第15回藝大アートプラザ大賞展受賞作家インタビュー 清水雄稀さん

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準大賞を受賞した清水雄稀さんの「操壺・AMU」は、自ら築いた穴窯で焼成した、自然釉の色合いが美しい作品です。一見何の変哲もない壺ですが、不思議なことに壺の蓋は開きません。そして、表面には焼き物には珍しいトランプの模様が!? 壺ではなくオブジェとして構想した清水さんがこの作品に込めた思いとは。

受賞を知ったときの感想を教えてください。

結果が出て良かったなと思いました。出品作品のなかでは大きかったので目立ったのかと思いました。


清水雄稀「操壺・AMU」

「操壺・AMU」は、壺自体の色は渋いですが、ハートやスペードなどポップな模様が描かれていて面白いですね。

自分のインスタグラムの写真を見返すと、焼き物ばかりだから、だいたい茶色くて渋いんです。これでは流行らないなと思いまして、渋さとポップな図柄を融合させようと思いました。人は何千年も前から焼き物に絵や文様を彫ったり描いたりしてきましたが、この壺のようなポップな柄はあまりないですよね。窯で焼くと肌にグラデーションができるので、ある程度のカラフルさも出せました。

文様は手で描くのでしょうか。

鉄分の多い赤土を泥状にしたもので一つずつ描きました。

学校の窯で焼いたのでしょうか。

普段、学校では電気窯を使っているのですが、この作品は取手校地の築窯実習でつくった薪を燃料とする窯で焼きました。ボタンを押せば温度の上がる窯を使うのではなく、窯の構造や原理を学びながら、改築を繰り返して目標の1300度になるように工夫します。これは、5回火を入れたうちの3回目で出来たものです。


清水雄稀「操壺・AMU」部分

薪はどのようなものを使っているのでしょうか。

薪が燃えたときに出た灰が焼き物に付着し、高温になって溶け、いろんな表情をつくるのですが、その灰の色が木材によって違います。松はきれいな透明がかった緑色になるので重宝されるのですが高額なので、今回は建築の端材や校舎に捨てられているものも使いました。結果、赤茶色から緑がかった色までグラデーションができました。

時間をかけて壺自体をつくっても、焼成で失敗するかもしれないと思うと、緊張しそうですね。

焼き物は、想像した通りにできることがありません。実際、この作品をつくった後に、同じ大きさのものを焼きましたが、模様が消えてしまい、艶が出て渋さがなくなってしまいました。しかし、出来の良し悪しだけで判断するのではなく、たとえ失敗してもそこから何を学ぶのかが重要です。

登り窯は何日も徹夜で火の番をするイメージがありますが、この作品も何日もかけて焼いたのですか。

例年は学校の宿泊施設が使えるのですが、今年度はコロナの影響で泊まることができなくなり、何日も窯を焚き続けることが不可能になってしまいました。先生からは1日で焼き上がることを目標にするようにと言われたのですが、難しくて、僕らの場合は授業時間が終わったら帰って、次の朝に来て焚く、所謂「休み焚き」を3日間続けました。窯の入口をレンガで閉じ、炎が外に出なくなるのを確認してから帰ります。翌朝になると温度は下がるのですが、窯を地面に埋めているので熱が溜まり、温度は上げやすいです。徹夜するよりも疲れないですし、薪の消費も抑えられます。焚き続けなければ出来ない作品もありますが、このような時代にあわせた焼き方だからこそできるものもあると思います。


清水雄稀「操壺・AMU」部分

壺の蓋は意図して開かないようにしたのですか。

今回の作品はオブジェにしたいと考えていました。壺にしても花瓶にしても茶碗にしても穴が空いていることで用途が生まれるので、壺だけれども蓋を閉じることで用途の意味から脱却できると思いました。穴を閉じる意味を考えていって、焼き物のパーツには肩、腰、胴といった人体のパーツになぞらえた名称があるので、鎖で穴の閉じられた壺を、女性の貞操や貞操帯と重ねることができると思いました。そのような理由で「操壺」という造語をタイトルにしました。さらに「操」という漢字を調べると、自分の意志を固く守るという意味があることがわかりまして、性的な意味だけでなく、人が自分のなりたいものや欲望を、強い意志をもって秘匿している様子を表現できると思いました。

