ、7羽です。

つあお:おお! 下のほうに描かれているのは、お花かと思ってた。鳥だったんだ!

須澤芽生『Glimmer』

まいこ:上のほうの2羽は、尻尾だけしか見えません!

つあお:画面全体に、そこはかとなくハッピーな雰囲気が漂っていますね。

まいこ:下のほうのインコは眠っています。このようにくちばしを羽に埋めるのは、インコが眠るときのポーズなんです!

つあお:そうなんだ! まいこさんはインコに詳しいですね。

まいこ:6年間セキセイインコを飼ってましたから! この眠ってるインコのようにブルーでとってもかわいかったんですよ!

つあお:そうかぁ。この絵もまいこさんと同じくインコ愛に満ちあふれてますよ!

まいこ:インコラバーの血を感じます!

つあお:それでね、この絵は日本画の岩絵具で描かれているんですけど、とっても暖かい感じがする。それがすごくいいなぁと思うんです。日本画ウォッチャーのたわくし(=「私」を意味するつあお語)は共感しました。

まいこ:日本画というと格調が高い感じがしますが、パステル調の柔らかい色が多いから、なんだか親しみやすい!

つあお:うんうん。すごく親しみやすい。この額も絵とすごく調和してる。

まいこ:そうですね! 見るからに癒される自然の木の感じ。鳥さんたちが住んでいる雰囲気も出ています。

つあお:日本画でこういう淡くてふわふわした感じが出るんだったら、たわくしもちょっとやってみたいなあ。

まいこ:やってみるって、岩絵具とかで描くってことですか?

つあお:そうです。きっと、愛をこめて描けばこんな表現ができるに違いない。なんちゃって。

まいこ:出た! 愛(笑)!

須澤芽生『Brilliance』

つあお:たわくしは、この大きな孔雀の絵も、愛を込めて描かれているなぁと感じますよ。

まいこ:どのあたりに、特に愛を感じるんですか?

つあお:ハートフルな色がにじみ出てるし、ちょっとふくよかなところもいいなぁ。

まいこ:なるほど! いいものをたくさん食べてハッピーにちょっとぽっちゃりって感じですね!

つあお:この絵の作者の須澤芽生さんは、江戸時代の絵師、円山応挙の研究を大学院でしたそうですが、応挙が描いたすごく鮮やかな孔雀(例:『孔雀図』MIHO MUSEUM蔵)とはまるっきり違っているところがかえって面白い。

まいこ:そうですね。現代的な多幸感にもあふれています。

つあお:なんか、ボアボアなところがいいですよね。

作家のコメント
須澤芽生/私は昨年度まで博士研究で円山応挙の孔雀図の制作技法について研究しました。
その中で自然界の装飾美を極めたような孔雀の美しさに改めて気づき、また応挙がその美を日本画の伝統的な素材を使用してなんとか表現しようとした姿勢を追体験しました。今回の展示では私自身が岩絵具や金箔を使用して、実際の色に囚われず、もう少し自由に孔雀や鳥の優美な姿を表現しました。​​

犬の耳に聞こえる「静寂の音」とは?

平良光子『The Sound of Silence』 樟、彩色

つあお:ところで、この変な彫刻は何なのだろう?

まいこ:毛深い耳ですね。

つあお:うわー、耳だったのか!

まいこ:毛深い耳がにょきっと出ていると、『赤ずきん』の狼を思い出します。「おばあさんの耳は、ずいぶんと大きいのね」と赤ずきんが話しかけると、「そうとも、お前の言うことが、よく聞こえるようにね」とベッドの中のオオカミが答えるあの場面です。

つあお:おお、これは狼だったのか!

まいこ:でも、解説パネルには「犬」って書いてありますね。

つあお:ずいぶん立派な犬だったんですね。

まいこ:何を聞いているのかな。

つあお:しかし、顔の部分がない犬って、すごくいろんなことを想像させますね。

まいこ:若いのか年取っているのか、目がくりっとしているのかたれ目なのかとか…。

つあお:たれ目の犬(笑)。

まいこ:そうすると、ちょっとやさしそうかなと思って。

つあお:確かに、犬ってあるときは勇敢だけど、あるときはすごくかわいいし、あるときはすごくやさしいことがありますよね。

まいこ:私が飼っていたパッピくんの耳は、鈍感なほうだったけど私よりよかったと思います。

つあお:犬といえば嗅覚がすぐれているイメージがありますが、鼻はどうでしたか?

