旅をするとき、あなたは何を目的にするだろうか。
わたしの場合、そのまちのふだん着の姿を見ることだ。観光名所やモデルコースにはあまり興味がなく、いちばん体験したいのは、そのまちに暮らす人が日常使いするような店で買い物したり、お茶をしたり、ごはんをいただくこと。なんと言っても、まちの人と交流するのがいちばん楽しい。
だけどそれって、場所によってはとてもむずかしい。たとえば観光地では、一般的なガイドブックやウェブで紋切り型のガイドが溢れている。いくら調べても同じような場所しか出てこないというのはよくある話だ。
旅に出る準備の段階で、現地のリアルな情報を手に入れようとするのは案外むずかしい。ウェブやSNSが発展した今だからこそ、情報が溢れていて見つけにくいといった面もあるだろう。
谷中エリアも、そのひとつではないかと思う。お店はたくさんあって、情報も溢れている。けれど、自分にマッチするところはどこなんだろう?
そんな手がかりとなる宿泊施設が「hanare」だ。
「HAGISO」が手がける宿泊施設
2015年にオープンした「hanare」は、通称萩寺と呼ばれる宗林寺の隣に位置する、最小文化複合施設「HAGISO」が運営する宿泊施設だ。
もともとアパートだった「HAGISO」の1Fはギャラリーとカフェになり、その2Fには「hanare」のレセプションがある。
でも、ここにあるのはレセプションだけ。いったいどういうことかと思えば、「hanare」のコンセプトは「まちやど」だという。
「まちやど」とは
「まちやど」は、まち全体をひとつの宿として見立てる。レセプションとなる施設を基軸に、宿泊施設、銭湯、飲食店、ギャラリーなど、そのまちにすでにある施設が「やど」の持つ役割をそれぞれ分担しており、まち全体で宿泊客をもてなす。
そのコンセプトは、「hanare」での宿泊を通じて疑似体験してみよう。
「hanare」で過ごす、谷中の一日
レセプションでチェックイン
レセプションでは、個性の光るコンシェルジュが出迎えてくれる。
コンシェルジュは、ゲストが抱える旅の目的や知りたいことを会話から察知し、それぞれが求めている知られざるまちの情報を提供する。そこにマニュアルはなく、オーダーメイドのガイドだ。地名の由来やまちの特徴まで教えてもらえる。それに、あらかじめ希望すれば、コンシェルジュと一緒に谷根千のまち歩きツアーもできるという。
ゲストには「ここが好き!」というポイントを聞き、それを踏まえて、「hanare」だからこそ知れる、検索できないようなまちのいいスポットを伝えるそうだ。たとえば、路地が好きな人だったら、いい雰囲気の路地なんかも案内してくれる。
まちあるきが何倍も楽しくなる「hanare」オリジナルマップもプレゼントされる。
アメニティも充実し、銭湯に欠かせない手拭いや日記までセット。ふだんアナログなノートから離れている人も、旅の記録を残そうという気持ちになれるのではないだろうか。
宿泊棟で荷物を下ろして休憩
谷中のまちなかにある宿泊棟へ向かおう。
どこか懐かしさが感じられる畳敷きの部屋が心地いい。昭和レトロなすりガラスが残されている部屋もある。
お風呂は地元イチオシの銭湯へ!
ホテルの大浴場の役割を担うのは、まちなかの銭湯。
現在は、谷根千の3軒の銭湯から好みで選べる。
ディナーは谷根千の人気店へ
夜ごはんの候補はコンシェルジュに相談してみよう。ふだん使いの居酒屋からお洒落なレストラン、町中華など、谷根千にはバリエーション豊富な選択肢がある。
朝ごはんは「旅する朝食」を
朝ごはんは「HAGI CAFE」がモーニングで提供する「旅する朝食」を。
全国の都道府県をフィーチャーし、そのラインナップは変わる。その土地ならではの朝食メニューが提供され、ゲスト以外でもオーダーすることが可能。首都圏に住む友人を朝から呼び出して一緒に朝食を食べるのも楽しいかもしれない。
BGMにも耳を傾けてみよう。「Good morning ears」と表されたモーニングタイム用の音楽は、スタッフや常連さんがセレクト。セットリストがもらえるのも嬉しい。
リピーターの多い理由
実際に宿泊されたゲストからお手紙が届いたり、宿泊後のアンケートの回答率も高いという。何度も遊びに来てくれるゲストも多いのだとか。
その理由は、コンシェルジュの手腕によるものが大きいのかもしれない。
「目の前のゲストを楽しませるには、自分は何ができるかをいつも考えています」と話すのは、「hanare」コンシェルジュの坪井美寿咲(つぼい みずき)さん。
誰もが知るエンターテイメント施設のホテルでの勤務経験を活かしつつ、マニュアルにとらわれない接客に心を尽くす。
「hanare」でのコンシェルジュは、まちとひとをつなぐ役割を持つ。通り一遍のガイドではなく、毎日オンリーワンのゲストのために、旅先での心地よさと新たな発見を提供する。
でも、サービスを受ける側、受けられる側という関係性だけではなく、コンシェルジュ側も一緒に楽しもうとする姿勢だからこそ、旅から戻ったゲストからお礼の手紙が届くことが絶えないのだろう。
ここへ泊まったら、きっとあなただけの谷根千のまちの姿が浮かび上がってくるに違いない。
hanare 基本情報
住所:東京都台東区谷中3-10-25 HAGISO 2F
電話:03-5834-7301
公式サイト:https://hanare.hagiso.jp
参考図書:『日常』一般社団法人 日本まちやど協会