「操壺AMU」のAMUとは何なのでしょうか。

10年くらい前にやっていたアニメ「しゅごキャラ!」の登場人物の女の子・あむちゃんから来ています。操について考えているときに、あむちゃんが、なりたい自分になることを恐れないで欲しいという強い意志をもった子だったことを思い出して、コンセプトと重なると思いました。このアニメでは、キャラクターの個性をわかりやすくするために、ハートやスペードなどのトランプのモチーフを使っています。そこから壺の文様も発想しました。このように、コンセプトをかっちり決めて制作をしているというよりも、問いを繰り返しながらこのかたちに至りました。

ところで、なぜ藝大に入ろうと思ったのでしょうか。

小学校から大学まで一貫教育のところに通っていました。その学校は、ある鉄道の終着駅にありました。よく駅のベンチに座って、ひっきりなしに電車が来て、制服やスーツを着た多くの人が行き来する様子を見ていたのですが、だんだん自分という存在がとてもちっぽけに感じて、人と違うことをしたいと思うようになっていました。

当時、学校の資料を10冊取り寄せるとQUOカード500円がもらえるというキャンペーンがあって、資料を30冊くらい取り寄せてみたんです。そのなかから興味があるものを選んでいって、残ったのが調理専門学校と美大でした。軽い気持ちで、絵を描くのは上手いし美術にしてみようと思って、それで美大受験の予備校の体験入学に行きました。そしたら、デッサンの評価が低すぎて講評してもらうこともできなかったんです。評価されないで床に置かれた自分のデッサンを見ていたら悔しくて、このままでは終われないと思って、親に頼んで予備校に通うことになりました。変わったことをやりたいという単純な理由で始めたのですが、だんだん上手くなって結果が出るのが楽しかったです。

「受験のときは工芸科だけを受けていたのですか。

絵を描くのならば日本画だということで最初に日本画を受けて、その後予備校の先生の勧めでデザイン科を受けました。結果が出なくて、だんだんデザインではないかもしれないと思うようになって、卒展を見に来たときに自分がおもろいと思っていたのは工芸科だったことを思い出し、先生に相談して最後に工芸科を受けました。なので、入学まで工芸のことは全然知りませんでしたが、今では焼き物が好きです。

焼き物のどのようなところが魅力なのでしょうか。

ろくろを使うと短時間でたくさん作品をつくれるイメージあって、材料である粘土の値段も他の専攻に比べて安価ですし、コスパが良いと思って陶芸を選びました。しかし、勉強していくうちに、作品作りはそういう気持ちでやるものではないと思うようになって、当初と真逆の考え方に変わり、今はひとつひとつに気持ちや魂を込めようとしています。今回の出品作も結構な時間をかけてつくりました。とはいえ、オブジェだけでなく器を作るのも好きですし、自分が作ったものを人に使ってもらいたいと思うと、数は重要な要素ではあります。選択肢の多さが陶芸の魅力です。

今後の目標や野望はありますか?

夢のない話かもしれませんが、陶芸家という職だけで生きている人は少なくて、陶芸教室で働いたり、学校の教師として働きながら続けている人が多いです。僕は、卒業したら、多少厳しくても立ち行かなくなるまで陶芸家一本でやっていくことに挑戦したいです。今はそれに向けて制作場所を探しているところです。また、公募展にもあまり出したことがないので、目標を意識した作品制作も始めていこうとしています。

●清水雄稀プロフィール

大学院美術研究科修士課程工芸専攻陶芸1年

「第15回 藝大アートプラザ大賞展」
会期:2021年1月23日 (土) – 3月14日 (日) 
営業時間:11:00~18:00
月曜定休(2月1日は営業)
入場無料


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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