まいこ:鼻も私よりはよかったはずなんですけど、落ちた食べ物とかうまく見つけられなかったから、あんまりよくなかったかも。

つあお:それは、犬としては珍しそうだけど、かわいいなあ。

まいこ:ドジだから余計かわいいですね。

平良光子『The Sound of Silence』を後ろから見たところ。

つあお:この彫刻の犬は、柴犬とかですかね。

まいこ:毛足が長いので、ひょっとすると洋犬なんじゃないかなと思います。

つあお:そうか。なんとなくこの耳だけ見てると、ヨーロッパの険しい山脈みたいな感じもするし。

まいこ:確かに、雪山のようにも見えます。やまびこが響き渡っているような。

つあお:おお、すごい。何となく、すごく慕わしい声でほえている様子が頭の中に浮かんできましたよ。

まいこ:『The Sound of Silence』というタイトルを見ると、静寂の中にいる耳みたいですね。

つあお:おお、サイモン&ガーファンクルの名曲の曲名だ! たわくしが子どもの頃、ギター弾きながら一人で歌ってた曲です。一致したのは偶然かもしれないけど、いいタイトルだなあ。

まいこ:作家の平良光子さんの言葉が書かれたパネルを見ると、耳が聞こえなくなった老犬の平穏な静寂を形にしたのだとか。静寂の音ってどんな音なのでしょうね。

つあお:想像力をかき立てますね。素晴らしい。

作家のコメント
平良光子/彼女は繊細で、聡明で、とても臆病な犬でした。どんな時も耳を澄まし、小さな物音も聞き逃しません。しかしある時から、名前を呼んでも、ドアホンがなっても、反応が遅れるようになってきました。年齢とともに聴力が衰えてきたのです。
はじめは動揺しているようでしたが、次第に昔より穏やかに昼寝を楽しむようになりました。最早隣人の声も遠雷も、彼女を煩わせることはないのです。聴力を失い、彼女はあらゆる不安から解放されたようでした。
今、彼女の耳は全く聞こえていません。静けさとは、どのような音でしょうか。世界はいつも、恐れと喧騒で溢れかえっています。
この作品は、ある一匹の老犬の耳に流れる平穏な静寂を形にしたものです。

まいこセレクト

杉山佳
(上、左から)『夜』『シカのツノ』『ツキノワグマ』 麻紙、岩絵具、膠、クレヨンほか
(下、左から)『いろいろなねずみ』『ヘラジカと森林』『すすきみみずく』 プリンタートレイ、陶器、岩絵具、膠、色鉛筆ほか

藝大動物園の中で、一番私にアピールしてきたのはこの動物たちです。ツキノワグマやフクロウ、ネズミなどのコミカルでかわいい部分を極限までシンプルにして描いているから。
岩絵具のような顔料をたっぷりと使って、ザラザラとして分厚い質感を出しているところも好きです。ガリっとかじったら、ふんだんなバターとザラメの甘さが口いっぱいに広がり、ちょっと変わった動物のフレーバーがついていたりして? そんな想像も広がって楽しいので、家に飾っておきたいアートな動物たちです。

作家のコメント
杉山佳/和紙にクレヨンで線を引いて、その線を塗り残すように岩絵具をたっぷりと塗って制作しています。
クレヨンは勢いの良い線が引ける代わりに細かく細密に描けません。なので対象がそれとわかるギリギリの、シンプルな形を探して描いています。
形が決まればあとは岩絵具の質感に頼ります。
心地よい絵肌になったらそこで手を止めます。形が良いときは余計なことをしなくて良いので、比較的はやく手が止まります。

つあおセレクト

東條明子『春を待つ』 樟に彩色

何の変哲もないペンギン…なんてことは全然ない、動物としての温もりを感じる彫刻です。木彫特有の彫り跡が、寒冷地で体を守る毛並みになっているのは、実はすごく見事な表現だと思うのです。曲面の取り方も絶妙。実際の動物の体の動きの変化の一瞬を捉えている。さらに横から見て、改めて温もりの理由がわかりました。子連れだったのです。ただかわいいだけではなく、ペンギンの体から発現したかのようなリアリズムを感じました。そしてそれが実は木彫であるという意外性も鑑賞者の意識を揺さぶってくれるのです。

作家のコメント
東條明子/そっと吹く春の風のように身体を包み込んでいる。孤独はいつもそこにあるもの。待ち続ける子供は凛として愛おしい。

番外編

VIKI『1$ No.005』『1$ No.004』『1$ No.003』 木製パネル、グラスオーガンジーにアクリル、シルクスクリーン

「動物園」になぜ人間がいるのか? 「人間も動物だから」だそうです。しかし、この人間たちは少々変わっています。ネットで見るアイドルの粗い画像のドットが欠け落ちたような…。動物園で来園者が動物を鑑賞をするのと同様、ネットで人々はアイドルたちを鑑賞します。しかし、ひょっとするとそれらは虚像ではないのか? そんなことを考えさせてくれる作品です。

つあおのラクガキ

浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。​​

Gyoemon『猛暑対策:雪だるまをつくっていたら、雪だるまになってしまったパンダ』

やはり上野といえばパンダでしょう。今年も猛暑になるかもしれません。でも、このパンダがいれば安心です。

展覧会情報

企画展:Art Jungle 藝大動物園
会期:2022年4月23日(土)- 6月26日(日)11:00〜18:00
※月曜休(祝日は営業、翌火曜休業。GW期間中は5月2日(月)のみ休業)
住所:〒110-8714 東京都台東区上野公園12-8 東京藝術大学美術学部構内​​ 藝大アートプラザ

アイキャッチ画像撮影/五十嵐美弥(小学館)

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