藝大の猫展2020 出品作家インタビュー 村岡佑樹さん

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「藝大の猫展2020」には、彫刻科の有志11名による等身大の猫彫刻を、その名も「キャットウォークSHOW」として展示しています。そのなかで“ウォーク”せずにでんと鎮座しているひときわ目立つ猫がいます。「なんだよ」と題されたこの猫をつくった、村岡佑樹さんにお話を伺いました。

「なんだよ」は、じっと上を見上げる様子から、猫のふてぶてしさが伝わってきて、とても愛らしい作品ですね。

これは等身猫の企画のお話をいただいて、今回の展示のためにつくったものです。テラコッタにアクリル絵の具で着彩しました。「テラコッタ」はイタリア語で焼いた土を意味する言葉で、素焼きの焼き物のことを指します。この作品の場合は、並濾し土と言われる粘土を使って猫のかたちをつくって、固くなったところで中の土を掻き出して空洞にし、窯に入れて800度くらいの低温で焼いて、色を塗って完成します。土を掻き出すのは、空気が破裂して窯のなかで爆発するのを回避するためでもあり、軽くするためでもあります。


村岡佑樹「なんだよ」

飼い猫をモデルにしているのですか?

猫は好きですが飼ったことはないです。明確なモデルはいなくて、想像上の猫をつくりました。100メートル先から猫を見た時の「猫がいるぞ」という印象を表現しようと思ってつくりました。なので、リアルな毛並みや顔つき、骨格を追求するのではなく、こんもりと丸みを帯びたかたちにしています。動物や人をつくるときは角のかたちを強調することが多いのですが、今回は角の表現はおさえてやわらかい印象を強調しました。なので、顎がないんです(笑)。あくまでも彫刻をつくるつもりで制作しているので、仕上げも敢えて手の跡を残すようにしています。


村岡佑樹「なんだよ」部分

等身猫とは別に出品している、「Sense of values-Bizen-」はどのような作品ですか?

こちらの招き猫は、猫展のお話をいただくよりも前につくったものです。藝大アートプラザから猫がモチーフの作品があったら出品してほしいと依頼をいただいたので、ちょうどよいと思って出しました。


村岡佑樹「Sense of values-Bizen-」

何でできているのですか?

備前焼の招き猫の貯金箱と樹脂と漆でできています。去年備前にアルバイトをしに行く機会がありまして、そこで知り合った備前焼の陶芸家に、つくりたい作品の計画を話したところ、快く貯金箱を譲ってくださいました。その貯金箱を割って、すべての破片をレジンという樹脂で複製して、本物の備前焼の破片と複製した樹脂のパーツをつなぎ合わせ、樹脂の表面に漆を塗りました。割れた全部のパーツを複製しているので、備前焼と組み合わせることで猫が2匹できました。2匹の猫を見比べてみると、同じ部分に継ぎ目はありますが、備前焼と漆のパーツの位置が入れ替わっていることがわかると思います。見る人にもそんな気づきを体感してもらえればと思っています。


村岡佑樹「Sense of values-Bizen-」

だから、同じ方がつくったと思えないほど「なんだよ」とは猫の風貌が違うのですね。なにがきっかけでこのような作品をつくろうと思ったのでしょうか?

修復や本物ってなんなんだろうという疑問から出発しています。博物館で縄文土器として展示されているものは、そのままの形で出土するケースはほとんどなく、だいたいが修復されたものです。なかには、縄文時代のパーツよりも修復されている部分の方が多いものもありますし、本物はほんの少しのパーツだけで他は全部石膏でできているものもあります。それを見たときに、土器が割れて破片がいくつかできて、それぞれが別個に修復されたら、この猫の貯金箱ように、実際に縄文時代に存在していた数よりも多くの土器がつくれてしまうんじゃないかなと疑問に思って、それをきっかけにつくりました。

かなり手間がかかりそうですね。

学生時代から焼成中に窯の中で作品を爆発させてしまうことがあって、その破片でよく修復をやっていたんです。なので、わりと楽にできました。破片同士がぴったり合うときはかなり気持ちがいいです。

最近の修復では、補った部分がわかるように、わざと土器と色を変えた素材を使って、修復した部分と土器に主従の関係が見えるようにしていますよね。

出土したパーツよりも価値がないとわかるように、石膏やモルタルを使った修復をしていることが多いです。ただ、それらのものが一度博物館で展示されると、石膏やモルタルが使われていることは解説パネルには銘記されず、あくまで縄文土器としか表示されません。修復した部分はないものとして扱われています。このことも気になったので、僕の作品の場合は、複製部分に備前焼と対応する価値のある素材として漆を選び、塗りました。主従の関係をつけず、もともとの備前焼と補ったパーツのバランスをとることで、新しい見方を提案しようとしています。

猫以外には、普段どんな作品をつくっていますか?

