「藝大もののけ祭り 百鬼夜行展」出品作家インタビュー 松尾ほなみさん

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今回の展覧会には、河童や化け猫など古来の妖怪の作品だけではなく、名もなき異形のものを表した作品も多く出品されています。そのような作品から、今回は、松尾ほなみさんの「口吸い石」「芳一の耳」「支那のおじさん」をピックアップ。作品の発想や制作方法、彫刻専攻に進んだきっかけなどを伺っているうちに、作家として生きていくことに対する切実な思いが浮かび上がってきました。

今回の出品作はどれも、一見、見過ごしがちだけれども、あとから「あれなんだろう?」と気にかかる作品ですね。

ありがとうございます。じつは、「口吸い石」の中を覗くと奥に白い玉が入っています。廃材なのですが、真珠のようなきれいな玉でしたので、それを石の中に据えました。石自体は近所に落ちているものです。一部の色が違ったので、なんとなく彫っていったら、口のようなかたちができて、中を彫りたくなって石を半分に切ってみたら、「開けるとこうなっているんだ」という発見があって、そこに白い石を入れて、切った部分は銀で継いで開かないようにして、見なかったことにしました。今回、このような機会をいただいたことで、大きな作品ではできない、アイディアをダイレクトに形にしたものをつくることができました。

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松尾ほなみ「口吸い石」

「芳一の耳」は珊瑚でできているのですか?

耳のような形の珊瑚にチラシを貼り付けて表面を削ってつくっています。タイトルのとおり、耳なしの芳一の話に基づいています。耳なし芳一は、琵琶法師の芳一が亡霊から身を守るために体中にお経を書かれたのですが、耳だけお経を書き忘れたため、耳がなくなってしまった、という話です。襲いかかる亡霊側からしたら、耳だけ異質に見えた。そこに惹かれました。そこから発想して、耳にお経ではなく、チラシの「お肉安いよ」などの情報を込めてみたら、どういうかたちになるかなと思いました。これも実験的な作品です。

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松尾ほなみ「芳一の耳」

「支那のおじさんは」の素材は漫画ですが、どのように作っているのでしょうか?

さきほどの作品とは違い、完成がこうなるだろうと決めて計画的に取り掛かっています。細い棒の周りに、漫画本をちぎって、バームクーヘンのように貼り付けて層にして、そうやってできた丸太のようなかたまりを彫っています。彫ると、漫画でできた木目みたいな模様ができます。

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松尾ほなみ「支那のおじさん」

人工物である漫画で木という自然物をつくり、それを自分で彫って出てきた形を見る。そこが面白いです。これは決して本当の木でできた像ではないのですが、木の年輪のかたちを借りて層になるようにつくっていますので、できあがったものにはまがい物感があります。私は千葉市の東京湾沿いの埋め立て地の住宅街で育ちましたので、いわゆる自然は身近ではなく、育った環境からすると、木という自然物よりも漫画のほうがしっくりくる自分もいて……。そういう、自然と人工物に対する感情を、出したり引っ込めたりしながらつくりました。

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松尾ほなみ「支那のおじさん」(部分)

「支那のおじさん」のモチーフはどのように決めたのでしょうか。

最近、人が切実に何かを信じることに対して興味があって、隠れキリシタンの人たちが持っていた、仏像に似せたマリア像などに関する冊子をめくっていました。そのなかに、このような人物像を見つけまして、のけぞっているポーズや頭の形が面白かったので、モチーフに選びました。ほかにも、日本の神像に惹かれていて、同じ技法で、神像の模刻や、神像の形をイメージした像もつくっています。神様と漫画という異質なものが合わせることで、古来の神像との見え方の違いを楽しんでします。

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松尾ほなみ「支那のおじさん」(部分)

今回の展示は百鬼夜行展ですが、なぜこのような作品をつくろうとおもったのでしょうか。

昔の人が考える妖怪と今の人が考える妖怪は違うと思っていましたので、妖怪という言葉のイメージには引きずられずに、異質なものやちょっとへんだなと思わせるものを作ろうと思いました。

彫刻の道を目指したきっかけを教えてください。

予備校に通っていたときに、彫刻科の人が描くデッサンを見て、それがかっこよかったから、という単純な理由です。彫刻の人のデッサンは、絵として見せるためのものというより、立体で表わすための設計図みたいで、頭の中がそのまま表れていて、そこにシビレました。実際に彫刻をやってみると、ものに触ることが好きなことに気づき、現在まで続けています。自分の体で生み出すかんじがスポーツみたいで楽しいです。

美大に入ろうと思ったのは、ご家庭の環境などが関係しているのでしょうか?

家庭環境も通っていた学校も普通で、なにをやっても長続きしなくて、自分は大成しないんじゃないか、と小さい頃から思っていました。ただ、描いたりつくったりするのは好きでした。きっかけは、高校の数学の授業中にへんなおじさんの落書きを描いていたときに、急に「これに絞らないと何も世の中に残せない、これ以外無理だろ」と悟って、「やらねば」とよくわからない気持ちになったことです。究極の消去法でこの道を選びました。その後、失敗することも多かったのですが、「私にはこれしかないから」と思って作品をつくってきました。

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今現在、美術は好きですか?

おそらく私にとって美術は好きなものというより、認められるための手段のようなものです。自分の興味は、歴史や民俗など美術とは違うところにあるのですが、それを集約することで自分の作品にしています。それはいまの美術界で求められていることとは合っていないかもしれませんが、自分が本気で面白いと思わないと何もできないので、アンテナを張っていろんなことを感じられるように気をつけています。売れる作品をつくることは本当に難しくて、自分の好きな方向でやっていると、なかなか売れませんが、趣味ではなく仕事として作品づくりに関わっていきたいです。

今後の目標はありますか?

来年の1月24日から31日に新宿眼科画廊で個展を開催する予定でして、いまはそれに向けて準備しています。木の板を使った半分平面の作品をつくっていて、それは今の自分の興味から切実な気持ちでつくれるものなので、ぜひご覧いただければ嬉しいです。

●松尾 ほなみプロフィール

1990 年  千葉県生まれ
2014 武蔵野美術大学造形学部彫刻学科 卒業
2016 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻 修了
2018 新宿眼科画廊 個展「▶」再生
2019 訓子府レクリエーション公園作品設置
新宿眼科画廊 個展 テンペスト
KEAT 小砂環境芸術祭 参加


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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