皇室ゆかりの名品と東京藝術大学のコレクションを鑑賞できる展覧会、特別展「日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱」が、9月25日(日)まで東京・上野の東京藝術大学大学美術館にて開催中です。
8月30日(火)からは後期展示がスタート。珠玉の名品がズラリと並ぶ後期展示の見どころをご紹介します。
なんといっても伊藤若冲『動植綵絵』
この特別展は、宮内庁三の丸尚蔵館が収蔵する皇室の珠玉の名品・優品に、東京藝術大学のコレクションを加えた全82件を通して、日本美術の流れをたどるもの。奈良時代から昭和にかけての日本美術を、「美の玉手箱」のひもを解くようにして楽しむことができます。
8月30日(火)からの後期展示の見どころは、なんといっても奇想の絵師と呼ばれる伊藤若冲(じゃくちゅう)の『動植綵絵(どうしょくさいえ)』でしょう。
昨年、国宝にも指定された『動植綵絵』は、若冲が40歳頃から約10年をかけて筆を執り続けた大連作。若冲の画業の中心を成すもので、若冲は全30幅を臨済宗相国寺(京都)に数度に分けて寄進しました。さまざまな植物、鳥、昆虫、魚貝といった生き物たちが、瑞々しい生命感をもって描かれています。
今回は全30幅のうち10幅を公開。国宝指定後初の公開となることに加え、これだけの数を一度に鑑賞できる機会はめったにないため、貴重な展示となっています。
「再発見」された才能
1716(正徳6)年、京都にある青物問屋の長男として生まれた若冲は、ほぼ独学で絵を学び、生涯にわたって筆を執り続けました。
しかしその存在は近年になるまでほとんど注目されることがなく、再評価されたのは1970年代に入ってからのことです。2000(平成12)年に若冲没後200年を記念して京都国立博物館で開催された大回顧展や、その数年後に東京国立博物館で開かれた特別展などで大ブームとなり、以来注目を集め続けています。
若冲の作品の魅力はやはりその緻密さと鮮やかな色彩でしょう。
彼が好んで描いた鶏を雌雄で描いた『紫陽花双鶏図』は、仔細に見ても塗り重ねられた箇所がまったく見当たりません。
ミラクルワールドとも言われる若冲の色彩は、質の高い岩絵の具をきめの細かい画絹(がけん)の上に何度も薄く塗り重ねるという常人離れした気力と気迫、さらには商人としての経済力を作品づくりにつぎ込んだことから生まれているとも言えるかもしれません。
今展では、こうした色彩の中でも彼が特にこだわった白の色彩をじっくりと鑑賞することができるよう、10幅の展示ケースの照明を調整し、鶏の羽や花弁をより際立たせる工夫を行っています。
誰もが一度は教科書で見たことのある作品
この展覧会は江戸時代に限らず、奈良時代から現代までの日本美術を一つの流れとして追えるように展示がされています。
日本に洋画の技術が輸入されたのは、幕末から明治のこと。当時は国内でカンバスなど油絵に必要な画材を調達すること自体が困難でした。こうした日本における洋画の草創期に活躍し、日本人洋画家の草分けとなった高橋由一は、あえて身近な魚である鮭を画題に選び、油絵という当時の日本人にはまだ馴染みのなかった絵画の普及・浸透を図りました。
重要文化財『鮭』は、写実的な筆のタッチの中に東洋画で培ったと思われる彼の技術を見ることができ、洋の東西の技法が折衷したリアリズム絵画とも言えます。
本展では、この重要文化財にも指定されている東京藝術大学所蔵の高橋由一『鮭』も前期展示に引き続きじっくり鑑賞することができます。
皇室ならではの作品
このほかにも、荒木寛畝(あらきかんぽ)の『旭日双鶴図』は明治天皇の大婚25年を祝う作品として制作されたもの。
銀婚式にちなみ、表装(ひょうそう)裂には銀箔が押され、軸首も銀製となっています。
お祝いの品として装飾の細部にまで気配りがされた特別な表具は、これ自体が美術工芸品となっているとさえ言えます。
こうした皇室ゆかりの作品が鑑賞できるのも、貴重な機会です。
編集部イチオシの作品
伊藤若冲の『動植綵絵』のうちの1幅、「池辺群虫図」。
「虫」を描いたものではありますが、現代の私たちの分類の仕方とは異なり、ヘビやカエルなども描かれています。
これは江戸時代の「本草学」の考え方によるもので、当時の人々は鳥・獣・魚・貝以外の生き物を「虫」と分類していました。今では毛嫌いされたり害虫と呼ばれたりしてしまう「虫」たちも、若冲は丁寧に、緻密に描いています。
そのまなざしには、すべての命を等しく扱おうとする若冲のやさしさが感じられるようです。
何種類の「虫」たちがいるのか、ぜひ本物を見て数えてみてください。
美術展概要
展覧会名:特別展「日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱」
会期:2022年8月6日(土)〜9月25日(日)
休館日:月曜日(ただし9月19日(月・祝)は開館)
開館時間:午前10時〜午後5時、9月の金・土曜日は午後7時30分まで開館
※入館は閉館の30分前まで
※本展は日時指定予約の必要はありませんが、今後の状況により入場制限等を実施する可能性があります。
※最新情報は展覧会公式Webサイトをご確認ください。
会場:東京藝術大学大学美術館
主催:東京藝術大学、宮内庁、読売新聞社
特別協力:文化庁、紡ぐプロジェクト
展覧会公式web:https://tsumugu.yomiuri.co.jp/tamatebako2022/
※会期中、一部作品の展示替えおよび巻替えがあります。
▼『動植綵絵』や展覧会のみどころについて藝大アートプラザ編集長・高木が解説した音声はこちら!
藝大アートプラザにも、注目!
会場のすぐ近くには、藝大の学生や出身アーティストたちの作品を購入できるギャラリー「藝大アートプラザ」もあります。
個性的な作品の数々が並ぶこちらにも、ぜひ足をお運びください。
現在開催中 企画展「Memento Mori 〜死を想え、今を生きよ〜」
会期:9月4日(日)まで 11:00〜18:00
詳細はこちら
次回 企画展「The Prize Show!~What’s 藝大?~」
会期:2022年9月10日(土) -10月30日(日)11:00〜18:00 ※展示替えあり
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