藝大アートプラザに陶芸の植物園が出現?!企画展「手から手へ」で注目のアート植木鉢に注目してみた

ライター
藝大アートプラザ
関連タグ
作品紹介

最高に盛り上がった「藝大の猫展2020」。初日の大行列、そして最終週の賑わいなど、ロングラン開催となった本展は、藝大アートプラザ史上屈指の盛り上がりとなりました。

しかしまだ2020年は終わっていません。豊福誠教授の退任を記念して開催中の企画展「手から手へ」では、豊福先生率いる陶芸研究室の歴代講師・助手メンバーがズラリ登場。それぞれ陶芸作家として個展やグループ展などで活躍を続ける油の乗り切った作家陣の作品が一同に会した充実の展示内容になっています。

そんな中、本展で一番に注目してみたいのが、展示室内でも窓際に面した展示スペースにずらりと展示された数々の植木鉢です。

よく見ると、植木鉢にはすべて植物が植えられていますね。そう、本展では展示を主導された三上亮教授の発案で、各作家が鉢だけでなく植栽を含めて作品として鑑賞者に提案することになったのです。

直前に行われた豊福先生との対談では、三上先生は「作家が、植栽含めて作品として作っていることを知っていただけたら、単なる植木鉢というだけではない、やきものの新たな面白いジャンルになるのではないかと思っています。」と語って頂きました。

★豊福誠教授×三上亮教授の対談記事はこちらから

展示をしてみると、これがかなり壮観でした。「まるでちょっとした植物園みたいだよね」と、展示室内のここの一角だけ、ちょっとした園芸ギャラリーのようになっています。

そこで、三上先生の発案で、この植木鉢のコーナーについて「藝大植物園」となったのです!

本稿では、こちらの「藝大植物園」から、何人かの作家に注目しながら、各作品の見どころを紹介していきます!

藝大植物園、見どころ紹介

① 植木鉢の人気作家は植物にもこだわりが!(セキグチタカヒト)


セキグチタカヒト 左から「Opot/エピテランサ属 月世界」「Plaster/マミラリア属 姫春星」(各9,900円)

コロナ禍が一番厳しかった中で開催された「アトリエから」展では、実験的な新作が非常に好評だったセキグチタカヒトさん。本展でも多数出品されています!

研究を徹底的に積み重ね、アート色の強い個性的な植木鉢を次々と発表されるセキグチさんは、アートファンだけでなく、観葉植物を育てるような園芸愛好家からも大人気です。

本展でも、ここ最近の研究成果を反映した数種類の植木鉢を出品。

こちらの2点は桃山時代以来、陶器の本場として知られる美濃の黒土「美濃黒」をベースに、焼いた時に少しひび割れするような性質の土を調合して焼かれています。最後の仕上げにもこだわられていて、スプレーやエアブラシを駆使して淵だけ少し黒みがかった色に処理したりと、細かい技術力が光ります。


セキグチタカヒト「Opot/エピテランサ属 月世界」「Plaster/マミラリア属 姫春星」(部分拡大)

植木鉢を作るだけでなく、観葉植物にも詳しいセキグチさんは、自宅で何百という植物を自分で育てつつ、月に1回は業者が集う「競り」にも積極的に参加して珍しい植物を仕入れているそうです。

ぜひ、鉢と一緒にセキグチさんが選びぬいた「月世界」や「姫春星」といったレアな多肉植物の面白さも味わってみて下さい。ググってみるとわかりますが、「姫春星」は花が咲くと凄くきれいですよ!

② 引退記念!貴重な逸品を見逃すな!(豊福誠先生)


豊福誠「色絵銀彩植木鉢」(22,000円)

本展の主役でもある、2020年で陶芸研究室の教授を退任する豊福誠先生。本展と同時に「豊福誠退任記念展」も行われています。

学生時代から通算すると、なんと陶芸研究室に47年間も在籍されたという豊福先生が「藝大植物園」に出品された作品がこちらの植木鉢。磁器の原料となる土を約950度の低温で素焼きして、それから上絵用の絵の具を専用器具で霧状にガン吹きしてからもういちど焼き付けています。

磁器質の土を使っているのに、外見・手触りからは「陶器」のような素朴なあたたかみが感じられますよね。


豊福誠「色絵銀彩植木鉢」(部分拡大)

三上先生も「豊福先生の磁器は素地を挽いているときから変わらずやわらかく、土物みたいな温かさを感じます。融通無碍と言えるかもしれない。」と絶賛されていました。 非常に手に取りやすい価格で提供されていますので、お見逃しなく!