いま主に制作しているのは、貯金箱と同様の、身近なものを割るシリーズです。たとえば、実家の瓦を1枚割りまして、その割れたパーツをFRPで複製して、元の瓦のパーツ1つに対してほかはすべてFRP製のパーツで補いメッキ加工をした瓦をつくっています。割れたパーツの数だけ瓦が複製できるので、それを並べて展示する計画を立てています。


村岡佑樹「Sense of values-Roof tiles-」完成イメージ(一部抜粋)
※「藝大の猫展2020」の出品作品ではありません。

ほかには折り鶴を使った作品もあります。この作品は何でできていると思いますか?


村岡佑樹「Accumulation prayers Ⅰ」
※「藝大の猫展2020」の出品作品ではありません。

不思議な作品ですね。チョコレートにも見えてきます。

じつはやきものです。本物の折り鶴を泥につけて乾かして、それに釉薬をかけて、焼いたものを積み重ねてモニュメントのようにしました。折り紙は灰になって中に入っています。

同じく鶴を使った作品でこちらもあります。僕は広島の生まれです。広島市には毎年10トン以上の千羽鶴が送られてきます。広島市に電話して「作品をつくるために千羽鶴をいただけますか」とお願いしたところ、快く提供してくれました。その千羽鶴をつかって、今度は千羽鶴全体を泥に浸し、釉薬をかけて窯で焼いて、この彫刻をつくりました。こちらの作品にも千羽鶴が中に閉じ込められています。


村岡佑樹「Accumulation prayers Ⅳ」
※「藝大の猫展2020」の出品作品ではありません。

僕は作品を通して、誰でもちょっと見たり立ち止まったりすれば気づくようなことを表現しています。千羽鶴がこの世にあるということ、それを陶にすると土に埋めたとしても残る普遍的なものになること。また、いろんな人がいろんな願いを込めて折った鶴が集まって、ひとつのものを形作っているという点で、千羽鶴から社会が見えてきます。陶にすることで形のいびつさが際立ちより社会のように見えます。そのようなことを考えてつくりました。「Sense of values-Bizen-」についても、僕の作品を通して「本物」ということや価値の在り方について考えるきっかけとなったらと考えています。

大学受験のときに彫刻を選んだ理由はありますか。

彫刻家のデッサンがテレビで紹介されているのを見たりして、彫刻家は立体もつくれて絵も描けて、なんでもできそうだなと思って、そこに惹かれて選びました。もともと、祖母が染め物や革細工、着物をつくったりしていて、その側で芋版をつくって遊んだりして、幼少期からものづくりは身近にありました。受験を考えるようになってから、最初はデザイン科に行って革で靴をつくったりしたいなと考えていたのですが、いろんな理由があって彫刻に変えました。実際彫刻科に入って土いじりをしたり、石や木を彫ったりしていたら、楽しくなってきて、いまも彫刻を続けています。

学生時代は塑造の研究室にいたのですよね。

研究室を選ぶときに自分が考えていた作品が、たまたまテラコッタだとつくりやすそうだったので、それで塑造を選びました。彫刻家の多くは一つの素材に絞って世界観を表現していますが、僕は素材を限定してはいませんし、連作をつくることにも特にこだわっていないです。とにかく新鮮な気持ちでいることを大事にしたいと考えています。過去に石でも作品を作っているように、必要に応じて素材を選び、表現したいことに合わせて作品はどんどん変わっていくものだと思っています。

今後の展望を教えて下さい。

いまは、とにかく作品を作って、展示の機会を増やしていきたいです。

●村岡佑樹プロフィール

1993 年  広島県生まれ
2018 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻 修了

【受賞歴】

2016 “ぶらまちアート” 歴史・町・広島竹原藝術祭 審査員特別賞

【展覧会歴】

2016 “ぶらまちアート” 歴史・町・広島竹原藝術祭(広島)
2017 彫刻の五・七・五~かたちで詠む春夏秋冬~(女子美術大学/神奈川)
2018 ODDS AND SODS(ギャラリーせいほう/東京)
2019 神山アートホテル(作良家/徳島)


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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