藝大の学生を対象としたアートコンペティション「藝大アートプラザ・アートアワード2023」(旧「藝大アートプラザ大賞」)の授賞式が3月21日、JR上野駅13番線「PLATFORM13」を会場に開催されました。
授賞式には、各賞の受賞者をはじめ、審査員を務めた日比野克彦・東京藝術大学学長や藝大アートプラザ所長で東京藝術大学美術学部教授の箭内道彦氏、相賀信宏・小学館社長らが出席。各賞の受賞者に一人ずつ賞状などが贈呈されました。
この記事では、授賞式の様子とともに受賞者代表2名によるスピーチの内容を紹介します。
各受賞作の詳細、審査の様子はこちらからご覧ください。
JR上野駅の「PLATFORM13」を会場に
東京藝術大学は昨年、JR東日本と包括連携協定を締結し、アートを軸とする新しいサービス・価値の提供を目指し、駅という場において利用者が気軽に芸術に触れ合える機会の創出・提供に取り組んでいます。
今年の「藝大アートプラザ・アートアワード」の授賞式は、そうした取り組みの一環として多角的な活用が進んでいるJR上野駅13番線ホームの「PLATFORM13」(写真下)を会場に開催されました。これは、同じく東京藝大と包括連携協定を結んでいる小学館を加えた三者・社がそれぞれの枠を超えて連携し、アートの新しい可能性や役割を探るための第一歩にしようというプロジェクトでもあります。
アートの新しい可能性や役割を探る授賞式
授賞式には、審査員を務めた日比野克彦・東京藝術大学学長をはじめ、藝大アートプラザ所長で東京藝術大学美術学部教授の箭内道彦氏、相賀信宏・小学館社長らをはじめ、各賞の受賞者が出席しました。
冒頭、あいさつに立った日比野克彦学長は、授賞式の会場となった上野駅について、藝大生の時代から自らも馴染み深い駅だとして、同駅がJR東日本の構想する「ビヨンドステーション構想」の発信拠点の一つともなっていることを「感慨深く思う」と述べたうえで、今後もJR東日本や小学館との連携を通じて、さまざまなアートを発信していきたいなどと語りました。
続いて、今年度の美術作品部門の大賞を受賞した間瀬春日さんをはじめ、準大賞を受賞した柿沼美侑さん、futabaさんに日比野学長が賞状とトロフィーを授与。引き続いて小学館賞の受賞者・白井雪音さんには小学館の相賀社長から、審査員特別賞のRo Kikoさんと河崎海斗さんには箭内・藝大アートプラザ所長から、それぞれ賞状とトロフィーが贈られました。
また、デジタルアート部門では、小学館賞を受賞した諏訪葵さん、JR東日本賞を受賞した武田萌花さん、審査員特別賞を受賞した藤本陸斗さんが登壇。小学館の相賀社長、齊藤裕司・JR上野駅長、箭内・藝大アートプラザ所長からそれぞれ賞状とトロフィーが贈呈されました。
授賞式では、各部門を代表して、間瀬さんと諏訪さんがスピーチを行いました。
受賞者代表スピーチ
「残したい」と思わせる作品づくりを
美術作品部門 大賞 間瀬春日
このような式を開催していただき、ありがとうございます。この場に立てているのは家族や先生、友人の支えがあったからであり、あらためて御礼を申し上げます。
私は藝大大学院の中でも、文化財保存学研究室に在籍し、主に漆芸品の保存や修復を研究しています。過去から現在まで「これを残したい」と願った人の思いを引き継ぎながら、作品を間近に見てその保存に関わる時間というのは、作品を残していくことだけでなく、つくることに対する責任を強く考えさせられる瞬間でもあります。
皆さんは、自分が手掛けた作品や制作物が「100年後にどうなっているか」を考えたことはありますか? アーティストであれば、自分の作品をなるべく長く大切にしてほしいと願う気持ちは一緒だろうと信じていますが、どうすればそれがなされるのでしょうか。
たとえば壊れない素材を使う、あるいは直せるようにする。専門ではないため詳しくは分かりませんが、デジタルアートにもきっといろいろな方法があると思います。いずれにしても、自分がいなくなった後も、誰かが「それを残したい」「これを持っていたい」と思わせられるような作品をつくることが、私たち作家の使命ではないかと考えます。
私はもともと金沢美術工芸大学という大学で漆について学んでいました。私が今回の受賞をSNSで報告した際に、石川県の輪島からお祝いの言葉を届けてくださった方がいました。
その方を含め、当時の先生やお世話になった輪島塗りの工房の方々は、ご承知の通り、このたびの震災によって、いま非常に困難な状況の中にあります。中でも、私がお世話になった輪島塗りの工房の方が、ある取材の中で「作品である輪島塗りをどうやって残していくか、直していくかというときに、まずはつくる人を絶やしてはいけないし、つくる手を止めてはいけない」ということをおっしゃっていました。 それもまた作品を保存する方法の一つだと感じました。
まだ厳しい状況下で、私にできることは限られていますが、漆に関わる人間として、制作の手をやめずに、いつかその時が来たら、私の力が輪島や、ひいては社会に還元できるように、これからも藝大という環境の中で学ばせていただきたいと思っています。
かつての光が立ち返る経験と発想の連なり
デジタルアート部門 小学館賞 諏訪葵
本日はこのような素晴らしい場を設けて頂き、ありがとうございます。藝大の博士後期課程で学ぶ私は現在、インスタレーション作品や空間的な作品を主に手掛けています。
インスタレーション作品は、映像や写真に記録されなければ無くなってしまう性質があります。私の作品も「一回性」の強いものが多く、それ自体を作品のテーマとすることがよくあります。
今回の作品は、ガラス玉の向こうに映像が流れている様子を撮影した作品です。ガラス玉越しに流れている映像は、コロナ禍の中だった2020年に制作したものです。無観客の状態でインスタレーション作品を展示し、その様子をオンライン配信するという試みでした。そのときの映像を、今回再度用いて、今の目でもう一度見るという構図としています。
もともとは空間的な作品を手掛けることが多かったのですが、そういったことを伝えるためにデジタルを利用することが私の中では増えてきていて、映像やデータをアーカイブする機会も増えています。そうした中で、USBやSDカードにデータだけがどんどん溜まっていくのを見たとき、そのようなデータは、この世に存在してはいるけれど空間上にあるわけではなく、再生するときに「もう一度立ち現れてくる」感覚があります。
今回、デジタル部門の受賞作としてこの上野駅のホームに展示してもらうという素晴らしい経験をさせていただき、かつて撮影した「光」がもう一度空間に立ち返ってくるような、非常に充実した経験をさせていただいた気がします。そうした新鮮な経験や新しい発想の連なりが、こうした新しい取り組みによって引き起こされたことに非常にワクワクしました。
受賞者の皆さん
(写真:永田忠彦)