③ 手びねりの素朴な風合いを楽しむ!(北郷 江)


北郷江「植木と鉢」(各8,580円)

独自の世界観で制作された、まるで木彫作品のような肌感の動物作品が大人気の北郷さんですが、彫刻系作品だけでなく「用の美」を表す植木鉢もよく手びねりで手掛けていらっしゃいます。

「植物の主張を支えるような植木鉢を作りたいので、植えられた植物が『ころもを身にまとっている』というイメージで制作しています」と語る北郷さんが本展のために制作した作品がこちら。粘土を板状にして、模様を手で作りながら丁寧に素地を縫い合わせて整形していきます。


北郷江「植木と鉢」(部分拡大)

焼成後、しっかりと赤く発色するキメの細かい赤土をベースに、白い化粧土をかけて焼き、焼き上がってから磨くことで「白」と「赤」のコントラストが模様と一緒にハッキリ出ていますよね。手の跡が強く感じられる上、土本来の力強さや素朴さが表現された逸品です!

④ 現代に蘇ったメタリックな縄文土器?!(大藪龍二郎)


大藪龍二郎「縄文植木鉢―凸totsu1―」(71,500円)

まるで縄文土器が現代に蘇ったかのようなユニークな植木鉢を制作したのは、大藪龍二郎さん。小学生の時「縄文土器を作ってみよう」という図工の授業で土器づくりの体験をして以来、縄文土器の虜になったそうです。

野性的でエネルギッシュなパワーを感じる本作は、タイトル通りまさに縄文土器そのもの。素地を下から整形していって、「縄文原体」と呼ばれる縄を使って模様をつけるなど、実際に縄文時代の制作工程と同じやりかたにこだわって制作されています。

しかし、単に縄文土器の外形を復元するだけにとどまらないのが大藪さんの真骨頂なのです。


大藪龍二郎「縄文植木鉢―凸totsu1―」(部分拡大)

もう一度拡大画像でじっと見てみましょう。うつわの表面がメタリックな光沢で輝いていますよね。

「縄文土器のような複雑な形状は非常に割れやすいのが難点なんです。ですから、外側を丈夫に仕上げるため、95%以上が酸化金属でできたオリジナル釉薬をたっぷりかけて焼成しています。焼くと釉薬が溶けて、表面に金属被膜ができるので、ほぼ表面は陶胎金属に近いです。」

また、野焼きで仕上げる縄文土器とは違い、本作はちゃんと窯の中で約1250度という高温で焼かれています。もちろん、絶妙の色合いに仕上がるよう、火の当て方も緻密に計算されています。

このように、独自の工夫を重ね、実用面でも鑑賞面でもバージョンアップが図られた大藪さんの植木鉢は、いわば「令和の縄文土器」といえるかもしれません。

植木鉢に載った鸞凰玉(らんぼうぎょく)と呼ばれる立派な観葉植物の強い存在感にぴったりなワイルドな本作、ぜひじっくり楽しんで鑑賞してみてくださいね。

⑤ 上品な松の盆栽が青白磁のティーカップに?!(帆足桂)


帆足桂「T-cup盆栽(五葉松)」(22,000円)

うつわに合わせる植物に、多肉植物やサボテン類をあわせる作家陣が多い中、非常に目立ったエレガントな作品がこちらの帆足桂さんの作品。

丁寧に形を整えられた重々しい松の盆栽が、青白磁で作られた軽やかなティーカップにちょこんと載っているというのも斬新で面白いですよね。しかも有田で採れた、極限まで不純物を取り除いた特上の白土だけを使って制作された最高の青白磁です。

引き締まった八角形の端正な形や、白糸の滝を思わせるような水色と白の縦縞模様が上品さに彩りを添えていますよね。


帆足桂「T-cup盆栽(五葉松)」(部分拡大)

「白から水色までのトーンやグラデーションを活かすために、うつわの表面を細かく削っています。削って溝が深くなったところに釉薬がたまることで、色合いが違ってくるんです。」

なるほど・・・。普通に盆栽が載っていなければ、そのままティーカップとして使いたくなるような、エレガントな作品でした。

⑥ 上品で見飽きない可愛さ!インテリアにピッタリの逸品(山本裕里子)


山本裕里子 左から「flower pot ノトカクタス」「flower pot ギンテマリ」(各11,000円)

