好評開催中の企画展「Met“y”averse ~メチャバース、それはあなたの世界~」。
アーティストの頭の中に存在する、あるいはアーティストによって作り出される独自の世界観が一堂に会する企画展です。
12月3日(土)〜25日(日)は後期展示として17人のアーティストの作品を展示・販売しています。この記事では後期展示に出展されている作品の展示風景を、写真でご紹介します。
▼前期のレポートはこちら
独自の世界観が爆発!企画展「Met“y”averse ~メチャバース、それはあなたの世界~」前期
※コメントは、Web担当による解説です。
※並びは順不同です。
※写真にない作品もございます。ぜひ現地で全ての作品をご覧ください。
「自立しない彫刻」の思索
石川 直也さん
物事は言葉とともにあり、その言葉には境界が曖昧なことが多い。「言葉と言葉の境界にあるものこそ大切で、本質に少し近づけるような気がする」。立つことのできない人体彫刻「自立しない人」などをつくり続ける背景には「曖昧な境界」と「彫刻とはなにか」を探る、作家の深い思索がある。
鋳金と3Dプリンターによる新しい造形
石川 将士さん
鋳造という原始的とも言える造形方法を研究する作者は、レシートの用紙に人体を描き、そのドローイングを立体に起こしている。「大量生産」もコンセプトの一つで、粘土で型をつくり、それを3Dプリンターで出力。鋳金と3Dプリンターを組み合わせた新しい造形を模索している。
「かわいい」に込められたアイロニー
内田 有さん
シロクマをキャラクター化した「cool it」シリーズでは、溶けたアイスキャンディーの形にすることによって、消えゆく環境保護の代名詞となったシロクマと、日本のポップカルチャーに通じる “かわいい” を融合した大量消費社会をコンセプトとしている。原型を粘土でつくり、型にガラスの粒を詰めて焼く手法で、現代社会に潜む矛盾とアイロニックな作品づくりを試みている。
カーテンは「まぶた」、開閉は「瞬き」
内田 麗奈さん
洞窟壁画を思わせるベロア生地をカーテンのように設けることで、何もない壁の奥に「窓という夢」を生み出す絵画作品を制作している。カーテンは「まぶた」に、窓の開け閉めは「瞬き」に似ており、「外から光が差し込み、無限の景色が広がる点に、夢とのつながりがある」と語る。
ポップでかわいらしく、時に残酷
内田 亘さん
一見ポップでかわいらしい絵柄でありながら、おかしみだけでなく、時に残酷なテーマや状況を描き出している。タイトルによって作品の意味に気が付く仕掛けで、意味を知った前後で作品の印象は大きく変わる。ペンキを使用し、色を重ねるのではなく、色同士を隣り合わせることで生まれる境界線に注目。
作品に添えられた作者の言葉
大坂 秩加さん
ドイツやスイス、台湾でも個展を開いている作者。高度な版画技術を持ちながらも水彩や油彩作品も展開し、舞台美術から着想を得た、コミカルで親近感のある人物を描いている。作品にはさまざまな女性の日常にまつわる小説の一節とも誰かの日記の一部とも言えるような一文を添えている。
コロナ禍によって移行した主題
官野 良太さん
乾漆技法による人体彫刻を10年以上制作していた作者は、コロナ禍を機に主題を人の内面へと移行させた。現在制作するものは、美しい形態の模倣ではなく、光との調和によって生み出される幻想的な彫刻。自然現象を要素に加え、現象を解体し再構築する試みを追求している。
「犬と子の関係性に注目してほしい」
北郷 江さん
手びねりであえてテクスチャーを残した、暖かみのある作風が特徴。動物、生き物をモチーフとした陶芸作品を制作している。今回初めて我が子と飼い犬を題材に制作。「生まれや育ちの異なる3匹の犬、そして子との関係性に注目してほしい」。
循環する世界に消えていく愛おしいもの
小林 真理江さん
福岡伸一氏の著書『動的平衡』を読み、確証を得たという自身の感覚——「循環の世界の流れの中でやがては消えていくけれど愛おしいもの」が制作のテーマとなっている。色彩が特徴的なアクリル絵画と、色彩を生かしたオブジェとして国内では珍しいガラスモザイク、タイルモザイクの作品を手がける。
