常設展出品作家インタビュー 桂川美帆さん

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藝大アートプラザ
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インタビュー

昨年9月の藝大アートプラザのオープンに際し、スタッフが着用するユニフォームをデザインしてくださったアーティストの桂川美帆さん。藝大アートプラザがどのような場所であるかを考え、デザイン、色、柄、どれについても考え抜いてつくられています。このユニフォームにこめられた思い、普段、桂川さんが制作の柱としている染色の作品ついて、お話を伺いました。

藝大アートプラザのユニフォームを制作した経緯を教えていただけますか?

昨年の5月頃に、藝大アートプラザのユニフォームをつくって欲しいという依頼をいただきました。形も色も柄もなにも決まっていなくて、店長や店員さんに話を伺いながら、1から自由にデザインさせてもらいました。

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桂川さんがデザインした、藝大アートプラザのユニフォーム

普通のお店ではできない、藝大のアートショップだからこそできるようなデザインにしたいと思って、メーカーさんと相談をしながら形にもこだわりました。紐の結び方を変えて、スリーウェイで着られるようにし、さまざまな体型の人に対応できるようになっています。

色については、ホームページのテーマカラーになっているグレーと黄色、黒とも連動しています。店舗で働く方から、最初に「作品の見栄えがよくなるようにしたい。エプロンを着た私達が見えすぎてはいけない」という希望をいただいていましたので、身頃の半分を落ち着いたグレーのトーンにして、差し色としてサイドのリボンを黄色にしました。さらに、左見頃とポケット用にオリジナルのテキスタイルを作ることにしました。既成の布地を使えば納期の面からも楽にできたのですが、パッと見たときに「ここはアートを扱っていて、遊び心がありそうだぞ」という、藝大らしさを出せるものにしたくて、原画から描いて昇華転写プリント(ポリエステル生地へのインクジェットプリントのこと)で生地を作ることにしました。

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メガネケース/ポケットプラス
桂川さんがデザインした、ユニフォームのポケットの布地を利用している。

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クッションカバー/ポケットプラス
桂川さんがデザインした、ユニフォームのポケットの布地を利用している。

ポケットの格子柄がポイントですよね。なにかイメージがあったのでしょうか?

アートプラザが社会に開かれた藝大の「出島」である、というコンセプトを聞いて、「なるほど」と思いました。人と人とが交錯・交差する場所、お客さんと藝大のなかのアーティストが出会う場所、多文化がごちゃごちゃと集まるような場所。アートプラザはそんな場所だと思います。日比野(克彦)先生が考えられたアートプラザのロゴマークが交差模様だったので、それとリンクさせて、通常の格子じゃおさまらないような、人と人が混じり合う活気あるイメージの格子模様を描きました。

普段の作品制作についても教えていただけますか。

メインはろうけつ染の作品です。ろうけつ染は奈良時代からあると言われている技法で、蝋を鍋で溶かして熱々にして、その液体状になったものを布につけていくと、その部分が防染されて染料液が染み込まなくなります。白く残したいところに蝋を置いて全面染めて、また色を残したいところを蝋で伏せて、また次の色を染めて……と繰り返して色を重ねていきます。もともと絵が好きで、藝大にも油画専攻に入りたいと思っていたくらいだったので、絵画的な仕事です。絵の描画材料として染料と布を使っていると言ったらよいでしょうか。

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左:桂川美帆「花星影」 右:桂川美帆「風の詩」

作品の発想は何から得ているのでしょうか?

日本における美意識について興味があります。最近は、タペストリーなどの大きな空間にインスタレーションのように展示する作品については、禅語や和歌の一節などからイメージを膨らませて抽象的に描くものが多いです。アートプラザに展示しているような、パネルの作品は身近にある植物や自然の景色から発想することもあります。どちらにしても、日本人の持っている風景への眼差しは大事にしたいと思っています。

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左:桂川美帆「夢と知りせば」 右:桂川美帆「雨うち降らば」

染め物なのに、筆のストロークが見えるのが珍しいなと思いました。

もともと絵を描いていたので、筆のストロークや筆致、マチエールにグッと来ます。私の作品は、染料ではなく蝋で筆のタッチをつくって、染料は均一に染めています。蝋は最後に除去するので、何回蝋と色を重ねても、表面は平らな布なんです。それが面白くって、筆で描いたように見せる染織の仕事をしています。お客様のなかには、「絵なのかな?」と思って、近くで筆致を確かめようすると、完全にフラットな布なので「あれ?」となる方もいますね。

どのような経緯で藝大を目指したのでしょうか?

子供の頃から絵が好きでした。運動が得意ではなかったので、家で一人、絵を描いていました。そうすると誰かが褒めてくれるので、どんどん絵が好きになっていきました。高校を受験する時、普通の高校も選択肢にあったのですが、どうしても美術系の高校が気になってしまいました。親が心配していたのはわかっていたので、「大学は普通の大学に行って就職するから、高校では美術の高校に行かせてほしい」とお願いしました。そしたら楽しすぎて、結局美術の道にどっぷりはまって、藝大を受験することになりました。

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ポケット用の布の原画とクッションカバーを手にする桂川さん

工芸科に入って染織を選んだ理由はありますか。

高校の3年間は油絵のコースにいました。当時、流行っていた絵画作品について、そのときの自分にはあまり価値が見い出せませんでした。もっと絶対的に価値を感じられるものをつくりたいと思ったときに、漆の人間国宝の方の作品展に行って、「これかもしれない」と思いました。繊細な仕事を重ねて大切につくりあげていったものは、当時の自分がキャンバス上で油絵をいじくりまわしている仕事とはずいぶん違っていました。それで工芸の分野に進みました。漆やジュエリーにも興味があったのですが、結局、描くことや色を扱いたい欲求が出てきて、染織を選びました。

今後はどのような制作をしていきたいですか?

妊娠をきっかけに自分が子供だった頃、1から9までの数字のそれぞれに決まった色や背格好、性格があると考えていたことが蘇ってきました。そこから、文字や言葉、音にも、色があるんじゃないかなと思って、ひらがなや和歌からイメージする色や形の作品をつくり始めました。いまはそれが面白くって、もっと、日本の文化に関連した、音や言葉、和歌などをテーマにした作品制作を展開していきたいと思っています。

●桂川 美帆プロフィール

1987 年  東京都生まれ
2013 年  三菱商事アート・ゲート・プログラム2013年度奨学生
2015 年  東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻工芸研究領域(染織)修了
博士号取得(博美 第479号)
2015 年  同大学美術学部工芸科染織研究室 教育研究助手
現在   同大学美術学部工芸科染織研究室 非常勤講師

[ 主な受賞歴 ]

2012 年  第52回日本クラフト展 U35賞
2014 年  ALBION AWARDS 2014 金賞
2014 年  8th From Lausanne To Beijing FIBERART BIENNALE EXHIBITION 「excellent award」


取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

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