>作家として活動しながら、アートプラザのスタッフとしても仕事をしている安西泉さん。出品作品は動物を描いたかわいらしい印象の銅版画なのですが、お話を伺うと、制作の背景には並々ならぬこだわりがあることがわかりました。
安西泉「Play time-コーニッシュレックス-」
■「Play time」はどのような作品なのですか?
過去、日本にやってきたゾウやトラたちを初めて目にし、自然の造形、不思議さに右往左往する画家たちは面白おかしい時間を過ごしたことと思います。その頃と同じように私がいろいろな生き物と出会い、共に遊んだ時間のシリーズです。
コーニッシュレックスは新種のネコで、カールした短毛とスプーンのような大きな耳が特徴です。プロポーションが良く、神秘的な顔立ちですが、とても人懐っこい性格です 。日本を代表するブリーダーの方と知り合うことができ、制作にご協力いただきました。その隣の作品は、古いルーツをもつマヌルネコです。目鼻が離れ、耳は横にあり、模様もはっきりしません。コーニッシュレックスとマヌルネコとを並べて、環境や進化の過程においてこれだけ違いがある、ということを見せたいと思って描きました。
■実在の動物に忠実に描こうと心がけているのですか?
必ず自分の目で動物を見て、嘘がないように描こうとしています。もともと図鑑の絵が描きたくて、大学院修了後は科学雑誌の『ニュートン』でサイエンスイラストを手がけていました。その影響もあると思います。『ニュートン』のときは、指一本にしても第1関節、第2関節、第3関節の長さがちょっとでも違っていたら、専門の先生方から修正が入っていました。そういう世界でやっていたので、正確に描きたいという意思はかなり強いです。「Play time」も、モチーフ選びが自由にできる点は違いますが、サイエンスイラストと同様に描いています。シルエットで見ても、どの動物かわかるようにしています。
「Play time-ラパーマ-」と、その銅板
■単色の銅版画なのですね。
銅板は黒が美しい技法なので基本は黒一色です。ただ、今回はフランスの金のインクが手に入ったので、何作か金で刷っています。フランスの金のインクは日本のがんぴ紙という薄い和紙に刷るとよく光ります。
■アートプラザの仕事と制作の両立は大変ですか?
計画的にできるほうなので、時間を決めて制作しています。アートプラザの仕事が終わったあとに家で描くこともあります。
■版画科を目指したきっかけは?
もともと絵を描くのが好きでした。両親が絵画教室に通わせてくれたところから始まって、習い事はいまだかつて絵に関することしかやったことがないです。受験のときに、憧れていた版画作家の野田哲也先生と中林忠良先生が藝大にいることを知って、今だったらご教授いただけるということで、版画研究室に入りたいと思いました。
■今後の展望を教えてください。
このシリーズをどんどん増やして、以前から描いている絶滅危惧種と並行して、新種についても取り上げていきたいですね。じつは新種も絶滅危惧種と数はあまり変わらないので、貴重な動物という点では同じなんです。
●安西泉プロフィール
1981年 東京都生まれ
2011年 東京藝術大学修士課程美術研究科絵画専攻版画 修了
2011〜16年 科学雑誌「ニュートン」専属イラストレーター
2011年 現代美術期待の新星5人 Vol.3 松山三越/愛媛
三越美術特選展 日本橋三越、東京
モノハコブカタチ 東京藝術大学陳列館/東京
2012年 GIFT in BLOOM Vol.3 銀座三越/東京
2013年 萬猫展 vol.8 フリュウギャラリー/東京
2015年 GIFT in BLOOM Vol.10 銀座三越/東京
2018年 安西泉展 -Play time- 銀座三越/東京
取材・文/藤田麻希 撮影/五十嵐美弥(小学館)
※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。