ロマンチックでどこか泥臭いノスタルジー
重野 克明さん
ロマンチックでありつつ、どこか泥臭いノスタルジーを感じさせる作品。実際の生活、実際にあった場所、実際に見た風景をモチーフに、銅板や亜鉛版、アルミ板、塩ビ板にニードルなどで直接彫る技法で制作している。乾いた笑いのようなおかしみがある。
人物の描き方とコミュニケーション
澁澤 星さん
人物は国籍を限定させないように描いているという画家のバックグラウンドには、幼少期を長崎で過ごし、オランダや中国などさまざま文化が混ざる場での経験がある。博士課程在学中にトルコとフランスに遊学。「人物を使った美術作品を通じたコミュニケーションに、面白さを覚えました」。
山の中で養蜂をしながら
菅谷 杏樹さん
東京都西多摩郡檜原村で農業や養蜂、養蚕を実践しながら、植物や昆虫などの生きるものを主題に作品を発表している作者。今作は2016年から続く、養蜂をしながら制作をするという長期プロジェクトの中から生まれた作品の一つ。古代思想において豊穣の女神の使いだったミツバチと人との関係などを問う。
あなたと私の間に「誰か」がいる
瀬川 祐美子さん
リモートワークでは、自分が見ているのは画面越しの相手であり、その人のほんの一面に過ぎない。しかしそれは対面でも同じかもしれない。さすればあなたと私の間には「違う誰か」が存在しているのではないか。自分と誰かの写真をPC上で合成し、プリントした紙をキャンバスに転写して着彩することでその疑問を表現している。
悲劇とは?喜劇とは?生きるとは?
ねがみくみこさん
人生の悲劇を戯画化し、喜劇に変える人生賛歌の作品を制作している作者。しかし、作品はただ奇をてらうだけのものではなく、私たちがふとした瞬間に感じる日常生活の「亀裂」を丁寧にすくい上げ、ユーモアの観点から「くだらなさ」や「意味のなさ」に人生を問うてもいる。
情報が氾濫する現代への風刺
松尾 ほなみさん
作者はこれまで、糊で固めた漫画本から古来の神像や日本の怪談話にまつわるモチーフを掘り出す彫刻作品を制作してきた。物語がすでに「情報」として印字された漫画から、新たなモチーフを掘り出す作品群は、情報が氾濫する現代への風刺を伴った「現代の寓話」としての彫刻作品といえるかもしれない。今展では、生の木に彫刻した作品と、その制作のためのマケットを出品。
カスタマイズされた情報への違和感
三澤 萌寧さん
多くの情報があらかじめカスタマイズされており、個人にとって都合の良い情報だけが延々と流れ、目の前を覆っていくことへの違和感を、可愛らしいユニコーンとソフトクリームで表現している。ハートマークはSNS上の「いいね」を表す。
女性の裸体に服を着せる意味
みょうじなまえさん
女性の身体、性、アイデンティティと、その消費をめぐる問題をテーマに作家活動を行っている。今回の作品は、「消費材」と「美術作品」の価値の違いがテーマ。女性の身体を描いた名画の商品に、下着や衣装を描き加えている背景には、女性の裸体を女神として神聖化することへの画家の疑問がある。
出展作家と会期
前期(17名)
色川 美江/岩田 駿一/臼田 貴斗/オオシオヒロコ/郭 家伶/北爪 潤/後藤 夢乃/齋藤 詩織/佐々木 沙奈/たかすぎるな/田中 綾子/田村 幸帆/田村 正樹/林 奈緒子/早野 樹/福島 李子/山田 勇魚
後期(17名)
石川 直也/石川 将士/内田 有/内田 麗奈/内田 亘/大坂 秩加/官野 良太/北郷 江/小林 真理江/重野 克明/澁澤 星/菅谷 杏樹/瀬川 祐美子/ねがみくみこ/松尾 ほなみ/三澤 萌寧/みょうじなまえ
会期:2022年11月5日(土)- 12月25日(日)
前期:11月5日(土)- 11月27日(日)
後期:12月3日(土) – 12月25日(日)
※月曜休(祝日の場合は翌火曜)
※11月28日(月)- 12月2日(金)は展示入れ替えのため休業
写真撮影: 今井裕治