続いては、まるでアイスクリームやパフェが入っているような非常にかわいい外見が特徴的な山本裕里子さんの植木鉢です。


山本裕里子「flower pot ノトカクタス」「flower pot ギンテマリ」(部分拡大)

白土をベースに、光沢を抑えてマットな仕上がりとなるよう、2種類の釉薬を調合して焼き付けています。釉薬がきちんと均等に入るまで、何度か試行錯誤を重ねるなど、見た目のかわいさに反して、手がかかった労作なのです。

うつわの上にちょこんと乗っかったようなノトカクタス、ギンテマリとこぶりな南米原産のサボテンは、オフィスのデスク脇などに置いて鑑賞しても面白そうです。それぞれ、非常に美しい花が咲く品種です。開花した時に鑑賞が捗るかわいい植木鉢はおすすめです!

⑦ 藝大きっての技巧派作家がはじめて手掛けた植木鉢作品!(三上亮先生)

さて、最後にご紹介するのが、豊福先生が退任されたあと、藝大の陶芸研究室の指導を引き継がれる三上亮先生の2つの植木鉢。

三上先生は、本展で「植栽とセットで見せる」という本展の「藝大植物園」の産みの親でもありますが、意外にも作品として外部に植木鉢を発表するのは、初めてなのだそうです。貴重な作品ですね。


三上亮「植木鉢」(55,000円)

こちらは野焼きで焼成後、うつわの表面を磨いて仕上げられた素朴な作品。垂直に一直線に伸びた柱サボテンの存在感がよく引き出されています。


三上亮「植木鉢」(部分拡大)

もう1点紹介しておきましょう。こちらの端正な白い植木鉢です。実物で見るとわかりますが、うつわの表面に花瓶や茶碗のように細やかな貫入(かんにゅう)が入っています。風流ですね。


三上亮「植木鉢」(27,500円)

「吸水性のある素地を使って素焼きをした後、薄墨を刷毛でさーっと回し塗りしてもう一度本焼きすることで、細かい貫入の中に墨色を入れてみました。普通は使っていくうちに少しずつ色が入っていくものですが、それを最初から見せています。通常、食器類だとこうした貫入があると使いづらくなってしまう(使用前に水になじませて使う必要がある)のですが、植木鉢の場合は気にせずに表現できるかなと思ってやってみました。」


三上亮「植木鉢」(部分拡大)

写真だとわかりづらいかもしれませんが、実物を見ると、釉薬もうつわ上部だけにかけられていた、うつわの上部、下部では微妙に光沢感も違っています。探求精神が旺盛で、さりげなく細部まで計算された三上先生の真骨頂と言えるかもしれません。ぜひ藝大アートプラザまで足を運んで、実物をじっくり堪能してみてくださいね!

植物の魅力が最大限引き出された「藝大植物園」期間限定開催中!

ここまで、本展「手から手へ」のハイライトとなる植木鉢のコーナーをご紹介してきました。

植木鉢を作って展示するだけでなく、作品にあった観葉植物を作家自らが探し出してきて、植物とセットで鑑賞者に提案するという陶芸研究室の新たな試みはいかがでしたでしょうか?植木鉢単体で鑑賞するよりも、魅力が倍増して感じられましたよね?!

そして、ぜひ注目していただきたいのが「藝大植物園」をひときわ明るく照らしているディスプレイ用のLEDライト。実はこのライト、単なる照明用に取り付けられているのではありません。本展のために導入された、室内での植物の育成をサポートする「植物育成LED」なのです。

また、スタッフはそれぞれの植物の育成方法を各作家から細かくヒアリングして、水やりのタイミングなども細かく管理。藝大アートプラザ始まって以来の緊張感(?)をもって、万全の体制で管理にあたっているそうです。

ぜひ、本展のハイライト「藝大植物園」楽しんでみてくださいね!

ちなみに、展覧会名は「藝大植物園2020」ではありません。陶芸研究室の歴代作家の歴史が感じられる「手から手へ」というタイトルがついていますので、お間違えなく!

展覧会名:NIPPONシリーズ② 「手から手へ」
豊福誠教授退任記念 歴代教員による作品展
会期:2020年11月20日 (金) ~12月13日 (日)
開催時間:11~18時
入場無料
休業日:11月24日(火)、30日(月)、12月7日(月)


取材・撮影/齋藤久嗣 撮影/五十嵐美弥(小学館)

※掲載した作品は、実店舗における販売となりますので、売り切れの際はご容赦ください。

おすすめの記事